山田祥平のRe:config.sys

後ろ指をさされずにスーツケースに23.8型ポータブルモニターを入れる夢かなう

 ASUSが「ZenScreen MB249C」の発売を開始した。いわゆる24型のモニターだが、公式サイトを見ると「ポータブル」と明確に記載されている。これなら「24型液晶ディスプレイをモバイルしてはいけない」と言われなくてすみそうだ。ここまでくるのに10年かかった……。

4Way利用が想定されたポータブルモニター

 ASUS ZenScreen MB249Cは、正確には23.8型フルHD解像度(1,920×1,080ドット)のIPS液晶モニターで、USB Type-CやHDMIケーブルの2系統で映像を入力するモニターだ。表面はノングレア処理になっているので視認性も高い。スピーカーを内蔵し、USB Type-Cなら、ケーブル1本で映像と音声を伝送することができる。

 90WのACアダプタが同梱されていて、丸形バレルコネクタで電源を供給する。90Wの電力のうち、30Wを自身のために確保し、残りの60WをUSB Type-Cポートにパススルー、映像を出力しているPCにUSB PD電源として供給する。USB Type-CとフルサイズのHDMI入力、そして、電源用のポートが画面に向かって左側側面に集中配置され、右側側面には電源スイッチやメニュー操作用のスイッチが装備されている。

 「ポータブル」とされていて、キックスタンドを兼ねたキャリーハンドルを持つ。逆にいうとそれ以外の特別なモビリティがあるわけではない。モニター表面はむき出しだし、それを保護するためのカバー類が付属しているわけでもない。持ち運びには表面保護などの細心の注意が必要だし、携行するならそれなりのバッグも欲しい。注意のレベルとしては、以前の勝手モバイルモニターとそう大きな違いがあるわけではない。

 その一方で、パッケージにはぶら下げ用のフックキットが同梱され、パーティションなどにぶらさげることができたり、ピボットもできるC型クランプつきのアームも同梱されていて、クイックリリース機構によって自在に取り付け/取り外しができる。VESAマウント用のネジ穴も装備されているので、別のアームに取り付けることもできる。

 ネジでモニターをアームに取り付けてしまうと取り外しがやっかいだが、このクランプを使えば簡単に取り外して持ち運びができる。これらを利用してミニPCをVESAマウントしてしまって、オールインワンPCとして使うこともできそうだ。

 つまり、この製品は

1.キックスタンドを使った自立
2.フックキットを使ったぶら下げ
3.アームを使った固定
4.VESAマウントによる固定

 という4Wayでの利用が可能というわけだ。製品が届いたときに、梱包がやけに大きく重かったので不思議に感じたのだが、これらの利用法に必要な装備がすべて同梱されているのが原因だった。欲をいえば、本体のみの簡易パッケージが、割安で提供されていればと思った。

 本体のみの重量はカタログスペックで2.8kgだし、電源アダプタを含めても3kg前後となる。十分に持ち運びが可能な重量だ。ポータブルモニターの名に恥じないスペックだといえる。

 個人的にはモバイルを称しないデルの「P2419HC」をスーツケースに入れて持ち運び、長期の出張に役立ててきたが、その重量は電源ユニット内蔵で3.52kgあった。スピーカーの内蔵もなかった。このASUSの製品なら、そこからさらに500g近いダイエットを実現することができる。

つぶしがきいて重宝する24型フルHDモニター

 Windowsが想定するモニター解像度は96dpiだ。23型フルHDモニターがこの解像度に相当する。23.8型フルHDは93dpi相当なので、3%ほど拡大されての表示となるが、Windowsモニターの王道として長く使われてきた使いやすいサイズ感だ。

 モニターはその物理的なサイズが使い勝手を左右する。仮に解像度を欲張って23型の4Kモニターがあっても、200%表示で使えば、解像感は落ちるかもしれないが、実用の点ではにたりよったりだろう。いろんな意味で24型フルHDモニターはつぶしがきく。

 出張先のホテルでも、仕事場などで日常的に据え置きで使っている24型モニターを使いたいと思って、持ち運びを始めたのは2013年のCESだった。すでに10年前の話になる。当時はまだポータブルモニターという概念すら希薄だったが、たまたま世に出た「HP x2401 24インチ スリムボードモニター」(B6R49AA) がうまくスーツケースに収まって持ち運べた。重量は4.5kgで、電源アダプタを含めて5kg弱だった。

 そして10年間という時間は、その重量を半分近くにしてくれた。モバイルにはありがたい。モバイルモニターを称する比較的小型のモニターは百花繚乱だが、23.8型ともなると見当たらないだけに、こうした製品の提供は本当にうれしい。顧客にプレゼンという用途に持ち歩くにもうってつけだ。

 価格はオープンだが、すでに発売済みで5万7,000円を少し下回る程度で流通しているようだ。USB Type-Cケーブル1本で、給電と映像入力に対応する同程度のスペックの据え置きモニターと比べて、それほど高額なわけではない。

 10年来の実践してきた持ち運びが、ポータブルの名の下に大手を振ってできるようになった。そこで、ASUSから発売直後の製品を借り出し、スーツケースに入れて出張取材に持参してみた。ちょうど台湾・台北でのCOMPUTEX 2023が、5月30日からの開催だ。

 今回は、5月28日に東京を出発し、7泊8日という比較的長期の出張を設定済みだった。コロナ禍直後ということもあり、念には念を入れ、2019年が最後の取材となっていたCOMPUTEXまで常用していた廉価な常宿は見送り、少し宿泊代が高くなってしまうが、部屋に少しはまともなデスクがあるようなホテルを選んで宿泊することにしていた。だから、今回は、モバイルテーブルを持参する必要はない。

 初めて使うホテルの部屋に入ると、それなりに必要十分なデスクの上部には、32型TVが壁掛けされていた。さらに端子板が装備されていて、それを使って有線LANやTVのHDMI端子にアクセスできるようになっていた。喜んだのもつかの間、試してみると、どうやら館内ケーブルテレビのためのセットトップボックス対応にしたときに結線が省略されてしまったようでHDMIケーブルをつないでもTVへの出力ができない。

 無理矢理結線することもできそうだが、元に戻せなくなるほど狭い空間なのであきらめた。持ち込んだポータブルモニターと32型テレビ、そして、念のためにともってきた16型のモバイルモニターの3モニター体制をたくらんでいたのだがかなわなかった。

 それでも贅沢なデュアルモニター体制なので、ノートPC本体の内蔵モニターは使わず、外付けのモニター、外付けのキーボード、マウスだけで運用する。それで十分に快適だ。デスクがそう広いわけではないので、クラムシェルノートPCを開いて設置するにはスペースが足りない。

 もっとも、モニターがカメラやマイクを内蔵しているわけではないので、オンラインミーティングなどでではノートPCの装備を使う必要がある。マイク/スピカー付きのウェブカメラなど、外付けのデバイスを使えばいいが、それでさらに荷物が多くなってしまうのでは本末転倒だ。

 モニターを設置して、PCに接続してみて感じたのは、入出力ポートのジャックが左側面にあるので、接続したケーブルやプラグの露出がうっとおしいことだ。今回のようなテンポラリ設置の場合は我慢できても、同梱のアームやパーティションフックを使ったり、VESAマウントするような場合には目障りに感じるかもしれない。ここは1つ構造的な工夫で背面にポートを装備するようにしてほしかったところだ。

 また、同梱の電源アダプタも、これを持ち出し忘れたら最後、せっかくのモニターが使えない。そのあたりの量販店で購入といった入手も難しいだろう。そういうことがないように、汎用のUSB PD電源が使えるようにし、100Wアダプタならパススルー、30Wアダプタでも稼働に必要な電力の確保ができるようにして、専用アダプタと同等の使い勝手を実現してほしいと思った。

 さらに、いただけないのは内蔵スピーカーで、音質/音質ともにちょっと物足りない。最近のビジネスノートPCは、オーディオ面での充実が著しいので、ここはひとつもう少しがんばってほしかったところだ。

使い勝手の洗練度を高め、よりいっそうの軽量化、堅牢化を期待

 久しぶりの長期出張で、以前のように24型モニターを持参して、正々堂々と快適に作業ができる環境を調達することができて本当にうれしい。今回の出張は、4月頭の台北に続き、コロナ禍後、2度目の海外出張となるが、自分的にはまだまだリハビリに近い位置づけで、せっかくの環境も、本格的に活用しているとはいえない。ホテルのWi-Fiも数十Mbps、有線LANも使えるし申し分のない環境だ。インフラが貧弱だったとしても台北なら、スマホのテザリングで廉価なモバイルネットワークを使える。

 その久しぶりの長期出張を、発売元が公式にポータブルモニターを称する製品を持参できるという10年来の悲願をかなえることができて本当にうれしい。ASUSにはさらに使い勝手の洗練度を高め、よりいっそうの軽量化、堅牢化を期待したい。素晴らしい製品だ。

 来年以降の取材でも使いたいくらいだが、さて、どうなりますことやら……。