山田祥平のRe:config.sys

VAIOを買っておけば失敗はない

 VAIOが新製品「VAIO F14」と「VAIO F16」を発表した。『本当に必要な機能を研ぎ澄ませた"定番PC"』という位置付けがそのメインコンセプトだという。そのために従来型PCの当たり前を見直し、4つの条件を導き出した。

定番PCの条件

 VAIOによる定番PCの4つの条件は、

  1. 見やすい大画面
  2. 長持ちする品質・安心
  3. 普段使いに"ちょっといい"性能
  4. 快適なオンラインコミュニケーション

となっている。まあ、当たり前といえば当たり前の条件だ。

 ちょっと不思議に感じるのは、これらの条件に合致する要件が、時代ごとに変わりそうなことだ。歳月とともにニーズも変わればトレンドも変わる。今日、大画面だったPCも、数年後には普通の画面サイズとみなされるかもしれない。

 だからこそ、定番PCといいながらも、ある程度の間隔で内容を見直して、改善や改良を施しながら定番として育てる。その製品を愛してリピーターとなるユーザーでさえ気が付かないような、さまざまな改良点を秘めながら定番製品を作り続けるには、かなりの覚悟が必要だ。PCでいうなら、かつてのラップトップPCがノートPCと呼ばれるようになる間に、いったいどれほど多くのチャレンジがあったかを想像してみるといい。

 文具でいうと、コクヨのキャンパスノートを定番と呼ぶことに異論のある方はいないだろう。このノートは、ラップトップPCが登場した1980年初頭より、少しだけ前の1975年に初代がデビュー、以降、1983年、1991年、2000年、2011年と、4度のリニューアルが施されている。表紙のデザインが大きく変わっているが、そのどれも見覚えがあるというのはすごいことだ。

 同じノートといっても紙のノートとノートPCはずいぶん違う。PCは、その登場後、半世紀近く経った今も、まだまだ進化の余地を残しているからだ。もう、この先、どこを変えるのだろうと考えるのも大変そうな紙のノートだって、だからこそ、新たな紙が開発されるなどで改良が続いている。

 VAIOでいえば、ソニー時代に「VAIO Type P」という製品があったが、今なお、名機として、現代版のType Pが欲しいという声が聞こえてくる。ここでのミソは、かつてのType Pそのものではなく、「現代版の」という断り書きがつくことだ。誰も、当時のType Pの復刻などは望んでいないし、PCが進化をやめることを許さない。

 2009年初のCES基調講演で、当時の会長兼CEOとして壇上に立ったハワード・ストリンガー氏が、ジャケットの内ポケットからAtomプロセッサ搭載の同機を取り出した。鮮烈な光景として目に焼き付いている。

 今となってはもはや15年近く前の製品で、この製品が定番として今なおラインアップされていたらと思うと、それはそれでワクワクする。同様のコンセプトを持つPCは現在の市場には見当たらないところを見ると、定番として作り続けるだけの理由が見出せなかったということだろうし、市場もそれを積極的には求める気配がなかったということなのだろう。だから、仮にType Pが復活を遂げたとしても、望んでいたユーザーが入手に走るかというと、その保証はない。

見かけは似ていても中身は別物

 PCのように、秒進分歩で進化していくカテゴリでは、定番を作るというのは大変だと思う。実際、発表会の場で質疑応答の機会があったので、定番を作り続ける覚悟があるのかとVAIO側に聴いてみたが、その回答は「努力する」というものだった。彼らにとっても定番は1つのチャレンジであって未来は未踏だ。今は、マーケティングメッセージととらえられていても、5年後くらいにリプレースを考えたときに、少なくとも、同じ型番の、フレーバーの酷似した製品が手に入ることが保証されていればうれしい。

 ちなみに、現時点でVAIO F14は16:9の14型ディスプレイ、VAIO F16は16:10の16型ディスプレイだ。ここに迷いがある。VAIOとしてアスペクト比の定番が16:9か、16:10かを選び切れていない。でも、たぶんこれは16:10に収束していくことになるだろう。そして、エンドユーザーは画面の縦横比が変わったことに気が付かない。

 いずれにしても、PCは年ごとに変わる。プロセッサの世代も変われば、チップセットも変わる。製品の見かけは同じように見えても、その中身はまったく異なるものに入れ替わる。国税庁ではサーバー用途以外のPCの耐用年数を4年としているが、その4年でPCを買い替えようとしたときに、そのとき使っているのと同じ製品を手に入れるのは難しいし、できたとしても意味がないことでもある。

 だが、少なくとも見かけは古い機種と見まごうほどの製品が、F14やF16といったまったく同じ製品名で手に入るのなら、少なくとも、前より悪くはなっていないだろうというもくろみで手に入れたいと思うだろう。お気に入りのパートナーとして数年間を一緒に過ごした機材ならなおさらだ。

 これは、生涯、何度も自家用車を買い替えるのにあたって、ずっとフォルクスワーゲン・ゴルフを選ぶとか、トヨタ・カローラしか選ばないというのにも似ている。カローラの場合、先に例に挙げたコクヨのキャンパスノートよりも前の1966年が初代デビューだが、今もなお、大衆車の代名詞的存在として君臨している。VAIOが定番を目指すなら、そのくらいの意気込みが欲しいところだし、それは定番を主張する彼ら自身が、最もよく分かっていることに違いない。

Fのブランディングに込めたプレミアムリッチからの脱却

 なぜいまVAIOがWindows PCの定番を目指すのか。その背景にはかっこよくてかしこいホンモノというコンセプトにこだわったプレミアムリッチからの脱却がある。これは、ソニーから独立後、初めてのチャレンジだと山野正樹氏(同社代表取締役執行役員社長)はいう。Windows PCに突出した定番がなかったことも、そのきっかけの1つだ。

 もちろん、プレミアムリッチをやめてしまうわけではない。定番PCの存在は、プレミアムリッチへの導線となる可能性もあるからだ。確かにソニー時代のVAIOにも「F」は存在していた。

 また、黒崎大輔氏(同社開発本部プロダクトセンター長)はニーズと製品のギャップを埋め、愛される定番を創ることは、普通に長く快適に使えて、よい製品を作ることに通じるという。つまり、また同じものを買いたくなるような製品作りだ。

 そのためには、常に4年後の顧客に、「同じもの」を用意する必要がある。大変なことだが、定番を自ら名乗る限り、それが覚悟の証だ。色、かたち、使い勝手など、言われないと気が付かないくらいの改良にとどめる一方で、変化する生活スタイルに的確に対応し、やっぱりVAIOは期待を裏切らないと思ってもらえる必要がある。

 VAIOは、定番PCになれるのか。その答えが明確になるのはVAIO F14(2027)が登場するであろう4年後だ。