山田祥平のRe:config.sys

つながるのは当たり前、どうなるモバイル通信の新しい当たり前

 携帯料金値下げ周辺がホットだ。正確には値下げというよりも、低額プランの新設だ。今回のドコモによる新プランの衝撃的な価格は、いろいろと考えなければならない要素が多い。

ahamoの謎

 ドコモの新料金プランahamoが発表された。20GBで2,980円という衝撃的な価格が話題になっている。そして、同社はこの施策を「新ブランド」ではなく「新プラン」と位置づけている。

 現時点でわかっていることを列挙してみよう。

  • 1カ月2,980円で20GBのデータ容量。
  • 20GBを使い切った場合1Mbpsに低速化。ただし高速1GBを500円で追加可能
  • 基本料金内で1回あたり5分以内の国内通話無料
  • オプションとして1,000円でかけ放題を追加可能。
  • 20GBの範囲内で海外82の地域で追加料金なく3G通信を含むローミング
  • キャリアメールの提供なし
  • 2台目のデバイスを1,000円でデータ容量共有利用できるデータ通信プラン「データプラス」の提供なし
  • 「新規契約事務手数料」、「機種変更手数料」、「MNP転出手数料」などの事務手数料は無料
  • 受付はオンラインのみ。あらゆるサポートがオンライン
  • 既存プランからの移行に伴うSIMの交換の要否は未定
  • 既存プランと同じネットワークを利用、品質も同じ

 これらのうち、価格以外の点で、既存プランでは得られないサービスは、追加料金なしの海外ローミングのみ。逆に、既存プランでしか得られないサービスはキャリアメールと店頭サポート、データプラスということになる。サポートはいらない、キャリアメールも必要ないという毎月のデータ消費が20GB以下のユーザーであれば、通信料金の支払いを劇的に低くすることができる。

 ちなみに既存プランで2,980円相当というと、5Gギガライトプランの1GB分が月額3,150円、それに5分通話無料オプションの700円をつけて3,850円となるので大幅に安いことがわかる。

 20GB相当の既存プランはなく、次は一足飛びに100GB(キャンペーン中で現在は無制限)の5Gギガホとなり、価格も8,350円(月額7650円+5分通話無料オプション700円)に跳ね上がる。

 ただし、既存プランには、「みんなドコモ割」(3回線以上)、「dカードお支払割」および「ドコモ光セット割」などの割引サービスが提供されているので、実際に払う額は、さらに抑えることはできる。ahamoには、これらの割引がない。すべての加入契約が同条件で同価格だ。

既存プランと質が同じは本当か

 こうして現時点での情報だけを集めてみるかぎり、いいことづくめで既存プランから移行しない手はないように見える。データプラスが必要なら2回線契約すればいい。それでも安いからだ。データプラスは1,000円/月なので値段は約3倍になるが、データ通信だけではなく、5分通話無料がついてくる。20GBで足りなければ1GBを10回追加して10GB分5,000円を払って30GB使って7,980円だ。事務手数料が無料なので、ギガの足りない月にはもう1回線追加契約してすぐやめるという手も使える。

 気になるのは、既存プランと同じネットワークを利用し、品質も同じという点だ。これについては、発表会のあとの質疑応答でも質問してみたが、壇上の井伊基之社長は、ネットワークトラフィックの通り道については基本的に同じもので、どちらが有利でどちらが不利というものではないと発言した。だが、こればかりは話がうますぎて、現時点では鵜呑みにするわけにはいかない。

 他事業者はどうかと思ってKDDI広報に問い合わせてもみた。KDDIはauのセカンドブランドとしてUQを擁している。auとUQを比べた場合、現時点では回線の品質はまったく同じだとKDDIはいう。UQは過去においてauの回線を使うMVNOだったが、当時のUQについても、契約数に応じた十二分の帯域をKDDIからUQが卸しで購入していたため、実質的な品質としては違いがなかったともいう。

 そうはいっても会社が違う。

 ahamo のサービスインは3月なのでまだまだ先だが、すでに先行エントリーが始まっている。だが、実態がわかるまでは移行はおすすめしない。疑心暗鬼になっても仕方がない。これだけ安くできるには何らかの理由があってしかるべきだ。本当はそれを知りたい。契約に際する事務手数料等は無料なのだから、新規で契約し、実際に使った上で問題がないかを確認し、大丈夫だと確信が持てた時点でそれを解約し、既存プランを移行するのがいいだろう。

 既存プランを移行してから話が違う、と気がついても、ドコモ歴などはリセットされ、キャリアメールアドレスも失い、元のサヤに戻ったとしてもゼロからのスタートとなる。電話番号は変わらないにしても、それでは大きな損失になってしまう。

値下げ議論の行方

 ドコモの言うことを信用するなら、既存プランのコスト構造はリアルショップでのサポートとキャリアメールの運用が、かなりのウェイトを占めていたことになる。しかも、これらをいらないと思っているユーザーが少なからずいる。そのユーザーはいらないものに対してコストを負担してきたわけだ。

 つまり、サービスごとのコストの足し算で成立してきた料金プランを、いったん分解してしまい、必要最低限のサービスだけで組み上げた結果が、今回のahamoということになる。ずっとドコモが推し進めてきた通信に加えてのライフスタイル事業領域の面影が、この新プランには皆無だ。これは通信だけでビジネスをすれば、この価格でできるということを意味するのだろうか。通信会社なのだから、通信以外のビジネスには手を出さず、土管屋に徹するべきという議論は、ずっと以前から言われてきたことだが、構造的に、研究開発費や設備費に回す予算に影響を与えることはないのかどうか。また、それによって、5Gネットワークの整備や、次の6G開発への投資に影響はないのかも気になるところだ。ただでさえ周回遅れのIT後進国が、通信費を極限まで低廉化した結果、ITサービスを支えるインフラが追いつかなくなってしまうようでは本末転倒だ。既存のMVNOに壊滅的な打撃を与えて、結果的にMNOの寡占が進むだけという議論もある。

 こうしたことをひっくるめて、値下げについては議論されるべきだろう。ただ、今回のahamoについては、特別な条件が何もなくあくまでもシンプルにプランが設計されている。まさに裸のドコモなのかもしれない。じつにわかりやすいし迷いようがない。混乱する要素も皆無だ。ここは素直に評価すべきだ。