山田祥平のRe:config.sys

お墓は雲の上 ~ サービスとしてのお墓

 Thinking Power ProjectがWebサービスとしてのお墓をビジネスとしてスタートするそうだ。その名もCloubo(クラウボ)。大事な人、そしてペットのオンラインで買えるクラウド墓という建て付けだ。Cloud+墓(bo)からの造語だが、さて、どのようなサービスなのだろう。

QRコードを読み取って、いつでもどこでも墓参り

 このサービスは、世界中どこにいてもWebブラウザを使えば24時間365日、いつでもお墓参りができるというもので、対象は人とペットだ。あらゆるWebブラウザでアクセスが可能だという。

 サービスでは、微量のお骨をカプセルに入れて装着できる小さなオブジェに、QRコードシートがセットされた「Handy Tomb Unit」のほか、QRコードシート単体のものが提供される。冒頭の写真は、3種類の「Handy Tomb Unit」だ。御影石やケヤキ製で、3グレード用意される。

 これは、特に電子デバイスではなく、電気的なシカケはいっさいもたない。NFCが仕組まれていたりするわけでもない。そのそれぞれの価格は4,800円~1万2,800円で5年間のクラウボ使用権が含まれる。5年間が経過した後は、2,000円の追加費用で10年間の使用権が得られるという。

 QRコードは、編集用コードとお参り用コードがある。編集用コードを使えば、写真やゆかりのある場所の地図、情報など、故人(ペット)に関わるものをアップロードしてコンテンツを構成できる。お参り用コードを使えば、そのコンテンツを閲覧でき、献花などもできる。生前葬で、生きている人のお墓を構築することも可能だ。

 もちろん、クラウドサービスだから、墓ごとにURLがあって、それを入力してのアクセスも可能だ。早い話が普通のホームページサービスだということもできる。だが、QRコードを読み取って墓参りをするという行為に見せかけているところがミソで、年配の人も抵抗なく入り込める世界観を提供できる。

 サービス入会時には、編集用コードステッカー2枚、お参り用コードステッカー6枚が提供され、「Handy Tomb Unit」のオブジェに貼り付けておいたり、リアルの遺影に貼り付けておき、それをスマホで読み取って墓参りをしたりするという段取りになる。発行される各コードが一意というわけではないので、URLをSNSアカウントで公開したり、リンクをメールで送信したり、また、喪中はがきにQRコードを印刷して送付することもできるが、サービス側としては、規約の中で100人以下の利用を想定し、それを超えるような大量送付は遠慮してほしいとしている。

少子化、高齢化、過疎化

 このビジネスでは、セレモニー関連ビジネス各社との協業も視野に入っていて、各種グッズにQRシートを貼り付けたり、リアルなお墓にQRコードを掲出する方法などもあわせて開発中だ。これは、雨風に負けずにできるだけ長持ちする素材が求められる。卸しやOEMなどへの展開も想定されているようだ。

 Thinking Power Projectとしては、お墓を否定するものではなく、お墓を補完するものとして考えているという。また、宗教を特定することがないように、仏壇といった言い方はせずに、祭壇的な扱いでの提案をしている。

 こうしたサービスをスタートするに至った経緯としては、やはり、世の中の趨勢として少子化、高齢化などの社会状況、また、都市への移住とそれによる地方の過疎化などによって、いわゆる先祖代々のお墓というものを維持するのが難しい時代に入ってきていることが挙げられる。

 年老いた親を介護しながら、子どものいない夫婦が、自分たちの死後をどのようにすればいいのかを考えるのは想像以上に大変だ。場合によっては、墓じまい、家じまいといったことも視野に入れて計画を進める必要がある。そもそも親より子どもが先に死ぬ可能性だってある。

 墓じまいは、墓石を撤去して墓所を返還することだが、遺骨を勝手に取り出したり、廃棄したりすることは法律で禁じられていて、改葬許可を申請し、許可証を発行してもらうといった行政手続きが必要だ。

 また、取り出した遺骨は永代供養などに託すということになる。こうした状況には、一般的な墓地ではなく「墓aas」(サービスとしての墓)、すなわち、クラウボのようなサービスが求められているというわけだ。

仮想墓周辺ビジネスの充実を

 こうしたサービスがさらに拡がると、たとえば、生前に、自分に関する情報をすべて保存した秘密のコンテンツを本人が用意しておき、その鍵を預かってもらえるようなサービスも求められるだろう。自分が死んだときに、サービス側に遺族が求めると、あらかじめ故人が設定したパスワードに相当するものが発行され、終活として故人が遺したいとしていたコンテンツを遺族が得られるようにするわけだ。

 銀行口座や所有している財産、年金番号や介護保険番号、保険証券番号、各種の連絡先といった基本的な情報はもちろん、公証制度との連動や弁護士サービスなどと組み合わせて、遺言などを伝えられるというのもいい。それと同時に、故人が消したいコンテンツを削除するようになっていてもよさそうだ。こうしておくことで、少なくとも遺された遺族が、相続手続きなどで余分な苦労をしなくても済むようにはできそうだ。

 だがこれも、自分が死んだあとに遺族がいることが前提だ。クラウボのサービスにしても、生前に自分でコンテンツを構築しておかなければ、死後に誰も残っていない場合、どうしようもない。有形無形の遺産の行方については、いったいどうなるのかも難しい。それをどうするかをあらかじめ決めておかなければ、大変なことになるだろう。今後の社会のことを考えると、そのあたりのことまで視野に入ったサービスとして成長していってくれればと思う。

 Thinking Power Projectは、このビジネスの展開のために各方面に営業したそうだが、異口同音に言われたことは、サービスの価格が安すぎるということだったそうだ。この価格では、サービスを提供する側としての儲けを得るのも大変なら、消費者側の信頼を得られるかどうかも微妙といった意見があるというから難しい。

 ちなみにこのクラウボだが、最長10年間の延長が可能だが、いわゆる永代供養に相当する33年間超の継続サービスはない。永代は永久ではないが、ビジネスとして提供するサービスである以上、組織としての信用やBCPへの取り組みなども問われることになるのが難しいところだ。

 お墓が雲の上にあるのがいいのか、いや、そもそも墓は必要なのか。あるとしても仮想化されたものでいいのか、こればかりは先祖代々の意見を聞くというわけにもいかないからやっかいだ。少なくとも遺骨はリアルだし。