山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

リーズナブルな9.7型タブレット、Apple「iPad(第5世代)」

~わずか37,800円から入手可能

Apple「iPad(第5世代)」。ゴールドのほかシルバー、スペースグレイをラインナップする

 Appleから発売された「iPad」は、従来までと同じ9.7型のディスプレイを搭載しつつ、価格を大幅に引き下げたモデルだ。厚みや重量こそ、現行の最新モデルであるiPad Pro 9.7に劣るものの、32GBで37,800円から入手できるリーズナブルな価格設定が特徴だ。

 今回のiPadの新製品は、Apple Pencilに対応した上位機種「iPad Pro 9.7」と併売されていたiPad Air 2の後継ではなく、しばらく新製品が出ていなかった無印の「iPad」シリーズの新製品という位置づけでの登場となった。「iPad」は第4世代のモデルが登場したあとiPad Airに移行していたため、本製品はiPadの第5世代モデルということになる。

 CPUはiPad Pro 9.7よりワンランク下となるA9を採用するほか、iPad Pro 9.7やiPad Air 2に比べるとやや厚く、重量もあることから、新しいモノ好きなユーザーの間ではそれほど注目されていないが、ひととおりの仕様を抑えながら、これまでのiPadシリーズでも最安となる37,800円という価格設定は魅力的だ。限られた予算の中でiPadを手に入れたいユーザーや、従来モデルからの買い替えを狙っているユーザーにとっては、注目に値する製品と言えるだろう。

 本稿では入手したばかりのWi-Fiモデル(32GB)を用い、基本的な特徴をざっとチェックしつつ、電子書籍端末として見た場合の使い勝手を紹介していく。

「iPad Air」と同じ厚みと重量。圧倒的な低価格を実現

 まずは同じ9.7型モデルであるiPad Pro 9.7、および従来のiPad Air 2、iPad Airとの比較から。なお各製品ともWi-Fi+Cellularモデルが存在するが、今回はWi-Fiモデルに絞って比較している。

iPad(第5世代)iPad Pro 9.7iPad Air 2iPad Air
発売2017年3月2016年3月2014年11月2013年11月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)240×169.5×7.5mm240×169.5×6.1mm240×169.5×6.1mm240×169.5×7.5mm
重量約469g約437g約437g約469g
CPU64bitアーキテクチャ搭載A9チップ、M9コプロセッサ64bitアーキテクチャ搭載A9Xチップ、M9コプロセッサ64bitアーキテクチャ搭載A8Xチップ、M8モーションコプロセッサ64bitアーキテクチャ搭載A7チップ、M7モーションコプロセッサ
メモリ2GB2GB2GB1GB
画面サイズ/解像度9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi)9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi)9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi)9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi)
通信方式IEEE 802.11a/b/g/n/acIEEE 802.11a/b/g/n/ac802.11 a/b/g/n/ac802.11 a/b/g/n
バッテリー持続時間(メーカー公称値)最大10時間最大10時間最大10時間最大10時間
スピーカー2基4基2基2基
Smart Connector---
Apple Pencil-対応--
価格(発売時点)37,800円(32GB)
48,800円(128GB)
66,800円(32GB)
84,800円(128GB)
102,800円(256GB)
44,800円(16GB)
55,800円(64GB)
51,800円(16GB)
61,800円(32GB)
71,800円(64GB)
81,800円(128GB)

 この表から分かるように、本体サイズはiPad Airとまったく同じだ。つまりiPad Pro 9.7やiPad Air 2が厚く重くなったというよりも、2013年11月発売のiPad AirをベースにTouch IDや802.11acを追加し、A8だったCPUはA9へ、1GBだったメモリは2GBへとアップグレードして現行モデルとして遜色ないレベルに仕立てたと解釈したほうが、実情に近いだろう。

 こうした“枯れた”仕様ゆえ、本製品は従来のiPadシリーズに比べ圧倒的な低価格を実現している。32GBモデルで比較すると、iPad Airが2013年の発売時点で61,800円、現行の最新モデルであるiPad Pro 9.7が発売時66,800円(現在は62,800円)であるのに対し、本製品は37,800円と、4割前後安価に設定されている。iPad Pro 9.7を20台購入する予算があれば、本製品を30台+α購入できてしまう。法人での一括導入に有利なのは明白だ。

 一方で、上位モデルとして引き続き併売されるiPad Pro 9.7とは、上記の表にある厚みや重量、CPUのほかにも明確な差別化ポイントが用意されている。ディスプレイは反射防止コーティングが省略されているほか、環境に合わせて画面の色温度を変えるTrue Tone技術も非搭載、またカメラもiPad Pro 9.7の1,200万画素ではなく800万画素に抑えられている。

 ビデオ撮影もHDまわりの機能を中心にフラグシップモデルならではの部分がばっさりと削られている。同じ9.7型モデルで住み分けるために計算され尽している印象だ。これらを許容できるかどうかで、ユーザーの判断が大きく分かれるモデルといえるだろう。

【お詫びと訂正】初出時に、Live Photo非対応としておりましたが、じっさいには対応しております。お詫びして訂正させていただきます。

 なお上の表にはないが、バッテリ容量はiPad Pro 9.7の27.5Wh、iPad Air 2の27.3Whに対し、本製品は32.4Whであるため、公称値は同じ10時間でも実際のバッテリ持続時間は本製品のほうが長い可能性が高い。本レビューでは検証は行なえていないが、本製品のほうが電力を過剰に消費する要因もないことから、逆に不利になることは考えにくい。従来モデルと比べたさいの数少ないメリットと言えそうだ。

本体外観。これまでのモデルと同様、画面比率4:3のディスプレイと、ハードウェアによるホームボタンを搭載する
左が本製品、右がiPad Pro 9.7。筐体デザインは同一だが、本製品は反射防止コーティングがないため外光が映り込みやすく、この写真でも黒い文字がやや反射しているのが分かる
裏面。比較に使っているiPad Pro 9.7(右)はWi-Fi+Cellularモデルであるため上部のアンテナ部分が若干異なっているが、その他はほぼ同一。後述するがカメラ部分の段差が本製品にはない
iPad Pro 9.7(右)と違って反射防止コーティングが施されていないため、外光がかなりくっきりと映り込む。特にベゼルの部分は顕著だ。気になるなら保護シートなどを追加するとよいだろう

最新CPUではないものの実用上十分な性能

 パッケージや同梱物、開封からセットアップの流れは従来のiPadと同じで、特筆すべき点はない。外観についても、厚みこそ異なるものの、幅と奥行きはまったく同じであることから、iPad Pro 9.7と並べて置いても、正面からだと判別は難しい。両者が並んだ状態ですらこれなので、本製品だけを手に取って、厚みや重量の違いを実感できるのは、iPad Pro 9.7を常用していて厚みや重さを体感的に把握しているユーザーだけだろう。

 厚みや重量以外の見分け方としては、iPad Pro 9.7では背面カメラが飛び出ているのに対して、本製品は突起がないことが挙げられる。また後述するように、スピーカーがiPad Pro 9.7では4基あるのに対し、本製品は2基なので、側面を見れば判別がつく。両製品とも、正面から見ただけでは機種の違いはまずわからないだろう。

iPad Pro 9.7(右)との厚みの比較。本体端の斜めにカットされている部分をやや上回る厚みの差がある
厚みの差はコインおよそ1枚分、と言ったほうが分かりやすいだろうか
iPad Pro 9.7(上)と異なり、本製品(下)はカメラの突起がないため、デスク上などに置く場合も段差ができないのは利点だ。ただしカメラそのものの性能はiPad Pro 9.7のほうが勝っているので一長一短といったところ
上がiPad Pro 9.7、下が本製品(以下同じ)。若干配置は異なるものの、中央部にLightningコネクタ、両側にスピーカーという配置は同じ
iPad Pro 9.7は反対側の面にもスピーカーがあるが本製品にはない。音楽や動画再生においては大きなハンデとなる
iPad Pro 9.7のスマートコネクタは本製品には搭載されない

 iPad Air 2やiPad Airと比べた場合はどうだろうか。iPad Air 2はカメラの突起がなく、かつスピーカーも2基のみなので、上記のような見分け方は役に立たない。主に厚みで見分けることになるだろう。一方のiPad Airは、厚みおよび重量については同一なのだが、現行モデルではすでに廃止された回転オンオフ/音量ミュートボタンが側面にあるかないかで見分けることができる。

 実際の使い勝手については、両製品とも同じOS(今回の試用時はiOS 10.3.1)ということもあり、Apple Pencilなど非対応の機能を別にすれば差はなく、CPUなどの違いに端を発する性能の差のみということになる。「3DMark Sling Shot Benchmark」によるベンチマークの結果は以下の通りで、最新のiOS 10.3.1環境において、各項目ごとの性能はiPad Pro 9.7のそれぞれ1~3割減といったところだ。

 iPad Air 2との差は、手元に機材がないため確認できていないが、かつてiOS 9環境でiPad Pro 9.7と比較したさい、おおむね「iPad Air 2の5割増の性能を誇るのがiPad Pro 9.7」だったのに比べると、本製品は数字を見る限りそこまでの差はない。iPad Pro 9.7(A9X)>本製品(A9)>iPad Air 2(A8)というCPUの序列が、そのままベンチマーク結果に反映されている格好だ。

【表2】性能比較
iPad(第5世代)iPad Pro 9.7
Sling Shot Extreme21062685
Graphics test 116.77FPS22.94FPS
Graphics test 28.87FPS13.04FPS
Physics section 129.43FPS31.19FPS
Physics section 212.27FPS12.84FPS
Physics section 36.15FPS6.89FPS
Graphics score26683824
Physics score12111314

 さて、上記のようにベンチマークでは差はつくものの、実際に使っている最中に性能の違いを実感する機会はほぼ皆無だ。筆者の環境で唯一明確な「差」が実感できたのは、NAS上に置いたフルHDの動画をiPad Pro 9.7と本製品で同時に再生し、そのまま再生速度を1.1倍、1.2倍と少しずつ上げていったさい、本製品のほうが早く途切れやすくなるという程度だ。

 そもそも本製品に用いられているA9は、iPad Pro 9.7に用いられているA9Xに比べて1世代古いだけで、いまもiPhone SEなど現行機種に使われており、何世代も前のCPUとはわけが違う。極端に負荷をかけるような使い方でない限り、不安視する必要はないだろう。

 むしろ使っていて明確な違いとして気になるのは、スピーカーの配置の違いによる音の聞こえ方の差だ。iPad Proシリーズでは、本体を横向きにしたさいにスピーカーは左右に配置され、音楽や動画の再生時にステレオで聴くことができるが、本製品では従来のiPad/iPad Airシリーズと同様、スピーカーは片方の側面にしか配置されないため、iPad Proシリーズに慣れたユーザーが使うと、音の聞こえ方に違和感を感じる。あまりないケースだと思うが、本製品とiPad Proを併用することがあれば、内蔵スピーカーを使う作業は本製品ではなくiPad Pro 9.7に任せたほうが良いだろう。

電子書籍端末としても優れるも、片手持ちにはやや辛い重量

 続いて電子書籍端末としての使い勝手について見ていこう。

 本製品は従来のiPadと同様、画面比率は4:3で紙の書籍に近いほか、9.7型というサイズはコミックなどの見開き表示にも適している。解像度も300ppiオーバーとはいかないものの264ppiと十分だ。iOSデバイスゆえ電子書籍アプリも豊富にあるほか、スキャンした本を表示する、いわゆる「自炊」アプリも複数の選択肢がある。そうした点においてなんら問題はない。前述した性能の差も、電子書籍ユースで感じる機会は皆無だ。

サイズおよび縦横比率からしてコミックの見開き表示に適する。ただし長時間の片手持ちはあまり現実的ではない

 本製品はiPad Pro 9.7やiPad Air 2と違って反射防止コーティングが施されていないが、これは保護シートを追加することなどによってある程度カバーできる。従って、本製品を電子書籍端末として使うさい、ポイントになるのは基本的に重量のみとなる。iPad Pro 9.7やiPad Air 2ですら、片手で長時間持ち続けるのは(持ち方にもよるが)やや厳しいわけで、そこからさらに約30g重い本製品はさらにハンデとなるのは明白だ。

 もっとも、9~10型クラスのタブレットを使う場合、膝の上や枕元など、両手以外のどこかで支えながら画面を見ることが多いはずで、長時間宙に浮かせたまま使うケースはそれほどないだろう。片手持ちも多いと考えられるiPad miniシリーズが約30g増えたのであれば別だが、手以外で支えながら使うことが多い本製品で、従来モデル+約30gの重量差は、それほどクリティカルな問題にはならないというのが筆者の考えだ。

 ただし、これはユーザー個人が、iPad Pro 9.7やiPad Air 2を使ったことがない場合の話だ。この両製品の薄さや軽さを体感してしまっていると、約30g重く、また1.4mm厚い本製品は、長時間手に持った状態をキープしなくても、何かにつけて野暮ったさを感じる。この点については、価格の安さも含めて自分を納得させるしかない。「少しでも薄く軽い方がいいから」という理由でiPad Pro 9.7を選ぶには価格差がありすぎるのが、なかなか悩ましいところだ。

旧機種の買い替えに格好の選択肢。iPad mini新製品と競合も?

 以上、見てきたように、iPad Pro 9.7やiPad Air 2から本製品に買い換える必要は感じられないが、これまで予算の関係などでiPadという製品にに手が出せなかったユーザーや、1台のタブレットを3年4年というサイクルで使っており、いまもiPad Air以前のモデルを使い続けている人にとっては、格好の製品と言えそうだ。

 特に後者のケースにおいては、第3世代以前のiPadはすでに最新版のiOSが利用できなくなっており、コネクタもLightningではなくDockコネクタのままだ。また第4世代iPadとiPad Airは、Touch IDが搭載されていない。これらの製品を使っているユーザーは、本製品に乗り換えることで、ここから先さらに3~4年は快適に使える環境を手に入れられるだろう。

初期インストール直後のホーム画面。KeynoteやGaragebandなどを除けば、基本的なアプリのみのプレーンな構成

 iPadシリーズでは新製品の投入時に、従来モデルが大幅に値下げされてサブのラインナップとして残されるパターンがよくあるが、今回の製品は当初からそのようなポジションであり、それに合わせた価格が設定されている。仮に近い将来iPad Proの新製品が投入されても、それに併せて本製品が大幅に値下げされることは考えにくい。それゆえ、現時点で迷っているのであれば、いち早く購入してしまった方がトータルではお得だろう。

 ただし、必ずしも9.7型というサイズにこだわりがないのであれば、iPad miniシリーズの新製品の動向だけは、チェックしておいたほうがよいだろう。先日ラインナップが128GBモデルのみに集約されたiPad mini 4の後継となる7~8型の新モデルはいつ登場してもおかしくない状況であり、画面比率が4:3で見開き表示でも使える読書向けタブレットというカテゴリでは、本製品のライバルになる可能性がある。現時点で具体的な情報はないが、急ぎでなければそれを待って判断するというのも、1つの考え方ではあるだろう。