4K修行僧
第12話。8K修行僧見参!
~3千万画素の写真を等倍で、テキストなら32万文字を表示可能という広大な空間
2017年6月13日 06:00
この連載を始めてそろそろ2年が経つ。当初4Kというのは一部のアーリーアダプタ向けの環境だった。いまではPlayStation 4やXbox One Sなどが4K対応し、TVも2016年末には4K製品の割合が3分の1を超えるなど、徐々にではあるが、もう少し下の層まで降りてきているように見受けられる。だが、まだ少数派だと思われるし、とくにPCで4Kディスプレイを使っている人はごく一部だと思う。
HDMI 2.0(4K60p)に対応するPCやディスプレイも増え、UHD BDドライブも登場(こいつ(UHD BD)……、(PCで)動くぞ……! もし、動作環境がニュータイプなら)するなどしているが、まだ環境に制約があったり、一部のWin32アプリの高DPI表示に問題があったりと、メインストリームになるにはまだ時間がかかりそうだ。
しかし、先陣を切って高解像度の海原に身を投じるのがこのコラムの目的。
今回は4Kを超え、8Kディスプレイで修行する機会を得たので、その使用感をお届けしたい。
デル「UltraSharp UP3218K」を使う
今回利用したのは、デルの31.5型8K液晶ディスプレイ「UltraSharp UP3218K」だ。日本では今夏発売とのことで、日本での価格は未定だが、米国では4,999.99ドルなので、60万円前後になるものと思われる。いま、ハイエンド55型4K有機EL TVがだいたいそれくらいの価格だ。なるほど、解像度だけを考えればお買い得感もある。
って、惑わされるな俺。絶対額は1カ月のお賃金を余裕で超えている。
ということで、マントラを唱えて、はやる気持ちを抑え、今回はデルから機材をお借りすることにした。
スペックとしては、解像度が7,680×4,320ドット(8K)、表示色数が10億7千万色、輝度が400cd/平方m、中間色応答速度が6ms、コントラスト比が1,300:1と、解像度以外もハイスペックだ。駆動方式はIPSで広視野角だが、光沢式のため反射は気になる。
シルバーを基調とした鋭角なデザインは未来的で、かなりイケていると思う。
まず8Kディスプレイを使うのに必要な環境だが、DisplayPort 1.4×2を装備したビデオカードが必要となる。そう、ケーブル1本では帯域が足りず、2本つなぐのだ。一応ケーブル1本でも8K表示はできるが、リフレッシュレートが30Hzとなる。8K/60Hzにはケーブルが2本要る。ちなみに、入力インターフェイスはDisplayPort×2のみで、HDMIはない。
デルでは、GeForce GTX 1070以降、Quadro P5000以降、Radeon RX 480以降、Radeon Pro WX7100以降を推奨している。今回はGeForce GTX 1080 Tiを用いて検証した。
ちなみに、お借りしたディスプレイはサンプル機ということもあってか、再起動時に映像がうまく出ないことがあった。こういう時は、いったん入力2のケーブルを外し、Windowsが起動したらもう1本をさすとうまくいった。
眼前に広がる広大な空間
パネルサイズは31.5型。普段会社で使っているのは27型で、一回り大きい程度だが、約60cmの設置距離だと四隅を観るには、27型よりも大きく目を動かす必要がある。
だが、そんなことより、文字通り目を見張るのは、その圧倒的な解像度だ。
7,680×4,320は33,177,600ドット。言い換えると33メガピクセル。これは、たいていのハイエンド一眼レフ/ミラーレスカメラの写真も等倍で表示できることを意味する。
筆者のソニーのα6300は6,000×4,000の2,400万画素。この解像度だと、Photoshopなどで開いたとき、等倍表示にしても上下左右に余白があるので、メニューやツールなどを隠したり折りたたまなくてすむ。
テキストに至っては、半角文字なら秀丸で32万文字を一度に表示できる。全角文字でも16万文字で原稿用紙400枚分。ちょっとした小説を1画面に表示できる計算になる。これは等幅フォントの場合なので、プロポーショナルフォントならさらに表示可能だ。
筆者は普段、4Kディスプレイを4分割して、フルHDのウインドウを4枚表示させているが、ブラウザで情報を参照しつつ、Photoshopで写真を編集し、CMSにセットしてコンテンツを生成し、SNSで最新のニュースもチェックするなどしていると、4ウインドウでは足りないので、タブやウインドウを切り替えつつ作業している。
これも8Kなら、フルHDのウインドウを4×4で16枚並べられるので、切り替えが完全に不要になる。むしろ持て余すほどだ。
8Kという空間がいかに広大であるかおわかりいただけただろうか。
実際のアプリでの使用感は?
とはいえ、これはスケーリング100%(等倍)の状態での話。31.5型8Kの解像度(dpi)は280dpiに達する。これは等倍で見るべき解像度ではない。
筆者は視力が1.5以上で、27型4K(163dpi)なら、等倍でも10ポイント前後の文字を読めるし、実際そうして使っている。
だが、31.5型8Kでは、全角文字はぎりぎり読めても半角文字は判別がきつい。タスクバー右の時計や日付は、さらにフォントが小さいうえ、距離も遠いのでまったく読めない。
と言うことで、さすがにスケーリングを200%にした。これで画面を4分割すると、それまでと同じフルHD×4ウインドウの環境となる。テキストの情報量は減るが、フォントにスムージングが効くため、文字は圧倒的に読みやすくなる。
テキスト作業の場合
もう少し具体的に書くと、スケーリング200%なら、Chromeはフォントサイズ中でPC Watchの記事を十分閲覧できる。秀丸はMS Pゴシックの10.5ポイントだと、文字は問題なく読めるが、やや小さいのと、スケーリングによりボールドのような文字になるので、メイリオの10.5ポイントにした。
この環境は1つのウインドウが15.6型のフルHD相当なので、それがつらい人はフォントサイズをもう少し大きくする必要がある。
筆者はこれまでPCで4Kを使うメリットは情報量の多さだと説いてきたが、8Kの解像度すべてを情報量につぎ込むのはdpiの点で無理がある。だが、8Kならスケーリング200%にしても4K分の情報量があり、かつ文字表示は美麗で読みやすくなる。
ちなみに、8K等倍で何文字表示できるかを数えるに当たり、円周率100万桁を掲載しているサイトからテキストをコピペして、10桁ごとに入っている余分なスペースと、100桁ごとに入っている改行を置換機能で削除したうえで1画面分の文字数をカウントした。このとき知ったのが、秀丸での数万文字分の置換処理は重いということだ。
通常の原稿編集だと、置換するのは多くて10個程度の文字列なので瞬時に終了するが、先の作業には何分もかかった。ただし、置換作業ウインドウの「スピードアップ」を押すと、作業が終わるまで画面の書き換えを行なわないので、時間をかなり短縮できる。
もう1つわかったのは、秀丸がシングルスレッドアプリだということだ。置換作業中は8個ある仮想コアのうち、1つだけが100%近くになっていた。秀丸を開発しているサイトー企画さんは、この連載を読んでおられ、以前指摘した秀丸の高DPI対応をなさってくれたので(みんなの秀丸エディタが4Kに対応参照)、これを読んでマルチスレッドにも対応したりしないかなぁなどと勝手なことを思っている。
写真作業の場合
スケーリング200%だと、情報量は4分の1となるが、それはテキストの場合。写真閲覧アプリや編集アプリで写真を表示するさいは、画像の部分は等倍で表示される。そのため、前述のとおり、3,000万画素近い写真も等倍で表示できる。
筆者はあまりPhotoshopやLightroomなどの写真編集アプリを使いこなしてはいないので、3,000万画素等倍表示の恩恵を十二分には受けていないが、以前、写真家の方に聞いたとき、撮影した写真の中からピントがきちんとあったものを選び出すさいに4K解像度が役に立つということだった。
状況にもよるが、写真家の人は1回のロケで数百枚撮影することもザラ。その中からまずは編集や現像前に問題のないテイクを選び出す。通常のディスプレイでは数分の1に縮小表示されるか、等倍では部分表示しかできないので、細かいところまでピントがあっているかの確認に時間がかかることもある。これが8Kなら一目でわかる。
α6300で撮影した2,400万画素のJPEG写真は1枚10MB前後のサイズだが、HDDに保存しても転送速度は十分間に合うので、Windows 10のフォトアプリだとカーソルキーを押すたびに、次の画像を瞬時に表示できる。
編集の性能については、Photoshop CCのCamera Rawフィルターで、2,400万画素の写真を使い、補正前と補正後を並べて表示しつつ、露光量やコントラストなどを変更しても、Core i7 7700K+GeForce GTX 1080 Tiというマシンを使っていることもあり、ストレスなく修正できた。
本製品は、Adobe RGB 100%、sRGB 100%、Rec. 709 100%、DCI-P3 98%対応ということで、光沢による反射こそやや気になるものの、忠実な色表示ができるので、写真編集にはうってつけといえるだろう。
なお、Photoshop CCはデスクトップをスケーリングしても、UIに反映されず等倍となる。これだと文字もアイコンもほとんど判別できないので、編集→環境設定→インターフェイスで、UIスケールを200%にしよう。
動画作業の場合
動画編集については、Vegas Pro 14.0の場合、スケーリング200%にすると、UIだけでなく、動画のプレビューも拡大されるようだ。「ようだ」と書いたのは、目視ではそれが等倍なのか2倍なのかわからないが、プレビューウインドウの「表示」の情報を見ると、スケーリングがかかった相対解像度になっている。そのため4K動画をフル表示しつつ編集はできない。
とはいえ、8Kの200%スケーリングでは、画面の4分の1を使ってフルHDの動画をフルサイズ(正確にはスケーリングがかかっている)で表示しつつ、残りのフルHD×3の領域を使って、タイムラインや各種ツールのウインドウを表示できる。一般的な動画ではこれで問題ないだろう。また、プロフェッショナルな編集現場では、プレビューは外部の専用ディスプレイに表示するだろうから、Vegas上でプレビューを等倍表示できなくても、大きな問題にはならないだろう。
他の編集ソフトでは、スケーリング時でもプレビューは等倍表示可能なものもあるとは思うので、そういったソフトなら4K動画を等倍表示しながらの編集も可能だ。
動画の再生については、今回のマシンは8K動画も再生できる。YouTubeにはすでに8K60pの動画がいくつかアップロードされている。YouTubeということで、オリジナルからある程度圧縮がかかっているとは思うが、8K動画は息をのむ美しさだ。それもそのはず。もちろん圧縮率や絵作りの点で違いはあるが、解像度で言えば一眼レフで撮影した写真を等倍で秒間60コマ表示しているのだから。
ディスプレイの画素があまりにも小さいため、4K動画を2倍に引き延ばして再生しても十分きれいではあるが、8Kだとより鮮明で引き締まった映像となる。フルHD以上の世界は、解像度だけを上げても画質の差が出にくいのだが、8Kカメラがプロ向けのものしか存在しない現時点で、YouTubeに上がっているネイティブ8K動画は、静止画をつなげたタイムラプス動画を除いて、最高レベルのカメラ/スタッフによって撮影されたであろうものばかりで、どれも美しい。今後HDR化が進めば、より美しく高品位な動画を楽しめるようになるのが待ち遠しい。
ただし、Chromeでは高解像度動画の再生に問題がある。GPUによる再生支援が効かないのだ。4Kでは8コアすべての負荷が50%前後、8Kでは100%前後にまで跳ね上がる。再生も8Kでは大幅に、4Kでも若干のかくつきが出る。一方、Edgeを使うと、8K動画でもCPU負荷は10%未満でコマ落ちは一切発生しない。Chromeで動画再生支援機能がうまく働かないのはかなり以前から指摘されているが直る気配がない。
ゲームの場合
ゲームについては、だいたい想像できると思うが、8K等倍は重すぎる。Core i7 7700K+GeForce GTX 1080 Tiだと、最高画質設定でフルHDでは「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク」で16,000オーバーの結果で、4Kでも「非常に快適」の7,000オーバーとなるが、8Kでは約2,000で「普通」評価となる。普通なのでプレイは可能だが、フレームレートは常時30を下回るので、アクションゲームには向かない。また、8Kにしても、確かに映像は美麗だが、実質的なメリットはあまりないだろう。
ストリートファイターVは、最高画質だと4Kでも厳しいが、中画質だと8Kにしても、通常は60fps近くを維持できた。ただし、必殺技を出すととたんに重くなる。鉄拳7は最高画質でも4Kで60fpsを出せるが、8Kにすると10~20fps前後になった。いずれも8Kでのプレイはきつい。
もしこの解像度でスムーズにゲームをしたいならGTX 1080 Ti以上のSLIが必要になるだろう。はたしてSLIが8K解像度に対応しているのかは確認していないが、SLI HBの転送速度は3.25GB/sあるはずなので、8Kで片方のGPUが秒間30フレーム描画するとしたら、7,860×4,320×24÷8×30で、3.05GB/sと8Kを60fpsでぎりぎり描画できる計算になる。
ファイナルファンタジーXIVと鉄拳7は8Kで20fps前後だったので、SLIでもスムーズとは言いがたいが、プレイ可能な範囲にはなる。
高解像度を有効活用するとしたら、ゲームはウインドウ表示で全画面の4分の1くらいにしておき、残りの画面にはブラウザなどを開いて、攻略情報などを参照しつつプレイするのが現実的なところだろう。
じゃっかんの問題も
このほか高解像度が生かせそうなものとしてGoogle Mapsを表示させたところ、等倍8K解像度ではChromeでもEdgeでも画面がうまく表示されない問題があった。ウインドウを4Kにすると表示できるので、8K分の情報を読み込んだときに、うまく表示できないようだ。
不具合ではないが、ディスプレイの額縁がかなり熱を持つのが気になった。左右は42℃前後、下は45℃前後、上は50℃前後になる。やけどまではしないが、家庭で使う場合は、小さな子供の手が触れないよう気をつける必要があるだろう。また、下部にあるOSDでディスプレイの調整をするときも、留意する必要がある。
これでもこの製品はファンを内蔵している。騒音はオフィス環境では気にならない。と言うより、スタジオで写真を撮るまでファンが動いていることに気がつかなかったほどだ。騒音が低いのはいいことだが、もう少しファンを回してでも廃熱した方がいいのではと思う。
俄然ほしくなってきた8Kディスプレイ
今回は基本的にスケーリング200%の設定で常用してみた。これまでのこの連載では、Windowsのスケーリング周りの問題からスケーリングはあまり推奨してこなかったが、Windows 10もAnniversary Updateあたりからスケーリングが改善された。
これにより、古めのWin32アプリもスケーリングを行なっても描画がおかしくなることが減った。iTunesも最近のアップデートでスケーリングに対応し、筆者の環境だと表示がおかしくなるものは皆無となった。
UP3218Kは1週間程度しかお借りできなかったので、試し尽くせていない点もあるが、機能面ではフルHDや4Kと比べてマイナスとなる点は見当たらず、一眼レフ写真の等倍表示など8Kでなければできない世界もある。もちろん、ハイエンドなGPUが必要となる点や、5千ドルという価格から、誰でも気軽に買える代物ではないが、可能ならこのまま8K環境を使い続けたいというのが正直な感想だ。
と言うことで、8KのKAITEKIDOは最高の4Kとさせていただくが、残念ながらこの連載は次回からまた4K修行僧に戻ることになる。