山田祥平のRe:config.sys
【IDF番外編】Intel印の欲張り最高のは3-in-1
(2013/9/17 06:00)
Ultrabookとは別に、ある種の標準的なフォームファクタとしてIntelが定着させようとしているのが「2-in-1」というスタイルだ。二兎を追う者は一兎をも得ずなのか、一挙両得なのか、はたまた表裏一体なのか。ここでは、その背景を考える。
まだまだ進化する2-in-1
2011年のCOMPUTEX台北でデビューしたUltrabookは今、第3世代に入っている。そして、そのUltrabookも、時代の流れには抗えず、タッチ対応が当たり前となっている。
IDFの基調講演において、カーク・スカウゲン氏(Senior Vice President, General Manager, PC Client Group)は、2-in-1に対して「最高のラップトップと最高のタブレットが共存」という表現をした。そして、10型以下の画面を持つタブレットにキーボードが統合され、タッチにも対応、さらには驚異的なバッテリ駆動時間を誇る新しい世代のデバイスが登場することを示唆した。
今回のIDFでは、意外なほどあっさりとしか紹介されなかったが、Haswellの次には、それをシュリンクした14nmプロセスの「Broadwell」が待っている。同じ処理をさせた場合、現行Haswellと比べて実に30%もの省電力を叶えるこのプロセッサは、2014年に出荷される見通しだ。おそらくは春の商戦に向けて多くの2-in-1 PCがデビューするのだろう。その頃には、InstantGo(かつてのConnected Standby)対応が進み、モバイルPCも、ようやく真の意味でのオールデイロング(1日バッテリ駆動)を叶えてくれるだろう。より軽くなり、しかもファンレスも期待できる、ある意味で夢のようなデバイスが登場する。もちろんPCは、プロセッサだけが電力を消費しているわけではないので、バッテリ駆動時間が30%伸びるわけではないが、それでも、丸1日バッテリの心配をしないで安心して使えるデバイスに近づくだろう。
基調講演には、ゲストとしてMicrosoftのタミ・レラー氏(Executive Vice President, Marketing)も登壇、IntelとMicrosoftの関係が良好であることをアピールした。レラー氏は、XPのサポート終了後は、Windows 8.1をどうぞと、RTMしたばかりの新OSについて、肝心のPRも忘れない。この場では、Intelによって、vPro UltrabookとvPro 2-in-1もお披露目され、企業ニーズを的確にフォローする姿勢も明確にした。
クラムシェルありきのWindows
2-in-1であることは、PCでWindowsを使う限り、必須に近いものだと個人的には考えている。というのも、Windows 8のソフトウェアキーボードは、明らかにAndroid OSのそれよりも使いにくく、それは8.1になっても変わらないからだ。しかも、文字入力以外でもキーボードがなければできないこと、やりにくいことはまだまだたくさんある。
Intelは「最高のタブレット」という表現をするが、多くの場合、2-in-1 PCは、ピュアタブレットとして使われることは少ないんじゃないかとも思っている。なぜなら、900g近い重量は、タブレットとして使うには重すぎるからだ。Broadwellが登場し、多少のダイエットに成功しても、2-in-1で500gを下回るようなことはまだ期待できそうにない。
たぶん、Intelは、その事をちゃんと分かっているのだろう。Intelによるプロモーションビデオなどでも、ほとんどの場合、立ったまま手で支えて使っているシーンはない。だからこそ、クラムシェルノートPC、すなわちラップトップの進化形として、それをタッチ対応させる方向性を選んだ。
2-in-1には、コンバーチブル、デタッチャブル、Yogaといったバリエーションはあるが、それらのデバイスが実際に使われる場面では、由緒正しいクラムシェルスタイルで使う方が圧倒的に効率がいいのだ。
例えば、スマートフォンでメールの着信を知り、既存ファイルにちょっとした修正を加えて返信しなければならないという、ありがちな要件が発生したとしよう。ぼくならその作業をスマートフォンですませることはないだろう。どこか座るところを見つけ、カバンからPCを取り出し、たとえそれが2-in-1 PCであっても、クラムシェルスタイルで作業をするだろう。膝乗せスタイルで使うにはクラムシェル形状は都合がいい。タッチを否定するわけではない。タッチで操作できた方が便利なシーンはきわめて多い。だからこその合わせ技だ。
Intel何でも揃ってる
Windowsのデスクトップをタッチ操作で使うことはばかげていると考えるユーザーは意外に多いようだ。ぼくもかつてはそう思っていた。だが、フリックによるスクロール操作や、ピンチによる画面の拡大、リンクのタップなどだけでもタッチでできれば効率はとてもよくなる。だからタッチには対応していた方がいいと考えを改めた。
その一方で、細かい作業にはポインティングデバイスとしてのタッチパッドが有効だ。もちろん、文字の入力には使い慣れた物理キーボードが欲しい。つまるところ、少なくとも現在のWindowsは、2-in-1ではなく、3-in-1でなくてはならない。しかも、その「3」は、タブレットとラップトップに何かが加わる「3」ではない。求められるのは、キーボード、タッチパッド、タッチ画面の3つであり、見事にすべてがHIDだ。
ぼくが本格的にWindows環境に移行したのは、Windows 3.0の時代で1990年頃だった。2年後にWindows 3.1が発売されてもしばらくは、Windowsは単なるタスクスイッチャー程度にしか思っていなかった。それでも、いわゆるDOS窓を複数開き、プリエンプティブであるとはいえ、タスクを切り替えながら作業できる環境には未来を感じた。ずっと後になって、こうした原稿の執筆に秀丸エディタを使うようになるまでは、そのDOS窓で一太郎Ver.3を開いて原稿を書いていたのだからお里が知れるというものだ。
そういう意味では今のWindows 8.1におけるクラッシックデスクトップは、DOS窓、つまり、コマンドプロンプトのようなものなのかもしれない。つまり、過渡期が終われば、あまり用のない存在になるということだ。Windows 8.1では、ストアアプリの画面分割機能がより柔軟なものになり、解像度次第で3つなり、4つなりに画面を分割できるようになった。今は縦分割だけだが、将来は間違いなく横にも分割できるようになるだろう。8型程度のタブレットをポートレートで使うようなケースでは、縦分割だけでは不便だからだ。そしてそれは、IFAのレポートで紹介した正方形UXの浸透にもつながっていくだろう。
もうすぐ、オーバーラップウィンドウの時代は終わる。タイルが主流になるのだ。さらにウィンドウが大きな紙の一部を覗く窓ではなくなる。タイルサイズによって自動的に最適化されるコンテンツは、スクロールではなくページングによってブラウズされるようになるだろう。いずれにしても、まだ何年も先の話だ。
それまでは、Windowsをモバイルで使うには3つのHIDは必須だ。今のところ、そのうちどれが欠けても使い勝手ではAndroidピュアタブレットにかなわない。Intelの胸の内は分からないのだが、ピュアタブレットでWindowsという提案をさほど積極的にすることなく、2-in-1を推す同社の姿勢には潔ささえ感じる。それに、例えピュアタブレットのカテゴリがAndroidに席巻されたとしても、OEMは同じハードウェアをAndroidタブレットとして製品化できるのだからリスクも少ない。そこがIAの強みでもある。
さらには、スマートフォン向けのSoCである「Merrifield」ももうすぐだ。つまり、今、必要なものはすべてIntelにあるといういうことだ。OEMにとって、これほど心強いことはないだろう。しかもIntelは何も押しつけない。世界の全部を手にするには、そのくらいの懐の広さが必要だ。