山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
ファーウェイ「MediaPad M5」
~コミックの見開き表示が実用レベルで楽しめる8.4型Androidタブレット
2018年6月20日 06:00
ファーウェイの「MediaPad M5」は、8.4型のAndroid 8.0搭載タブレットだ。Androidタブレットに多く見られる8型よりもひとまわり大きい画面サイズを備え、高精細ディスプレイやハイレゾオーディオ、デュアルスピーカーなど、おもにエンタメ用途に注力した製品だ。
本連載では通常Androidデバイスについては、既存製品とは大きく違った特徴を持つ製品のみ、電子書籍端末としての使い勝手を紹介している。本製品はエンタメ向けのAndroidタブレットで、電子書籍端末としてはややオーバースペックだが、注目したいのは8.4型という画面サイズだ。
コミックなどを見開きで読む場合、8型ワイドサイズのタブレットだと天地方向が圧縮され、ページが縮小されてしまう。iPad mini 4やZenPad 3 8.0など、スクエアサイズの(4:3比率の)8型クラスのタブレットが電子書籍向けとして人気が高いのは、そうした事情によるものだ。
今回の「MediaPad M5」は、8.4型と画面サイズがひとまわり大きく、8型ワイドの製品に比べ天地方向に余裕がある。実測値は113mmで、iPad mini 4やZenPad 3 8.0(いずれも120mm)には及ばないが、8型ワイドのFire HD 8(108mm)よりは明らかに大きく、見開き表示でも窮屈さを感じにくい。
本稿ではこの「MediaPad M5」のWi-Fiモデルについて、iPad mini 4およびZenPad 3 8.0の2機種を主な比較対象に、電子書籍ユースでの使い勝手をチェックする。基本的な仕様やベンチマークなどは、すでに西川氏のレビュー(記事:ファーウェイ「MediaPad M5」(Wi-Fiモデル))で紹介されているので、そちらをご覧いただきたい。
iPad mini 4/ZenPad 3 8.0のライバルとなる製品
まずは比較対象となるiPad mini 4やZenPad 3 8.0とスペックを比べてみよう。なおZenPad 3 8.0はLTE搭載モデルのみでWi-Fiモデルが存在せず、またiPad mini 4は現行モデルの容量が他製品に比べて大きい(128GB)など、価格に大きな影響を与える部分で不揃いな点があることを、あらかじめご了承いただきたい。
MediaPad M5 Wi-Fiモデル(SHT-W09) | ZenPad 3 8.0(Z581KL) | iPad mini 4 Wi-Fiモデル | |
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メーカー | ファーウェイ | ASUS | Apple |
発売年月 | 2018年5月 | 2016年9月 | 2015年9月 |
サイズ(最厚部) | 212.6×124.8×7.3mm | 205.4×136.4×7.57mm | 203.2×134.8×6.1mm |
重量 | 約320g | 約320g | 298.8g |
CPU | Kirin 960 オクタコア(4xCortex-A73 2.4GHz + 4xCortex-A53 1.8GHz) | Snapdragon 650(1.8GHz、6コア) | 64bitアーキテクチャ搭載第2世代A8チップ、M8モーションコプロセッサ |
RAM | 4GB | 2GB | |
画面サイズ/解像度 | 8.4型/2,560×1,600ドット(359ppi) | 7.9型/2,048×1,536ドット(326ppi) | |
通信方式 | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | ||
内蔵ストレージ | 32GB | 128GB | |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 5,100mAh(1080p動画を11時間再生可能) | 約11時間(Wi-Fi通信時) | 最大10時間(Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生) |
カードスロット | microSD | - | |
その他 | - | SIMカードスロット | - |
OS | Android 8.0 | Android 6.0→7.0 | iOS 11 |
価格(2018/6/16時点) | 37,800円 | 39,744円 | 45,800円 |
備考 | - | LTEモデルのみ | - |
こうして見ると、ワイドサイズ(16:10)とスクエアサイズ(4:3)という画面比率の違いはあるものの、RAMやストレージ容量、Wi-Fiなど、iPad mini 4およびZenPad 3 8.0と似通っている部分はかなり多い。重量についてもZenPad 3 8.0と同じ320gだ。
解像度は2,560×1,600ドットと、iPad mini 4およびZenPad 3 8.0を上回っている。ワイドサイズならではの左右の余白を除外するともう少し小さくなるが(実質的に2,130×1,600ドット程度という計算になる)、画素密度は本製品のほうが高い。
ZenPad 3 8.0と同様、メモリカードスロットを搭載するので、PCと自炊データのやりとりを行なう場合に重宝する。またこの表にはないが、同じAndroidタブレットであるZenPad 3 8.0と比べた場合、指紋認証を搭載していることは、使い勝手を考えた場合に大きな利点だ。
処理能力についてだが、3DMarkの「Sling Shot Extreme」でベンチマークを取ったところ、iPad mini 4が1223、ZenPad 3 8.0が869のところ、本製品は2053という結果で、さすがにかなりの差がある。エンタメ用途を標榜するだけのことはあるという印象だ。
高級感のあるボディ、パフォーマンスも高い
セットアップ手順は、ファーウェイ独自の一部メニューを除けば、一般的なAndroidタブレットそのものだ。
筐体は、普段からiPad mini 4を持ち慣れていると、ややずしりと感じる。重量は20g程度しか変わらないのだが、本製品のほうが厚みがあるせいだろうか。またZenPad 3 8.0とは同じ重量のはずだが、やはり本製品のほうが重く感じる。裏面の素材の違い(ZenPad 3 8.0はラバー、本製品は金属)のせいかもしれない。
外観は高級感があり、剛性もかなり高い。画面はグレア加工ゆえ、明るい部屋では背景が映り込みがちなので、反射防止のシートなどを貼ってやったほうがよさそうだ。またイヤフォンジャックを備えない点は、ユーザーによっては購入にあたって1つの条件になるだろう。
ざっと使用した限りでは、性能はかなり高く、ZenPad 3 8.0では途切れ途切れになるNAS上の動画のストリーミング再生でも、本製品では正常に再生でき、さらに早送りや早戻しも実用的なレベルで動作する。前述のベンチマークのスコアの差がそのまま出ている印象だ。
8型ワイドより大きく表示可能、表現力も高い
では電子書籍で、コミックを表示させた場合の使い勝手について見ていこう。サンプルはいずれもうめ著「大東京トイボックス 1巻」を使用している。
冒頭でも触れたように、本製品は横向きにした時の画面の縦方向が113mmがあり、これは「Fire HD 8」など8型ワイドのタブレットに比べて5mmほど大きい。さすがにiPad mini 4やZenPad 3 8.0の120mmには及ばないが、8型ワイドに比べると明らかに大きく、快適だ。
ちなみに本製品もワイド比率であるため、「Fire HD 8」と同様に画面左右に余白があるが、天地方向の圧迫感がないせいか、あまり気にならないのも興味深い。
画質についてもチェックしておこう。解像度は359ppiと高く、iPad mini 4およびZenPad 3 8.0(326ppi)とはほぼ同等のクオリティだ。コミックを見開きで読むにあたっては最高レベルと言っていいだろう。
画面周りの機能では、ブルーライトカットモードもチェックしておきたい。最近では電子書籍アプリ側がブルーライト削減モードを搭載していることも多いが、本体デバイス側で行ってくれれば、それに越したことはない。複数のアプリを併用している人は、アプリ側でなく、この機能に任せてしまってもよいだろう。
このほか、本製品はAndroidタブレットということで、電子書籍は別途ブラウザを開いてストアにアクセスしなくとも、アプリ内でスムーズに購入が行える。iOSと比べた場合のメリットの1つと言えるだろう。
またこれもAndroidならでは機能で、音量ボタンを使ってのページめくりにも対応しているが、本製品はボタンの押し心地が固めなせいで、あまり快適に感じられなかった。横向きに表示すると音量ボタンが画面の上に来てしまい、押しにくくなることも理由の1つだ。縦向き利用なら重宝するかもしれない。
Kindleでは画面回転アプリの併用が事実上必須
以上のように、表示サイズや画質に不満はないのだが、一部の電子書籍アプリ、具体的に言うとKindleは、画面を横向きにした状態での利用にやや難がある。それは、アプリのホーム画面やライブラリ画面が、縦向きにしか表示できないことだ。
これは筆者の知る限り、ファーウェイの7~8型クラスのタブレットの多くに共通する特徴で、本を見開き表示にすることはできても、アプリのホーム画面や書籍一覧が並ぶライブラリ画面が、タブレット側で指定している回転方向の設定や実際の持ち方に関係なく、縦方向で表示されてしまう。
つまりそのままだと、見開き表示でコミックなどを読む場合、ライブラリに戻って本を探すたびに縦向きに持ち替えなければならない。常時縦向き固定で読むのであれば問題ないが、そうでない場合は非常に煩わしい。
これを解決するには、画面の方向をアプリごとに強制的に切り替えるローテーションアプリを入れるのが手っ取り早い。具体的には、前回「BOOX Note」のレビューでも紹介しているアプリ「ローテーションコントロールPro」を使えばよい。
これをインストールしておけば、Kindleアプリが起動したときだけ、画面方向を横向きに固定できるので、本製品をはじめファーウェイのタブレット特有の、画面が縦方向に固定される問題も解決できるというわけだ。
なお、確認したかぎりでは、縦スクロールが前提の電子書籍アプリは別として、Kindle以外のメジャーどころの電子書籍サイトアプリでは、同種の問題は発生しない。仮に発生した場合でも、上記ローテーションアプリを使えば対処できるはずなので、導入しておくことをおすすめしたい。
コミック見開きに適した製品、価格も妥当
以上のように、本製品はもともとエンタメ用途を主眼に置いて開発されたタブレットだが、コミックの見開き表示を、なるべくコンパクトな筐体サイズで実現したいというニーズにもぴったり合致している。
価格については、Wi-Fiモデルで37,800円、LTEモデルで45,800円と、同社の7~8型のエントリークラスの製品に比べるとさすがに高価だが、iPad mini 4やZenPad 3 8.0との比較で考えると十分に妥当で、性能もそれに見合っているというのが、今回使った印象だ。
今回競合として紹介したiPad mini 4は発売から2年半が経過し、後継モデルは不透明な状況にある。またZenPad 3 8.0も1年半前のモデルで、処理性能はお世辞にも高くなく、また指紋認証がないなど使い勝手の面ではマイナスもある。
本製品はこうした状況下で、コミックの見開き表示を前提に8型ワイドのタブレットよりも広い画面サイズを求めるユーザーにぴったりの存在であり、そうしたユーザーは選択肢に入れておくべき製品だと言えそうだ。