山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
楽天「Kobo Aura H2O Edition 2」
~従来より薄く軽くなった防水仕様の6.8型E Ink電子ペーパー端末
2017年5月29日 06:00
「Kobo Aura H2O Edition 2」は、楽天Koboが販売するE Ink電子ペーパー採用の電子書籍端末だ。防水機能が特徴の「Kobo Aura H2O」の2代目にあたるモデルで、一般的な電子ペーパー端末よりもひとまわり大きい6.8型という画面サイズが特徴だ。
初代の「Kobo Aura H2O」は、IP67準拠の防水機能を備えたE Ink電子ペーパー端末として2014年10月に登場した。第2世代に当たる今回のモデルは厚さが9.7mmから8.8mmへ、重量が233gから207gへと薄型軽量化を実現したほか、防水機能についても従来のIP67(水深1mで30分)からIPX8(水深2mで60分)へと進化し、外部ポートのカバーなしでも浸水しない仕様になった。内蔵ストレージも4GBから8GBへと倍増するなど、さまざま箇所が進化したモデルとなっている。
今回はこの「Kobo Aura H2O Edition 2」について、発売直後の市販品を用いたレビューをお届けする。なお便宜上、本稿では初代モデルである従来のKobo Aura H2Oを「旧H2O」、今回のKobo Aura H2O Edition 2を「新H2O」と呼称する。
実質的な「Kobo Aura ONEの小型版」
まずは新旧のH2Oを比較してみよう。参考までに、昨年(2016年)9月に発売された7.8型モデル「Kobo Aura ONE」も併せて比較する。
Kobo Aura H2O Edition 2 | Kobo Aura H2O | Kobo Aura ONE | |
---|---|---|---|
発売月 | 2017年5月 | 2014年10月 | 2016年9月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 172×129×8.8mm | 179×129×9.7mm | 195.1×138.5×6.9mm |
重量 | 約207g | 約233g | 約230g |
画面サイズ/解像度 | 6.8型/1,080×1,440ドット(265ppi) | 6.8型/1,080×1,430ドット(265ppi) | 7.8型/1,404×1,872ドット(300ppi) |
ディスプレイ | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) |
通信方式 | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n |
内蔵ストレージ | 約8GB | 約4GB | 約8GB |
メモリカード | - | microSDカード | - |
フロントライト | 内蔵(ナチュラルライト) | 内蔵 | 内蔵(ナチュラルライト、自動調光) |
防水・防塵機能 | あり(IPX8規格準拠) | あり(IP67規格準拠) | あり(IPX8規格準拠) |
バッテリ持続時間の目安 | 数週間 | 数週間 | 数週間 |
発売時価格(税込) | 19,980円 | 19,980円 | 24,624円 |
E Ink電子ペーパーを採用した読書端末は、国内ではAmazonのKindleシリーズが有名だが、防水仕様の製品はなく、それゆえ旧H2Oは登場直後は競合のないユニークな製品と位置づけられていた。また一般的なE Ink電子ペーパー端末よりひとまわり大きい6.8型という画面サイズにより、コミックなどをより大きな面積で表示できるのも利点だった。
もっとも、昨年になって発売された「Kobo Aura ONE」(以下ONE)は、本製品よりさらに大きい7.8型の画面を搭載しながら、旧H2Oより軽量な筐体を実現し、さらにIPX8相当の防水機能も備えるなど、旧H2Oの優位性は発売当初に比べてかなり低下していたのも事実だ。
今回の新H2Oでは、画面サイズは6.8型のまま、厚さが9.7mmから8.8mmへ、重量が233gから207gへと薄型軽量化を実現している。ONEと比べると厚みでは依然負けているが、重量は大きく下回っており、十分な差別化ポイントとなっている。また防水機能も従来のIP67相当から、ONEと同じIPX8相当へと向上しており、ONEの小型版とでも呼ぶべきモデルに仕上がっている。
一方、旧H2Oと異なる点として、メモリカードスロットが廃止されたことが挙げられる。旧H2OはmicroSDで容量を増やすことができたため、本体のストレージ領域の拡張はもちろん、サポート外ながらPDFファイルなどを読み込むことができた。本製品はストレージ領域が4GBから8GBへと増えてはいるものの、メモリカードを組み合わせて使うことはできなくなった。一部のユーザーにとってはかなり致命的とも言える仕様の変更だろう。
なおバッテリ持続時間については、これまで具体的に「何週間」、「何カ月」と記載されていたのだが、「使用環境によって異なるため」という理由で、今回からは「数週間」という、ざっくりとした目安での表記に改められた。Kindleと同じ表記方法なのだが、幅がありすぎてピンと来ないのが実情であり、何もわかりづらいところまで参考にしなくてもよいのではと感じる。
ちなみに従来は旧H2Oが約7週間、ONEが約1カ月と、バッテリ持続時間には約2倍程度の開きがあった。ハードウェアの世代がONEに近いことを考えると、本製品も実質は約1カ月程度だと考えておいたほうがよさそうだ。
デザインはONEとほぼ同じ
さて、ONEの小型版と書いたが、パッケージを開封するとまさにそのとおりであることがわかる。画面サイズこそ異なるものの、正面左下にあるKoboのロゴや、細かい突起のある背面の質感、さらに背面左上の電源ボタンの配置や形状もONEとまったく同一だ。
この背面についてだが、旧H2O、および日本未発売のKobo Aura HDで見られた、複雑な面取りが特徴だったデザインは姿を消している。このデザインの変更および薄型軽量化によって、旧H2Oの手に取った際のずっしり感は、かなり低減されている。
ONEとの違いとして挙げられるのが、旧H2Oと同様、ベゼルと画面の間に段差があることだ。デザイン的にはやや古臭く感じられるが、画面左端を上下にスワイプすることでフロントライトの光量を調節するギミックを使う際、段差があればガイド代わりにして指をスライドさせやすいので、実用性という意味では悪くはない。ちなみに本製品と同時発売の「Kobo Aura Edition 2」もこの段差がある。
また、旧H2Oでは本体底面に防水カバーに覆われたメモリカードスロットがあったが、今回はメモリカードスロットが廃止されたことで、Micro USB端子以外には何もないすっきりしたレイアウトになった。左右のネジがむき出しなのはいただけないが、構造がシンプルになったのはよいことだろう。
同梱品およびセットアップ手順は従来と同一
本体の同梱品はUSBケーブルと取扱説明書一式で、ONEなどと大きな違いはない。またセットアップの手順についても、試したかぎりではこれまでと同一のようだ。
もっとも、Wi-Fiが「接続できません。再度お試しください」と表示されたにもかかわらず直後にWi-Fi経由でソフトウェアのアップデートが始まったり、アップデートの進捗率が100%を超えて101%と表示される(しかもまだゲージが残っている)など、ソフトウェアの作り込みの甘さは随所に見られる。
こうしたいたずらにユーザーの不安を煽る品質の低さは、本人が理解して使うならともかく、友人知人に製品を勧めるにはネックになる。詳細はスクリーンショットでご覧いただきたい。
ホーム画面はデザインが一新、メニューも画面上部に集約
さて、セットアップが完了して初めて気がつくのが、従来とはホーム画面のデザインが一新されていることだ。従来のホーム画面は、読みかけの本やお勧めの本などを配置したタイルが縦3列に並び、ユーザーが何らかの操作を行なうと順序が繰り上がる仕組みだったが、新しいホーム画面は画面が上下左右に4分割され、そこに読みかけの本やお勧めの本が表示されるレイアウトになっている。
この上下左右に区切られた4項目は固定ではなく、従来のタイル表示と同じく、ユーザーが何らかの操作を行なうと動的に差し替わる仕組みだ。また従来は画面の上下に分散していたライブラリやストア、設定画面へのリンクなどは画面左上に集約されるなど、フルモデルチェンジと言っていいほどの違いがある。
本稿執筆時点ではまだこのインターフェイスに触れてから間がないため、しばらく時間をかけて試用したのち、次回、「Kobo Aura Edition 2」のレビューの際に詳しく紹介したい。今回はひとまず、スクリーンショットで主要な画面をご覧いただこう。
ページめくりなどのレスポンスは従来モデル並み
続いて基本的な表示性能を見ていこう。ページめくりなどの速度は、旧H2OやONEと比べても違いは感じられない。連続してめくっているとタップしたはずが認識されずにスキップされる、いわゆる空振りが稀に発生するのも従来と同様。良くも悪くも変わっていない印象だ。
また同じE Ink採用のKindleと比べた場合、Koboはレスポンスが遅く、またコミックは1ページめくるたびに画面が白黒反転するというマイナスがあったが、それらも従来のままで、とくに改善されている様子はない。以下に比較動画を置いておくので参考にしてほしい。
画面の解像度は265ppiということで、旧H2Oとはほぼ同じ、ONE(300ppi)に比べるとやや劣るスペックだ。もっとも、目を凝らして見ると違いはわかるのだが、200ppi前後の端末と300ppiの端末を比べたときのような露骨な違いはない。極端に細かいディティールのコンテンツを表示する場合を除いて問題になるケースは少なく、実用的な解像度という評価になるだろう。
なお、表示周りで惜しいのは、タブレットのように本体を90度回転させての見開き表示には対応しないことだ。これはONEおよび旧H2Oも同様だったのだが、せっかくの大きな画面サイズを生かせないのは非常にもったいないと感じる。今のところ見開き表示に対応したE Ink電子ペーパー採用の読書端末はないため、機能の追加を期待したいところだ。
防水機能は悪い意味で反応がデリケートに?
続いて、本製品の売りである防水機能について見ていこう。冒頭で述べたように、旧H2OはIP67(水深1mで30分)準拠だったのが、本製品はONEと同じIPX8(水深2mで60分)準拠へと機能が向上している。
かつて発売された直後の旧H2Oは、水滴が付着するとポップアップが表示されて操作が中断され、完全に拭き取らないまま操作すると誤作動が繰り返し起こるという、実用性はかなり低い仕様だった。
一方、昨年発売されたONEは、水滴がある程度付着したままでも最小限の操作は行なえるよう改良されており、防水端末としてそこそこの実用性を誇っていた(旧H2Oもその後挙動が改善されたようで、現在のソフトウェアバージョンではONEに近い挙動へと改められている)。
では今回の新H2Oはどうかというと、ONEとほぼ同じ挙動ながらも、反応は悪い意味でデリケートになっている。具体的には、勢いよく水をかけたり、あるいは水中に沈めるなど、水による圧力が継続して画面にかかっていると、タップが連続して行なわれていると解釈するのか、画面が激しく拡大縮小されたり、あるいは前後のページを往復するなど、いわば“暴走”した状態になる。
詳しくは以下の動画を見てほしい。
勢いよく水をかけたり、水没させたりといった行為は、バスルームなどで使おうとすると、少なからず発生する可能性がある。その間ページがめくれないのはとくに問題がないのだが、かといって本製品のように“暴走状態”になるとかなり戸惑う。まるで非防水のデバイスをうっかり浸水させたかのような挙動だからだ。おそらくハードウェアとしては従来と違いはないはずなので、ONEのようにいい意味で無反応な状態が保たれるよう、ソフトウェア側で修正してほしいものだ。
余談だが、本製品の筐体デザインは、この防水機能との相性はあまりよろしくない。というのも、ベゼルの段差があるせいで拭き取ったはずの水滴が残ってしまう上、細かい突起を持つ背面は、間に水滴が入り込んで拭き取りにくいのだ。ツルッとした表面で水滴の拭き取りも容易だった旧H2Oと比べるとその差は明らかで、後継モデルが出る際にはこうした部分も統一感を持ってデザインしてほしいところだ。
ライバルは旧H2OよりもむしろONEか
以上ざっと使ってみたが、本製品のライバルとなるのは旧H2Oではなく、むしろ7.8型のONEだろう。どちらも同じIPX8準拠の防水機能を備え、メモリカードスロットを持たない特徴も同様だ。ONEは本製品よりも画面サイズが大きく、かつ本体は薄いが、できることにおいて決定的な違いはない。あとは約5,000円という価格差をどう考えるかだろう。
旧H2Oから本製品への買い替えの必要があるかどうかは、正直微妙なところだ。筐体は薄く軽くなっているが、反応速度はとくに違いが見られず、逆にメモリカードスロットの廃止など、旧H2Oでできていたことができなくなっている。メモリカードスロットが不要なのであれば、旧H2OではなくONEも買い替えの選択肢に入ってくるので、ますます本製品を選ぶ理由がなくなってしまう。
価格も気になるところだ。いくら防水機能を備えるとはいえ、19,980円という価格は、7~8型のエントリークラスのカラータブレットが十分買えてしまう価格帯であり、かなりどっぷりと楽天Koboを使い込んでいなければ、ほかの用途に使えない本製品はどうしても不利だ。
もちろん電子ペーパーならではの目に優しいといった特徴はあるほか、本製品の最大の売りである防水機能はほかに代えがたいわけだが、入門用に買うのであれば本製品と同時発売の「Kobo Aura Edition 2」という選択肢もあるので悩ましい。
すでに電子ペーパー端末の特性をある程度は把握しており、その上で防水機能が必要であり、かつ7.8型のONEが何らかの理由で候補から外れることが、本製品が選ばれる場合の最低条件になるだろう。