山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
「iPhone X」で電子書籍。独自画面レイアウト/操作体系による電子書籍との相性は?
2017年11月13日 11:51
「iPhone X」は、Appleの5.8型スマートフォンだ。従来のTouch IDを廃して顔認証であるFace IDを導入したほか、ベゼルレスのデザイン、有機ELディスプレイの搭載など新機軸の試みが目立つ、これまでのiPhoneとは一線を画する製品だ。
センサーハウジングと呼ばれるディスプレイ上部の特徴的なエリアも含め、従来のiPhoneにはなかった特徴が注目を集めている本製品だが、コンパクトな筐体ながら5.8型という画面サイズは、スマートフォンであってもなるべく大きな画面で読書したい電子書籍ユーザーからすると気になるところだ。
もっとも、ホームボタンの廃止やセンサーハウジングの存在は、従来のiOSとはかけ離れた操作体系につながっている。電子書籍の基本操作はもちろん、ライブラリやストアの表示などにどのような影響を与えるかは、使ってみなければわからないところも多い。
今回は市販のSIMロックフリーモデルを用い、これらの特徴をチェックする。iPhone Xが発売されてまだ間もないため、現時点ではアプリが完全に対応していないケースも多いが、それだけに対応・非対応によって見え方がどう異なるかをチェックするには、絶好のタイミングと言えるだろう。
なお、以下で紹介しているアプリなどの内容は11月10日時点のもので、それ以降のアップデート情報は反映されていないのでご了承いただきたい。iOSのバージョンは「11.1」である。
従来のiPhoneから一新された操作方法
まずはiPhone Xの操作方法について、従来のiPhoneとは違うところをざっとおさらいしておこう。電子書籍を扱うにあたって関係するポイントに絞っているので、全体像を把握するには製品マニュアルなどを当たってほしい。またすでに把握済みという人は、この章は読み飛ばして先に進んでもらって問題ない。
iPhone Xは従来の物理ホームボタンが廃止されており、これまでホームボタンがになっていた機能がそれぞれ別のボタンなどに分散されている。指紋認証であるところのTouch IDは顔認証のFace IDに変更されてカメラ部に移動しているし、これまでホームボタンの長押しで起動していたSiriは、電源ボタンの長押しによる起動に改められている。
さて、「ホーム画面へ戻る」という、ホームボタン最大の役割は、画面下部に表示される細長いバーに割り当てられている。ホームインジケータと呼ばれるこのバーを下から上にスワイプすることで、ホーム画面に戻る仕組みだ。
このホームインジケータはほぼ常時表示されており、目障りに感じることもしばしばなのだが、操作そのものは合理的で、しばらく使っているとむしろこちらの操作方法こそが、iOSの本来あるべき姿だったのではと思えてくる。いったんこちらに慣れてから従来のiPhoneのホームボタンを使うと、違和感を感じるほどだ。
もっともこの「画面の下端から上にスワイプ」という動きは、これまでコントロールセンターの表示に割り当てられていたアクションだ。ではコントロールセンターはどうやって呼び出すかというと、画面の上部、センサーハウジングと呼ばれる出っ張りの「右側から下にスワイプ」して呼び出す仕組みになっている。
では従来その操作で呼び出していた通知領域は、iPhone Xではどうやって呼び出すかというと、センサーハウジングの「左側から下にスワイプ」することで呼び出せる。つまり「右側から下」はコントロールセンター、「左側から下」は通知領域と、この出っ張りでできたへこみをうまく活用した仕組みになっているわけだ。
もう1つ、これまでホームボタンのダブルクリックで起動していたアプリ切替画面は、「画面の下端から上にスワイプしたまま長押し」で呼び出す。つまり画面下端から上にスワイプしたのち、指を離せばホーム画面に戻り、離さずそのままにしているとアプリ一覧が表示される仕組みだ。じつはこれがちょっとした曲者なのだが、詳しくは後述する。
スライダを動かしたはずがアプリ切替画面が表示される問題
以上のように、操作体系が玉突き状に変更されており、慣れるまではしばらく戸惑うのだが、従来と操作方法が違うというだけで、操作の整合性はきちんと取れている。では電子書籍アプリについては影響はないだろうか。
かつてWindows 8.1タブレットでは、画面左右からのエッジスワイプが、OS側の操作(チャームの表示)に割り当てられてしまい、電子書籍のページをめくる操作とバッティングするという、操作体系の根幹を揺るがす状況に陥ったことがある。今回のiPhone Xではそうした問題はないのか、気になるところだ。
現時点でiPhone X対応を謳う電子書籍アプリをチェックしたかぎりでは、ページめくりを中心とした基本操作では、こうした問題は見られなかった。ただし細かいところを見ていくと、iPhone Xならではの操作体系に影響を受けている箇所は存在している。
それは、画面下端のスライダを動かそうとすると、アプリ切替の操作になってしまう問題だ。前述のように、iPhone Xでは、画面下から上にスワイプしたまま指を離さずにいると、アプリの切替画面が表示される。横方向にスワイプしながら最終的に上に指を持っていっても、同様の反応になる。
じつはこれが曲者で、画面下部ギリギリのところにスライダが配置されている場合、スライダを動かしてページを移動しようとすると、アプリ切り替えの操作だと解釈され、スライダが動かずにアプリの画面自体が横に動いてしまうのだ。
この症状が見られるのは紀伊國屋書店のKinoppyやhontoで、ホームインジケータのバーと重なりそうなほど下端ギリギリにこのスライダを配置しているせいで、スライダの端をつかんで動かそうとすると、アプリの枠ごと横に移動してしまう。よほど慎重にタップしないと、スライダが使いものにならない。
iPhone Xの画面上下にできる大きな余白は、スライダなどの読書オプションを表示するのに絶好のスペースなのだが、画面下部にはデリケートな操作を必要とするインターフェイスが集中しているため、こうした事故が起こりやすい。おそらく早々に修正されるだろうが、iPhone Xの独特のインターフェイスがもたらす混乱の典型例と言えそうだ。
コンテンツ表示においては、縦長画面の恩恵はなし
さて、先程も少しふれたが、iPhone Xは画面が縦に長いのが特徴だ。横幅を1とすると縦は2.17で、つまり正方形を上下に2つ重ねたその上と下に、さらに余白ができる計算になる。ちなみにiPhone 8 Plus(16:9)だと縦は1.78、iPadシリーズ(4:3)だと縦は1.33で、本製品の画面がいかに縦に長いかわかる。横にしてフルHDの動画を表示すると、上下ではなく左右に黒帯ができるほどだ。
しかしこの縦長の画面は、電子書籍の表示においては、とくにプラスにならない。コミックなど固定レイアウトのページを表示した場合、横幅に合わせてページが縮小されるので、ページサイズは大きくならず、上下の余白が大きくなるだけだ。
ならばテキストコンテンツはどうか。縦長画面に合わせてレイアウトを変更することは可能だが、1行があまり上下に長いと視線の移動距離が長くなり、かえって読みにくくなってしまう。むしろ余白を広めにとって1行の文字数を減らす必要が出てきてしまう。
つまり本製品は画面サイズこそ5.8型と大画面に見えるが、それは縦長ゆえ対角線が長いというだけで、コミックにせよテキストにせよ、電子書籍の表示にはそれほどメリットはない、というのが結論だ。
コンテンツ以外を表示するさいは縦長画面のメリットあり
こうした事情もあってか、国内の電子書籍サイトの多くは、iPhone Xへの対応があまり進んでいない。iPhone Xが発売された11月3日から3~4日後の段階で、iPhone X対応を謳うバージョンをリリースしていたのはiBooks以外ではYahoo! ブックストアくらいで、1週間後の段階でも、紀伊國屋書店kinoppy、hontoが確認できた程度だった。
これら「iPhone Xの画面に最適化されたバージョン」のレイアウトは、各社ともによく似ている。コミックの場合、スライダーやしおりなどの読書オプションが、ページ上下の余白部分に表示される。前述の下端に寄せすぎたスライダーは例外として、配置が適切ならば、読書オプションがページに重ならずに表示できるので悪くない。
またライブラリ画面やストア上のページなども、縦に長いぶん、多くの情報量を表示できる。つまり「読書中」は直接的なメリットは少ないが、それ以外の部分では、縦長画面の恩恵は大いにあるというわけだ。
その一方、ページ左上に表示される本のタイトルなどが、センサーハウジング部に隠れて見えなくなってしまっている例もあった。また、画面の隅が丸くなったことで端まで情報を表示できなくなったことについても、各社それぞれ苦心の跡が見られる。特殊なレイアウトの弊害と言えそうだ。
【11月17日追記】hontoのiPhone X対応について、honto側では当初リフローなど一部フォーマットへは未対応だったことを明記しておりましたが、記事掲載時にその点について編集部で情報を把握できておりませんでした。正しくは、「hontoは、コミック、雑誌のみ先行してiPhone Xへ対応し、リフローフォーマットの修正は次回以降のアップデートで対応予定」となります。お詫びして追記させていただきます。
スマホ向けマンガアプリはいち早くiPhone Xのレイアウトに対応
ところで、ここまで見たきたのはテキストやコミック、雑誌などさまざまなコンテンツを扱う、いわゆる総合系ストアのアプリなのだが、おもにスマートフォンを主戦場とするマンガアプリでは、iPhone Xのリリース直後から、iPhone X対応版へのバージョンアップが積極的に行なわれている。
具体的には、マンガボックス、comico、マンガPark、マンガの時間、マンガほっとなどがそれで、iPhoneリリースの3日後に筆者がチェックした段階で、いずれも対応版(もしくは正式対応ではないがiPhone Xの全画面表示に対応したバージョン)がリリースされていた。取り扱いコンテンツがほぼコミックのみで、検証工数が少なくて済む事情もあるだろうが、かなりのスピード感だ。
これらアプリの多くは、コインやポイントで作品を購入するシステムを採用しており、アプリ内にストアが用意されている。アプリ同士の競争が激しいこともあってか、日替わりや曜日別連載の表示、ランキングなど、総合系ストアのアプリに比べて密度が濃く、活気も感じられる。縦スクロールの有効活用という点でも見るべきところは多い。
またマンガボックスの「インディーズ」のように縦スクロールを採用したコーナーは、コンテンツそのものが、画面が縦に長いiPhone Xとの相性がよい。縦スクロールの連載コミックでお気に入りがある人は、iPhone Xを使うことでより快適な読書が楽しめそうだ。
現状で最大の懸念点は「持ち方」?
以上のとおりなのだが、iPhone Xという製品に対する筆者の評価はかなり高い。有機ELは黒がしっかりと表現されるので、動画などは明らかに引き締まって見えるし、Face IDも多少クセがあるものの反応は速く、ベッドサイドでスタンドしか明かりがない場合でもしっかりとロックを解除できる。ハードウェアの品質も高く、動作もサクサクだ。
電子書籍についてはここまで見てきたように、ほかの端末を比べて強力なアドバンテージになる部分はなく、むしろ価格や本体重量を考えると、積極的に選ぶ必然性はないのだが、致命的な欠点があるわけではない。2,436×1,125ドット(458ppi)という高解像度だけに、表現力も折り紙付きだ。その点において心配する必要はないだろう。
個人的に1つなじみにくいのが、寝転んだ状態での本体の持ち方だ。筆者は就寝前に枕元でスマートフォンを見るときに、人差し指から小指までの4本指で本体を挟み、親指で操作することが多い。この持ち方ならば、上向きでも横向きでも、自由な方向を向いて(落下させずに)スマートフォンを操作できるからだ。
しかしこの持ち方は上下のベゼル部分を指で挟むことが前提なので、ベゼルレスの本製品では不可能だ。そのため普通の姿勢で読書するには問題ないが、寝転んだ状態でどう持つかは、もう少し研究が必要となりそうだ。筆者にとって、現状で最大の懸念点はほかならぬこの持ち方である。
いずれにせよ、ハードウェアの側が特殊な仕様であるがゆえに、電子書籍にかぎらず、アプリを設計する側はたいへんだろうなというのが今回あちこちチェックしての感想だ。とはいえ今後このiPhone XのインターフェイスがiPhoneファミリーの主流になっていく可能性が高い以上、避けてとおれないのも事実。アプリの最適化については、利用者の側も気長に待つ必要がありそうだ。