山田祥平のRe:config.sys

遠くにいればずっと好きでいられる

 ソーシャルディスタンシングの確保が求められるようになり、世の中のいろいろなシーンが変化を続けている。人と人との距離を保ち、3つの密を避けることで、新型コロナクラスターの発生リスクを低減しようとした結果だ。

3密回避のソリューション

 パナソニックのライフソリューションズ社が「屋内位置情報システムや各種データを活用した密回避ソリューション」のセミナーを開催、同社ソリューションの数々を紹介した。同社によれば、これらの感染対策ソリューションは、人と事業を守るために「非常時」も「通常時」も使える提案だという。今は非常時だが、そこから抜けたあとも役に立つから、企業としても導入しやすいというわけだ。

 1つの柱は屋内位置情報システム(LPS: Local Positioning system)を使った屋内の個人のデータの取得による混雑の可視化や履歴データの活用だ。任意エリアの人数を把握し、密集警報アラートなどをスマホで確認することができる。また、出勤率や席の利用率、各エリアの利用率が可能になり、人々の動線や滞在時間を可視化、不特定多数の混雑具合の確認が可能になるという。

 さらに、統合型セキュリティシステムとしてのeX-SGが、入退室情報の履歴をとり、共用ゾーン、専用ゾーンなどのセキュリティ統合管理を実施する。コロナ以前のオフィスでも使われてきたソリューションだが、それを使うことで、感染者が発生したときの濃厚接触者のトレースを行うことが可能になるという。

 また、あわせて、Space Playerと呼ばれる光と映像による注意喚起、空間誘導のスポットライト型プロジェクターで、床面に映像を投影して一定距離を保つように案内したり、マスク着用や対面を避けてといった注意喚起に活用する。

 同社では、これらのソリューションにもとづく製品を、これから順次、リリースしていく計画であるとのことだ。

最高ヘッドフォン再考

 今回のタイトル「遠くにいればずっと好きでいられる」というのは恋愛談義だったりするわけで、その理由をあれこれ書くほど野暮なことはしない。とにかく3密回避が当面続く。打ち合わせも、会食も、会見も、会議も、何もかも回避することが推奨されている。人に会って取材して戻って咀嚼し考えて書くというのを基本的な仕事としてきた立場としては本当に八方塞がりだ。

 それでもなんとか仕事の継続を考えなければならない。これまでの当たり前を、新しい当たり前に転換するためにも、身の回りのいろいろな当たり前を再考する必要がある。

 と、そこまで大げさな話ではなく、簡単なことから始めてみることにした。そこで注目したのがヘッドフォンだ。

 これまで、電車での移動などで音楽を聴いたりするのに重宝してきたヘッドフォン。飛行機に乗るときにはオーバーヘッドのノイズキャンセルヘッドフォン、短距離の移動ではカナル型のイヤフォンを愛用してきた。最近は、ケーブルの呪縛から解き放たれる完全ワイヤレスイヤフォンも接続性がずいぶんよくなってきたのでうれしく思っている。

 これらのデバイスは、人と人との距離を保つのが難しく、常に3密の状態にあることを余儀なくされる都市生活の中で、音空間的に隔離された状態を作り出すのに役立ってきた。いわば仮想的なソーシャルディスタンシングを確保するために役立ってきたわけだ。

 ところがリアルな生活が、ソーシャルディスタンシングを確保するようになってしまった。となると、重いオーバーヘッドや、長時間の装着で耳がつらくなるカナル型のイヤフォンなどを無理に使う必要性が希薄になる。

期待が高まる骨伝導型イヤフォン

 そこで、少しラクができないかと思って骨伝導型のイヤフォンを試してみることにした。ちょうど、Cheeroから比較的リーズナブルな価格でcheero TouchBoneが発売されたので使わせてもらった。

 骨伝導型イヤフォンは、スピーカーユニットを持たず、装着している人間の骨を振動させることで音声を再生する。いわば自分の頭がスピーカーの振動板になる仕組みで音声を聴けるというものだ。Bluetoothでスマホやパソコンと接続する。

 cheero TouchBoneの場合、ちょうどメガネを前後逆にして装着するようなイメージで頭につける。このとき、アクチュエータと呼ばれる振動部分を耳孔ではなく、その内側、こめかみのあたりに接触するように装着することで、アクチュエータの振動が頭蓋骨に伝わり、音としてきこえるようになっている。

 まわりの音はそのまま聞こえる。耳を塞がないので当然だ。タッチノイズも皆無だ。また、圧迫感もないし、耳孔もつらくない。丸一日つけていても大きな負担を感じない。コロナ禍で機会が限定されてきてはいるが、接客の必要なシーンでも重宝しそうだ。

 難点は音漏れだ。また、音量を上げていくとアクチュエーターの振動が激しくなって不快に感じるかもしれない。振動板がないとはいえ、振動の素はある。いってみれば、超小型のスピーカーをこめかみにあてて、骨全体に振動を伝えているようなものだ。頭から外しても、普通に音が聞こえるし、耳を覆えば音はさらにクリアでボリューム感も増す。

 喧噪の中で仮想的な孤独を作って集中するということが目的でない以上、骨伝導イヤフォンは今、かなりおすすめのデバイスだといえる。まさに3密回避環境下での利便性は絶大だ。気になる音漏れもソーシャルディスタンシングを確保しているなら他人に迷惑をかけるほどのものではない。それよりも、まわりの音が普通に聞こえることのメリットの方が大きい。こんなに快適で便利なら、もっと早く注目しておくべきだったと反省しきりだ。

 在宅勤務などでオンライン会議をするときにも、家族の邪魔にならないような音響環境を確保しつつ、周辺の音をシャットアウトしないので呼びかけられて返事ができないといったこともない。傍らに乳児を置いて仕事をしなければならないような場合にも安心だろう。また、来客や電話着信などにも普通に気がつける。外に出たら出たで、歩いていても、環境音を遮断することがないので安全だ。TVの音声が聞こえにくくなってきている高齢者などにも重宝してもらえるかもしれない。また、インターフォンなどと連動して家の中のあらゆるサウンドを集約できるデバイスとしても期待できる。そのあたりは、冒頭のライフソリューソンズ社にも考えてほしいものだ。

 製品のテクニカルスペックとしては、Bluetooth5.0、対応コーデックはSBCとAAC、IPX5の防水等級で、スマホ通話についても対応する。重量は34グラムだ。また、Teamsなどのオンライン会議では、ヘッドセットプロファイルとハンズフリープロファイル、A2DPを組み合わせて対応できる。再生はステレオ対応のA2DP、マイクはヘッドセットプロトコルを使うといった設定だ。

 マルチポイント対応のようで、複数台のパソコン、スマホに同時接続し、各デバイスの同時待ち受けで着信などを知ることができた。ただし、取扱説明書や製品紹介ページには記載がない。cheeroに問い合わせたところ、2台までの同時接続が可能だが、デバイスごとの接続が未検証で未記載ということだった。惜しいのは、充電端子がMicro USBであるという点だ。Cheeroは以前からType-Cのソリューションに熱心なベンダーなのに、ここだけが残念だ。