山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

楽天「Kobo Aura H2O」

~防水機能搭載、265ppiの高解像度スクリーンを備えた6.8型E Ink端末

「Kobo Aura H2O」。200台が先行販売されたのち、現在は第2弾として2,000台が販売中。さらに今春からは一般発売が予定されている

 「Kobo Aura H2O」は、楽天Koboが販売するE Ink電子ペーパー採用の電子書籍端末だ。一般的なE Ink端末よりも一回り大きい6.8型の画面サイズを持ち、265ppi(1,080×1,430ドット)の高解像度を実現しているほか、IP67の防水防塵規格に準拠し、バスルームやキッチンなど水滴がかかる場所でも利用できることが特徴だ。

 今回は、先行販売で同社ストアから購入したモデルを用い、既存製品であるKobo Aura、また同じく高解像度のE Ink端末であるAmazonのKindle Voyageと比較しつつチェックしていく。なお今春に予定されている一般販売時にはファームウェアのアップデートが予定されているため、今回評価するモデルは一般販売時とは機能の相違がある可能性があることを予めお断りしておく。

カラーバリエーション展開はなくブラック1色のみ。裏面はややブラウンがかっている
防水仕様と関連してか、Koboシリーズの特徴だったスライド式の電源ボタンはプッシュ式に改められている
こちらもやはり防水仕様のためか、メモリカードスロット、Micro USBスロットは保護カバーで覆われる仕様になっている
背面。Kobo Aura以降で採用された複雑な面構造を継承している

従来モデルとの違いは「大画面」「高解像度」「防水」

 まずは過去製品との比較から。現行モデルであるKobo Auraのほか、すでに販売を終了しているKobo gloもあわせてチェックする。


Kobo Aura H2OKobo AuraKobo glo

2014年10月2013年12月2012年11月
サイズ(最厚部、幅×奥行き×高さ)129×179×9.7mm114×150×8.1mm114×157×10mm
重量約233g約174g約185g
解像度/画面サイズ6.8型/1,080×1,430ドット(265ppi)6型/758×1,014ドット6型/758×1,024ドット
ディスプレイモノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta)モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Pearl)モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Pearl)
通信方式IEEE 802.11 b/g/nIEEE 802.11 b/g/nIEEE 802.11 b/g/n
内蔵ストレージ約4GB(ユーザー使用可能領域:約3GB)約4GB(ユーザー使用可能領域:約3GB)約2GB(ユーザー使用可能領域:約1GB)
メモリカードmicroSDmicroSDmicroSD
前面ライト内蔵内蔵内蔵
防水・防塵機能あり(IP67規格準拠)--
バッテリー持続時間(メーカー公称値)約7週間(ライトおよびWi-Fiオフ、約1分/1ページで1日30 ページ読書時)約8週間(ライトおよびWi-Fiオフ、約1分/1ページで1日30 ページ読書時)約1カ月、約30,000ページ(Wi-Fiオフ)
価格(発売時)19,980円12,800円7,980円

 最初に押さえておきたいのは、今回のKobo Aura H2Oは、これまで世代を経るごとに薄型化、軽量化が図られてきたKobo Auraなどメインストリームの流れとはまったく別のモデルということだ。具体的には、画面サイズは6型ではなく一回り大きい6.8型であること、また解像度も265ppiへと向上していることが挙げられる。

 画面サイズは、6型と6.8型の違いと言われてもなかなかピンと来ないが、定規を当ててKobo Auraからの変化を測ると、実寸で上下が16mm、左右が13mmも大きくなっている(本製品は136×103mm、Kobo Auraは120×90mm)。ただしベゼル上下の幅はAuraに比べるとかなり広く、またAuraでいったんフラットになったベゼルもかつての段差がある仕様に戻っており、外見だけ見ると先祖返りしたかのようだ。

 高解像度化については、従来モデルは200ppi前後なので、本製品の265ppiというのはかなりの高解像度だ。さすがにiPhoneのように300~400ppiクラスではないが、AmazonのKindle Voyageとともに、E Ink製品の中では頭1つ抜けている。さらに後述する防水機能についても、従来の電子ペーパー端末にはなかった新機軸の取り組みである。

 といったわけで、本製品をKobo Auraと比較した場合、「大画面化」、「高解像度化」、「防水対応」といったプラス要因の一方で、「本体サイズの大型化」、「重量の増加」というのがマイナス要因ということになる。画面が大きくなったことで本体サイズが大型化しているのは当然と言えば当然だが、重量が一気に59gも増しているのはかなり極端で、気になるポイントである。

左から、本製品、Kobo Aura、Kobo glo。本製品はサイズがひとまわり大きい。フロントライト消灯時のパネルの色がもっとも明るいのもプラス要因だ
背面の比較。デザインはKobo Auraと類似している
Kobo Auraでいったんなくなったベゼルの段差(右)が本製品では復活している
下部ベゼルの幅はそこそこある
薄型だったKobo Auraに比べるとかなり分厚い

Kindle Voyageと比べて画面の大きさや防水機能が利点。ネックはサイズと重さ

 以上を踏まえて、次は同じく高解像度のE Ink端末である、AmazonのKindle Voyageと比較してみよう。先の表にはなかった、国内未発売であるKoboの高解像度モデル「Kobo Aura HD」についても比較している。


Kobo Aura H2OKobo Aura HDKindle Voyage

楽天Kobo楽天KoboAmazon

2014年10月2013年4月2014年11月
サイズ(最厚部、幅×奥行き×高さ)129×179×9.7mm128.3×175.7×11.7mm117×162×7.6mm
重量約233g約240g約180g
解像度/画面サイズ6.8型/1,080×1,430ドット(265ppi)6.8型/1,080×1,440ドット(256ppi)6型/1,080×1,440ドット(300ppi)
ディスプレイモノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta)モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Pearl)モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta)
通信方式IEEE 802.11 b/g/nIEEE 802.11 b/g/nIEEE 802.11 b/g/n
内蔵ストレージ約4GB(ユーザー使用可能領域:約3GB)約4GB(ユーザー使用可能領域:約3.2GB)約4GB
メモリカードmicroSDmicroSD-
フロントライト内蔵(手動)内蔵(手動)内蔵(自動/手動)
ページめくりタップ、スワイプタップ、スワイプタップ、スワイプ、ボタン
防水・防塵機能あり(IP67規格準拠)--
バッテリー持続時間(メーカー公称値)約7週間(ライトおよびWi-Fiオフ、約1分/1ページで1日30 ページ読書時)1ヶ月6週間(ワイヤレス接続オフ、1日30分使用時)
価格(発売時)19,980円-21,480円(キャンペーン情報つき)、23,480円(キャンペーン情報なし)
備考-国内未発売3Gモデルも存在

 Kindle Voyageも本製品と同様、従来のラインナップを維持しつつ新たに加わった高解像度モデルだが、6型という画面サイズを維持したまま解像度の向上が図られており、それゆえ重量は約180gと平均的な6型E Ink端末と同等で、また本体も薄型だ。Koboシリーズに例えて言うならKobo Auraをそのまま高解像度化したようなスペックで、さらに前面ライトの自動調整機能やページめくりボタンが追加されている。

 一方で本製品は、高解像度化に合わせて画面サイズも大型化しており、また従来なかった防水機能が追加されるなど、従来の6型E Ink端末とは明らかに異なる位置付けの製品だ。機能的にはほぼ成熟してきたと考えられるE Ink端末が今後どのような方向に進化させるべきなのか、両社の考え方の違いが如実に現れているのが興味深い。

 なお、本製品の前モデルに相当する「Kobo Aura HD」と比較すると、防水機能を除けば、厚みが1.8mmほど削減されているのが大きな違いだ。実際に手に持ってもこの違いは相当なもので、防水機能の追加と平行して、ネックの1つである厚みを減らすべく改善が試みられたことが分かる。その一方、軽量化がほんのわずか(7g)に留まっているのは残念だ。

本製品(左)、Kindle Voyage(右)の比較。画面サイズがひとまわり大きいことが分かる
厚みの比較。さきのKobo Auraにも言えることだが、段差があるぶん本製品のほうが不利だ
本製品(左)、国内未発売のKobo Aura HD(右)の比較。外見は酷似しているが、下部の端子を保護カバーが覆う構造のせいか、全長が若干増している
厚みの比較。1.8mmほど薄型化が図られている
背面。右のKobo Aura HDは中央部分がへこむ面取りだが、本製品の中央部分はフラットになるなど、より一般的な形状に改められている

前面ライトの物理ボタンが廃止。Auraでなくなったベゼルの段差が復活

 では実際に使ってみよう。セットアップの手順は従来までと同様で、電源を入れて言語を選択し、Wi-Fi設定のあと恒例のアップデートチェックを挟み、楽天市場のIDとパスワードを入力するとサイトに接続され、同期が実行される。アップデートチェックに意外と時間がかかることを除けば、流れ自体に特に問題はない。Kobo Auraまでに頻繁に発生していたサーバー接続時のトラブルも、今回はとくに発生しなかった。

パッケージ外観。従来モデルまで付属していた紙のスタートアップマニュアルがないのは、先行発売モデルだからだろうか
同梱品の一覧。USB-ACアダプタは付属せず、ケーブルのみ添付される。新たに水滴拭き取り用の布が追加されている
パッケージから出した直後の画面。初心者が見るとPCと有線接続するのが必須であるかのように誤解しかねない図柄だが、Wi-Fi経由で単体のセットアップも可能
まずは言語を選択する
セットアップ方法を選択。今回はWi-Fi接続でのセットアップを選択
ネットワークの検索が実行される。SSIDが表示されたら、タップしてパスワードを入力
タイムゾーンが検索され日時が自動設定される。そのまま「次へ」をタップ
ここで恒例のファームウェアアップデートが行われる。「更新は1分以内に完了します」とあるが、あとから写真のタイムスタンプを見ると4分半ほどかかっていた
再起動してネットワークに再接続したのち、楽天のIDとパスワードを入力してログインする。フォームに入力した文字サイズがおそろしく小さく、老眼だと苦労しそうだ
ログインするとホームが表示され、あわせてコンテンツの同期が実行される。以上でセットアップは完了

 操作方法も大きくは変わらず、ホーム画面に表示されるコンテンツをタップして開き、タップやスワイプなどで読み進めることができるほか、ストアに接続してコンテンツの購入が行なえる。従来までのモデルを使っていた人はとくに戸惑いなく使えるだろうし、本製品で初めてKobo端末に触れた人も、慣れるまでに多少の時間は必要となるだろうが、大きな違和感なく使えるはずだ。

画面左下の「ライブラリ」からは購入済み書籍などが呼び出せる。個人的にはこの「本」は1タップで呼び出せるようにしてほしいと感じる(現在はライブラリをタップ→本をタップと2度タップする必要がある)
「ストア」からはストアのトップページのほか、下層のページをダイレクトに開ける
「その他」からはKoboおなじみのバッジなどを開くことができる
右上の3本線をタップすると明るさやWi-Fiのステータスを確認したり設定画面を開くためのメニューが表示される
太宰治著「グッド・バイ」のページを表示したところ。右上の折り返しはしおりをつけた状態を表す
メニューを表示した状態。行間や余白、文字揃えの項目があるが利用できず、調整可能なのは実質的にフォントの種類と文字サイズのみ
隣のグラフ状のアイコンをタップすると読書データが表示できる
右下の3本線をタップすると全文検索や目次の表示などが行える。ちなみにKobo Auraと比べると「目次」「辞書」が新たに追加されている
ライブラリ設定の画面。ダウンロード済の本の数を確認したり、一括削除することが可能
読書設定の画面。ページのタップ方向はここで切り替えられる。リフレッシュ間隔はKobo Auraにあった章単位がなくなり、1~6ページの間で選択する方式になっている
スリープモード/電源オフの設定画面。Kobo Auraにあった「自動ライトオフまでの時間」が省かれている
今回使用したソフトウェアバージョンは3.11.4

 操作体系は基本的に従来と同様だが、いくつか変更点もある。中でも大きいのは、従来の前面ライト内蔵のKoboシリーズに共通していたライトのオン/オフボタンが省かれ、メニューからの調整に一本化されたことだ。他社で言うとKindle Paperwhiteと同じ方式になったわけだが、手動でのオン/オフが可能なことは従来までのモデルの特徴であり、筆者も過去にメリットとして何度か紹介してきていたので、その点ではやや残念である。ちなみにKindleの最新機種「Kindle Voyage」に搭載されているような自動調光機能はない。

 もっとも、物理ボタンの廃止に伴って新たな操作方法も追加されている。それは画面の左端、ベゼルとの境を上下にスワイプすることで、明るさを調整できることだ。スワイプの量によって光量が変化する仕組みなので、上から下まで無理になぞらなくても、同じ場所で繰り返しスワイプすることで、光量を100%から0%の間で調節できる。

上から、Kobo glo、Kobo Aura、Kobo Aura HD、本製品。本製品はライトのオン/オフボタンがなくなっていることが分かる。電源ボタンがスライド式からプッシュ式になったのも変化の1つ
画面左端の段差の部分を上下になぞることでライトの光量をコントロールできる。最上部が光量100%、最下部が光量0%に割り当てられているわけではなく、スワイプ量で調整できる仕組み
上下のスワイプでライトの光量を調整している様子。この機能は本のページを開いている間だけ有効になり、ホーム画面やライブラリの一覧などでは反応しない

 機能が有効になるのは本のページを表示している場合だけで、ホーム画面やライブラリ画面、ストアなどでは反応しないが(上下スワイプがページめくりの操作と重複するためだろう)、機能的には十分だ。Kobo Auraにも2本指のスワイプで光量を調整する機能はあったが、ライトのオン/オフ自体はボタンで行う必要があったのに対し、本製品ではこのスワイプだけでライトをオンにできるので使いやすい。今後のモデルでもぜひ継続採用してほしい機能である。

 さて、しばらく使い続けていて気になるのは、やはり「重さ」である。画面サイズが異なるとはいえ、同社のもう1つの現行モデルであるKobo Auraとは50g以上の差があるだけに、余計にギャップが大きい。過去2~3年のE Ink端末に慣れていればいるほど、今回の製品に馴染みにくいと言えるだろう(逆に本製品で初めてE Ink端末に触れたユーザは、それほど違和感なく使えるはずだ)。

 また厚みも相当なもので、今となっては決して薄型とは言えないNexus 7(2013)よりも厚いというから相当なものだ(Nexus 7(2013)は8.6mm、本製品は9.7mm)。惜しいのは、ベゼルの段差部分さえなければ十分に対抗できる厚みであることだ。防水仕様のタッチスクリーンということで段差を省略するのは技術的に難しいのかもしれないが、このベゼルの段差は画面に付着した水滴を拭き取りづらくしており、次期モデルではぜひ改善を期待したいポイントだ。

Nexus 7(2013)を右に並べたところ。横幅は本製品のほうがむしろ広い
厚みの比較。本製品のほうが分厚い

高解像度化でA4雑誌も判読可能に。自炊データも最適化不要

 さて、本製品の大きなポイントとなるのは2つ。1つは解像度の高さ、もう1つは防水機能である。まずは前者、解像度について見ていこう。

 本製品の解像度は265ppiということで、これは一般的なE Ink電子ペーパー端末と比較して高解像度で(Kobo gloは187ppi、Kobo Auraは211ppi相当)、それゆえ画質のクオリティの高さは一目見て分かるほど違う。従来のKoboシリーズは、同クラスのKindleシリーズに比べて文字がにじみがちで、またスクリーンにムラもあったが、今回の製品ではそうした傾向は一切ない。単純にppiの数値が上がった以上に、パネルの品質そのものが向上した印象を受ける。

左が本製品、右がKobo Aura。文庫本とほぼ同じサイズに調節して比較したいるが、本製品のほうが明らかにシャープかつ線の太さも適切であることが分かる
こちらはうめ著「大東京トイボックス 10巻」での比較。本製品(左)のほうが、細い線と太い線とのメリハリがしっかりしている。トーン部分のモアレがないことも注目
もともとKoboシリーズの文字サイズ調節機能は他製品に比べるとかなり極端で、最小サイズでは読めないほど小さくなるのだが、本製品でもそれは同様で、一番小さな文字サイズに設定すると1文字0.8mmほどになる
画面を上から覗き込むとフロントライトの光源が見えてしまうのはKobo gloと変わっていないが、画面のムラは大幅に改善されている

 試した範囲で、画質の違いがもっとも極端に現れたのは自炊データだ。もともとKoboシリーズはPDFのほかCBZファイルを読み込めるため自炊向けの端末として評価が高いが、本製品は高解像度化によって、従来のようにドットバイドットで表示されるよう最適化しなくても、十分なクオリティで表示できるようになった。自炊ファイルとほぼ同じスキームで制作された、旧Jコミ(現・絶版マンガ図書館)で配布されていた赤松健著「ラブひな」1巻の高解像度版PDFを各端末で表示したのが以下の画像だが、クオリティの違いが一目瞭然だ。

上段左が本製品、右がKobo Aura。下段左がKobo glo、右がKobo Touch。最適化しないと読めたものではない3製品に比べ、本製品は最適化なしでも問題なく読める品質であることが分かる

 このクオリティであれば、わざわざ本製品向けにデータを作りこむ必要もない。もちろん最適化すれば余白を削除して一回り大きく表示させたり、軽量化によってページめくりのレスポンスが向上するなどの利点もあるが、標準的な設定でスキャンしてPDF化しただけで十分な品質で読めてしまうので、筆者のようにズボラなユーザーでも、自炊データを手軽に楽しめてしまう。本製品と同じ高解像度モデルのKindle Voyageは自炊ファイルの閲覧には適さない仕様なので、本製品ならではの強みということになる。

 なお楽天Koboストアで販売されているコンテンツの中には、テキスト主体の書籍ながら実は全ページが画像という、自炊データとほぼ変わらない品質の電子書籍があり、Kobo Aura以前ではかすれてしまいお世辞にも読めたものではないのだが、本製品ではなんとか読めるレベルを維持している。また、タブレットでないと細部の文字が表示できなかったA4サイズの雑誌も、注釈に至るまできちんと読めるレベルで表示できる。タブレットを所有していないユーザーにとっても朗報だろう。

筆者が先日たまたま購入した、宗像基著「特攻兵器蛟龍艇長の物語」。テキスト本ながら全207ページすべてが画像で構成されており、製品ページを見るとタブレットなどで見るよう注釈がある
拡大したところ。Kobo Aura(右)で表示すると細い線がかすれて読めたものではないが、本製品(左)では不完全ながらも最低限読めるレベルを維持しているので、わざわざタブレットを用意する必要もなさそうだ
小社刊「DOS/V Power Report 2015年2月号」を表示したところ。データ量が大きいためページめくりはやや緩慢だが、クオリティ的には問題なく読める。背景色のムラもほとんどない
拡大したところ。表内の小さな文字や右下の注釈も十分に判読可能

 1つもったいないと感じるのは、この高解像度は、1年以上前にリリースされながら日本未発売に終わった「Kobo Aura HD」で、すでに実現されていたということだ。2013年暮れにKobo Aura HDが登場した時点では、解像度の高さは競合他社製品と比較しても突出しており、「高解像度のE Ink端末という選択肢は他にないのでKobo Aura HDを買おう」という選び方が成立しうる余地があった。

 しかし結局Kobo Aura HDは今日まで国内向けにリリースされず、その間にAmazon Kindleはさらに高解像度(300ppi)の「Kindle Voyage」をリリースしたため、高解像度の電子ペーパー端末イコールKoboという優位性は失われてしまった。端末の出来によって利用するストアを決める人は少数派だろうし、またKindle Voyageは6型、本製品は6.8型なので真っ向からぶつかるわけではないとは言え、薄さと軽さではKindle Voyageが明らかに有利なだけに、注目度が下がってしまったのはもったいない限りだ。

バスルームやキッチンなど真水がかかっても問題なく利用可能

 続いて、もう1つのポイントである防水機能について見ていこう。本製品はJISの定める防水防塵の規格「IP67」に準拠している。防水に関して言うと「水深1mで最大30分の使用が可能」であることを意味しており、バスルームやキッチンなど水がかかる場所でも問題なく利用できる。従来までのモデルでは露出していたUSBコネクタやカードスロットが本製品ではカバーで覆われているのは、この機能を実現するためであろう。

 ちなみにJISの保護等級のうち防水性能を表すのはIPに続く数字の下1桁、すなわち「7」の部分だが、これよりも上の「8」が継続しての水没に耐えうるものであるのに対し、本製品は水深1mで最大30分という、あくまで一時的な水没に限定された機能ということになる。とはいえ、最近の製品でこのクラスの防水機能を持つのはソニーのXperia Z3シリーズ(正確にはIPX5/8)などのほか、水中撮影機能を備えたデジカメなど一部に限られるので、自宅中心で使う製品の防水機能としては申し分ない。

 ただしIP67をはじめJISが定める保護等級はあくまで水道水での利用が前提なので、海水浴に行って塩水をかぶったり、バスルームでシャンプーがかかった場合は保証外になると考えられる。このあたり、前述のソニーなどが細かく制限事項を記している一方、本製品の製品ページはかなり表記がざっくりとしているのが気になるところだが、あくまで一定条件下でのテストに合格しただけで、具体的なシチュエーションを保証しているわけではない点は、利用者としても理解しておきたい。

水をかけても問題なく利用できる。この写真では水滴警告をオンにしているので、水を検知して画面にアラートが表示されている
バスに浸けた状態。こちらは水滴警告をオフにしているため、特にアラートが出ることなくそのままページが表示されている
製品ページでは「バスルームで半身浴するときや、キッチンでレシピを見たいときにも。生活のワンシーンでも、濡れることを気にせずお使いいただけます。もちろん、旅行先やアウトドアで突然の雨に降られても安心。」という慎重な表現に留められているが、一方でビーチにしか見えない砂浜に本製品を置いた写真を掲載しているのはやや解せない

 さて、防水をアピールする本製品だが、水をかぶったままの状態で普段同様に使えるわけではない。少なくとも画面に水滴が付着したままだと、タッチしたのに無反応だったり、あらぬ箇所が反応してしまったりといった具合に、タッチの反応が著しく悪くなる。画面上に水滴が付いている箇所とついていない箇所があるがゆえ、反応にもムラができてしまうわけだ(ちなみに本製品を完全に水没させた状態ではムラがなくなるため、タッチの無反応や誤動作もほとんどなく、普段と変わらない操作が行える)。

 そのため本製品では、画面に水滴が付着すると、画面を拭くようアラートがポップアップする機能が用意されている。そのまま放置しておくとタッチパネルの操作に支障をきたすようになるので、早めに水滴を拭き取ってくださいね……というわけだ。

新たに「水滴の付着を自動検知」という項目が設定画面に追加されており、デフォルトでオンになっている
水滴を検知すると表示されるアラート。ひんぱんに水滴がつくとそのたびにこの画面が表示される

 このアラートが表示されないよう、設定画面でオフにすることもできる。ただしその場合は前述のようにたまに反応しなかったり誤作動したりといったことがあるので、手で画面を拭いつつ、うまくページがめくれるまでタップやスワイプを繰り返すなど、試行錯誤を繰り返すことになる。ちなみに、画面にはほとんど水滴がついていないのにうまく反応しない……という場合は、画面とベゼルの段差のところに水滴が残っていることが多い。

 また、水滴が残ったままでうまくページがめくれたとしても、テキストの範囲選択をはじめとするデリケートな作業はまず不可能で、またスワイプがタップと認識されて買う気のないコンテンツをうっかりカートに投入してしまったりするので、ストアの利用はあまりお勧めしない。現実的には、手ぬぐいやタオルなどを傍らに置き、いつでも拭える状態で使用するとよいだろう。

本製品をいったん水没させたあと、操作する様子。画面をタオルで拭うまでは、何度もスワイプを空振りしたり、またページをめくったつもりがメニューが表示されるなど、うまく操作できていないことが分かる

従来モデルを完全にリプレースできる製品がほしい

 以上ざっと挙動を見てきたが、まず解像度の向上については、国内ではすでにKindle Voyageが先行しているとは言え、本製品は自炊データを扱いやすいという特徴もあり、多くのユーザーに歓迎される仕様であることは間違いない。またパネルについては、従来までのKoboシリーズは画面全体がやや明るく、黒までもグレーがかって表示される問題があったが、本製品はコントラストが改善され、黒が引き締まって表示されるようになったのも好印象だ。

 また防水まわりの特徴についても、電子書籍の利用の幅を広げるよい機能だ。筆者はとくにバスルームで読書する習慣はないが、今回試してみて、これならバスルームを中心に本製品を活用するのはありだと感じた。本製品に限らず現在市販されているE Ink端末は5GHz帯での無線通信に対応せず、2.4GHz帯(11g)を用いる製品がほとんどだが、バスルームのような密閉された空間では2.4GHzのほうが電波が通じやすいので、ハードウェアの特性からしてもマッチしている。

 では以上を踏まえて、本製品は「買い」かと言われると、かなりユーザーを選ぶ製品、というのが筆者の評価だ。その最大の理由は本体の重さで、本製品の233gという重量は、Kobo gloに比べて48g、Kobo Auraに比べて59gも重く、これらの端末に慣れているとかなりつらいものがある。また昨今は7型タブレットが200g台後半まで軽量化しており、例えば約290gのNexus 7(2013)と本製品を比較した場合、両手に持って比べると確かに本製品のほうが軽いが、Nexus 7(2013)のほうが幅がスリムで薄いためか、体感的にはそれほど差を感じない。

 それゆえ、従来モデルをリプレースするつもりで購入したにもかかわらず、持ち歩きには重すぎることから、従来モデルを普段使いとして残し、本製品はお風呂専用にするという人が出てくると考えられる。もちろん2台持ちが許容できるなら何ら問題はないが、各機能がよくできているにもかかわらず、筆者の評価があまり高くないのは、この理由によるものだ。ページめくりなどの挙動について、Kobo Auraのほうが明らかにきびきびとしているというのも大きい。

 おそらくマーケティング的には、実売2万円を超えないことが開発にあたっての1つの条件だったのではと考えられるが、それゆえ重さと厚さの追求が今一歩というのが筆者の評価である。一応フォローすると国内未発売に終わったKobo Aura HDは本製品よりさらに厚みがあるので、これでも薄型化は図られているのだが、ベゼルの段差が復活している点も含め、従来モデルから乗り換えると進化と退化が同居していてやや戸惑う。「高解像度」、「大画面」、「防水」という3つのメリットにより、重さや厚さ、ベゼルの段差といったデメリットがどれだけ許容できるか、ユーザーによって大きく評価が変わる製品と言えそうだ

価格が数倍違うので単純比較は難しいが、ソニーのXperia Z3 Tablet Compact(右)はIPX5/8の防水機能およびIP6Xの防塵機能を備えつつ、8型にして270gという軽さを実現している。しかも厚みは6.4mmと、本製品の2/3程度だ。E Inkという条件に縛られなければこうした選択肢もある

(山口 真弘)