山田祥平のRe:config.sys

マルチポイントとマルチペアリングがBluetoothのめんどうくささを帳消しに

 愛用のイヤフォンを複数のデバイスで使う。普通に考えると当たり前のことなのだが、ちょっとしたストレスに感じるようにもなっている。消耗品であるバッテリの劣化により寿命を迎える短命のデバイスだからこそ、気に入ったデバイスはあちこちで使って愛用したい。

ワイヤレスにワイヤードの分かりやすさを

 カバンの中にはたいていUSB Type-Cプラグのついたイヤフォンを忍ばせてある。その日によって持ち出すPCは違う可能性があるし、スマホだっていつもポケットの中にある。もしかしたら、タブレットだって携行しているかもしれないし、別のスマホがカバンの中にある可能性もある。

 それらのうち、どのデバイスのサウンドを聴きたくなるのかは予測が難しい。でも、有線のType-Cイヤフォンがあれば、携行するほぼすべてのデバイスにつながる。というか、プラグをポートに装着すれば音が聞こえる。それだけだ。煩雑な操作は必要ない。

 もっと以前は、3.5mmプラグの有線イヤフォンとコンパクトなDAコンバータ(ケーブルタイプの変換アダプタ)のペアを持ち歩いていた。たまに3.5mmのヘッドフォンジャックしかないデバイスを使う場合に備えてだ。でも、持ち歩くほとんどすべてのデバイスがType-Cポートを持つようになったので、Type-Cプラグを持つイヤフォンに変更した。

 有線というのは本当に分かりやすい。目で見れば、イヤフォンがどのデバイスにつながっているかが一目瞭然だ。つなぐための操作も、プラグをポートやジャックに装着するだけだ。

 一方、イヤフォンは、一気に完全ワイヤレスイヤフォンの市場が充実した。もはやイヤフォンというのは左右独立の完全ワイヤレスが当たり前のようになっている。その接続は、ほとんどの場合Bluetoothだ。ぼく自身ももちろん完全ワイヤレスイヤフォンを愛用している。

 というか、有線イヤフォンより、ワイヤレスイヤフォンを使っている時間の方が確実に長い。最近はアクティブノイズキャンセル(ANC)機能も当たり前になってきている。部屋の中にいるとはいえ、意外にエアコンの音のような定常ノイズは気になるものだが、ANCがあれば快適に過ごせる。昔のANCのように無音の圧力的なものを耳が感じることも少なくなったのは、やはり技術の進化だ。

 ただし、Bluetoothは、あらかじめ組み合わせたい機器とのペアリングの操作が必要だ。イヤフォンをペアリング待機させておき、サウンドを再生するデバイスから待機状態のイヤフォンを探し、ペア設定する。これが有線イヤフォンでいうところのポートにプラグを装着するという行為に相当する。ちょっと面倒くさい。

 再生デバイスが1つ、イヤフォンが1つで、それらの組み合わせが変わらないなら何の不便もない。でも、そういうわけにはいかない。イヤフォンをデバイスの数だけ調達すればいいという考え方もあるが、それもどうかと思う。

複数のデバイスに同時につなぎたい

 コロナによって在宅している時間は長くなった。でも、電車の中など、移動中に音楽を楽しむ機会は減ってしまった。その代わり、自宅のPCでのサウンド再生が以前より気になるようになった。自宅でPCに向かっている時間が増えたのだから当たり前だ。Web会議アプリをよく使うようになったこともその要因だ。

 Web会議では、届く声の再生だけではなく、こちらの声もクリアに届ける必要がある。イヤフォンデバイスも、かつてのように音を再生するのみならず、マイクがついていて、こちらの声をクリアに拾って相手に送る必要がある。そんな用途であっても完全ワイヤレスイヤフォンは役に立つ。

 ただ、スマホのようなデバイスと、PCのようなデバイスの間を、1つのワイヤレスイヤフォンで行ったり来たりするのが面倒くさいのだ。つまり、有線イヤフォンのようにプラグを差し替えればそれでよしというわけにはいかない。

 そこでBluetoothのマルチポイント機能に注目する。マルチポイントは、2台のデバイスと同時に接続する機能で、一部の製品が対応している。

 たとえば、PCに接続したイヤフォンでWeb会議に参加しているとしよう。その最中にスマホが着信したとする。スマホ自体がバイブで振動したり、大きな着信音が鳴るなら気がつくかもしれないが、会議中だとするとマナーモードなどにしていてそれが聞こえない可能性もある。だが、マルチポイント機能を使ってPCとスマホの両方に同時接続しておけば、PCでの会議中にも電話の着信を知ることができ、その場で切り替えて通話に使うことができる。

 マルチポイントが便利なのは、スマホをそのまま外に持ち出したときにも、さっきまでPCとつながってサウンドを再生していたのと同じイヤフォンで、何の操作もせずに、そのままスマホの音楽再生に使えて、もちろん、通話にも使えるところだ。

 さらに、自宅に戻ってPCを開けば、再びPCにもつながる。スマホとPC、早い者勝ちでそのサウンドを再生することができる。

 これで同じ1つのイヤフォンを自宅でも、移動中にも別のデバイスで使える。有線イヤフォンで当たり前だったことがワイヤレスイヤフォンでもできるのだ。ただし2台までだ……。

マルチを支えるBluetooth

 Bluetoothにはマルチペアリングという機能がある。マルチポイント機能と似ているが、どちらかといえばマルチポイントがマルチペアリングの延長線上にある。

 マルチペアリングは、複数のデバイスにつながるという点ではマルチポイントと同様だが、マルチポイントが同時に2台であるのに対して、マルチペアリングは複数台のデバイスとのペアリング情報を覚えておくものだ。たいていの場合8台程度とペアリングでき、それを超えると古い情報から忘れていく。接続については直近で接続されていたデバイスに優先的につながるようになっている。

 イヤフォンが1つで、サウンドを再生する可能性があるデバイスはたくさんというのはよくあると思う。PC、スマホ、タブレット、家庭用TVなど、8台とまではいかなくても、複数が思いつく。

 マルチペアリング機能を使って、サウンドを再生する可能性があるデバイスすべてとペアリングしておくことで、再ペアリングしなくても、再生したい機器に再接続できるのは便利だ。

 ただ、落とし穴がある。直近で再生していた機器に自動的に再接続してしまうという点だ。つまり、出先からの帰り道、スマホで音楽を楽しむためにイヤフォンを使っていたとする。自宅に到着し、音楽の再生をやめ、PCを開いてWeb会議に出席しようとしても、イヤフォンはスマホに接続したままだ。それを回避するにはスマホでの明示的な切断が必要だ。マルチポイント機能も実装されていれば2つのデバイスに同時接続できるので、このようなことはない。

 ただ、マルチペアリングの機能があれば、2台を超えるデバイスとのペアリングができる。それもやっぱり便利なのだ。ところがペアリング済みデバイスを切り替える機能を持たないイヤフォンデバイスが多い。接続済みのデバイスを手動で切断し、別のデバイスから接続しなければならないのだ。これなら記憶するデバイスは1台だけに限定し、別のデバイスに接続するときは再ペアリングするようにしたほうがカンタンかもしれない。でも、再ペアリングの前に、以前のペアリング情報を削除しなければならないこともあって面倒は面倒だ。

 マルチペアリングとマルチポイント機能の両方をサポートしている製品もある。発売されたばかりの「Google Pixel Buds Pro」もANC対応とともに8台までのマルチペアリングとマルチポイント対応するようになった。製品紹介ページでもPCとスマホのスムーズな切り替えがアピールされている。そうこなくっちゃという感じだ。

 イヤフォン側から接続先のデバイスを切り替えることができる製品もある。本当はそれが理想だ。イヤフォンデバイスそのものの操作で、現在の接続先から切断し、別のデバイスを探して再接続ができる。同じ操作で次、その次、その次の次と、ペアリング済みのデバイスを順次探すことができる。使い勝手としては、これがいちばんいい。

 BOSEのイヤフォン、ヘッドフォンは昔からそうなっていたので、マルチペアリングしておいて複数のデバイスを記憶させておき、イヤフォン側操作で切り替えることができるというのは当たり前だと思っていた。しかし2010年代以降、Bluetoothイヤフォンがどんどん出てきたものの、そうなっていない製品が多かった。Jabraのような著名ベンダーのデバイスも当たり前のようにマルチペアリングとマルチポイントの両方をサポートしているが、ペアリング済みのデバイスを順次切り替える機能はない。

 完全ワイヤレスではないが、廉価な製品で気に入っているものとしては、頻繁な脱着が予想される場面で重宝しているイヤフォンで、「realme Buds Wireless Pro」にマルチペアリング先切り替え機能がついていてちょっと驚いたくらいだ。左右のイヤフォンがケーブルで結ばれたフォームファクタで、左右独立完全ワイヤレスではないが、中途半端な一時的脱着でも紛失することがないのがいい。さらにANCも搭載している。ただ、マルチポイント機能はない。

 完全ワイヤレスイヤフォンのユーザーインターフェイスは、イヤフォンデバイスそのものに対してタッチやジェスチャーなどで指示するものや、ペアリングしたデバイスのアプリで指定するものなどいろいろだ。そこに「マルチ」という概念が加わると大変だということも分かる。今つながっているデバイスから切断して、別のデバイスに接続しようとしているデバイスを、これから切断されることになるデバイスでコントロールしようというのだから話はややこしい。

 それに、イヤフォンそのもののタッチ操作は、分かりやすいようで、分かりにくい。耳への装着時の誤動作も多い。なんだかうるさいと思ったら、装着するときにイヤフォンのタッチセンサーを長押ししてアクティブノイズキャンセルをオフにしてしまっていたといったこともよくある。かぶさった髪の毛が誤動作させてしまうことも経験する。

 このあたりの使い勝手をもう少し進化させることができれば、もっとスマートにBluetoothを活用できるんじゃないだろうか。そもそもマルチポイント機能の有無や、マルチペアリングの台数上限、さらに操作による切り替えができるかどうかを、スペック表やカタログにきちんと明記している製品があまりない。開発者はともかく、製品を売るシカケを作っているマーケティング担当者は、本当に製品を使っているのかなと疑ったりもするわけだ。