山田祥平のRe:config.sys

近頃都で流行るもの、その名はDX

 DXはデジタルトランスフォーメーション。今、多くの企業が直面しているテーマだ。いや企業だけではない。市井に生きる個人も同様だ。あらゆるものがデジタルの世界に正規化されていくし、いかなければ生き残れない。

キャッシュで補完

 新しいPCを手に入れて、ひととおりのセットアップが終わったところでデータの同期をはじめる。この作業は指示して待つだけでいいのでそれほど苦ではない。現時点ではだいたい50GBほどのデータをクラウドからダウンロードしてセットアップ中のPCにキャッシュする。たいした容量ではないので夜寝るときに仕掛けておけば起きる頃には終わっている。

 その大半は過去にやりとりしたメールだ。手元で使っているメーラーはOutlook 2016だが、このアプリではクラウド側のデータのうち、どのくらいの期間分のデータをキャッシュするかを指定できる。ここ1週間、ここ1カ月、ここ1年などなど、任意の期間をスライダーで指定できるのだ。

 既定値は3カ月だが、最初の起動時に、ぼくはここを「すべて」に変更する。これでクラウドにあるデータのすべてがローカルにキャッシュされる。ぼくの場合はほぼ25年分だ。仮に1週間分しかキャッシュしていなくてもネットワークにつながっているかぎりは不便はない。キャッシュにないデータはその場でクラウドに自動的にとりに行くからだ。

 ただ、自分の使っているデバイスがつねにネットワークにつながっているかどうかはわからないし、容量もたかが数10GBですむのでキャッシュすることにしている。ただ、この作業も将来的にはする必要がなくなるのが目に見えている。ネットワークから切断された状態でコンピュータを使うことは、今後、ほとんどないに等しくなっていくだろうからだ。

 高速に、そして常時クラウドとつながっているならキャッシュなんて必要ない。ほぼ30年分のメールを全部キャッシュしておくことなど意味がないのだ。早くそういう時代になってほしいと思う。

不満を感じるクラウドサービスのレスポンス

 Windows 10のFall Creators Updateで、OSビルトインのクラウドストレージサービスOneDriveにファイルのオンデマンド機能が追加された。個人的にはこの機能の追加、というよりも復活がもっともうれしかった。

 過去のOneDriveはプレースフォルダと呼ばれるクラウド上のファイル実体へのポインタを保持し、ユーザーからはファイルやフォルダの実体があたかもそこにあるように見え、開いたりコピーしたりといった操作に伴い、必要なときにそれをダウンロードするという方式で提供されていた。その仕組みに近いものがちょっとモダンになって帰ってきたのだ。

 これでクラウド上のあらゆるファイル、フォルダが手元にあるように見えて、高速なネットワーク環境さえあれば、本当にそうであるかのように扱うことができる。

 手元では、先に書いたメールの同期と同時に、仕事に関する一部のフォルダをローカルにキャッシュしているが、メール同様、これも時間の問題だ。

 とにかくネットワークとクラウドサービスのレスポンスが今よりよくなればその必要はなくなる。ただ、自宅で数百Mbpsでネットワークにつながっている環境でも、クラウドサービス側のレスポンスが悪すぎるので、当面はキャッシュに頼らなければなるまい。ネットワーク側の問題は解決できても、クラウドサービスがそこに届かない。このことはいろんな意味でデジタルトランスフォーメーションを阻害していると言えそうだ。

インスタントメッセージのメリット、デメリット

 メールにしてもファイルにしても、なぜ、キャッシュしてまで過去のものにこだわるかというと、検索をしたいからだ。あの話はあそこにあるということをピンポイントで人間が覚えていられればいいが、やっぱりそうはいかない。だから検索に頼る。過去のメール、過去に書いた原稿のなかから、そのとき知りたいことを探し出すのだ。

 まあ、テキストの検索については対象となるデータがクラウドにあってもそれなりのレスポンスで答えが見つかる。ただ、数百枚程度の画像をザッと見て、そのなかから目的のものを探し出すといったことを望むとストレスがたまる。やっぱりファイルはローカルに置かねばとは思いなおす。

 でも、これにしたってAIがうまく機能するようになって、自分のファイルを対象とした検索でも有効に活用できるようになれば不便は一気に解決するだろう。今も、Gmailを使い、Google Driveにあらゆるファイルを置いているユーザーなら、それに近いことができているんじゃないだろうか。

 その一方でやっかいなのがインスタントメッセージだ。メールやファイルのように自分で自分のデータを管理するのが難しい。

 個人的に常用しているインスタントメッセージはFacebook Messengerだ。基本的にクラウドサービスなので、いつでもどこでもどんなデバイスからでも参照できるし、新着のメッセージについては向こう側からプッシュしてくれる。短いスパンのなかではあまり不便は感じない。

 ところが、過去のメッセージについていったいいつまで残しておいてくれるのかがわからない。ザッと確認してみるとほぼ1年分が残っているようだが、相手によってはそうでないこともある。専用のアプリを使ってキャッシュすることもできないので、ここはなんとかしてほしいところだ。

 インスタントメッセージで交わした短い会話のなかにも、どこでメシを食ったかとか、誰それの連絡先といったそれなりに重要があるのだ。確か3年前に、あの話題について会話したはず、といった曖昧な記憶のなかでも的確にその情報を探し出せるようになっていてほしいと思う。それともデジタルの偉い人たちは、3年前の情報からなど、なにも得られるものはないと考えているのだろうか。

 ここのところ、メールよりもインスタントメッセージのほうが、相手のプレゼンスもわかるし、スピーディで確実ということで、メールはレガシー、一時代前のコミュニケーションツールという扱われ方をされる傾向にあるようだが、個人的には絶対そんなことはないと思う。メールの返事に「いいね」のひと言をスタンプしたってかまわないのだから、それはもう運用次第といったところではないだろうか。

 ちなみにMicrosoftのインスタントメッセンジャーサービスSkype for Businessでかわした会話はExchangeサービスに統合されているので、その情報がOutlookのデータとして「会話履歴」が残るようになっている。これなら過去の会話もOutlookで検索管理できるのがうれしい。Skypeは個人向けと企業向けが同じ名前で、アプリについてもその区分けがよくわからないので、ここはきちんと整理するなり統合するなりといったことをMicrosoftは考えるべきだと思う。

 直近ではMMSを復権させようといった声も聞こえてくる。確かに電話番号で連絡がとれるMMSやSMSはある種のコミュニケーションには便利かもしれない。個人用の電話番号は、維持する意思があるかぎり、メールアドレスのように入学卒業、入社退社、転職などで変えることなく生涯使える。

 だが、デジタルトランスフォーメーションの時代に、あえて、電話番号という物理的な端末と紐付けられるツールに頼るというのはどうなのだろう。ちなみに、ぼくがスマートフォンで使っているメールクライアントは、特定の端末に届いたSMSやMMSのメッセージをそのままメールと同じように扱ってくれる。

 つまり、特定の端末に届いたメッセージを、ほかの端末ではメールとして読むことができて便利なのだが、その場で返事をしようとするとやっかいなことになる。なによりも、受信するためには端末にずっと電源を入れておき、電波圏内においておかねばならない。

 いずれにしても、端末を限定するクラウドサービスというのは、もういいかげんになくなってほしいと思う。いろんな意味でデジタルトランスフォーメーションを阻害しているといってもいいかもしれない。

 自分でPCを持ち歩くようになってほぼ30年がたつ。エプソンのPC-286Lを買ったときからだ。以来、いろんな面からデジタルトランスフォーメーションを自分なりにやってきたつもりだ。それでも今、不満に思うことはたくさんある。

 基本的にぼく自身はほぼ30年前に自分で決めた手書きとの訣別が自分自身のデジタルフォーメーションを推進する原動力になったように思う。だから電子ペンでの手書きにはあまり熱心ではなかったりするのだが、ここも技術的にこれからどんどん進化していくのだろう。そうなったら30年目の再DXも考えたいと思う。お楽しみはこれからだ。