山田祥平のRe:config.sys

ウェアラブルデバイスのあの手この手

 ウェアラブルデバイスは、ヘルス分野への関心の高まりのみならず、そこには新たな健康とフィットネスのパラダイムがあり、複雑な利用シーンにおける継続的な測定によって、人体の未知を解明し、新たな健康とフィットネスのパラダイムを創出していく。

 自分自身では気が付かない心身の徴候を早期に知り、健康の維持に役立てることは、これからの社会の新しい当たり前だ。

未来の病気を未然に発見するために

 ファーウェイジャパンが自働血圧モニタリング機能を搭載したスマートウォッチ「HUAWEI WATCH D2 ウェアラブル血圧計」を発表した。

 1.82インチと前モデルから画面サイズが大きくなったにも関わらず、ベルト込みで10%軽く(約40gのベルト含まず)、ベルトの幅も12%スリムになったという。

 寝ている時間を含めたまさに丸1日血圧を測定し続けるデバイスにふさわしいスマートウォッチだと言える。現在、グリーンファンディングで支援が募られ、来年2月17日からの出荷が予定されている。

 日本での発表に先立ち、8月末には本社のある中国・東莞で発表イベントが開催された。そこで、同社のヘルスケア統合体系プラットフォームとして「TruSense」が発表されている。

 HUAWEI WATCH D2は、このプラットフォームに準拠したウェアラブルデバイスであり、EU、そして日本の医療機器認証を取得した世界初の自働血圧測定ができるスマートウォッチだ。

 これまでのウェアラブルデバイスは、体組成、睡眠、ストレス、運動、血圧といった個々の要素を個別に測定してきたが、それを多角的に測定しようということを「TruSense」は目指しているようだ。

 デバイスとしてのHUAWEI WATCH D2は、3年かけて開発されたという。

 今、世界には12.8億人の高血圧患者がいるということで、30~70歳代の3人に1人が高血圧患者だという。その気配があることを事前に知ることができれば高血圧症を予防できるし、少しでも低い値に下げられるとする。

 だが、自分が高血圧症であることを知っているのは潜在的な患者のうち54%にすぎないそうだ。高齢者の専売特許のように思われている高血圧症だが、実際には成人の多くが抱える問題になっているらしい。

 血圧とは、心臓から出る血液の量によって血管にかかる圧力を数値化したものだ。昼間は高く夜間は低い。変動は10~20%だという。

 医者の前では緊張しやすく血圧は高くなりがちということもあれば、医者の前では異常がないのに自宅では高いということもある。それぞれ白衣高血圧、仮面高血圧などとも呼ばれる。特に後者は脳心血管疾患リスクが高いので危険だ。

 だからこそ、家庭でも血圧を測定することが役立つし、1日の間で刻一刻と変動する血圧を、就寝中を含めて継続的に自動計測することで多くのリスクを早期に発見することができるのは将来の健康に極めて重要な対策だ。

いつでもどこでも血圧を継続的に測定し続ける

 ウェアラブルデバイスであるHUAWEI WATCH D2なら、どこにいても血圧を測れる。24時間血圧を測り続けても、社会活動に影響を与えない。就寝中の測定では寝返りだって打てる。

 これまでは違った。自身を安静な状態にし、イスに座って測定しなければならなかったからだ。24時間それができるとは限らない。それを可能にするには、日常生活の中で計測し続けることに加えて、その利便と正確さを両立させながら、どんな状態でも計測できることを目指さなければならない。

 我々が慣れ親しんでいる血圧計は、上腕にカフを巻き、自動的に圧力を加えて最高血圧と最低血圧を測定するものだ。

 仕組みとしてはHUAWEI WATCH D2も同じだが、力学エアバッグをウォッチのベルトの内側に実装した。エアバッグのデザインを改善し、狭い幅で圧力値を伝達できるようにした革新的なデザインだという。

 時計で30分に一度などと計測間隔を設定しておくと、それに従って自動的に計測が行なわれる。自働と半自動が切り替えできるようになっていて、半自動ではアラートで測定タイミングを知り、体勢を整えた上で手動で測定をスタートするが、自働では容赦なく測定する。

 エラーが発生すれば、その回の測定はキャンセルとなる。想定と同時にミニ健康診断も実施し、血圧の高低のみならず、ほかの疾患を併発する可能性がある指標も分かる。

健康管理体験の新しい当たり前

 中国での発表会の場で、HUAWEI端末BGスマートウェアラブル&ヘルスケア製品ラインのプレジデントRico Zhang(リコ・ジャン)氏は、このデバイスの開発に長期的な研究を重ね、5年以上もの期間を費やしてきたことを明かす。

 測定アルゴリズムの探索、関連業界での活動、そして、量産の準備と製品化など、研究から量産までの長い助走の中で、戦略ラボを作って開発を続けてきたようだ。

 投資額も大きい。だからこそ、異常が起こってから対策を起こす受動的ではない、コトが起こる前に対策する能動的な健康管理を利用してほしいとリコ・ジャン氏はアピールした。

 世界的に健康意識が高まる中、HUAWEIは、個々のモニタリング技術を多次元センシングシステムに統合し、正式名称を「HUAWEI TruSense」システムとした。

 そうなのだ。病気はかかってからでは手遅れになることもある。だからこそ予防医学の助けが必要で、日常の暮らしの中で早期に異常を発見することは疾病のリスクを大きく低減する。リコ・ジャン氏は、今ついに機が熟しTrusenseを発表することができたことを興奮気味に語り、今後もより多くの専門家とこの分野を盛り上げたいという。

 自分の体に起こっている支障を素速く正確にモニタリングできるようになったことで明るい未来が手に入る。だからこそより多くの人に利用してほしいというのが同社の願いだ。

 このシステムは、正確性、全面性、速さ、柔軟性、オープン性、拡張性の6つの特徴を備え、まったく新しい健康管理体験をもたらす。

 TruSenseはHUAWEIによる光学、電気工学、材料などの基礎研究の集大成だ。肌の色、手首の太さ、天候の変化などがモニタリングに与える影響を回避し、心拍数、血中酸素レベル、血圧などを可視化する。

 測定項目は60以上に渡り、複数の健康モニタリングに対応、そのデータを一定のアルゴリズムによりユーザーの心理状態とストレス値として評価、ユーザーの健康を心身ともにサポートする。

 今後も「HUAWEI TruSense」システムはテクノロジの境界を拡大し続け、より革新的な機能や技術をもたらすことになるだろうとリコ・ジャン氏は言う。

誰も歓迎しないデータの抱え込み

 スマートウォッチのようなデバイスは、いわゆる活動量計として運動や睡眠、心拍といったデータを個別に収集してきた。可視化されたデータを人間の目で確認することで、個々の健康に役立てられてきた。

 そのうちこれらのデータはAIが解析するようになり、デバイスが測定するデータは多岐に渡るようになっていった。異なる要素を測定するために複数の異なるデバイスを併用するのも当たり前になってきている。デバイスごとに得意、不得意があるからだ。

 たとえば、時計型のデバイスを使って体重を管理するというのは絶対に無理だ。ウェアラブルで扱うのは物理的に難しい種類のデータだ。

 血圧も同様に考えられていたが、HUAWEI WATCH D2のようなデバイスがそれを可能にした。同デバイスには心電図センサーも実装されているが、日本においてはまだ認証が得られていない。その機能が使えないのは残念だ。

 でも時間の問題でもある。1つのデバイスでさまざまな要素を測定できるようになること、そして、それがほぼ自働で継続的に行なわれることで、病気になることを未然に防げる可能性が高まるというのは本当にうれしい。

 健康のために運動をするというのは自然な発想だが、健康をキープすることを阻害する現象がないかどうかを発見するというのは人間の努力だけでは難しい。

 現代の新しい当たり前として、ウェアラブルデバイスが自働で収集するデータがその発見の役に立つ。仮にエンドユーザーが収集データを分析するのが難しくても、昨今ではApple Watch外来のような診療を提供する医療機関も増えてきていて、専門家からアドバイスをもらうために必要なデータを自分で収集できれば、より専門的なリスク管理ができるような環境も整いつつある。

 今、iPhoneではAppleヘルスケアが、AndroidスマホではGoogleヘルスコネクトが、ウェアラブルデバイス等を使って収集したデータをそれぞれのコンパニオンアプリから受け取って統合する役割を担っている。

 個人的には毎朝起床後にオムロンのデバイスで血圧と体温を測っているが、そのデータはOMRON connectというアプリがOMRON connectクラウドに同期するとともに、Androidスマホのヘルスコネクトに渡される。

 ヘルスコネクトにはいろいろなウェアラブルデバイスが収集したデータが集まり、ほかのアプリからも参照できるようになっている。具体的にはアクティビティ記録アプリとしてのGoogle Fitは、ヘルスコネクトからもらった睡眠時間や運動データ、血圧などの情報を参照できるようになっている。iOSではAppleヘルスケアがGoogleヘルスコネクトと同様の役割を果たす。とても自然で好ましいデータ活用の形態だ。

 将来的には体組成データや電動歯ブラシによる磨きの情報、フィットネスジムでのマシン利用による実績など、扱えるデータはもっと拡がっていくだろう。

 データを抱え込んでユーザーを身動きできない状態にするのではなく、オープンな環境に開放することで、ユーザーが安心安全簡単にそのデータを生かすことができる世界観。その実現はHUAWEIだけでは難しいし、彼らもそのことをちゃんと知っている。

 「HUAWEI TruSense」は、センサーの統合のみならず、他社デバイスが収集するデータも含めて統合するプラットフォーム、そしてエコシステムとして考えられているのではないか。きっとそれが自然な方向性だ。