森山和道の「ヒトと機械の境界面」

「銀河鉄道999」現実化プロジェクトが開始

~最終目標は「蒸気機関車型の未来車両」の実現、食堂車でビフテキも?

『銀河鉄道999』現実化プロジェクト記者会見

 株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディングが運営する「Makuake」と西武鉄道株式会社は、クラウドファンディング・プロジェクト「ファンの力で新999号を走らせよう『銀河鉄道999』現実化プロジェクト」を2015年7月7日から開始し、秋葉原で記者会見を行なった。

 「銀河鉄道999」現実化プロジェクトは、2009年5月から2014年12月まで運行した西武鉄道の「銀河鉄道999デザイン電車」を地元とファンの力で復活させようというプロジェクト。単なる車両外観のラッピングにとどまらず、鉄道や宇宙の最新科学技術も導入し、内装や駅舎なども含め、西武鉄道沿線に松本零士氏の銀河鉄道999の世界を実現させることを目指すという。

 資金は、クラウドファンディングMakuakeで募集する。銀河鉄道999などのアニメファン、そして鉄道ファンに呼びかけ、ファンの力で作る電車や街を目指す。第1期(車両内外装のラッピング)のクラウドファンディング目標額は2,999万円(9月29日まで)。「新銀河鉄道999」運行開始は今年12月を目指す。走行区間は西武線全線。各車両ごとにスポンサーを募集する。

 プロジェクトの支援者は、支援金額ごとに1日限りのルートを運行する「銀河鉄道999デザイン電車」特別車両に乗車できる権利や写真撮影権、完成前の車両外観にラッピング作業を車両基地で見学・体験できる権利、車内のつり革に名前を記載できる権利、松本零士氏との食事会へ参加できる権利などを得ることができる。

 さらに、2020年東京オリンピックを見据えてアイデアや技術を募集し、第2期、第3期へと続けていき、例えば、路線バスを使った「食堂車」の実現なども考えているという。最終目標は「蒸気機関車型の未来車両」を実現することとしている。

 主催は練馬で認可申請中のNPO法人「アニメとマンガの聖地ねりま創世会(あまねり会)」、商店街などで作る「『銀河鉄道999』現実化プロジェクト」実行委員会。地元や沿線企業からも協賛を募る。西武鉄道は20000系車両(8両編成、走行区間=西武線全線、一部路線除く)1編成を提供。電車の改装等で特別協力する。原作者の松本零士氏は名誉実行委員長として、新車両のデザインなどプロジェクト全般を監修する。街全体の活性化が目的だ。

旧ラッピング電車。(c) Leiji Matsumoto,SEIBU Railway Co.,LTD.
銀河鉄道999の世界を実現することを目指す (c) Leiji Matsumoto

 銀河鉄道999の原作者で名誉実行委員長のマンガ家・松本零士氏は、「前のラッピング電車に付けられていたヘッドマークをもう一度つけたい」と述べ、「駅から『999』的な列車に乗って宇宙に旅立つ日が、いつかは来ると信じている。乗った若者は『昔の人はこれに憧れたに違いない』と思うだろう」と語った。

 昔は蒸気機関車を使って北九州から上京するのに24時間かかったという実体験についても触れ、「宇宙列車は夢ではないと思う」と述べた。今回のプロジェクトについては、食堂車の実現は楽しみにしているという。電車については風景の中で違和感のないもの、電車なのでどちらに進行しても前後の違和感がないデザイン、見て気持ちのいいデザインを考えたいと述べた。「希望に満ちた明るい列車で、乗った人が忘れられないものになるといい」と考えているという。なお今年77歳になる松本零士氏は来年で「999」を描き始めて40年目になるという。

 「アニメとマンガの聖地ねりま創世会」事務局長の岡尾貴洋氏は、「ラッピング電車を復活させたかった」と話を始めた。クラウドファンディングの仕組みを知り、話を進める中で、できれば蒸気機関車を走らせたいが現在の鉄道レールでは機関車は重たくて走らせられない、軽い機関車を作れないか、煙は水蒸気で作れるのではないかと考え、だんだん夢が大きくなっていったという。またアニメ監督として日本のアニメやマンガがいま世界に発信されているので、そのきっかけとなった列車をなんとか走らせたいと語った。

 このほか、西武鉄道の西武池袋線・大泉学園駅の発車ベル楽曲を提供し、「999」のテーマソングを35年以上歌い続けているというタケカワユキヒデ氏は「応援団として参加したい」と述べて、7/11日にAmazon.co.jpで発売予定のアルバム「銀河鉄道999ゴールドセレクション」を告知した。タケカワユキヒデ氏がこれまでに手掛けてきた999関連の音源をまとめてCD化したもので、999が発車するシーンでかかる「テイキング・オフ!」は日本語・英語の両バージョンを収録。アマゾンのほか、タケカワユキヒデ氏のオフィシャルサイトで購入できる。

松本零士氏
タケカワユキヒデ氏
会見にはその他関係者が顔をそろえた

銀河鉄道999空想世界現実化プロジェクト シンポジウム

株式会社新産業文化創出研究所 所長 廣常啓一氏

 会見終了後には銀河鉄道999空想世界現実化プロジェクトのシンポジウムが一般公開で行なわれた。最初に、銀河鉄道999現実化プロジェクト実行委員で、株式会社新産業文化創出研究所所長の廣常啓一氏が仮想研究所の「空想商品開発研究所」について紹介した。

 「空想商品開発研究所」は産官学民クリエイターの連携を行naうプラットフォームで、異分野連携の促進のためにマンガやアニメ、SF、特撮などの空想世界のストーリー上の空想科学を現実の先端技術や社会インフラの研究者、技術者、ビジネス実施者、クリエイターと共に、現実化、製品化(玩具・ゲーム含む)、また事業化していくプロジェクトだという。

「機械の体は作れるか?」

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 ロボットイノベーション研究センター 研究センター長 比留川博久氏

 最初に「機械人の現実化」ということで、国立研究開発法人産業技術総合研究所ロボットイノベーション研究センター研究センター長の比留川博久氏が「機械の体は作れるか?」と題して講演した。

 比留川氏はまず、産総研が開発してきたヒューマノイド・ロボット・プラットフォーム「HRP」シリーズについて紹介した。歩行だけではなく、「HRP-2」は四つん這いになって這ったり、「HRP-3」では電動ドライバーを使ったネジ締めを行ない、「HRP-4C」は合成音声で歌いながら踊り動作を実現した。それらについてはこれまで本誌でも紹介してきた通りである。講演では「HRP-4C」の内部機構も一部が写真で公開された。

HRP-4Cによるダンス

 センサー類も大雑把なものはできてきたが、まだ内臓にあたる部分がない。機械の体を実現するためには必須だ。だが人工臓器はできつつある。また、最近も2017年に他人の身体と脳とをつなぐという計画が発表されている。最後まで残る部分は脳と機械の体を繋ぐことだ。比留川氏は義手の研究などを踏まえつつ、大脳と脊髄を繋ぐことよりも、末梢神経と脊髄の間を繋ぐほうが現実性があると見解を述べ、2050年くらいには機械の身体も作れるかもしれないと思ったと続けた。

 ただ、機械の身体ができたとしても、脳の寿命がもつかどうかはまた別問題だ。例えば70歳以上では脳血管疾患が死因となる割合が10%程度ある。脳そのものを機械に置き換えるためには、記憶をどうやって読み出すか、思考をどうやって再現するか、そして意識をどうやって実現するかという問題がある。意識については工学的に実現する手段がまだ全く想像もつかず、実現するにはまだまだ時間が必要だ。またそもそも根源的な問題として「機械の身体で生きていて楽しいのか」という話もある。

脳と機械を繋ぐ
機械の体で生きることは楽しいか

自動通訳はできるのか

国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 教授 中村哲氏

 銀河鉄道999には「冷血帝国」という、賢い恐竜が住む星に行って恐竜と自動翻訳機を使って会話するという話がある。国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 教授/ATRフェロー/カールスルーエ大学客員教授/国立情報学研究所客員教授の中村哲氏は、音声対話や計算機との対話システム、コミュニケーション支援技術の研究について紹介した。

 世界には6,000とも7,000ともいわれる言語数がある。自動通訳はそれを1つにまとめる夢の技術だ。まずは音声認識で文字化して、対象言語に翻訳し、音声合成として出力するのが音声翻訳の手順だ。書き言葉よりも話し言葉の方が短く、文法的にも乱れており、文末が分からないことも多い。音声認識の誤りをどう扱うのか、また、リアルタイム性も要求されるなど、音声翻訳には文字翻訳に止まらない問題がある。

 以前の機械翻訳はルールベースで行なわれていたが、その後、コーパスベース、すなわち用例ベース、あるいは統計ベースの翻訳技術が生まれて、今はこれが使われている。日本では1980年代から世界に先駆けて音声認識翻訳が研究されてきた。以前は一言ずつ区切って喋らないといけなかったが、最近は技術が進んだ。中村氏らもNICT時代の2010年に、スマートフォン用アプリとして「VoiceTra」をリリースしている。ただし実用上はまだ比較的短い会話に限られている。技術的には文を翻訳可能な小さい塊に分けて並べ替える「フレーズベース統計的機械翻訳」という技術が使われている。基本的には同じ意味の文章を集めて機械学習機で学習させた結果をもとに翻訳を行なう。

 現在、2020年オリンピックを目指して、新たな技術の研究開発が行なわれている。中村氏らは人間の同時通訳がやるように、発話が文末まで行く前にどんどん切って訳していく技術の開発に挑戦している。現在、1年目の駆け出し通訳者くらいのレベルになっているという。アプリまで落ちるのはまだ数年かかるとのことだ。またパラ言語情報、すなわち強調や感情、個人性を保つ翻訳技術や、3Dモデルを使った音声翻訳後のリップシンクにも挑んでいるという。

 恐竜との会話については、文字もなく意図を想定できる状況もないので対応関係を見つけにくいが、ボデイランゲージや脳波などを使って相手の状況を予測できればあるいは可能性はあると述べた。言語が同じでもコミュニケーションできない相手もいるので、感情が重要だと語った。

フレーズベース統計的機械翻訳
統計的機械翻訳
音声翻訳の展望

宇宙で暮らすための技術

国立大学法人 名古屋工業大学 リサーチ・アドミニストレーション・オフィス/シニア・リサーチ・アドミニストレータ(特任教授)小林智之氏

 最後にJAXA職員OBで、国立大学法人 名古屋工業大学リサーチ・アドミニストレーション・オフィス/シニア・リサーチ・アドミニストレータ(特任教授)の小林智之氏が、JAXA時代に関わっていた国際宇宙ステーション(ISS)日本棟「きぼう」での経験を踏まえて、「宇宙で暮らすこと」「宇宙旅行での必要技術」などについてレクチャーした。

 人類が宇宙へ進出したのは宇宙スケールの時間で見るとほんの一瞬でしかない。小林氏はロケット工学の基礎を構築したツィオルコフスキーに始まり、その後のソ連によるスプートニクやガガーリン、米国のアポロ、そしてISS計画など宇宙開発の歴史をざっと振り返った。宇宙に出ることで人類は地球の姿を初めて見ることができた。惑星探査機ボイジャーには異星人へのメッセージも搭載された。一方近年、地球からの観測で太陽系外の惑星も発見されるようになり、その中には地球型のような岩石惑星もあることが確認されるようになっている。

 さて、今実際に宇宙に滞在しているのは国際宇宙ステーションに滞在している人たちだ。小林氏は、今後、宇宙に滞在するのは彼らのようなプロフェッショナルと、大衆とに分かれるのではないかと述べた。高額ではあるが宇宙ステーションに滞在費を払って滞在した人もいるし、宇宙ツーリズムの予約はすでに始まっていて少なからぬ枠が売れている。宇宙も旅行する場所になりつつある。

 だが本物の宇宙はシビアな場所だ。真空であり、放射線やデブリの問題もあり、無重量状態は身体に影響をもたらす。神経、体液、循環器系は大きな変化が起こる。宇宙酔いは症状の1つだ。水は非常に貴重で、コップ1杯で40万円に相当する。宇宙食は宇宙飛行士たちの楽しみであり能力にも影響するのでだいぶ改善されてきた。だが料理は基本的にパッケージ化されている。無重量状態では対流が起きない。だから加熱が難しい。銀河鉄道999には人工重力が設定されていたが、999のような「食堂車」を実現するには知恵が必要となる。

 また、無重量状態でのトイレなどについても紹介し、長期宇宙滞在は排泄との戦いだったという。小便にしても狙うトレーニングが必要だった。トイレについては今は空気を使って強制排気ファンを使っているが、今後の新しい技術の適用が必要だと言う。涙も頬を流れない、重力がない環境で起こる物理現象には地上では想像がつかないような問題があると紹介した。

 小林氏は鉄道と宇宙との関わりとして島秀雄氏を紹介した。国鉄時代には東海道新幹線を走らせ、宇宙開発事業団の初代理事長でもあった人物だ。彼は「慎重に、慎重に」を自戒としていたという。小林氏は銀河鉄道管理局も慎重にしなければならないと述べた。最後に「本当に必要なのは想像力。松本零士先生のイメージを若い世代に実現してもらうような仕事を継続してもらいたい」と語った。

宇宙ツーリズムはもう始まっている
無重量による人体の影響
宇宙における放射線
水は貴重品
長期宇宙滞在は排泄とのたたかい
鉄道と宇宙との関わりとして島秀雄氏が紹介された
松本零士氏

 松本零士氏は途中で退席したが,「人は限りある命だから一生懸命頑張るんだということが999を描き始めた時の思いだった」とコメントした。機械の体になったときの喜びの問題については、「生命体としての身体と機械としての身体は違うでしょうからね。全部再現できるなら楽しいでしょうけど、個人の差がありますよね。そのままの身体が良いという人もいるでしょうし、鉄人28号になって暴れたいという人もいるでしょう。それは好みの問題だから」と語った。

 新産業文化創出研究所の廣常氏によれば、これらの科学技術やアイデアはビジネスマッチングを行なうプラットフォーム「空想商品開発研究所」で商品開発に活かしていくという。

 今回は第1回ということで「現実化」とは遠い話が多かったが、軽量の蒸気機関車風外装を持った未来電車を作るというプロジェクトは面白いかもしれない。また、このプロジェクトでは電車だけでなく、例えば何でも入っているメーテルのトランクや、着たままなのに臭くならない彼らの服など、他にも作中に登場するさまざまな製品について事業化マッチングや市場導入などを行なっていきたいと考えているという。

 クラウドファンディングで資金を募集する電車の外装ラッピングだけではなく、車両を使ったミステリーツアーや、車内内装の一部だけへの企画提案なども広く募集していき、良いアイデアで実現性が高いものは取り入れていくとのこと。技術とアイデアがあればできることはありそうだ。なお、クラウドファンディングが不成立になった場合、電車の外装ラッピングは行なえないことになるが、他の資金を調達できれば実施するとのこと。他のサブプロジェクトについても同様でそれぞれ市場性を見ながら資金を調達していくということになるようだ。

「空想商品開発研究所」のスキーム
ラッピング以外にもさまざまな展開があり得るという
うまく回り始めたら段階的に展開する
資金調達はそれぞれのユニット単位で行なっている
部分的な展開もあり得るかもしれない
(C) Leiji Matstumoto
(C) Leiji Matstumoto
(C) Leiji Matstumoto
(C) Leiji Matstumoto

(森山 和道)