山田祥平のRe:config.sys

Amazonデバイスの不思議

 似ているのに違うものは世のなかにたくさんある。見かけも中身もほとんど同じに見えるのに、できることが違うというのはスマートデバイスではよくあることで、ビジネスモデルとソフトウェアが機能を決めているのだということを実感する。

新しくなるFire TVのUX

 AmazonがFire TVシリーズの新機能の提供を開始するそうだ。最初は新世代のFire TV Stick向けに提供され、そのあと、ほかのFire TVシリーズに展開される予定になっている。

 Fireシリーズは、映像コンテンツ配信サービスを楽しむためのデバイスで、現時点では、スティックタイプの「Fire TV Stick」と、据置のキューブタイプの「Fire TV Cube」がTVに接続するデバイスとして、また、Fireタブレットが液晶ディスプレイを持つデバイスとして提供されている。Fireシリーズを冠しているものの、この一連のアップデートにFireタブレットが含まれるのかどうかは不明だ。

 Amazonの映像コンテンツ配信と言えば、プライム会員が無料で映画やドラマを楽しめるプライムビデオがよく知られている。普通に考えると、Amazonが提供するAmazon専用のデバイスだったらプライムビデオだけを楽しめるデバイスだと思いがちだ。だが、実際にはそうではない。

 パソコンやスマートフォンと同様にアプリをインストールすることができ、そのなかにはNetFlixやhulu、YouTube、TVer、U-NEXTといったサービスのアプリもある。それらを使えば、Amazonプライム以外の配信サービスのコンテンツを楽しむこともできるのだ。

 これから順次更新ということで、まだ、手元のデバイスで使える状態にはなっていないため、詳細はフタを開けてのお楽しみとなるが、新しいUXでは人気の映画やTV番組を各社のサービスをまたいだ串刺しで見つけることができるようになるという。

 たとえば映画を見たいと思ったときに、タイトルがわかっていれば、それを入れればいいし、アクション映画なのか、サスペンス映画なのか、アニメなのかとカテゴリを掘り進めていくことで、各社のサービスをまたいでコンテンツを探していけるようになるということだ。

 ただし、全ユーザーがあらゆるサービスの会員になっているわけではない。だから、検索結果に出てきたコンテンツを見たいと思っても、それが見れない可能性もある。

 ちなみに、先日発売された新世代のChromecastなども同様で、競合と考えてもいい各社のコンテンツを分け隔てなく楽しめるようになっているが、サービスごとのコンテンツを楽しむには、そのサービス会員になる必要があるのは同様だ。

あらゆるサービスを単一のデバイスで

 TV受像機はチューナーが内蔵されていて、首都圏であれば地上波の場合、NHKと民放のすべてを楽しむことができる。このTVはTBSが受信できない、あのTVはフジテレビが無効ということはありえない。

 TV局の数だけ受信機が必要だとしたらたいへんだ。同様に、配信サービスを楽しめるデバイスが、もし各社専用のものを使わなければならないとしたら、TVの入力用端子がいくつあっても足りないだろう。

 だから、世のなかの流れとして、単一のデバイスで各社のサービスが楽しめるというのは当たり前のことだと考えていい。その当たり前は、もっと新しい当たり前にならないのだろうか。

 仮にAというコンテンツが、3つのサービスで同様に配信されている場合、デバイスのベンダーとしては、どのサービスで見られることを望んでいるのだろう。

 多くのサービスは月額の見放題サブスクで提供されている。映画などではCMがはさまれるわけでもない。仮に、会員数×月会費が売上げのすべてだとすると、本当は自社サービスを使われないほうが、つまり、同じコンテンツがあるなら他社で見てもらったほうが、自社サービスのリソースを消費しないのでコストが減るという風にはならないのだろうか。見られても見られなくても同じ売上げがあるのがサブスクだ。

 もっともほとんどの場合、見放題以外にも配信レンタルや買い取りコンテンツが用意されているので自社サービス内にユーザーをつなぎとめておくのが望ましいというのはあるだろう。ただNetflixのように有料コンテンツがなく、見放題サブスクのみというサービスでは、このあたりがどういう利益構造になっているのかよくわからない。

サービスへの囲い込みは無理

 各種のデバイスがユニバーサルに各社サービスに対応していくのが自然な流れだと書いた。スマートフォンのアプリでも同様で、ユーザーは自分の加入しているサービスの専用アプリを入れて、それを使ってコンテンツを楽しむ。

 だが、本当は、今、どのサービスを使っているかなどというのは、本当は意識しないにことしたことはないのだ。かつてビデオデッキの自動録画は、録画されたコンテンツがどのチャンネルでいつ何時に放送されたものなのかを曖昧化した。同じようなことが、配信サービス用デバイスには起こらないのだろうか。

 そして、そのためには、あらゆるサービスのコンテンツを横断的に検索対象にするのも重要だが、サービスに加入しなくてもコンテンツを楽しめる仕組みの提供も視野に入れていいのではないだろうか。月額1,000円のサービスに5つ加入するのではなく、3,000円で5つといった具合だ。

 まるで、どこかの電話会社のプランのようだが、自前のコンテンツを持たない仮想的なコンテンツプロバイダ、造語にするならVCPの登場が期待される。今のこうしたデバイスのUX再構築のトレンドは、その方向に向かっていることを暗示しているのではないか。ついこのあいだまで、FireデバイスではYouTubeが見れなかったし、Chromecastではプライムビデオが見れなかったことを思うと、そんなふうになるのも時間の問題のような気がする。

似ているのに違う

 Amazonは画面つきのデバイスとして、もう1つEcho Showを提供している。こちらは出自が違い、スマートスピーカーのAlexaを映像つきで使えるようにしたものだ。天気予報ひとつとってもビジュアルに表示されるし、タイマーのカウントを頼んでも、残り時間が表示されたり、料理に使うレシピなどもわかりやすく表示される。

 タブレットと同じようなタッチ対応液晶画面を持っているEcho Showだが、このデバイスでは各種の動画配信サービスを利用することはできない。プライムビデオは表示できるし、かろうじてYouTubeは表示できるが、その使い勝手はFireデバイスに遠くおよばない。

 Amazonに取材してみると、エンドユーザーからは、Echo Showでも各種映像配信サービスを利用したいという要望があるのは把握しているが、実現可能かどうかを含めて検討が続いているという。Echoデバイスでは、スキルと呼ばれる方法での機能拡張によって、いろいろなことができるようになる。ほかのデバイスにおけるアプリと似たような考え方だが、ちょっと違う。

 でも、ごく普通のユーザーからしてみれば、映像コンテンツを1人で楽しむのにもってこいの画面が目の前にあるのに、それができないというのは納得がいかないだろう。リモコンが欲しいという気持ちもあるかもしれない。しかも、Netflixはだめなのに、プライムビデオはちゃんと見れるのだ。その背景には、デバイスの価格を含め、いろいろなマーケティング的大人の事情があるに違いないが、いつまでもそのままではいられないだろう。サービス間のアフィリエイト的な加入誘導報酬など、何か別のビジネスモデルの成立が必要だとは思うが、Echo Showデバイスだけが我が道を行くというわけにはいかないだろう。