山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
VRヘッドセット「Oculus Go」で楽しむ電子書籍の世界
~既存の電子書籍からVRならではのコンテンツまで一斉チェック
2018年7月16日 15:05
5月に発売されたVRヘッドセット「Oculus Go」が巷で人気だ。基本性能の高さに加え、23,800円から購入できるリーズナブルな価格設定で、これまでVRにさして興味を持たなかった筆者のようなユーザーにも、この値段なら試しに買ってもいいかも、と思わせるほどだ。
もちろん強みは価格だけではなく、基本性能も必要十分で、日本語に対応するのも安心感がある。バッテリ持続時間は最大2時間半と短いが、仮にこれらが倍である代わりに価格が1万円高ければ、筆者はおそらく購入をためらっていたはずで、そうした意味ではコスパが高く、バランスの取れた製品だと言える。
さて、今回紹介するのは、そんなOculus Goで体験できる電子書籍コンテンツだ。本製品のようなVRヘッドセットは動的コンテンツの利用を主眼に置かれており、電子書籍との相性は必ずしもよくないが、VRならではのインタラクティブな仕掛けを施したコンテンツなど、独自の方向性に進化したアプリも出現し始めている。
今回は、現段階で体験できるこうしたVR向けの電子書籍コンテンツの代表例を紹介する。「Oculus Go」自体のハードウェアスペックや特徴などは、すでに多数の記事が出ているので、そちらを参照していただきたい。
VRならではの仕掛けを備えた「夢の相談所」
最初に紹介するのはMyDearestの「夢の相談所」だ。「VR×マンガ」をコンセプトとした「FullDive MANGA」シリーズの第一弾タイトルで、もともとはGearVR向けのアプリだが、本製品でも問題なく動作する。価格は980円だ。
本作は、通常の見開きのコミック形式で読めるOriginalモードと、3DアニメによるSpecial Editionモードにて構成されている。物語はいずれも同一で、言うなればアニメ本編ムービーと原作コミックがセットになっているようなものだと考えればわかりやすい。ホーム画面でこのいずれかを選択し、鑑賞を始めるという仕組みだ。
Originalの「読書モード」は、通常の電子書籍タイトルと同じくめくって読み進めるが、単純にコミックのページをVRで表示しているだけではなく、コマに合わせて音声が流れたり、要所要所で主人公視点のVRアニメを表示するモードも用意されているほか、セリフに合わせてコマ単位で表示するエフェクトモードにも切り替えられる。
一方のSpecial Editionは、アニメとしてかなり本格的な作りで、声優に花江夏樹さんや悠木碧さんらを起用するほか、楽曲付きのエンドロールまで用意されている。ボタンを押すことで次のセリフおよびシーンへと進む仕組みなどは、ゲームのストーリーモードに近い。
3Dモデルのポリゴン数などは進化の余地があると感じるが(おそらく容量の関係もあるだろう)、前述のOriginalモードは基本的に視野の正面にのみ表示されているのに対して、こちらはVRならではの広い視野角を体験できる。劇中でキャラクターが垂直落下するシーンがあるのだが、臨場感はなかなかのものだ。
Originalモードのようなハイブリッド型の電子書籍コンテンツは、電子書籍の黎明期にはあちこちでさかんに宣伝されたが、制作コストの問題もあり、本格的に成功したとは言い難い。本作は成り立ちの経緯自体が異なるので、この図式には当てはまるとは限らないが、ジャンルとして定着するかは、やはり新作タイトルの継続リリースと、その完成度が鍵になりそうだ。
なお同社は本作とは別に「VR×ライトノベル」をコンセプトとした「FullDive Novel」のタイトルもリリースしている。本作に興味を持った人は、そちらもチェックしてみてもよいかもしれない。
コントローラなしでページをめくれる汎用ビューア「ImmersionVR Reader」
次に紹介するのは「ImmersionVR Reader」だ。こちらは前述の「夢の相談所」とは異なり、EPUB形式の外部コンテンツを読み込んで表示する、汎用の電子書籍ビューアである。価格は990円。
使い方はタブレット向けの電子書籍ビューアと同じで、本棚を模したライブラリ画面に並ぶコンテンツを選択するとページが開き、それらをめくって読むことができる。コンテンツはPC経由で既定フォルダにコピーしておけば、起動時に自動インポートされる。
これだけならば単にVRで使えるビューアというだけなのだが、ユニークなのは、顔の向きを読み取ってページをめくれる機能を備えていることだ。本製品は左右にページをめくるためのタブがあるのだが、顔の向きを示す丸印をそこに合わせてコンマ何秒か静止すると、クリックされたとみなしてページがめくられる。
つまり、本アプリを使えば、コントローラを一切使わずに、本を読めてしまうのだ。ライブラリでのコンテンツ選択や、各種オプションの調整もこの操作方法に対応するので、アプリの起動後はまったくのコントローラレスで、あらゆる操作が行なえてしまう。なかなか画期的だ。
もっとも、視線だけならまだしも首ごと動かさなくてはならないため、すべてこの方法で操作するとかなり疲れる。視線入力の代替インターフェイスとしては優秀だが、実用性は100点とはいかない。せいぜい60~70点くらいだろうか。現時点では見開き表示に対応しないのもマイナスだ。
本アプリは現状、DRMなしのEPUBにしか対応しておらず、一般的な用途にはおすすめしにくいが、次期バージョンではPDFやCBZへの対応が予告されており、それが実現すれば自炊データのビューアとしては重宝しそうだ。姉妹アプリである「immersionVR comix」が、日本語コンテンツの表示に欠かせない右開き表示への対応を予告しているのも注目したい。
個人的には、電子書籍のコンテンツは既存のものを流用しつつ、インターフェイスだけVRに特化させる本アプリの方向性は、現実的にはありうる選択肢という気がする。もし今後、既存の電子書籍ストアがVR向けにビューアをリリースするなら、コンテンツの独自性より、こうしたUIの最適化を追求したほうがよいのかもしれない。
ブラウザビューアを使って既存ストアで購入済みの電子書籍を読む
本製品はウェブブラウザ(oculus browser)を搭載しているので、各電子書籍ストアが用意しているブラウザビューアを用いれば、それを使ってVRの仮想空間内での読書が行なえる。
言うなれば、ブラウザの画面を宙に浮かせて表示しているだけなのだが、寝転がったままの状態で手で長時間保持するのが難しい紙の本や電子書籍端末と違い、VRヘッドセットは手で保持する必要がない。前述の2アプリのように「VRならでは」の仕掛けがなくとも、本製品を使う必然性はあるわけだ。
また本製品のウェブブラウザは、画面の正面方向を好きな位置で固定できる。つまり画面を天井方向に固定し、仰向けに寝転がった状態で読書を楽しめるのだ。Oculus GoでNetflixの評価が高いのはまさにこの機能があるからなのだが、動画以外にブラウザビューアを使った電子書籍でも同様というわけだ。
難点はやはり解像度で、体感的には200ppiを下回るレベルで、普段から300ppiクラスのタブレットや電子書籍端末に慣れているとややつらい。テキストコンテンツも、表示はできても快適に閲覧できるとは言い難く、実質的に「書き文字があまり小さくないコミックや写真集限定」と言っていいだろう。
それなら文字サイズを拡大すれば良さそうなものだが、本製品は視野の中心から離れるほどフォーカスがぼやけるため、ページの端まできちんと見るには視線ではなく首を動かしてやらなくてはならず、拡大表示するとその移動距離がネックになる。必ずしも端まで観なくても意味が通じる動画とは、似ているようでだいぶ違う。
またページめくりなどのレスポンスもやや緩慢で、またストアによってはログイン直後は必ず単ページ表示になったり、コントローラのスワイプ操作ではページめくりが制御しづらいなど、専用アプリでないが故に、操作性についてはいくつか問題も見られる。
このほか今回試した限りでは、楽天Koboのようにライブラリは表示できてもダウンロードができないストアもあるなど、ストアごとに(あるいはコンテンツごとに)当たり外れはある。試してみてうまくいけば儲けもの、くらいに考えておいたほうがよさそうだ。
まとめ
筆者が本製品を購入して2カ月余り経つが、活用している時間がもっとも長いのは、動画プレーヤーとしての使い道だ。相性の良さだけで論じるならば、今回紹介した電子書籍ユースよりも動画コンテンツのほうが、本製品に向いているのは間違いないだろう。
ただ、同製品を体験したユーザーの方にはお分かりいただけると思うが、いったん本製品を装着すると、日常の中で済ませている体験を、VRの仮想空間の中で済ませてしまいたくなりがちだ。それゆえコンテンツがVRに特化していなくとも、同じ画面の中で行き来できることにはそれなりの意義はある。
また、ここまでも何度か触れているが、デバイスを手で保持する必要がないのは、利点としてかなり大きい。電子書籍を敢えてVRで楽しむ必然性はなくとも、このことはかなりのアドバンテージである。ここを追求していけば、VRならではの電子書籍が見えてくる気もする。
筆者自身、もともと価格につられて軽い気持ちで買ったはずが、ここまでハマるのは予想外で、すでに十分にモトは取った印象が強い。電子書籍に限らず、今後さまざまなアプリが登場し、かつデバイス側も解像度の向上など、進化していくのがいまから楽しみだ。未体験の人は機会を見つけてぜひトライしてみてほしい。