山田祥平のRe:config.sys

大きなPC、小さなPC、どっちもPC

 話題のPC、Microsoft Surface Goが日本でお披露目された。10型で1,800×1,200ドット、Surface伝統アスペクト比3:2のタッチ対応画面を搭載した522gのタブレットPCだ。

 カバー型のキーボードが別売りのこのフォームファクタを2in1とは呼びたくない。小さなPCの実用性は賛否両論あるだろうけれど、個人的にはこのサイズ感が1つのトレンドとなってほしいと思っている。

特殊なサイズにチャレンジ

 ノートPCの画面サイズと言えば、15.6型か13.3型というのがお約束で、それ以外のサイズのものは。いわば特殊用途とも言える位置づけだった。もっとも、モバイルを追求した製品なども「特殊」のうちだとしての前提だ。

 実際、唯一のPCとして、モバイル用途から据置用途まで、PCを必要とする作業をすべてこなそうと思うと、13.3型超のサイズがないと著しく生産性が落ちる。13.3型超サイズは、いわば大は小を兼ねる的な位置づけで使われてきたと言ってもいいだろう。

 だが、持ち出し禁止でオフィスで使うには15.6型がよくても、いざ持ち出しを想定するとかさばる。だからと言って13.3型では腰を据えて使うにはちょっと小さいというのが日本の市場だった。欧米では13.3型が定番的な扱いになりつつあるそうだが、日本の市場はちょっと異なっているらしい。

 そこで、その間をとった14型を新たな定番としようとする動きが出てきた。パナソニックの「レッツノートLV7」やファーウェイの「Matebook X Pro」、日本エイサーの「Swift 5」など魅力的な製品がそろいはじめている。

 レノボは多少の積極性が感じられても、HPやデルといった巨人ともいえるベンダーらは、このトレンドをキャッチアップできていないように見えるが、欧米でのトレンドが優先されるからなのだろう。

 とはいえ、わが日本が誇るパナソニックのレッツノートは、そのラインナップのなかで12.1型画面の「SV」、「SZ」シリーズがもっとも売れているそうだ。13.3型よりも小さい画面がレッツノートユーザーには受け入れられているのだ。

 こうした状況を作っているのには、PCは1人1台で、その1台にオールマイティが求められているという前提がある。おそらくは、12.1型は、そのミニマムに近い存在なのだろう。

 その一方で、レッツノートの「RZ」シリーズには根強い人気があり、その進化はRZ4の発売された2014年以来、停滞しているように見えても、現役の10.1型タッチ対応画面を持つ約750gの2in1 PCとして健在だ。しかもほかのベンダーにはほぼ選択肢がない。ほかのベンダーが手を出す気になれないフォームファクタであるとも言える。ちなみにその重量は、Surface GoにType Coverをつけた状態とほぼ同じとなる。

軽さ感とサイズ感は別物

 10型前後のPCになにを求めるのか。なんと言ってもその機動性だ。重量という点では富士通のLIFEBOOK UHが748gで、13.3型でタッチ非対応のモデルがクラムシェル機としてその軽量さを誇っている。画面サイズの大きさを求めながらも軽量さがほしいというニーズにはぴったりだ。

 また、NECパーソナルコンピュータの「LAVIE ZERO」は、内蔵バッテリ容量の違いで800g前後となり、富士通機に13.3型最軽量の座を譲っているが、クラムシェルではなく液晶が360度回転するスタイルの2in1 PCとしては最軽量だ。

 ただ、10型のフットプリントは、機動性の点で13.3型をはるかに上回る。重量よりもものを言う。狭額縁がトレンドの今、レッツノートのRZシリーズの10.1型は、12.1型に置き換えることができそうに見えるのだが、なかなかそうは問屋がおろさない。

 そこに開発リソースを投入する気がパナソニックにはなさそうにみえる。機動性が本体のフットプリントに大きく依存する一方、同じフットプリントなら画面は大きいほうがいい。パナソニックによれば、RZシリーズは、かなりニッチな市場ながら根強い人気があるそうだが、もしそうなら、本当はそのあたりをにらんだ製品改良を求めたいものだ。

 しかもSurface GoはInstant Go対応機でもある。発表会場の実機で確認したところS0iXに対応していた。年内にはLTE機の追加も予定されているそうなので、その展開にも期待したい。Microsoftでは、現時点でSurface GoをAlways Connected PC(ACPC)とはアピールしていないが、このことは、その機動力をさらに高めることになるだろう。

新たな市場を開拓するはずのSurfaceシリーズ

 Surface Goは、あのパナソニックでさえ躊躇する10型のニッチな市場を積極的に開拓すべく登場した風雲児だと言ってもいい。実機をじっくりと使ってみたわけではないので搭載プロセッサのPentium Gold 4415Yが、どれほどの実力を持っているのかは未知数だが、とにかくフォームファクタとしては魅力的だ。

 OEMパートナーにOSを提供するMicrosoftがPC製品を自ら製品企画して売るということには賛否両論あるが、同社の考えとしては、パートナーが積極的にやりたがらない分野に果敢にチャレンジして、新たな市場を作り拡げることがSurfaceのになう役割の1つであるという前提がある。

 10型で1,800×1,200、Surface伝統アスペクト比3:2のタッチ対応画面といった特殊と言ってもいい画面をいったいどうやって調達したのかと思って聞いてみたら、どうやらSurface Goのために特注したのだという。かなりの数を売る見込みがあるからこその特注だろう。

 その一方で、今どきのPCのベゼルにしては幅広額縁で、その要因としてマザーボードのサイズに影響を受けているという説明もうけた。そこでコストダウンをねらっているのかもしれない。

 拡張性という点ではヘッドフォンジャック、Surface専用コネクタ、従来のSurfaceとは互換性がないType Cover portを備えるほか、キックスタンドの内側にmicroSDXCスロットがある。また、USB Type-Cポートが1つ装備され、Power Deliveryにも対応するようだ。付属のACアダプタが24W仕様なので、30W程度のPDOを持つPDソースなら同等の充電ができるはずだ。

10型フットプリントがもたらす機動性

 10型デバイスの機動性は、レッツノートRZシリーズを4年近く使ってきた経験上、13.3型とはまったく異なるものだ。とにかく使う場所を選ばない。

 ちなみにぼくは1,920×1,200ドット解像度の10.1型を200%スケーリングで使っている。画面の情報量はガタ落ちかもしれないが、十分実用的にPCを使える。それでも、このPCでPhotoshopやInDesignを使う気にはなれない。そうしたアプリを使うには、もっと大きく広い画面がほしい。ただ、13.3型でも14型でも15.6型でも似たような感覚は持つのだ。

 時代が後押ししているという点では、Surface GoにはType-C端子があるというのは強みだ。ケーブル1本で対応する外部ディスプレイに接続すれば、充電しながら大きな画面で作業ができる。

 これなら、たとえSurface Goが唯一のPCであったとしても、外出時には本体だけで使い、オフィスや自宅では外部ディスプレイにつなぐような使い方も手間なく気軽にできる。発表会のステージでもType-C端子で映像を出力して画面に投影してデモが行なわれていた。

 10型PCの機動力の高さをどれほど訴えても、そんなPCならスマートフォンで十分代替できるというムードは厳として存在する。iPadと比べてしまうことも少なくないだろう。

 レッツノートRZシリーズがニッチで特殊な市場をになうPCであり続けている現状に、真っ向からチャレンジするSurface Goがその価値感をどう訴求していくのか。それ以前に、世のなかはSurface Goをどう受け止めるのか。いろいろと気になることは多いが、個人的には、これでこのカテゴリが刺激されればなにかが変わると考える。それができてこそのSurfaceシリーズではないだろうか。