山田祥平のRe:config.sys

モバイルよりも遅いんじゃ話にならない

 ネットワークインフラ、特に固定回線は空気というには極端だが、少なくとも電気、ガス、水道のようなユーティリティ的なものになってきている。普段はその存在そのものを忘れてしまうくらいだ。今回は、その見直しにチャレンジしてみた。

インターネット接続環境を再構築

 自宅兼仕事場のインターネット接続環境は、この地域にNTTのBフレッツサービスが開通したときに契約し、それ以来、何も手を入れることはせず、意識もしていなかった。いつのまにか、Bフレッツは「フレッツ光ネクスト」というサービスに変わっていたし、スピード品目も100Mbpsから200Mbps、そして、1Gbpsへと上がっていた。サービスの刷新は知っていたが、契約等を切り替えることなく今に至っていた。

 ところがここ半年ほど、光回線終端装置(ONU)がハングアップする現象を何回か経験した。机の下に転がっているONUは2003年にNTT東日本のフレッツIPv6サービス実験の参加モニターをしたときに以前のものと交換になったものだったと思う。さすがに15年近く前のものなので、経年変化もあるだろう。調子が悪くなってもおかしくないということで、NTTに連絡したところ、工事の人がやってきて新しいONUに交換してくれた。

 ついでに同じくらい長い間使ってきたルーターについても新しいWi-Fiルーターを購入して置き換えた。新しいONUはGigabit Ethernet対応のものだが、置き換えた新しいルーターの管理画面から見ると、NTT側とは100Base-T半二重で繋がっている。せっかくのギガビットなのだからと思い、フレッツ光の契約を変更し、ギガラインタイプにすることにした。Wi-Fiルーターは自前で用意するので、ONUまでがレンタルとなる。データの送受信は最大概ね1Gbpsだという。申し込みのときに「にねん割」を申し込んだので、トータルではこれまでより安くなる。

 宅内工事については必要なくNTT側のみで行なえば良いとされた。そして、伝えた希望工事日の午前4時頃に切り替え工事が行なわれ、朝7時以降にルーターなどを再起動しろという指示があった。

 朝起きて、ルーターを再起動してからルーターの管理画面を見ると、ONUとの接続が1000Base-T(全二重)と表示されている。この間まで100Base-T(半二重)だったものの表示が変わったのだ。NTT側が切り替えればこちらも変わる。ONUがEthernetそのものだということが実感できる。

 インターネット回線がギガビットになったのは良いが、宅内の配線はここに住み始めた20年ほど前のままだ。特に、有線LANについては、スイッチを買い足したり、ツメの折れたケーブルを新調したりはしていたものの、ほとんど手つかずのままだ。

 ところが、以前のままのメイン環境でスピードテストをしてみると、800Mbps超の速度が出る。ただ、一部の環境は100Mbpsに満たない。ほとんどのケーブルがカテゴリ5のままなのでこうなってしまうのだと推測して、ケーブルを交換すると満足するスピードが出るようになった。

 心配していたのは、部屋から別の部屋への配線で、壁の内側から天井を伝って別の部屋の壁を経てLANコンセントに至るルートだ。工事の際に余ったケーブルが手元に残っているが、しっかりCat5と書いてある。だが、当時の工事担当者が8本を全結線してくれていたおかげで、心配したほどの減速はなく、別の部屋でも800Mbps超の速度を確保できたのはラッキーだった。そうでなければ、壁内パイプの中のケーブルを交換しなければならないところだった。

 こうして、戸内の各部屋では、おおむね、ギガビットインターネットの恩恵が受けられるようになった。

IPv6接続を導入

 ご存じの通り、インターネット接続のためには、NTTとの回線契約と合わせて、ISPとの契約が必要になる。ぼくが使っているISPのIIJmioでは、速度によってサービス品目が変わるわけではないので、そのままの契約でいくことができる。

 ぼくの住んでいる地域は、きっと、それほど混雑していないのだろう。だからこそ、600~800Mbps程度のスピードがほぼ全時間帯で出る。これまでは80Mbps程度だったことを考えると雲泥の差だ。なんでもっと早く切り替えなかったのかと思うと同時に、10倍近いスピードが出ても、普通にインターネットを使っている分には体感速度が変わらないのにガッカリしたりもする。

 ところが、そうでもない地域もあるようなのだ。場合によっては数Mbpsまで落ちてしまう場合もあるという。

 原因は、NTTが敷設したNGN(次世代ネットワーク)とISPとの接続点にある網終端装置と呼ばれる設備なのだそうだ。個々のユーザーの通信は、NTTビルの中でISPごとに振り分けられ、それを介してデータが流れていく。その装置が混雑するようになると増設が行なわれるそうだが、なかなかこれがISPの思い通りにはならない。そして、絶対的な通信量に対して装置の能力が足りなくなると、そこがボトルネックとなって速度が低下するというわけだ。このあたりは、IIJが「てくろぐ」でわかりやすく解説している。

 このボトルネックの解消のために、IIJではこの設備をバイパスするサービスを提供している。今は特に不満がないスピードが確保できていても、将来的にどうなるかわからないので、先に手を打っておくことにした。それまで契約していた「FiberAccess/DF」というサービスを「FiberAccess/NF」に切り替えたのだ。DFサービスはPPPoEを使ってISPと接続するが、NFサービスはIPoEでNGNと直結される。IPoEでは、ボトルネックとなっている網終端装置を通らない。同様のサービスは大手ISPでは、BIGLOBEや@niftyの「v6プラス」サービスとしても提供されている。

 これまでとの違いは、ONUにEthernet接続された機器がネイティブのIPv6で通信を行なう点だ。PPPoEのようにIDとパスワードを使って接続する必要もない。認証がないのだ。NTTのホームゲートウェイや、対応ルーターを持っていれば、まさに、ケーブルを接続するだけで繋がる。IIJではDS-Liteと呼ばれるプロトコルを使い、IPv4通信についてはIPv6にくるんだ形で伝送され、インターネットとの接続を司るIIJのグループ会社インターネットマルチフィード(MFEED)がそれをほどいてIPv4インターネットにルーティングする方式をとっている。

 このサービスを申し込んで自分でやったことといえば、ルーターの管理画面でこれまでのPPPoEの接続エントリを削除し、IPv6パススルーを有効にすることだけだった。それだけで、ルーターより内側のデバイスはすべてIPv6とIPv4の両方で通信ができるようになった。心配していた外部からのビデオデッキ予約システム(DiMORA)も正常に使えた。拍子抜けするほどカンタンだ。

 IIJによればMFEEDはグループ会社であることから、密に連携をとって設備を増強していきたいとしている。ISPの思い通りになりにくいNTT管轄の網終端装置増設よりも柔軟な対応ができるというわけだ。現状で速度に不満を感じている場合は、この方法の導入を検討してみてはどうだろうか。おそらくはISPを変えても、PPPoEで接続している限り、大きな改善は望めないからだ。

 なお、対応ルーターとしては、バッファローの一部製品がある。

 こうしてIPv6が開通できた宅内環境だが、ボトルネック解消となるはずの網終端装置が回避できたにもかかわらず、IPv4のスループットは落ちてしまった。おおむね2割くらい遅く、400Mbpsを少し超える程度のスピードで安定している。契約は従来通りのPPPoEでの接続もできるので、場合によってはそちらに戻してもいいのだが、とりあえずは、このまま様子を見ることにした。

 個々のISPが、都道府県ごとに設備を持ってNGNに接続している以上は、どうしてもその設備の処理能力の影響を受けてしまう。そのボトルネックがないということは、これまでよりスピードが落ちていたとしても、それは、IIJとそのグループ会社であるMFEEDの責任であることがわかっている。これまでのように、IIJがNTTに設備増強を申し出ても、それが思い通りには受け入れられないという状況とは違うわけだ。ちょうど、モバイルネットワークにおけるMVNOがMNOから帯域を買うように、潤沢な帯域をISP自身の意思で確保できる限りは、従来よりも余裕がある接続ができるはず。そう信じて使い続けようと思う。