イベントレポート

【AMDブース編】モバイル向けRadeon R9/R7/R5 M200とMantle対応Catalyst 14.1

~VESAが策定したDockPortの意外な正体とは

Radeon R9 M290Xを搭載したCLEVO P150SM
会期:1月7日~10日(現地時間)

会場:Las Vegas Convention and World Trade Center(LVCC)、LVH、The Venetian

 米AMDは、1月14日(現地時間)に発表する予定のメインストリーム向けAPU「Kaveri」を中心としたソリューションを同社ブースに展示しているが、それと同時にいくつかの次世代ソリューションを紹介している。その中にはノートPC向けの最新GPU、Catalystと呼ばれるAMDのGPU向けのデバイスドライバの最新版、またVESAで標準規格と認証されたDockPortなどのソリューションを紹介していた。

 本レポートでは、そうしたAMD関連の話題で、これまでの記事では伝え切れていなかった話題をお伝えしてきたい。

従来製品をリネームしたRadeon R9/R7/R5 M200シリーズを発表

 今回AMDが発表したRadeon R9/R7/R5 M200シリーズは、2014年型のノートPC向けGPUとなる。以前はMobility RadeonとしてリリースされていたノートPC向けのGPUで、デスクトップPC向けがRadeon Rシリーズにブランド名が変更されたことに合わせて、ノートPC向けもRadeon R9/7/5 M200シリーズと、ブランド名が同じスキームに変更された。

 しかし、この新しい製品に利用されているダイは、Radeon HD 8000Mシリーズのダイを転用したもので、基本的にはRadeon HD 8000Mシリーズと機能や性能は同じ。ダイは上位製品となるRadeon R9 M290XがPitcairn、下位製品となるRadeon R7 M265/R5 M230がOlandsがベースになっている。

 このため、性能もほぼRadeon HD 8000Mシリーズに近いモノになっており、最上位SKUとなるRadeon R9 M290Xは、昨年(2013年)の5月に発表されたRadeon HD 8970Mとほぼ同等のスペック。True Audioなどには対応しない。ただし、GCN世代であることには変わらないので、Direct3D 11.2、OpenGL4.2、Mantleなど最新APIには対応する。なお、別途新アーキテクチャに基づいたGPUも計画されており、第2四半期頃に投入する予定であると説明している。

【表1】AMDが発表したRadeon R9/R7/R5 M200シリーズ(AMDの公式発表資料より抜粋)
ブランドRadeon R9 M200Radeon R7 M200Radeon R5 M200シリーズ
SKURadeon R9 M290XRadeon R7 M265Radeon R5 M230
ダイPitcairnOlandsOlands
エンジンクロック850MHz(Turbo時900MHz)最大825MHz最大1GHz
アーキテクチャGCNGCNGCN
コンピュートユニット20最大6最大5
ストリームプロセッサ1,280最大384最大320
メモリスピード4,800MHz最大3,200MHz最大1,600MHz
メモリ256bit 4GB GDDR5128bit 2GB DDR364bit 2GB DDR3

 今回の発表は新製品の発表というよりは、そのリネームされたモバイルGPUが搭載されたノートPCのお披露目という側面が強く、MSIの「GX70」、Dellの「ALIENWARE M17」、CLEVOの「P150SM」などが展示されていた。また、Radeon R7 M265はLenovoのゲーミングPCである「G-410」/「G-510」に、Radeon R5 M230は「G-450」/「G-510」に加えて「IdeaPad S410」に搭載されることが明らかにされた。

AMDのGPUロードマップ。Radeon R9/R7/R5 M200シリーズというのが全体的なシリーズ名
Radeon R9 M290Xのベンチマーク結果。Battlefield 4のフルHDで30fpsを超えている
Radeon R7 M265、Radeon R7 M230のベンチマーク結果
内蔵GPU(Intel HD Graphics 4400)とRadeon R5 M230をGPUコンピューティングの用途で比較したベンチマーク結果。左端は数字が高い方が高速、右2つは数字が少ない方が高速
Radeon R9 M290Xを搭載したALIENWARE M17
Radeon R9 M290Xを搭載したMSI GX70
Radeon R5 M230を搭載したLenovo IdeaPad S410

Mantle、True Audioのサポートが追加された新ドライバが間もなくリリース

 AMDのデバイスドライバソフトウェアスイートのCatalystは、AMDのAPUおよびGPUのグラフィックスドライバになっており、1カ月に1度ほどバージョンアップが行なわれている。ちなみに、バージョンは「13.12」や「13.1」のように2桁の整数+1桁ないしは2桁の小数点という数字で示される。前の2桁の数字が年を示しており、後ろの小数点以下が月を示している。つまり13.1なら2013年1月にリリースされたドライバ、13.12なら2013年12月にリリースされたドライバであることを示す。

 グラフィックスのデバイスドライバとは言えコードで書かれている以上、完璧なモノというのはいつまでも完成することはなく、常にバージョンアップされており、バグや性能が改善されることがある。AMDによれば、一昨年(2012年)の末にリリースされたドライバ(12.12)と昨年の末にリリースされたドライバ(13.12)を比較した場合、PCゲームによっては最大35%にもおよぶ性能向上、平均すると10%程度の性能向上が実現されたのだという。

 この1年で改善された機能は多数あるそうだが、ハイライトになったのはCrossFire構成時に多数のフレームがドロップするという問題を改善したFrame Pacing、内蔵GPUと単体GPUの両方があるときにアプリケーションがどちらを使うのかを切り替えるEnduro Technologyの新機能、オーバークロック時にGPUの温度のターゲットを設定する機能、Windows 8.1の機能の追加などが大きなトピックになった。

 2014年向けのドライバの開発は進んでおり、現在14.1(つまり2014年1月版)のドライバの準備が進んでいるという。すでにβ版の開発が進んでおり、そこには今後登場するMantle版「Battlefield 4」で性能向上させる為の機能改善、前出のFrame Pacingの拡張により非対称なGPU(例えば内蔵GPUと単体GPU)がある場合や4K出力時の性能向上、ハードウェアに搭載されていたがドライバのサポートは済んでいなかったTrueAudioのサポートなどが追加される。また、Linuxの新ディストリビューションにも対応する予定で、Ubuntu 13.10、openSUSE13.1、RHEL 6.5をサポートする。

2013年の累計では9,000万回ものダウンロードがあったというCatalyst。四半期に1度WHQL(Microsoftのドライバ認証)を通過したドライバがリリースされ、その間にも1カ月に1回ドライバの更新が行なわれる
2012年12月版と2013年12月版を比較すると最大で35%、平均する10%前後の性能向上を実現している
Frame Pacingの問題はユーザーからの要望も多く積極的に改善に取り組んだという
内蔵GPUと単体GPUの使い方も設定できるようになった
オーバークロック関連では温度のターゲットを設定できるようになった
10月のWindows 8.1のリリースにも対応
間もなくリリースされる予定の14.1ベータで対応する予定の機能

VESAが策定したDockPortの正体はかつてLightning Boltと呼ばれていたあの規格

 また、別記事でも紹介しているように、ビデオ関連の標準化団体であるVESAはDisplayPort経由でUSBなどのインターフェイスの利用可能にする拡張仕様「DockPort」を策定した。実はこのDockPortの策定にAMDが密接に関係しており、AMDがVESAに対して規格の提案などを行ない、それが標準仕様として策定されたのだという。

 実はこのDockPort、AMDが2012年にLightning Boltとして提案していた規格がVESAの標準仕様として採用されたものであることがAMDへの取材でわかった。AMDはこのLightning Boltを2012年にシアトルで開催したAFDSにおいて提案していた(別記事参照)が、その後特に具体的な動きが無かったのだが、ここに来て華麗なリリースを遂げたわけだ。

 DockPortは、現状のDisplayPortコントローラとほぼ同コストでDockPort搭載にするだけで対応できるし、ケーブルもDisplayPortのケーブルをそのまま利用できるので、ディスプレイとUSBの両方をPCから周辺機器に出力できる。既存のUSB機器がそのまま利用できるのが大きなメリットと言える。

 AMDはこのDockPortを、2014年の低消費電力プロセッサとなるMullinsのリファレンスデザインとなる「Project Discovery」に搭載しているほか、同時に展示されている超小型デスクトップPCや、ゲーミングタブレット用のドッキングベースの接続インターフェイスにこのDockPortを利用しているのだという。正直、AMDだけの独自規格となるLightning Boltでは普及は難しいと思ったが、VESAで標準化されたとなれば採用メーカーが増える。そうした意味で、今後のWindows PCではこのDockPortが搭載されていく可能性は十二分にあると言え、今後の動向には注目したいところだ。

AMDが試作したDockPortのハブ。コネクタは既存のDisplayPortとまったく同じ
Mullinsを搭載した超小型デスクトップPCの試作品。ここにもMini DisplayPortが用意されており、DockPortに対応している
サイズ的にはスマートフォンよりはやや大きめな感じだ

(笠原 一輝)