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【IDF番外編】Intel insideスマホとCentrinoリターンズ

 Bay Trailの双子の兄弟ともいえるMerrifieldは、22nmプロセスで製造されるスマートフォン用のSoCだ。単独で通信ができないスマートフォンはありえない。もちろんIntelは、XMMシリーズのモデムでそこを押さえている。100% Intelのスマートフォンによって何が変わるのかを考えてみた。

新iPhoneとドコモショック

 IDFの期間中、AppleからiPhone 5cと5sが発表された。それを待って、日本の各社が販売に関する各種施策を発表した。今回は、ドコモが参入したのが何よりも大きな話題だが、その一方で、SIMロックフリー対応が見送られたのは残念でならない。spモードのみの対応で、MVNOのSIMさえ利用できないという。また、特別に用意されることになった「パケホーダイ for iPhone」契約のSIMを他の機種に装着しても通信ができないともいう。まさに特別扱いだ。これまで頑なにiPhoneを扱わないでいたのはなんだったのかとも思う。超一流企業のやることとは思えない感想を持った。

 そんな騒ぎの中、KDDIが興味深いサービスの提供を発表した。「データシェア」と呼ばれるサービスで、スマートフォンとタブレットでデータ容量を分け合えるというものだ。具体的には通常のLTEスマートフォンを使っているユーザーが、2,980円を追加することでスマートフォンの7GBに加え、タブレットをセットで使えるようになり、そのデータ通信量2GBをスマートフォンの7GBと合わせ、合計9GBを共有できるというものだ。しかも、先取りデータシェアキャンペーンによって、期間中、基本使用料は1,050円となる。新iPhone発表の影で、あまり話題になっていないようだが、個人的には画期的なサービスだと思っている。ぜひ、他社も追随してほしいものだ。

 例えば、同社でiPhoneを契約しているユーザーが、iPadを購入して、このプランを利用すると1,050円の追加でiPadにおける単独通信が可能になるわけだ。今、日本ではドコモMVNOによる980円サービスがトレンドになっているが、少なくともキャンペーン期間中はそれよりも使い勝手がよさそうだ。キャンペーン終了は2014年5月末までで、データをシェアできるようになるのはそれ以降となるが、それまでは1,050円で7GBなのだ。それに、キャンペーン価格が継続される可能性だってゼロではない。ただし、このオプションを利用するには、タブレットを新規もしくは機種変更で購入する必要がある。iPadの新製品が間近と言われている今は、ちょっと微妙な時期だが、Androidタブレットとの組み合わせでもかまわない。願わくば、秋冬の新製品で魅力的な製品群が揃ってほしいものだ。

 このサービスに注目するのは、こうして低コストで各デバイスの単独通信ができるようになることで、PCや各種タブレットがLTE通信機能を内蔵するトレンドが加速する可能性があるからだ。単独で通信ができなければ、盗難にあったりしたときに位置の追跡もできなければ、遠隔ワイプもままならない。もちろんSIMを抜かれてしまえばアウトという問題は残るが、スマートフォンでテザリングといった面倒くさい手順を踏まなければ通信ができないのに比べれば飛躍的に使い勝手はあがるだろう。

IntelがLTE通信を積極的に推進

 話をIDFに巻き戻す。

 IDFの基調講演においてIntelの新CEO、Brian Krzanich氏は、デバイスは今、どんどんパーソナルなものになり、インターネットに接続されたもの(コネクテッド)になってきていることを強調した。メインフレームからPC、そしてタブレットまでがすべてつながり、モバイルデバイスは人々が行くところどこにでもついてくる。そのトレンドをIntelはうまくキャッチアップしてやってきたことで、アドバンテージはたくさんあるとKizanich氏。そして、データ転送が速いということからLTEはコミュニケーションを加速するとアピールした。

 そこで披露されたのが22nmプロセスのMerrifieldだ。Bay Trailとは双子といってもいいこのSoCと、IntelのモデムソリューションであるXMMシリーズの組み合わせは、世界各国のLTE通信をサポートする。また、間もなく、新モデムとしてXMM7260も登場する。いよいよIntelも、本気でLTEに取り組み始めているというわけだ。

 IntelがCentrinoでPCへのWi-Fi内蔵を新しい当たり前として提案したのは2003年3月で、ちょうど10年前になる。単なるオプションに過ぎなかったWi-Fiが、その積極的な展開によって、ワイヤレスでネットワークにつながらないPCは駆逐されてしまった。

 さらには、LANとしてのWi-Fiに加え、WANとしてのWiMAXを強力に推進、これもまた大きなムーブメントになった。ただ、残念ながら勢いのついたWiMAXのハシゴをはずす結果となり、内蔵PCは縮小傾向にある。

 以来、Intelは、PCなどのデバイスがどうやって通信をするのかについて、頑なに口をつぐんできた。いったいこれからどうするのかというビジョンを見せることができないできたのだ。Ultrabookの要件にもWi-Fi以外の通信機能はない。

Centrinoリターンズはかなうか

 こうした状況の中で、IntelがLTEがコミュニケーションを加速する的なアピールをするのは、ちょっと意外ではあるのだが、それは、あのCentrinoのときのように、各デバイスがLTEで通信できることを新しい当たり前にしようとする覚悟のようなものを感じる。

 冒頭のKDDIの新サービスなどは、それを見越したかのようなものでもある。タブレットが対象になっているが、それはLTE通信機能を持ったPCにも適用されれば、状況は大きく変わるからだ。

 今、Qualcommが席巻しているLTEモデムの市場だが、Intelがそこを狙い撃ちすることになれば、さらに競争原理が働くようになり、LTE通信可能なデバイスの価格は、今よりもきっと安くなるにちがいない。もちろんキャリアの認定などはたいへんだし、コスト、そして時間もかかる。特に時間についてはテクノロジーだけではいかんともしがたいことだ。でも、各種デバイスにおいて、中途半端に通信ができない状況が打破される可能性が出てきたことは喜ばしい。

 今後、IntelがかつてのWiMAXのように、LTEモデムをセットにしたモジュールを、PCに内蔵する施策をOEM各社に対して積極的に提案するようになればどうだろうか。特に、TD-LTEがサポートされれば、互換性を持つとされるWiMAX2+にも接続できる可能性がある。まさに、Centrinoの後継として標準化されたプラットフォームが登場するかもしれないわけだ。

 そのためには、とにかくIntel insideスマートフォンが売れなければならない。ボリュームによるコストメリットが出てくるようになれば、今のWi-Fiのように、LTE通信の有無はコスト的に誤差の範囲に収まるくらいになるだろう。それに加えて移動体通信事業者各社が、先に書いたKDDIのデータシェアプランのようなサービスを提供するようになれば、モバイル通信の世界には大きな変革が起こるだろう。妄想的であるとはいえ、今回のIDFでの発表を読み解けば、こうした将来的なビジョンが見えてくる。

(山田 祥平)