山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

4:3でiPadと同等画面の「Diginnos Tablet DG-A97QT」

~快適な読書が可能なAndroidタブレット

ドスパラ「Diginnos Tablet DG-A97QT」

 ドスパラ「Diginnos Tablet DG-A97QT(以下DG-A97QT)」は、9.7型のAndroidタブレットだ。iPadシリーズと同様、紙の縦横比に近い、アスペクト比4:3の画面を備えていることが特徴だ。

 紙の本の縦横比に近いことから電子書籍の表示に向くとされるアスペクト比4:3のタブレットだが、iPadシリーズを除けば、製品の選択肢はほとんどない。Androidタブレットの現行モデルとしては、以前本稿でも紹介したASUSの「ZenPad 3S 10」LTEモデルくらいで、あとは8型前後まで範囲を広げれば、ASUSの「ZenPad 3 8.0」や、BLUEDOTの「BNT-791W」がある程度。

 今回の「DG-A97QT」は、画面サイズは9.7型でアスペクト比4:3、解像度は2,048×1,536ドットと、現行のiPadと同じ仕様のディスプレイを備えている。またメモリカードスロットやMini HDMIも搭載するほか、出っ張りのないフラットな背面カメラなど、他製品と比較したさいにiPadの弱点とされがちなポイントを、的確に押さえているのも目を引く。

 今回は借用した実機をもとに、電子書籍を中心とした使い勝手をチェックしていく。

製品外観。ホームボタンこそないもののベゼルまわりのデザインはiPadに酷似している
インカメラの配置を見るに縦向きで使うことを想定したデザイン
ボタンやコネクタ類はすべて上面に集中している。手前に見えるのが電源ボタンおよび音量調節ボタン
その反対側にはイヤフォンジャック、Micro USB、Mini HDMI、microSDスロットを備える
さらに面を挟んだすぐ隣には背面カメラを備える。背面から出っ張りのないフラットな構造が特徴
背面はロゴもなくシンプルなデザイン。剛性はかなり高い
スピーカーは正面の上下に備える。本体を横向きにすると左右に1基ずつとなるレイアウトで、音が正面に出るので動画や音楽鑑賞に向く

ディスプレイ周りの仕様はトップクラス、重量などがややマイナス

 まずは同じ「9.7型」「アスペクト比4:3」のタブレット2製品との比較から。

DG-A97QTZenPad 3S 10 LTE(Z500KL)iPad(第5世代)
ドスパラASUSApple
発売2017年10月2016年12月2017年3月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)239.1×169.1×8.6mm164.2×242.3×6.75mm240×169.5×7.5mm
重量約570g490g約469g
CPURockchip RK3288(クアッドコア)Qualcomm Snapdragon 650(6コア)64bitアーキテクチャ搭載A9チップ、M9コプロセッサ
メモリ4GB4GB2GB
OSAndroid 6.0Android 6.0iOS 10→11
画面サイズ/解像度9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi)9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi)9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi)
通信方式802.11b/g/n/acIEEE 802.11a/b/g/n/ac802.11a/b/g/n/ac
バッテリー持続時間(メーカー公称値)7,200mAh約16時間(Wi-Fi通信時)最大10時間
microSDカードスロット-
その他Mini HDMISIMロックフリー、Wi-Fiモデル(Z500M)はCPUがMediaTek MT8176(6コア)
価格(発売時)29,800円(32GB)48,384円(32GB)37,800円(32GB)
48,800円(128GB)

 こうして見ると、ディスプレイのサイズや解像度など、iPadとそっくりであることがわかる。製品を企画する時点で、iPadと同じマーケットに売り込むために、仕様を横並びにせざるを得ないことが理由として大きいだろうが、高いレベルで仕様が横並びというのは、ユーザーとしてもありがたい。

 メモリは4GBと、Androidタブレットとしても高い水準だが、CPUについては国内でChromebookくらいしか採用例のないRockchipのミドルレンジ製品ということで、ベンチマークテストなどを中心にチェックの必要がありそうだ。ストレージは32GBだがメモリカードが使えるため、用途次第ではあるが、遜色ない使い方ができるだろう。

 本製品がやや不利なのが重量で、iPad(第5世代)に比べて約100g重いなど、かなりのヘビー級だ。またバッテリについては、公称スペックの中で容量こそ明言されているものの、特定条件下で何時間駆動するのかは記載されていない。これについてはのちほど検証してみたい。

 もう1つ、実売価格が本製品以下であることを条件に、他社の10型前後のタブレットとも比較してみよう。

DG-A97QTBNT-1061WFire HD 10(第7世代)
ドスパラBLUEDOTAmazon
発売2017年10月2017年10月2017年10月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)239.1×169.1×8.6mm268×168×9.6mm262×159×9.8mm
重量約570g約598g約500g
CPURockchip RK3288(クアッドコア)MT8163(ARM Cortex-A53 64bit 1.3GHz クアッドコアプロセッサ)クアッドコア 1.8GHz×2、1.4GHz×2
メモリ4GB2GB2GB
OSAndroid 6.0Android 6.0Fire OS 5
画面サイズ/解像度9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi)10.6型/1,920×1,080ドット(208ppi)10.1型/1,920×1,200ドット (224ppi)
通信方式802.11b/g/n/ac802.11a/b/g/n/ac802.11a/b/g/n/ac
バッテリー持続時間(メーカー公称値)非公開(7,200mAh)非公開(6,000mAh)10時間
microSDカードスロット○(200GBまで)○(最大256GB)
その他Mini HDMIHDMI micro-
価格(発売時)29,800円(32GB)15,980円(32GB)18,980円(32GB)
22,980円(64GB)

 比較対象となっている「BNT-1061W」および「Fire HD 10(第7世代)」は、画面がいわゆるワイドサイズであるため、電子書籍ユースにおいて本製品の優位性は動かないが、動画再生ではこれら競合製品のほうが有利だ。なにより価格が本製品よりも1万円以上安いので、汎用性を考慮してこちらを選択する人も多いはずだ。

 スペックを見ていくと、メモリおよび画面解像度で本製品に優位性があるのを除けば、かなり近い仕様であることがわかる。重量についても、ここでの比較対象はいずれも500gオーバーであり、据え置き利用であればそう違いは感じないだろう。あとはやはり、CPUの差といったところだろうか。

上が本製品、下が10.5インチiPad Pro(試用機材の関係で、上記の表にある第5世代iPadではないので留意されたい)。アスペクト比はいずれも4:3で、インカメラのレイアウトもそっくりだ
上が本製品、下がFire HD 10(第7世代)。画面サイズはほぼ同等だがアスペクト比が異なるため印象はかなり違って見える
厚みの比較。いずれも左側が本製品で、右上が10.5インチiPad Pro、右下がFire HD 10(第7世代)。前者に比べるとかなり厚みがあるが、このクラスのタブレットとしては可もなく不可もなくといったレベル
視野角はiPad並に広く、安価なタブレットとは一線を画する
上下方向の視野角もかなり広く、実用性は高い

液晶は高品質、本体の剛性も十分

 パッケージには本体のほかUSBケーブル、アダプタ、取扱説明書が同梱される。24ページの取扱説明書は、簡素ながらも基本的な使い方が紹介されており、初心者にとっては海外製品と比較した場合のアドバンテージになるだろう。

 セットアップの手順は一般的なAndroidのそれで、独自の手順などは見受けられない。プリインストールされているアプリはAndroid標準のものがほとんどで、余計なプリインストールアプリがほぼ皆無なのは好感が持てる。

同梱品一覧。本体のほかUSBケーブル、アダプタ、取扱説明書が付属する
アダプタはプラグが折りたためるタイプで、持ち歩きにはありがたい
ホーム画面。画面の最下段、左端と右端には音量調整用のボタンが用意されているが、戻るボタンなどとデザインが紛らわしいこともあってやや使いづらい印象
アプリの一覧。ほぼ標準アプリのみという構成

 製品を手にして驚くのは液晶の品質だ。実際に見るまでは、解像度は高くとも視野角が狭かったり、色ムラがあるなどの落とし穴があるのではと疑っていたのだが、まったくの杞憂だった。ふだんiPadを常用している筆者から見て明らかに差があるのは、指紋がつきやすいことくらいだろうか。逆に言うとそのくらいしかツッコミどころがない。

 また本体はかなりの剛性があり、チャチな印象はまったくない。電源ボタンおよび音量調整ボタンが小さく押しにくい(スクリーンショットはかなりの確率で失敗する)などの不満はなくはないが、どれも些細な点ばかりで、完成度はかなり高い印象だ。今回は電子書籍ユース中心ゆえ試していないが、HDMIでの外部出力機能も、ユーザーによってはハマるだろう。

メモリカードスロット搭載で自炊ビューアとしても最適

 表示品質については、iPadシリーズと同じ解像度ということもあり、品質は十分だ。見開き表示に切り替えた場合も、細部までしっかりと表現できるので、コミックの表示などには最適と言える。詳しくは以下の写真で確認してほしい。

 比較写真での各製品の並び順は以下のとおり。iPadについては機材の関係で第5世代モデルではなく、同じ解像度の10.5インチiPad Proを用いているのでご了承いただきたい。表示サンプルは、コミックはうめ著「大東京トイボックス 1巻」、テキストは太宰治著「グッド・バイ」を用いている。

上段左: 本製品(9.7型/2,048×1,536ドット/264ppi)
上段右: 10.5インチiPad Pro(10.5型/2,224×1,668ドット/264ppi)
下段左: BNT-1061W(10.6型/1,920×1,080ドット/208ppi)
下段右: Fire HD 10(第7世代)(10.1型/1,920×1,200ドット/224ppi)

コミック(うめ著「大東京トイボックス 1巻」)の比較。基本的に解像度通りの表示性能で、上2つは下2つに比べて細い線もしっかり再現できている。上段右の10.5インチiPad Proほどのシャープさはないが十分だろう
テキストコンテンツ(太宰治著「グッド・バイ」)の比較。複雑な漢字やルビなどもきちんと描写できており、細い線もなめらかだ

 画面サイズは9.7型ということで、コミック単行本を見開き表示した場合の実寸よりわずかに小さい程度ということもあり、視認性はかなり高い。単に見開き表示をするだけなら7~8型でも可能だが、人によっては目につらいのは事実。その点、本製品くらいの大きさがあれば安心だ。アスペクト比4:3ゆえ余白が少なく、ぎりぎりまで大きく表示できるのも利点だ。

 また本製品はmicroSDスロットを搭載することから、紙の本をスキャンした、いわゆる自炊ファイルの読み込みも簡単だ。試しに、microSDに保存したPDFとZIP圧縮JPGファイルを「PerfectViewer」で読み込ませてみたが、快適に閲覧できた。

アスペクト比4:3のため、コミックを表示したさいも余白が少ない
10.5型の「10.5インチiPad Pro」(下)との比較。どちらもアスペクト比4:3ということで、基本的に画面サイズの相違によるサイズの違いのみ
10.1型の「Fire HD 10」(下)との比較。画面サイズは本製品のほうが小さいが、アスペクト比の関係でページサイズは本製品のほうが大きい
雑誌サイズも、原寸とはいかないが、余白が少ないぶんギリギリまで拡大表示でき、本文も細かい注釈まできちんと読める
自炊ファイルの表示にも適する
「PerfectViewer」の設定画面を開いたところ。ワイドサイズのタブレットに比べて本の縦横比に近いため表示周りの違和感は少なく、読書に没頭できる

ハイエンドモデルとの性能差はあるが、バッテリー駆動時間は合格点

 ここまで触れられなかったポイントを、2つほどチェックしておこう。

 まずは動作のレスポンス。実際に使ってみた限り、読書まわりの操作には特に支障はないのだが、スクロールが引っかかるなどの動きは多少なりともある。例えば電子書籍ストアで大量のサムネイルを表示する場合は、読み込みが追いつかずにスクロールがもたつくこともしばしばだ。

 また動画再生も、定額配信サービスについては問題ないのだが、NASからフルHDクラスの動画データをストリーミング再生しようとすると動いては停止、動いては停止となってしまい、快適な鑑賞は難しい。タブレットのエントリーモデルにみられる傾向で、Fire HD 10とよく似ている印象だ。

 ベンチマークを取ると、そのことが客観的に裏付けられる。Ice Storm Extremeを用いたテスト結果では、本製品は「7844」。Fire HD 10は「8257」で、項目により多少前後はするものの、おおむね同等の性能ということになる。

 ちなみに同じアスペクト比4:3のAndroidタブレットである7.9型の「ZenPad 3 8.0」は「10787」なので、こちらは2割以上の差をつけられている。ハイエンドモデルとの性能差は少なからずあるということで、過度な期待は禁物だ。

Ice Storm Extremeによるスコアは「7844」。右側のFire HD 10は「8257」ということで、おおむね似たり寄ったりだ。ただし物理演算性能を測定するPhysics Testは本製品のほうが優秀な値を示していたりと、項目別に見ていくとそれなりの差はある

 もう1つ、バッテリ駆動時間について。本製品は公称スペックの中にバッテリ容量は「7,200mAh」という記述があるのだが、特定条件下で何時間駆動するかは記載されていない。そこで前回BLUEDOT「BNT-1061W」で試したのと同様、「AbemaTV」でAbemaニュースを表示した状態で放置し、バッテリがどの程度持つかを測定してみた。

 結果としては、6時間23分を経過したところでバッテリーが15%を切り、7時間44分が経過したところで1%を切って自動的にシャットダウンした。BLUEDOT「BNT-1061W」はバッテリが残り15%を切るまで3時間50分だったので、およそ2倍もの長寿命、ということになる。

 もっとも、同じ実験で第5世代iPadではバッテリが10%を切るまで19時間も稼働できたので、6時間40分で10%を切った本製品はその3分の1程度なのだが、これは第5世代iPadがバッテリの持ちが良すぎるだけで、このクラスのタブレットとしては悪くはない。

 ましてや電子書籍ユースでは常時通信を行なうわけではないので、10時間程度の稼働時間は期待できる。こちらは十分に合格点が与えられるだろう。

総じて優秀な製品。ネックは価格か

 以上のように、総じて優秀な製品というのが筆者の評価だ。動画再生についても、アスペクト比4:3ゆえ画面上下に大きな黒帯はできてしまうが、定額配信サービスを見るには品質、性能ともに十分だ。画面左右に配置されたステレオスピーカーは完全に正面を向いているので、音が背後に逃げたり、接地面に塞がれることがないのも好印象だ。

 ネックがあるとすれば価格だろう。29,800円という価格は、現行の9~10型クラスのタブレットとしては、決して安いわけではない。アスペクト比4:3にこだわった場合、同容量のiPad(第5世代)と比べ、確かに本製品のほうが安価とはいえ、その差は1万円以下だ。リセールバリューまで考慮すると、やや躊躇するところではある。

 またアスペクト比4:3にこだわらなかったとしても、冒頭の表にある2製品がいずれも2万円を切っていることを考えると、本製品はやや割高感がある。現状がAndroid 6.0で、7.0以降へのアップデートのロードマップが明らかになっていないのも、懸念材料として挙げられる。

 「10型前後」×「アスペクト比4:3」×「メモリカードスロット搭載」の条件が揃ったタブレットは貴重な存在とはいえ、価格面でもう一声か二声ないと、上記のような点も踏まえて、価格で足切りに遭いかねない。そのあたりのジレンマをどう解消するかが、鍵となりそうだ。