山田祥平のRe:config.sys
ギガが増えただけ
2018年2月16日 06:00
5Gモバイルネットワークの商用化サービス開始まで秒読み段階だ。けれども、5Gになって何が変わるのかという先の話は見えにくい。これから2月末にはMWCがあり、数々の5Gの進捗が華々しく紹介され、それを受けて商用サービスが始まり、2020年の東京オリンピックではその華やかなユースケースが実験ではなく実用として披露されるはずなのだが……。
商用サービス開始まで秒読み
Samsungは今、もっとも5Gに近いところにあるベンダーの1つだ。2G、3G、そして4Gと推移してきたモバイルネットワークだが、さらに進化したネットワークとしての5Gのモバイル通信技術はより広域に、速く、大きなデータを送れるようになる。その特性を活かし、より多くのユースケースを想定する必要がある。IoTセンサーを集めて情報を収集すれば何ができるのか、デジタルサイネージはどうなるのかといったことを考える必要がある。そもそも暮らしは変わるのか。
Samsungネットワーク事業部常務DongSu Shin氏は、Samsungはいろんな製品を作っているが、ネットワークはその製品をつなぐ重要な事業であるという。当然、5Gへの取り組みにも熱心だ。
米国でもティアワンオペレータに協力し、ベライゾンなどは2018年度に商用化を予定しているほか、総計11のトライアルを実施したうち7個をSamsungが協力したという。現在は、カリフォルニア州の州都であるサクラメントでの準備を進めているところで、それが最初の商用5Gネットワークになるそうだ。
また、韓国でも同国の通信事業者であるKTとSKテレコムと協力関係にあるほか、日本でもドコモやKDDIと協力して実証を進めている。
商用サービスのメドがたっているのは現時点でベライゾンだけで、早い国でも2018年度末から2019年、遅い国は2020年から2021年あたりに商用サービスを開始することになるだろうとShin氏。韓国、アメリカ、日本で着々と準備を進めるSamsungだが、世界で最速の5G導入がこの3カ国になるとのことだ。
いま、Samsungは28G帯に注力している。とてつもない高い周波数だが、だからこそ広い帯域を確保できる。いま、モバイルの世界では、周波数として6GHzを境に、6GHzより上と下を使い分けようとしている。中波ラジオのKHz帯は高周波と習った身からすると、6GHzもの高い周波数を高周波数、それより低い周波数を低周波数と呼ぶのには抵抗があるが、モバイル業界ではこの呼び方が定着しつつあるようだ。
速さは正義というけれど
手っ取り早くいうと、5Gネットワークでは広帯域で低遅延のデジタルコミュニケーションが実現できる。スループットにして2Gbpsといった値だ。いま、家庭に入ってきている光回線がおおむね1~2Gbpsだが、それと同等の速度が得られることになる。
もっとも、そんな速度の回線が家庭にきていても、現時点で、家庭用ルータのLAN側はたかだかGigabit Ethernetで、PC側のインターフェイスも同様だ。測定したところでそんな速度を体感することはできない。うちは、1Gbpsのサービス回線だが、日常的には500Mbps程度、いいときでも700Mbpsを超えるスピードテストの結果を見たことがない。だから、2Gbpsでの通信ができる世界がどんなものなのか想像できないのだ。
1Gbpsというと1秒間に1Gigabit、おおよそ120MB/sだが、高速SSDと同じくらいの速度でモバイルネットワークを利用できると考えるとわかりやすいかもしれない。コストのことを気にしないで使えるのなら、もはや、ローカルにストレージはいらないくらいだ。
PCの世界でHDDからSSDに主流が入れ替わる時期に、個人的にうれしかったのは、速度よりも安心感だった。なにしろスピンドルがなく回っていないことになによりも安心感が得られた。回転を停止してヘッドを退避したりする必要もなく、ある程度の衝撃があってもそれがなにか的に作業を続けることができる安心感はなによりもありがたいと思った。
今でこそ、笑い話になるが、PCの技術者に、なぜ、SSDのように怖いものが受け入れられるのか理解に苦しむといった話を当時聞いた覚えがある。彼にいわせてみれば、確かに書き込んだ磁気は、なんとかして取り出せるが、SSDではそれは無理だから怖くて使えないという論理だった。
5Gがもたらす夢のような世界に説得力が欠けているのはそういうことだと思う。やはりまったく新しい利用モデルを提案できなければ、4が5になってギガが増えたくらいにしか認識されないからだ。
PCのベースクロックがどんどん上がっていって、Pentium IIIがそのクロックを1GHzにしたとき、「新しい単位を覚えましょう、ギガです」とIDFで興奮しながら叫んでいたのは当時の上級副社長アルバート・ユー氏だったろうか。確かにギガの世界は、PCにものすごく大きな変化をもたらすことになるが、果たして当時、そのはるかなる未来は見えていたかどうか。クロックだけでいえば20年たって、たった3倍にしかなっていない。
なんとなく、今の5Gは、その20年近く前の頃を彷彿とさせるのだ。
そのインテルも、今、5Gネットワークに注力しているのはご存じの通りだ。
ネットワークの金メダル
PCの30年間を、その成功も失敗も忠実になぞりながら3倍の速度で駆け抜けようとしている。それが今のモバイルシーンのように感じる。失敗をうまく避けることができれば、もっと大きな成功が待っているのにとも思うが、そうは問屋がおろさないのだろうか。
いずれにしても東京オリンピックまではあと2年もある。オリンピックのビジネスモデルはもう廃れたといわれながらも、その祭典の場が世界に強くアピールできるという点ではまだまだ有効だ。
2年後の東京では今回の韓国でのオリンピックよりも、より具体的に、夢を実現した具体的な5Gの姿をきちんと見せられるかどうか。今、5Gにかかわるあらゆるベンダーにがんばってほしいと思う。ネットワークの金メダルをめざしてほしい。