山田祥平のRe:config.sys

あの写真はどこだ

 自分のデータなのだから、いつでもどこでも快適に参照できるようにしておきたい。クラウドストレージはそれをかなえてくれたが使い勝手の点ではもうちょっとだ。その短所を補うためにモバイルストレージの導入を考えてみた。

万能ではないクラウドサービス

 手元のデータファイルの容量を調べてみた。過去に書いた原稿をはじめとするドキュメント類が約50GB、写真のファイルが約1.35TB、そして音楽ファイルを置いたiTunesフォルダが約400GBあった。その合計容量は2TBに満たない。PCを使い続けて四半世紀以上が過ぎたがこれがすべてだ。

 一方、メインに使っているPCには、500GBのSSDをシステムドライブにし、8TBと6TBのHDDを2台追加してデータ保存用に使っている。要するに容量は今のところはあり余っている。先のことはわからないが、それはそのとき考えればいい。

 約2TBのデータファイルは、複数のクラウドストレージに分散して同期させている。あちらのサービスからこちらのサービスへとファイルを移動するなどして、クラウドストレージの構成を大きく変えたりするときには、あらかじめ、ローカルのデータファイルを丸ごとコピーしておいてから作業する。心からクラウドストレージを信用しているというわけではないわけだ。

 ただ、地震や豪雨などの災害にあったとしても、デジタルデータがクラウドにあれば、とりあえずは安心だ。そういう意味では、あらゆるものがデジタル化されつつある現代は失われにくい時代だともいえる。

 そうはいってもクラウドサービスは万能ではない。やはりクラウド上のファイルのローカルコピーがほしいと思うことは多い。

 たとえば、出張先で原稿を書いていて、10年前に撮影した写真を記事に使いたいと思ったとしよう。そのファイルのありかを正確に記憶していれば難なく探し出せるはずだが、そんなことはまずない。ファイルを時系列で並べて、その当時の写真をザッとスクロールして見つけ出したいのだが、その作業についてこれるほどクラウドサービスのレスポンスはよくない。インターネット接続の速度の問題もあるが、どちらかといえばサービスのパフォーマンスの問題だ。

 近い将来には、AIによる深層学習で曖昧な自然言語でのイメージ検索が廉価なPCでもできるようになるとは思うが、現時点ではかなわぬ夢だ。現在のGoogleフォトは、かなりいいところまで行っているがもうちょっとだ。

 だが、ローカルにファイルがあれば、その不便は力業である程度解消できる。

速度と容量、そして価格で選ぶ外付けストレージ

 手元で使っているノートPCは、256~512GB程度のSSDをストレージとして持っている。最初に書いたようにデータの容量は約2TBあるので、それを全部クラウドと同期させて持ち運ぶというわけにはいかない。Windows標準のクラウドストレージであるOneDriveには、ローカルにファイルの実体を置かず、ファイルを使うときだけダウンロードする「ファイルオンデマンド」という機能がある。この機能を使えば、ノートPCのストレージを圧迫することなく、クラウド上のすべてのファイルにアクセスすることができる。

 これはこれで便利で重宝している。常用するすべてのPCに2TBのストレージを確保するというのは、とくにノートPCにおいては非現実的だからだ。

 ちなみに、OneDriveの容量はOffice 365 Soloを購入すると1TB分が含まれる。Office 365 Soloは1年間12,744円なので、これを異なるアカウントで追加購入すれば、合計2TBのストレージが25,488円だ。Officeがついてくるのが無駄に感じるかもしれないが、TB単位での容量確保にはこれが安上がりというのが現状だ。

 この価格は現時点ではGoogleドライブとほぼ同等だが、GoogleドライブはGoogle Oneへの移行が決まっていて、2TBの価格は現行の半額程度になるようだ。となれば、OneDriveも対抗上、増量などを期待したいところだ。やはりストレージは大容量が連続していたほうが使いやすい。

 クラウドサービスを活用しながら、そのウィークポイントをちょっとでも改善できないかと、比較的高速でそれなりの容量を確保できる外付けストレージを試してみることにした。

 まず、「サンディスク エクストリーム ポータブルSSD」。容量として250GB、500GB、1TB、2TBがラインナップされているポケットサイズのSSDだ。USB Type-CCコネクタが装備され、両端Type-CケーブルでPCと接続できる。製品にはType-Aへの変換プラグが同梱され、Type-A用端子しかないPCでも利用できる。データ転送はUSB 3.1(Gen 2)だ。

 しかも、保護等級 IP55 の防塵・防滴性能、耐衝撃性(最大1,500G)、 耐振動性(5g RMS、10-2,000Hz)というのも心強い。ちょっとやそっとじゃ壊れる気がしない。重量も38.9gと持ち歩きの負担もないに等しい。

 ただ、2TBの容量を選んだ場合、かなりの価格を覚悟しなければならない。調べてみるとヨドバシカメラでは85,800円の価格が設定されている。外付けHDDならもっと安上がりなのはわかっているし、完全なコピーがクラウドにあるのだから、万が一壊れるようなことがあっても失うものはないという割り切り方もできるのだが、SSDのスピードの魅力には勝てない。

 もっと小さくて財布のなかにも入ってしまうストレージというならSDメモリーカードを使うという手もある。SDメモリーカードは、今、最大容量が512GBだ。GBあたりの単価はSSDより高いが、持ち運びの負担がゼロに近いという点ではほかのメディアを圧倒しているといえる。

 Kingstonの「Canvas Go!」の512GBはAmazonで35,000円程度。KingstonのSDカードは、読み書きの速度によって3種類のシリーズが用意されているが、Canvas Go!はミドルレンジに位置づけられていて、最大容量がもっとも大きく選択バリエーションが豊富だ。

 SDカードを携行するさいは、むき出しの端子を破損させないように注意してほしい。メモリそのものにはなんの異常もなくても、財布の中などに入れて携行すると端子を実装した樹脂部分が割れてしまうようなことも起こりうる。そんなことがないように、なんらかの容器に入れて持ち運ぶ程度の気遣いはしたほうがいい。いっそのことmicroSDにして、常用のスマートフォンに装着しっぱなしにしておくというのも悪くない。

クラウドストレージとモバイルストレージの合わせ技

 予算と必要な容量、そして求めるスピードなどに応じて外付けストレージを選び、そこにクラウドストレージのファイルをキャッシュとして持っておき、PCといっしょに携行することができれば、いろんな場面で重宝する。もはや個人が自分でローカルストレージを管理していくという時代ではない。外付けストレージをファイルの仮の置き場として万が一のトラブルに備え、高速大容量のインターネット接続が確保できる場所でメインストレージにコピーし、それをクラウドと同期させるというのが現実的な運用だ。

 もちろんPCに内蔵されたストレージが高速で大容量であれば、それにこしたことはないのだが、PC本体とは分離されたストレージは運用の可用性が高い。クラウドと外付けストレージの連携環境は、PCのトラブル時も心強い。

 異なるフォルダに分散した写真のファイルを時系列に並べ、メタデータで検索したり、スクロールさせてブラウズすることができるAdobeの「Lightroom Classic CC」は、写真の管理ソフトとしても人気のある製品だ。このアプリはカタログと呼ばれるデータベースをローカルに置き、任意のストレージの写真ファイルを実体として参照することができる。仮に、写真ファイルの実体を保存した外付けストレージを接続していなくても、カタログだけでもある程度は目的の写真を探し出すことができる。

 デフォルトでは、カタログ関連ファイルは環境設定ファイルとともにピクチャフォルダに保存されるが、異なるPC間で生じたパス名の矛盾を解決するのはちょっと難しい。あらかじめ写真を外付けストレージにコピーしておき、そこからメインのカタログデータベースに読み込んだほうが手っ取り早い。最初は時間がかかるが、次回以降は追加なので短時間でできる。

 このあたりのワークフローを解決するのがクラウドサービスとしてのAdobe Creative Cloudなのだが、容量あたりの単価を含めて現時点ではちょっと無理がある。過去のデータをすべて管理というような用途は想定外なのだろう。

 写真ファイルを保存した外付けSSDを接続してカタログに読み込ませてみたところ、10万枚を超える写真を苦もなくスクロールしてブラウズすることができた。プレビューの解像度が低いのが難点だが、このくらいの性能が出れば、昔の写真からインスタ映えするものを見つけて公開するようなことは簡単にできそうだ。もちろんHDDに写真を保存しているメインPCよりレスポンスはいい。

 取材から戻ってデジカメのメモリカードからメインのPCにファイルをコピーすれば、それがクラウドストレージに同期される。そして、それをさらに外付けストレージに同期させる。そんな作業にはWindows標準コマンドラインツールの「robocopy」が便利だ。robocopyの/MIRオプションを使えば簡単に自動化できる。

 かつてのLightroomは写真の枚数が増えるとどうしようもなく重くなって使う気になれなくなってしまっていたが、知らない間にずいぶん進化したように感じている。