平澤寿康の周辺機器レビュー
Samsung「SSD 850 PRO」
~3次元「V-NAND」採用SSD
(2014/7/1 11:00)
Samsung Electronicsは1日(韓国時間)、2.5インチSSDの新モデル「SSD 850 PRO」シリーズを発表した。従来モデル「SSD 840 PRO」シリーズの後継となり、同社2.5インチSSDの最上位モデルとして位置付けられる製品だ。今回、SSD 850 PROの1TBモデルをいち早く試用する機会を得たので、パフォーマンス面を中心に見ていきたいと思う。
なお、この原稿を執筆している6月末時点では、正式発表前ということもあり、NANDやコントローラなどの細かな仕様は不明となっている。7月1日に韓国で開催される発表会で詳しい仕様などが公開されると思われるが、本稿では6月末時点で判明している情報を元に紹介する。
3D積層型の「V-NAND」を採用
Samsungは、PCI Express接続に対応するM.2 SSD「XP941」シリーズを発表済み。また、Intel 9シリーズチップセット搭載マザーボードを中心に、M.2やSATA ExpressなどPCI Expressネイティブ接続に対応するインターフェイスを備える製品が増えてきていることもあり、SSD 840 PROの後継となる新モデルは、PCI Express対応のものを投入してくるのではないかと考えていた。
しかし今回登場した850 PROは、従来同様SATA 6Gbpsに対応する厚さ7mmの2.5インチSSDだ。一般ユーザー向けSSDとしてPCI Express対応モデルを投入するのが時期尚早と考えてのことなのか、それとも今後バリエーションモデルとしてM.2タイプなどのPCI Express対応モデルの投入を予定しているのかは不明だが、少なくとも現時点ではSATA 6Gbps対応モデルのみが用意される。
本体形状やデザインは、従来モデルのものをそのまま踏襲。トップのロゴ下部に用意された四角の模様のカラーが従来モデルから変わっている点を除いて、見た目は従来モデルとほとんど同じとなっている。高さが7mmとなる点も従来同様。容量は、128GB、256GB、512GB、1TBの4モデルをラインナップしている。
850 PROの最大の特徴となるのは、3次元NANDフラッシュメモリ「V-NAND」を採用している点だ。Samsung Electronicsは、2013年にセルを24層積層したV-NANDの量産を開始し、搭載SSDも投入済みだ。850 PROに採用されているV-NANDは、32層にセルを積層した新世代のV-NANDとなる。32層V-NAND採用のクライアントPC向けSSD製品はこれが世界初としている。
搭載するコントローラは「MEX」。同コントローラは、840 EVOで採用されたものと同じで、ARM Cortex-R4コアを3コア内蔵するトリプルコア仕様となる。キャッシュ用として128GBモデルには256MB、256GBおよび512GBモデルには512MB、1TBモデルには1GBのLPDDR2メモリも搭載される。
表1は、850 PRO、840 PRO、840 EVOのアクセス速度をまとめたものだ。これを見ると分かるように、850 PROは従来モデルと比べてシーケンシャルアクセス速度、ランダムアクセス速度とも同等以上となっている。840 PROや840 EVOではランダムアクセス性能を高める方向でチューニングされていたが、850 PROではその特徴を受け継ぎつつ、QD1時のランダムアクセス速度を強化。さらにシーケンシャルリードも一段高速となっており、最上位モデルだけのことはある数値となっている。このほか、840 PROと比較して、動作時の消費電力も低減されており、1TBモデルの消費電力はリード時最大3.3W、ライト時最大3.0W。
850 PROでは耐久性も大きく向上している。840 PROは総書き換え容量が73TBWだったのに対し、850 PROでは150TBWと2倍以上に向上。1日あたり80GBの書き換えを行った場合でも5年以上の耐久性を実現するとしている。また、これに伴い保証期間も大幅に延長され、840 PROの2倍となる10年保証となった。これなら、安定稼働を求められる用途にも安心して活用できそうだ。なお、実際の保証期間は、10年または総書き換え容量(150TB)の内、先に到達した時点までになるとのことだ。
製品 | 850 PRO | 840 PRO | 840 EVO | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
容量 | 128GB | 256GB/512GB/1TB | 128GB | 256GB/512GB | 120GB | 250GB | 500GB/750GB/1TB |
シーケンシャルリード(MB/sec) | 550 | 550 | 530 | 540 | 540 | 540 | 540 |
シーケンシャルライト(MB/sec) | 470 | 520 | 390 | 520 | 410 | 520 | 520 |
ランダムリード(4KB/QD1)(IOPS) | 10,000 | 10,000 | 9,800 | 9,900 | 10,000 | 10,000 | 10,000 |
ランダムライト(4KB/QD1)(IOPS) | 36,000 | 36,000 | 31,000 | 31,000 | 33,000 | 33,000 | 33,000 |
ランダムリード(4KB/QD32)(IOPS) | 100,000 | 100,000 | 97,000 | 100,000 | 94,000 | 97,000 | 98,000 |
ランダムライト(4KB/QD32)(IOPS) | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 90,000 | 35,000 | 66,000 | 90,000 |
基板は840 EVOに近い
内部の基板は840 EVOとほぼ同じで、やや小さなサイズとなっている。MEXは、リビジョンこそ異なっているものの、型番は「S4LN045X01-8030」と840 EVOに搭載されているものと同じ。コントローラ上部には、キャッシュ用の1GB LPDDR2メモリ「K4P8G304EQ-FGC2」を搭載。NANDフラッシュメモリチップは、型番「K9PRGY8S5M」というチップを基板表に4つ、型番「K9USGY8S7M」を基板裏に4つの合計8チップ搭載する。型番の異なるNANDフラッシュメモリチップを4チップずつ搭載しているが、双方のチップの詳しい仕様や、なぜこのような構成となっているかなどは不明。8チップで1TBの容量を実現していることから、1チップあたりの容量は1Tbit(128GB)となる。
全体的にアクセス速度が向上
では、ベンチマークテストの結果を見ていこう。利用したベンチマークソフトは、「CrystalDiskMark 3.0.3b」、「AS SSD Benchmark v1.7.4739.38088」、「ATTO Disk Benchmark v2.47」の3種類。比較用として、840 PROの512GBモデルを用意し、同様のテストを行なった。テスト環境は下に示した通りだ。
テスト環境 | |
---|---|
CPU | Core i7-4770K |
マザーボード | Intel DZ87KLT-75K |
メモリ | DDR3-1600 4GB×2 |
システム用ストレージ | SSD 840 PRO 256GB |
OS | Windows 8.1 Pro(64bit) |
まず、CrystalDiskMarkの結果だが、シーケンシャルリードは548MB/sec前後、シーケンシャルライトは520MB/sec前後と、双方とも840 PROを上回るスコアを記録。また、ランダムアクセス速度は、512KBランダムリードのみ840 PROを若干下回っているものの、4K QD32ランダムリード・ライトはほぼ同等のスコアで、512KBランダムライトと4K(QD1)ランダムリード・ライトは840 PROを上回っている。QD1ランダムアクセス速度の強化が850 PROの特徴として紹介されているが、ベンチマークからもその特徴がはっきりと確認できた。テストデータがランダムの場合でも0fillの場合でもスコア差はほとんどなく、データの種類によらず常に最大の速度が発揮されるようだ。
次に、AS SSD Benchmarkの結果だ。こちらもCrystalDiskMarkの結果と同様で、ほぼ全てのスコアが840 PROと同等か上回る結果となっている。また、Compression Benchmarkの結果を見ても分かるように、データ圧縮の効きに関わらずほぼ一定の速度となっている。これも、CrystalDiskMarkの結果と同じだ。
最後に、ATTO Disk Benchmarkの結果だ。こちらは、テストサイズによってわずかに840 PROが上回っている部分もあるものの、大部分でリード、ライトともに840 PROを上回っている。今回のテストから、850 PROはハイエンドモデルらしい速度が発揮される製品と言えそうだ。
速度を追求したい人にお勧め
今回の検証で、850 PROはSATA接続のSSDとして現役最速クラスのアクセス速度を実現していることが確認できた。また、保証期間が10年と長く、総書き込み容量も150TBWと多いため、信頼性も高いと考えて良さそうだ。販売価格は現時点では不明だが、おそらく840 PRO登場時と同程度の価格帯になるものと思われる。そのため、コストパフォーマンスではなく、性能や品質を追求したい人にとって、魅力的な選択肢になると言っていいだろう。