山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

ASUS「ZenFone 3 Ultra」

~6.8型の大画面、「Xperia Z Ultra」を彷彿とさせるAndroidスマホ

「ZenFone 3 Ultra」。シルバーのほかグレー、ローズゴールドをラインナップする

 「ZenFone 3 Ultra (ZU680KL)」は、6.8型の大画面を搭載したAndroidスマートフォンだ。新書とほぼ同等サイズのボディで、電子書籍を手軽に閲覧できることが特徴だ。

 5.5型のiPhone 6 Plusの登場以降、以前にも増して市民権を得た大型スマートフォンだが、最近では6型を超える、小型タブレットとでも呼ぶべきサイズの製品も増えつつある。このクラスの製品の先駆けとなったのは、2013年に発表されたソニーの6.4型スマートフォン「Xperia Z Ultra」だが、後継製品がリリースされないまま現在に至っており、機種変更したくても受け皿となる製品がない、俗に「ズルトラ難民」と呼ばれる人々を生み出している。

 今回紹介する「ZenFone 3 Ultra」はASUSの製品であり、「Xperia Z Ultra」の直系の後継モデルではないが、外観などの特徴が非常に似通っているほか、そのネーミングからも「Xperia Z Ultra」を意識していると見られ、ネットの口コミや掲示板でも本製品が「Xperia Z Ultra」の後継たりうるか、注目しているユーザーは多いようだ。

 今回、このモデルをメーカーから借用することができたので、主に電子書籍端末として使用した場合についての評価をお届けする。連載の性質上、スマートフォンとしての性能および機能を網羅したレビューというわけではないので、予めご了承いただきたい。

6.8型の大画面。防水機能およびNFCには非対応

 まずは競合製品との比較から。冒頭で述べた「Xperia Z Ultra」に加えて、本稿で昨年(2016年)紹介したファーウェイの6.8型スマートフォン「P8max」とも併せて比較する。

製品ZenFone 3 UltraP8maxXperia Z Ultra
製造元ASUSファーウェイソニー
発売年月2016年12月2015年9月2014年1月
サイズ(幅×奥行き×高さ)93.9×186.4×6.8mm93×182.7×6.8mm92×179×6.5mm
重量233g228g212g
OSAndroid 6.0.1Android 5.1→6.0Android 4.2→4.4
CPUQualcomm Snapdragon 652 (1.8GHz、8コア)Hisilicon Kirin 935 (A53X 2.2GHz+A53 1.5GHz、8コア、64bit)Qualcomm Snapdragon 800 APQ8074(2.2GHz、4コア)
RAM4GB3GB2GB
ストレージ32GB32GB32GB
画面サイズ/解像度6.8型/1,920×1,080ドット6.8型/1,920×1,080ドット6.4型/1,920×1,080ドット
通信方式IEEE 802.11a/b/g/n/acIEEE 802.11a/b/g/n/acIEEE 802.11a/b/g/n/ac
メモリカードスロットmicroSDmicroSDmicroSD
コネクタUSB Type-CmicroUSBmicroUSB
備考Nano SIMスロットを2基搭載メモリカードスロットはNano SIMと排他利用防水(IPX5/8相当)および防塵(IP5X相当)に対応。海外版はAndroid 5.0へアップデート対応済み

 「Xperia Z Ultra」は海外でのリリースが2013年ということで、ハードウェアとしてはもう4年前の製品だ。それゆえCPUやメモリこそ見劣りするものの、全体的なハードウェアスペックは相応に高い。本製品はその「Xperia Z Ultra」を全体的に底上げしたかのようなスペックとなっており、8コアCPUに加えて4GBのメモリなど、ハイエンドスマートフォンといって良い仕様だ。

 画面サイズは6.8型ということで、6.4型の「Xperia Z Ultra」に比べると一回り大きく、その分本体サイズもわずかに増している。7型タブレットとはたった0.2インチしか違わないはずだが、圧倒的にコンパクトに感じるのは、ベゼルが薄い故だろう。

 ただ解像度は1,920×1,080ドットと、やや平凡と言って良いスペックだ。画面サイズを考えるとNexus 6Pなどと同じ2,560x1,440ドットくらいあっても良さそうなものだが、このあたりはコストとの兼ね合いということだろう。ちなみにP8maxとは画面サイズ、解像度ともに同じということになる。

 重量は233gと、平均的な7型タブレットが250g前後であることを考えると、可もなく不可もなくといったところだ。読書端末と比較した場合は、6型のKindleが160~210g前後に分布しているので、こちらもおおむね想定の範囲内である。

 なお上の表にはないが、「Xperia Z Ultra」にあって本製品にない特徴として、防水機能およびNFC対応が挙げられる。これらの機能をポイントと考える人も多いはずで、それゆえ本製品は「Xperia Z Ultra」の完全な上位互換とは言い難い。同製品からの買い替えを検討する際、注意が必要だ。

本体外観。横長の物理ホームボタンが特徴的だ
画面は6.8型。左右のベゼルはかなり薄く、握った際にうっかりタッチしてしまうこともしばしば
背面。カメラ部には若干の突起がある。中央の音量調節ボタンは出っ張りはなく、背面と同じ厚みになるよう揃えられている
上面にはイヤホンジャックがある
底面にはUSB Type-Cコネクタを搭載。両側にはスピーカーがある
右側面にはSIMカードスロット×2(うち1基はmicroSDスロット兼用)、電源ボタンを備える。電源ボタンは握った際にうっかり押してしまいやすい位置なので、もう少し上か、あるいは上面のほうが使いやすいかったかもしれない
同じく6.8型であるファーウェイ「P8max」(右)との比較。ホームボタン周辺を除けば非常に似通っている
背面の比較。音量調節ボタンを別にすればこちらもよく似たデザイン
左から、本製品(6.8型)、Nexus 6P(5.7型)、iPhone SE(4型)。本製品がいかに大きいかが良く分かる
7型のタブレットとは0.2インチしか違わないはずだが、左右のベゼルがスリムなこと、また本体が薄いこともあり圧倒的にコンパクトに感じる(右はAmazon「Fire」)
厚みの比較。右側は上から、P8max、iPhone SE、iPad mini 4、Nexus 6P、ZenPad 3 8.0。突出して薄いとはいえないものの十分な薄さだ

物理ホームボタンによる指紋認証に対応。2つのNano SIMスロットを搭載

 ではセットアップから見ていこう。手順は前回までに紹介した同社のZenPadシリーズと同じく、Android標準のセットアップ手順をベースに、途中でASUS独自の設定項目が割り込むフローだ。同社ならではのプリインストールアプリも見られるが、タブレットのZenPadシリーズに比べると数は少なく、大人しい印象を受ける。

 本製品は指紋認証に対応しているため、セットアップ途中に指紋を登録するフローがある。指紋認証のセンサーはホームボタンと一体化しており、物理ボタンの表面をなぞるようにして登録を行なう。ボタン部が出っ張っているか否かの相違はあるが、iPhoneのTouch IDとは操作感も含めて非常に良く似ており、解除まで一拍置くことなく瞬時に反応するので、ストレスは全くない。余談だが、指紋認証センサーがあるのは背面ではなく前面のホームボタンなので、間違えないようにしたい。

 前回紹介したASUS製タブレット「ZenPad 3S 10 LTE」では、物理ホームボタンの左右に配置された「戻る」ボタン、およびマルチタスクボタンにバックライトが用意されておらず、暗い部屋では全く見えなくなってしまう問題があった。本製品ではこれらのボタンはバックライトを搭載していることから、暗所での視認性も高い。というよりも、これが本来あるべき当たり前の仕様だろう。

 本製品は2基のSIMカードスロットを搭載しており、一方はNano SIM専用、もう一方はNano SIMとmicroSDの共用となる。つまり同時に2枚のNano SIMを挿入できるわけだが、この場合は利用するSIMはどちらか一方を優先することになる。良く似た仕様のP8maxでは、一方のスロットがNano SIM、もう一方がMicro SIMだったのだが、本製品はどちらもNano SIMということで、手持ちのSIMカードのサイズが合わない場合は交換が必要になる。

 ベンチマークの結果は以下の通りで、Nexus 6Pには及ばないが、同じ6.8型のP8maxとは比較にならず、サクサク快適である。本製品のあとにP8maxを使うと、遅くて耐えられないほどだ。また同じASUSの8型タブレット「ZenPad 3 8.0」と比較しても高速だ。

製品ZenFone 3 UltraP8maxNexus 6PZenPad 3 8.0
Score906521486842
Graphics Score792411610776
Physics Score182596211701203
Graphics test 15.9FPS0.1FPS9.2FPS5.6FPS
Graphics test 22.4FPS0.9FPS5.7FPS2.4FPS
Physics section 128.6FPS15.1FPS30FPS23.8FPS
Physics section 220.9FPS11FPS10.8FPS13.4FPS
Physics section 310FPS5.3FPS6.1FPS6.3FPS
OS6.0.16.0.07.1.16.0.1
ホーム画面。ASUS製アプリも多数インストールされているが、前回紹介したZenPadほど多くはない
アプリの一覧。電子書籍系でeBookJapanとKindleがプリインストールされているのはほかのASUS製品と同じだ
画面の上端から下に向かってスワイプすると通知領域が表示される
設定画面。「デュアルSIMカード設定」および「指紋」が、本製品ならではの項目だ
指紋の登録画面。最大5つの指紋を登録できる
指紋認証センサーはホームボタンと一体化されている
左右の「戻る」およびマルチタスクボタンはバックライト搭載で薄暗い場所でも視認性は高い
2基のNano SIMスロットを搭載する。うち1基(向かって左)はmicroSDと排他利用となる
左側のトレイにNano SIMを置く場合、90度回転させた状態で置く
トレイ2基は同じサイズに見えるが、スロットの幅は異なるため、入れ替えることはできない
スロット1にのみSIMを入れた状態。SMSメッセージやデータサービスネットワークはともにSIM1となっている
スロット2にのみSIMを入れた状態。SMSメッセージやデータサービスネットワークはともにSIM2となっている
スロット1、2両方にSIMを入れた状態。SMSメッセージやデータサービスネットワークはそれぞれどちらを使うか選択できる
どちらのSIMを使うかの設定は「ネットワーク設定」で行なう
両方のスロットにSIMを入れた状態では、上部の通知バーには両方の通信事業者名が表示される

電子書籍はテキスト本に最適。コミックはコンテンツに依存

 本製品は新書サイズということで、片手に持って読書するには手頃なサイズだ。ただしあらゆる電子書籍に万能というわけではなく、コンテンツによってかなり極端な向き不向きがあるというのが筆者の評価だ。具体的な使い勝手を見ていこう。

 まずテキストコンテンツについてだが、新書サイズであることから、判型、および縦横の比率とも違和感が少ない。周囲の余白をギリギリまで切り詰めて表示できるBOOK WALKERなどでは、新書より一回り小さいサイズながら、新書よりも1ページあたりの行列を増やして表示できる。

 一方、コミックについては、一長一短といったところだ。ワイドサイズの画面を縦に使った本製品では、通常のコミックのページを表示すると左右が圧迫され、ページ上下に大きな余白ができてしまう。その結果、1ページのサイズは、以前紹介した画面比率4:3の8型端末「ZenPad 3 8.0」で見開きした際のページサイズと、ほとんど差がないところまで縮小されてしまう。

 さらに見開き表示になると、5型スマートフォンで単ページ表示を行なった際のサイズよりも1ページの面積が小さく、にもかかわらず左右には巨大な余白ができるなど、かなりバランスが悪くなる。見開きでコミックを読むことを前提に候補を探しているのであれば、本製品は除外したほうがよいだろう。

 以上をまとめると、本製品と電子書籍コンテンツの相性は、テキストは◎、コミック(単ページ)は○、コミック(見開き)は×となり、どちらかというとテキストコンテンツに向いた端末と見なした方が良さそうだ。ただし、Webコミックに見られる縦スクロールタイプのレイアウトであれば、片手で保持できる本製品は、その威力を発揮することだろう。

新書とほぼ同じサイズということで手に馴染みやすい。ただしベゼルが薄いことから、本体の縁を持った際にうっかりページをめくってしまうことも
余白をギリギリまで切り詰めて表示できるBOOK WALKERでは、新書とほぼ同じサイズながら1ページあたりの情報量を新書より増やすことができる
以前のレビューで紹介したASUSの7.9型タブレット「ZenPad 3 8.0」(右)との比較。画面比率が違うとはいえ、ページサイズにはかなりの差がある
「ZenPad 3 8.0」を見開き表示にすると、1ページあたりのサイズがほぼ等しくなる
本製品での見開き表示はサイズ的にかなり無理がある。左右に大きな余白もできるためバランスもよくない

背面中央の音量調節ボタンが他製品にない快適なページめくりを実現

 このように、電子書籍端末としては、コンテンツの種類によってかなり向き不向きがあるわけだが、実は本製品を電子書籍端末として使うにあたり、他の端末には見られない、大変便利な機能がある。それは背面中央にレイアウトされた音量調節ボタンだ。

 電子書籍ビューアアプリの中には、音量調節ボタンをページめくりキーとして使える機能を備えたものがある。それらを本製品と組み合わせると、アクセスしやすい背面中央にこのボタンがレイアウトされていることにより、片手で快適なページめくりが行なえるのだ。

 この機能自体は、ほかのAndroidスマートフォンでも使えるわけだが、ほとんどの製品は音量調節ボタンが側面にあるため、背面から鷲掴みするように持たなくてはいけない。またボタンが右側面にある場合は左手で、左側面にある場合は右手でといった具合に、持つ手まで制限されてしまう。

 しかし、本製品では左右どちらの手で握った場合も、ちょうど人差し指が来る位置にこの音量調節ボタンがあるため、無理なくページめくりが行なえる。なぜこの位置に音量調節ボタンをレイアウトしたのかは不明だが(ちなみに姉妹製品であるZenFone 3では同じ位置に指紋認証センサーがある)、本製品を電子書籍端末として使う場合、特殊ともいえるこのキー配置は大きな強みとなる。

背面中央にある音量調節ボタンを使って快適なページめくりが行なえる。片手で本製品を保持しつつページめくりまで行なえるのは、他の製品と比べた場合の本製品の大きなアドバンテージだ
音量調節ボタンを使ったページめくりに対応したアプリの例。これはKindle
音量調節ボタンを使ったページめくりに対応したアプリの例。これはBOOK WALKER
本製品を左手で持った状態。人差し指が余裕で音量調節ボタンに届く
右手で持った場合も同様に音量調節ボタンに届くので、左右どちらの手でも快適なページめくりが可能

 これを踏まえて、本製品と組み合わせるのにふさわしい電子書籍ストアを挙げるならば、アプリが音量調節ボタンによるページめくりに対応しているストア、すなわちKindleやBOOK WALKERが適しているということになる。実際、これらアプリを使った後に、他事業者のアプリを使うと、使いにくくてたまったものではない。ボタン配置1つでここまで使い勝手が変わるものかと驚かされるだろう。

 もっとも、ボタンはやや硬めで、もう少し軽いほうがページめくりには適しているのだが……と思わなくもないが、本体の安定した保持と誤クリックの防止を両立させるには、現状の硬さがベターだろう。KindleやBOOK WALKERを常用しているユーザー、同ストアで大量の積読本があるユーザーには、うってつけの製品と言える。

完成度の高い「名機」。5.5型スマートフォンや7型タブレットを探すユーザにもお勧め

 以上見てきたように、新書とほぼ同サイズであることからハンドリングもよく、また背面の音量調節ボタンを活用してのページめくりなど、ほかの製品にはない使い勝手の良さも評価できる。さすがに見開き表示には対応できないが、サイズおよび画面比率からしてそれを求めるのは酷だろう。

 使っていてややネックだと感じたのは、電子書籍ユースではなく音楽・動画の再生だ。画面を横向きにするとスピーカーが右側のみとなってしまうのは、多くのスマートフォンに共通する欠点なので致し方ないとしても、音量調節ボタンが背面にあるのが災いし、本製品をスタンドなどに立て掛けたままだと瞬時の音量調節が難しいのは大きなネックだ。

 この解決策としては、VLCなど、画面の上下スワイプで音量を調節できるアプリを使う方法が挙げられる。これならわざわざ本体の表裏をひっくり返さなくとも、画面上で音量の調節が瞬時に行なえる。もっとも、これは手持ちの動画を再生する場合には有効だが、利用できるプレーヤーが決まっている動画配信サービスなどでは使えないので、難しいところだ。

 と、音量調節ボタンが背面にあることがメリットでもあり、またデメリットになっている部分も見受けられるが、ハードウェアそのものの完成度は極めて高く、容量4,600mAhとあってバッテリーの持ちも良いなど、かなりの「名機」という印象だ。これだけサイズが大きいと堅牢性も気になるが、使っていて全く不安を感じないのも高評価だ。現在6万円台半ばで推移している価格がもう少し下がれば、5.5型クラスのスマートフォンを探しているユーザや、既存の7型タブレットのユーザをも取り込めそうだ。

画面上のスワイプで音量調節ができるプレーヤーを使えば、スタンドなどに立て掛けたままでもボタンを使わず音量を調節できる。これは「VLC」の操作画面
両手で持ちフルキーボードでの文字入力も快適に行なえる。5型クラスのスマートフォンと比べた場合は大きなメリットになるだろう
本製品は音量調節ボタンが背面にあるため、ホームボタンと音量小ボタンの同時押しでのスクリーンショットの取得が難しい。設定画面から「マルチタスクボタンの長押し」などに変更するのがおすすめだ