山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Amazon「Kindle Oasis (第9世代)」レビュー【後編】
~Kindleシリーズ初の防水機能、およびコミックのシリーズ管理機能をチェック
2017年11月10日 11:00
「Kindle Oasis (第9世代)」は、Amazon.co.jpが販売するE-Ink電子ペーパー搭載の電子書籍端末「Kindle」シリーズの最上位モデルだ。
ディスプレイ部が薄い従来モデルの形状を踏襲しつつ、Kindleシリーズとしては初となる7型ディスプレイを搭載し、かつ防水機能をも備えることが特徴だ。
レビューの後編となる今回は、防水端末としての実用性と、コミックのシリーズ管理機能、さらにその他の細かい新機能についてまとめて紹介する。
基本的なスペックや外観まわりの紹介や、見開き表示を含めた画質のチェックについては、すでに公開中の前編を参照いただきたい。
防水端末としての実用性はKoboを圧倒
7型スクリーンの採用と並んで本製品の目玉となる特徴が、防水機能だ。IPX8準拠とのことで、つまり水がかかっても問題ないのはもちろん、1時間程度は水中に沈めたままでも動作に支障がないということになる。入浴しながらの読書にはもってこいだろう。
同じIPX8準拠の防水機能は、「Kobo Aura H2O Edition 2」にも搭載されているが、実用性はどちらが上だろうか。先に結論を書いてしまうと「本製品の圧勝」となる。
実のところ、タッチスクリーン周りの挙動だけを見ると、両者にそう大きな違いはない。
たとえば、水に濡れてスクリーンに水滴が付着したままタッチ操作を行なおうとすると、うまく反応しなかったり、あるいは意図しない反応をすることがある。水滴の付着量、および付着した部位によって反応は多少変わるが、症状そのものは両製品ともに共通だ。
また、シャワーなどで絶えず水をかけ続けているような状態では、勝手にページがめくれたり、画面の拡大縮小が延々と繰り返されるなどの、「暴走」と表現して差し支えない異常動作がよく起こる。さらに完全に水没してしまうと、タッチスクリーンは一切反応しなくなる。
上記の症状のほか、濡れた画面を軽く拭いて、タッチの反応が正常に復旧するまでに要する時間も、両製品に大きな違いは感じられない。
ではなぜ本製品の圧勝かというと、本製品に搭載されている、ページめくりのための物理ボタンの存在によるところが大きい。
本製品が備えるページめくりボタンは、水滴がスクリーンに付着したままの場合はもちろん、端末が完全に水中に没してタッチスクリーンが一切反応しない状況下でも、まったく問題なく動作する。文字通りの万能だ。
Kobo端末にはタッチスクリーンの代替となるページめくり機構は用意されていないので、実用性は本製品のほうが圧倒的に上というわけだ。
さらにもう1つ、防水端末として本製品のほうが有利な点がある。それは、本製品のスクリーンが完全にフラットであることだ。
「Kobo Aura H2O Edition 2」はスクリーンとベゼルの間に段差があるため、画面に付着した水滴をぬぐった場合、必ずその段差に水滴が残ってしまう。タオルやティッシュを使わない限り、溝の部分に残った水滴を完全に除去するのは難しい。
その点、本製品はスクリーンとベゼルに段差がないため、水滴を拭うのは極めて容易だ。特に入浴中やシャワー中などは、乾いたタオルが常時手の届く場所にあるわけではないので、手のひらなどでサッと拭えるかどうかは重要なポイントだ。
Koboのもう1つの防水端末「Kobo Aura ONE」はベゼルの段差がなくハンデにはならないが、「Kobo Aura H2O Edition 2」との比較では、本製品のほうが有利だ。
なお、KoboはUSBポートが本体底面にあるので、上から水をかかってもそれほど心配はないが、本製品は天地が反転できる構造ゆえ、USBポートが上面に来た状態で強い水流を掛けないよう、注意したほうがよい。
こうした取り扱いについては、Amazon側が詳細な説明ページを用意しているので、製品を利用する前に、目を通しておいたほうがよいだろう。
ライブラリが劇的に見やすくなる、コミックのシリーズ管理機能
さて、本製品にはもう1つ、ソフトウェア面で目玉と呼べる機能がある。それはコミックのシリーズ管理が可能になったことだ。
これまでKindleでは、コミックが1冊ずつライブラリに並ぶ仕様になっており、巻数が多いと目的の1冊を探すのが困難だったが、本製品ではシリーズ単位でまとめられるようになり、検索性が向上した。
電子書籍アプリやストアの使い勝手を比較する時に、必ず取り上げられていたKindleの弱点が、サービス登場から10年、日本上陸から5年目となる節目の年に、ようやく解消されたというわけだ。
具体的な仕組みを紹介しておくと、仮に全10巻のコミックがライブラリ内にあった場合、最後に表示した巻(大抵は最新刊である第10巻だろう)のサムネイルのみが表示され、その左下に丸囲みで「10」という数字が表示される。
これはいわばフォルダの役割を担っており、タップするとシリーズ全巻のサムネイルがずらりと一覧表示されるので、過去の巻もすばやく探せる。最新刊を購入した時、ストーリーを思い出すために1つ前の巻から読む場合に大変重宝する。
このシリーズごとの表示は、デフォルトでオンになっており、上記のケースでは、残りの1~9巻はライブラリ上にサムネイルは表示されないので、ライブラリをめくってもめくっても同じシリーズのサムネイルが延々と表示される……といったことがない。
筆者の場合、ライブラリはこれまで331ページあったのが、本製品でシリーズ表示をオンにすると、174ページに短縮されるなど、効果は絶大だ。
もう少し挙動を詳しく見ていこう。
仮に全11巻のうちまだ4巻までしか購入していない場合は、丸囲みの数字は「11」ではなく「4」となる。
ここでサムネイルをタップして、シリーズ全てのサムネイルを表示すると、画面下段に「シリーズ全11冊中、4冊持っています。ストアで見る」というリンクが表示されるので、購入漏れがひと目で分かる。リンクをタップすればストアにジャンプできるので、買い逃していた最新刊もすぐに買える。
また、表示対象を「すべて」から「ダウンロード済み」に切り替えると、丸囲みの数字は、その時点でダウンロード済みの冊数になる。
つまり上記のケースで、購入済みの4冊のうち端末にダウンロードしているのが1~2巻の2冊だった場合、表示対象が「すべて」の場合は丸囲み数字は「4」なのに対し、表示対象を「ダウンロード済」に切り替えると丸囲み数字は「2」に変わる。シリーズの総巻数を表示しているわけではないので注意したい。
一方、購入しているのがシリーズの1巻のみだった場合は、丸囲み数字は表示されない。また一覧表示すべきほかの巻がないので、サムネイルをタップしても一覧画面は表示されず、従来と同じようにすぐに本が開かれる。
あらゆるコミックをチェックしたわけではないが、今回調べた範囲では、シリーズ表示が適用されるのは複数冊が購入済みであることが前提で、1冊だけであれば従来と同じ挙動になるようだ。
こうしたシリーズ表示の対象となるのは、現状ではコミック(単行本)のみで、月刊誌や週刊誌などの漫画雑誌は対象外となる。また、期間限定版のお試し版、サンプルなども対象外となるほか、コミックではない小説などのシリーズ作品も、現状では対象外のようだ。
後者に関してはシリーズとみなせるか判断が分かれる作品も多いので、コミックの単行本に限定している現状の仕様は妥当に思える。
このあたりまでは納得の仕様なのだが、稀に首をひねることもある。
例えば、シリーズでありながら丸囲み数字が表示されず、シリーズがバラバラに表示される作品がある。著名どころでは「進撃の巨人」がこのパターンで、シリーズ表示をオンにしていても、従来と同様に1巻ずつバラバラに表示される。
また本連載の当初より、著者のうめ氏から許諾をもらって表示サンプルとして使用している「大東京トイボックス」全10巻もシリーズとして扱われておらず、表示はバラバラだ。ただし、前日譚にあたる「東京トイボックス」2冊は全2巻としてシリーズ扱いになっていたりと、謎である。
また、全体としてはシリーズで管理されているものの、最新刊のみがシリーズから外れていたり、途中の巻が単発で脱落している例も見られる。
おそらくシリーズを自動登録した時に、何らかの理由でこぼれ落ちたものと見られ、これらはAmazon側の手動での修正を待つしかない。
本機能については報告用のフォームが用意されているので、気になるところがあれば報告することで改善につながるはずだ。
個人的にもったいないと思うのが、せっかくシリーズごとに表示できるにも関わらず、それらを一括ダウンロードできる機能がないこと。
シリーズを最初からまとめて読み直したい場合、この機能があれば重宝すると思うのだが、現状では従来と同じように、1巻ずつタップしてダウンロードするしかないようだ。このあたりは今後の進化を期待したいところだ。
なおこの機能、本稿執筆時点ではほかのKindleシリーズでは利用できないが、これまでの事例から見て、将来的にはアップデートで利用できるようになる可能性は高い。
【編集部注】ニュース記事でお伝えしているとおり、「Kindle Paperwhite (2013)」以降のKindle端末で利用可能となる予定
ただし、ライブラリ表示で大量のサムネイルを読み込もうとすると、古いKindleシリーズではサムネイルの読み込みがページの切り替えに追いつかないことも多いので、実用性を考えると、本製品のほうがおすすめといえるだろう。
その他コミック、テキストを問わず便利機能が多数追加
そのほか、ここまで触れられなかった特徴や新機能についてまとめて紹介しよう。中には、本製品の発売以前に、ほかのKindle端末でソフトウェアアップデートで利用可能になっていた機能もあるが、タイミング的にどちらが先か判断しにくい場合も多いため、ここでは一括して紹介する。
コミックを読む時、前述のシリーズ管理と同等か、もしくはそれ以上に重宝するのが「連続ページターン」機能だ。これはコミックでページを長押しすることで進捗バーが表示され、そこから指を左右にスライドさせることで、前後のページに高速に移動できる機能だ。
もともとKindleには、プレビューと連動してスライダを動かせる「Page Flip」という機能があるが、スライダを呼び出す操作がワンクッション余計にかかる。
この「連続ページターン」は画面長押しで直接呼び出せ、使い方も左右にスライドするだけなので、利便性は圧倒的に高い。
もともと「Kindle Paperwhite マンガモデル」で初搭載された機能だが、指のスライド量に応じて移動速度が変化できるようになり、より利便性が向上した。画面の内容を見ながら目的のページを探すのにぴったりだ。
なおこの機能はテキストコンテンツでは使えない。というのも、画面を長押しした時点で文字列を選択するモードになってしまうからだ。それゆえ実質コミックのみで使える便利機能で、テキストコンテンツでは従来の「Page Flip」を利用することになる。
具体的な動きは以下の動画でチェックしてほしい。
本製品で新たに搭載された表示モードとして、白黒反転が挙げられる。
その名の通り、ページ全体を白黒反転させて表示する機能だ。いわゆるナイトモードに近い機能だが、コミックの絵柄まで白黒反転してしまったりと、スマホのKindleアプリに比べると実用性は低い。
テキストコンテンツだけに利用するにしても、設定オン/オフのための階層が深すぎて、頻繁な切り替えに向かない。もう少し作り込みが必要だろう。
ページレイアウトの大小切り替えが可能になったのも、今回の新機能だ。
通常は「標準」のところ、「拡大」に切り替えるとメニューの文字サイズが大きくなるほか、アイコンの下にラベルが表示されるようになる(アイコン自体はそのぶん逆に小さくなる)。視力の関係で見にくい場合のほか、メニューが小さくタップしにくい場合にも有効な解決策となるはずだ。
文字サイズが数値で指定できるようになったのも、地味ながら便利な進化の1つだ。
これまでは単に文字サイズが変えられるというだけで、現在が何段階目かを知ることはできなかった。今回のモデルでは、このサイズが「1」、このサイズは「3」といった具合に判別が可能になったので、端末を買い替えたり、あるいは文字サイズをいったん変更したのち、元に戻す場合などに重宝する。
最後になったが、本製品は従来モデルと同様、本体を180度回転させて左手で操作できる。センサーによる自動回転で、およそ135度を超えたところで180度回転する仕様だ。
90度単位では回転は発生しないので、スマートフォンやタブレットのように寝転がると画面が横向きになった……ということはない。極めて合理的なギミックだ。
歴代でも指折りの製品。そろそろSIMロックフリーモデルも欲しい
以上のように、コミック利用を中心に先進的な機能を多数搭載しつつ、前編で見たようにレスポンスも高速とあって、歴代のKindleシリーズの中でも指折りの製品というのが筆者の評価だ。
従来モデル、つまり第8世代のOasisはかなりユーザを選ぶ製品で、筆者の用途ではあまり出番はないままになってしまったが、本製品は日常利用から外出に、さらには旅行にと幅広く活躍してくれそうだ。
問題は、何より価格だろう。機能の豊富さでは突出しているとはいえ、もっとも安い8GBの「キャンペーン情報あり」モデルでも33,980円、プライム会員限定のクーポンを使っても、3万円を切るのがやっとだ。
機能はまったく違うとはいえ、ローエンドのモデルはクーポン利用で5,000円を切ることを考えると、やや価格差はありすぎるきらいがある。クーポン利用時の割引価格が通常価格になれば、かなり印象的にも違って見えると思うがどうだろうか。
あと、個人的に気になるのが3Gモデルの位置づけだ。
もともと、KindleシリーズのWi-Fi+無料3Gモデルは、3G回線でのコミックのダウンロードは行なうことができない。無料3Gゆえこの仕様はやむを得ないが、本製品の32GBモデルはコミックの大量保存を前提としたモデルであり、にもかかわらずコミックダウンロードに3Gが使えないのは、製品コンセプトと仕様にズレがあるように感じられる。
Wi-Fi+3Gモデルがラインナップされなかった、Paperwhiteのマンガモデルにはなかった問題だ。
そもそもは「3G回線でいつでもコンテンツをダウンロードでき、かつWhisperSyncで既読位置などの同期もできる」というのがKindleのコンセプトであり(そもそも第2世代まではWi-Fiすら搭載していなかった)、それを継承して現在に至っているわけだが、昨今の状況を考えると、無料3Gは廃止してSIMロックフリーモデルを用意し、通信プランの選択はユーザに任せるというのも1つの手ではないかと思う。
このあたりの新しい展開も、個人的には期待したい。