山田祥平のRe:config.sys

新しい当たり前としてのChromebookの世界観

 GIGAスクール特需もあってChromebookの市場が爆発的に伸びているそうだ。この波に遅れまいと、最新のChromebookを試してみることにした。感じたことは、やはり、一般エンドユーザーには、打てば響くような性能の高い製品を使ってもらい、コンピュータを嫌いにならないでほしいということだ。それはWindows PCと何も変わらない。

最新のChromebookを使ってみた

 もちろんChromebookを使うのははじめてではない。今、手元にあるのは2013年にリリースされた初代のChromebook Pixelで、第3世代のCore i5搭載で4GBメモリのものだ。久しぶりに電源を入れてみたら、バージョンが更新されて69.0.3497.120(Official Build, 64 bit)になったものの、すでにサポート切れ。

 ちょっとモッサリ感はあるが、それでもまだまだ使えるという印象だ。ちなみにこの原稿を書いている現時点での最新バージョンは89.0.4389.95だ。Windows PCではこうはいくまい。

 とりあえず、最新のChromebookを調達した。

 今、手元にあるのは、次の3台だ。ザッとスペックを把握しておこう。前者は最高級に近い製品で価格も10万円超えのクラムシェル、残りの2機は、キーボードカバータイプのタブレット機でキーボードカバーのデタッチャブル(着脱式)、3万円ちょっとの予算で購入できる。そして大事なことだができることはほぼ同じだ。

HP Chromebook x360 13c
Core i7-10510U(1.8~4.9GHz)●16GB DDR4 SDRAMメモリ●256GB SSD(PCIe MVMe M.2)●Wi-Fi 6、LTE対応●13.5型液晶(1,920×1,280ドット)●約1.36Kg
製品概要/スペック詳細
レノボ IdeaPad Duet Chromebook
MediaTek Helio P60T プロセッサ(2GHz)●4GB LPDDR4X SDRAMメモリ●128GB eMMC●10.1型液晶(1,920×1,200ドット)●約920g(キーボードとスタンドカバー装着時)
概要/スペック詳細
ASUS Chromebook Detachable CM3
MediaTek MT8183プロセッサ(2GHz)●4GB LPDD4X SDRAMメモリ 128GB eMMC●10.5型液晶(1,920×1,200ドット)●約915g(本体 + デタッチャブルキーボード + スタンドカバー)
概要/スペック詳細

 これらを実際に使ってみて痛感したのは、Chromebookだからと言ってスペックが低くても大丈夫というわけではないということだ。

 GIGAスクールでは低予算で機材を調達しなければならないが、子どもたちがこの先数年間使い続けるハードウェアとして、今、ギリギリのスペックの機材をあてがわれることは、ちょっと考えなければならないと思う。

 また、強力な磁力でキーボードカバーが吸着するとは言え、脱落のリスクもあることを考えると、デタッチャブルというフォームファクタについても再考が必要だろう。子どもたちにとっての唯一無二のマイコンピュータとしては、もうちょっとスペックを奢ってもいいのではないだろうか。彼らにコンピュータを好きになってもらわなくては元も子もないからだ。

 メモリ喰らいのChromeブラウザで多くのタブやウィンドウを開いて切り替えながら、それなりのレスポンスで作業をするには、Chromebookとは言え、それなりのスペックを要求する。描画についてはクラウド側でというわけにはいかないからだ。

 4GBメモリは不安だし、eMMCストレージも速くはない。それがわかっていて使うパワーユーザーは覚悟ができるが、少なくともスマートフォンのサクサク感に慣れきった一般エンドユーザーには酷かもしれない。

 「単純にできる」かどうかという点では「できる」のだが、「快適にできる」かどうかという点では疑問だ。最高のスペックがいいのは当たり前で、同じ価格なら普通にWindows PCが手に入る。だが、あえてChromebookを選ぶというには、それなりの理由が必要だ。その理由をきちんとピックアップできるかどうかだ。

 HP機については、もはや、他メーカーの追随を許さない。ここまで広いレンジでChromebookを提供している同社の姿勢には敬意を表したい。

 レノボとASUSの名誉のために書いておくが、両製品は、コストパフォーマンスという点では秀逸だ。とくに、ASUS機の縦横両方向置きに対応したスタンドカバーはすばらしい。また、レノボ機のキーボードは剛性感があって入力時の安定感が優れている。

試してみるしかないAndroidアプリの挙動

 Chromebookは、ChromeOSが稼働するPCだ。今のところChromeOSを使うためには、各社のChromebookハードウェアにプリインストールされて出荷されているハードウェアの入手が必要だ。少なくとも、GoogleブランドのChromeOSを単体で入手して、手元のPCにインストールして使うということはできない。

 そして、ChromeOS上ではアプリとして、基本的にブラウザのChromeを使う。また、PCで使うChrome同様にChrome拡張が利用できる。PCでの作業の大半がブラウザだけで完結するのであれば、Chrome以外のアプリを使う必要がない。むしろ、不安定の原因になりがちな余計なアプリは入れたくないというならブラウザだけのほうが安心だという判断もできそうだ。

 さらに、Chromebookは、この数年でAndroidアプリの実行をサポートするようになっている。Google Playストアがプリインストールされていて、スマートフォンでアプリをダウンロードしてインストールするのと同様に、ChromebookにAndroidアプリを入れて使うことができる。

 と言ってもすべてのAndroidアプリが対応しているわけではない。たとえば、ポケモンGOをChromebookで使えたら便利だと思ったりもしたのだが、Google Playで検索しても見つからない。また、インストールはできても挙動が不安定なアプリもたくさんあるようだ。

 結局のところ、ブラウザとAndroidアプリの両方で同じことができるはずの場合は、どちらがいいのかを試してみるしかない。多くの場合はブラウザでの利用が使いやすいと感じるだろう。

 ただ、Googleドキュメントのようなアプリはどうかと言うと、これはもう圧倒的にAndroidアプリのほうが使いやすい。

 というのも、AndroidのGoogleドキュメントアプリは、文書をウィンドウサイズに応じて表示をリフローするが、WebアプリのGoogleドキュメントは印刷前提のページレイアウトでの編集になるからだ。

 Microsoft OfficeのAndroidアプリの場合は、Word文書を開くときに「モバイルビューで開く」というオプションがあるのに、それが使えないという不思議な現象を確認している。Androidスマートフォンで使うときよりも圧倒的にユーザー体験が低いのは残念だ。

 一方、「Yahoo! 乗換案内」のようなアプリはフルスクリーンを占有してしまう。Webのように余計な情報を表示しないでスマートフォンのようにシンプルな画面で使えるかと思って期待したが、そうは問屋が卸さない。

 また、Twitterアプリなどは、Androidアプリを入れてもブラウザがWebアプリとして開く。これは、Progressive Web App(PWA)として、Webアプリをネイティブアプリのようにパッケージしたものだからだと推察される。

アプリは3種類

 ChromebookのChromeでWebアプリのページを開き、それをアプリとして登録すると、ブラウザのUI要素を廃したシンプルなウィンドウでそのページを使うことができる。いわばこれが実質的なChromeアプリだ。

 つまり、

  • Chromeでサイトを開いてWebアプリを使う
  • Chromeアプリとしてサイトを登録してそれを使う
  • Androidアプリをインストールしてそれを使う

という3通りの使い方で、どれがもっとも使いやすいかを試してみるしかなさそうだ。

 アプリやサイトのさまざまな挙動に、iPadが発売されたばかりのころ、iPhone用のアプリがただ拡大されただけで画面を占有して表示された時代のことを思い出してしまう。Chromeを使う以外の面については、まだまだこれからということなのだろう。

 ただ、ウィンドウのサイズに応じてダイナミックにリフローして表示が変わるレスポンシブデザインのWebページが増えてきているのは頼もしい。こうしたサイトを読んだり、Webサービスとして利用したりするには、Chromebookは最高のプラットフォームだと言えそうだ。

 ちなみに、試しに3機種ともを4Kディスプレイに接続してみた。4K解像度に対応して、美しく表示ができたのはHP機だけで、ASUS機とレノボ機はフルHD表示しかできず、4K解像度を活かすことはできなかった。

 このあたりについても、さすがに3台分以上のコストがかかっているハイエンド機が優れている。値段が高いのだから当たり前だと言われればそれまでなのだが、Chromebookにもそういう世界があるということは認識しておくべきだ。

Chromebookの世界観

 Windows PCとChromebookを比べたとき、その管理性という点では、圧倒的にChromebookが優れている。今回は、ほぼ8年ぶりに機材に電源を投入したのだが、数分で別のPCで使っているいつもの環境が目の前に出現した。

 これは、はじめてChromebookを使うユーザーにとっても同様で、Googleアカウントを持っていれば、サインインするだけでいい。データを移行するとか、バックアップするといった煩雑なことは何も考えなくていい。これは圧倒的なアドバンテージだ。単独で使うのはもちろん、Windows PCとの併用でも大きな魅力になるだろう。

 WindowsとChromebookのどちらか1台なら、Windows PC(あるいはMac)を選ぶべきだと思うが、やりたいことがブラウザだけで完結することがわかっている、あるいは、その世界観を理解できるリテラシーがあるなら、Chromebookがいい。併用するならもっといい。

 個人的な悩みとしては、Windows PCならいろいろと選べるキーバインドの設定ユーティリティが見つからなくて困っている。文字入力中にBackspaceキーのつもりでCtrl+Hを叩いてしまい、しょっちゅう履歴のウィンドウが開いてため息をつくのを繰り返している。

 どうやらキーバインドを定義したIMEを作って、それをChrome拡張としてインストールし、既定のIMEとコンバインすればいいということまでわかったのだが、その先に進めないで悶悶としている次第だ。もし、いい知恵があれば、ぜひ、お知らせいただきたい。