■平澤寿康の周辺機器レビュー■
Samsungは9月に、エントリー~ハイエンドクラスSSDとなる「SSD 840」シリーズを発表した。前モデルの「SSD 830」シリーズは、ワールドワイドでの発表から約半年遅れて日本で発売となったが、今回は日本でも10月24日より販売が開始となった。SSD 840シリーズは、標準モデルの「SSD 840」と、エンスージアストやワークステーション、サーバ用途をターゲットとした「SSD 840 PRO」の2モデルで展開される。今回は、SSD 840の250GBモデルとSSD 840 PROの512GBモデルを取り上げ、パフォーマンスをチェックしたい。
●3コアの最新独自コントローラ「MDXコントローラ」採用SSD 840およびSSD 840 PROは、SSD 830同様、Samsung独自コントローラを採用している。SSD 830では、トリプルコアコントローラ「MCXコントローラ」の採用が最大の特徴だったが、SSD 840およびSSD 840 PROでは、その後継となる「MDXコントローラ」が採用されている。
MDXコントローラは、MCXコントローラ同様に3個のプロセッサコアを搭載するSamsung独自コントローラだ。ただし、プロセッサコアは従来のARM 9からARM Coretex-R4に変更され、コアの動作クロックも220MHzから300MHzに向上。これにより、処理能力が大きく高まっている。
コントローラ以外の部分も強化されている。まず、キャッシュメモリは最大512MBまで搭載(SSD 840 120GBモデルとSSD 840 PRO 128GBモデルは256MB)。NANDフラッシュメモリも、製造プロセス21nmの最新「Toggle 2.0 DDR NAND」を採用。SSD 830に採用されていたToggle 1.0 DDR NANDはインターフェイスの帯域幅が133Mbpsだったのに対し、Toggle 2.0 DDR NANDでは400Mbpsと大きく帯域幅が向上している。
このように、コントローラ、キャッシュメモリ、NANDとSSDを構成する全ての要素が強化されているのには大きな理由がある。もちろんそれは、アクセス速度を高めるためだが、SSD 840シリーズでは特にランダムアクセス速度に特化してチューニングを施しており、そのためにこれらの強化が不可欠だったという。
SSD 840シリーズの公称のアクセス速度は表1にまとめたとおりだ。これを見ると、830に対してランダムアクセス性能が大きく向上していることが分かる。ランダムアクセス性能は実利用時の快適度に直結するため、その性能向上は、ユーザーにとって非常に魅力が高いと言っていいだろう。
加えて、コントローラはアイドル時などの省電力機能が強化されるとともに、キャッシュメモリには低消費電力のLow Power DDR2 SDRAMを採用。これによって、全体の消費電力もSSD 830から大きく低減しており、搭載ノートPCではバッテリ駆動時間を延ばせるとしている。そのため、ノートPCの換装用としても魅力があるだろう。
容量は、SSD 840が120GB、250GB、500GBの3種類、SSD 840 PROが128GB、256GB、512GBの3種類を用意。また販売されるパッケージは、SSD本体とソフトウェアが収録されたCD-ROMの付属するベーシックキットに加え、SSD 840ではSATAケーブルやノートPC用スペーサー、SATA-USB変換ケーブルなどが添付するオールインワンキットが用意される。価格は全てオープンプライスだが、実売価格は表2にまとめた通りだ。
SSD 840 PRO | SSD 840 | SSD 830 | |||||
128GB | 256GB | 512GB | 120GB | 250GB | 500GB | 512GB | |
シーケンシャルリード | 530MB/sec | 540MB/sec | 530MB/sec | 540MB/sec | 520MB/sec | ||
シーケンシャルライト | 390MB/sec | 520MB/sec | 130MB/sec | 250MB/sec | 330MB/sec | 400MB/sec | |
4Kランダムリード(QD32) | 97,000IOPS | 100,000IOPS | 86,000IOPS | 96,000IOPS | 98,000IOPS | 80,000IOPS | |
4Kランダムライト(QD32) | 90,000IOPS | 32,000IOPS | 62,000IOPS | 70,000IOPS | 36,000IOPS | ||
4Kランダムリード(QD1) | 9,800IOPS | 9,900IOPS | 7,900IOPS | 6,100IOPS | |||
4Kランダムライト(QD1) | 31,000IOPS | 29,000IOPS | 25,000IOPS |
SSD 840ベーシックキット | 120GB | 9,800円前後 |
250GB | 16,800円前後 | |
500GB | 37,800円前後 | |
SSD 840オールインワンキット | 120GB | 11,300円前後 |
250GB | 18,300円前後 | |
500GB | 39,300円前後 | |
SSD 840 PROベーシックキット | 128GB | 12,800円前後 |
256GB | 22,800円前後 | |
512GB | 49,800円前後 |
●SSD 840ではTLC NANDフラッシュメモリを採用
表1で示したように、SSD 840とSSD 840 PROの間には、特に書き込み速度に大きな差が見られる。従来モデルのSSD 830との比較でも、ランダムアクセス速度は向上しているのに対し、SSD 840のシーケンシャルライト速度はかなり低下している。双方ともMDXコントローラを採用しており、キャッシュメモリの種類や容量、またNANDフラッシュメモリにインターフェイス速度が400MbpsのToggle 2.0 DDR NANDを採用する点も同じなのに速度に差があるのは、搭載しているNANDフラッシュメモリの種類が違うためだ。
SSD 840 PROでは、現在のほぼ全てのSSDと同じようにMLC NANDを採用しているのに対し、SSD 840ではTLC NANDを採用している。
TLCは「Triple Level Cell」の略で、1セルあたり3bitのデータを保存できる。1セルあたりの記憶容量が大きいため、同じ容量を実現する場合でもダイサイズが小さくなり、製造コストを抑えられるとともに大容量化も容易となる。反面、速度は遅く、書き換え寿命も短いという欠点がある。そのため、製品の保証期間もSSD 840 PROの5年に対しSSD 840では3年と短くなっている。
TLC NANDは、既に大容量のUSBメモリや各種メモリカードで広く利用されているが、速度や信頼性が求められるSSDではこれまで採用例はなかった。しかしSSD 840に採用されているTLC NANDは「Enhanced TLC NAND」と呼ばれる高品質なものとされている。このEnhanced TLC NANDは、通常よりも高基準で選別されたもので、USBメモリなどに採用されているTLC NANDとは品質が大きく異なるそうだ。また、SSD 840では品質を高めるために、オーバープロビジョニングと呼ばれる、通常よりも大きなサイズの予備領域が確保されている。SSD 840では容量が120GB、250GB、500GBとなっているのはそのためだ。こういった工夫によって、TLC NANDを採用しても、MLC NAND採用SSDと変わらない信頼性を確保したとしている。
●厚さは従来同様7mmSSD 840およびSSD 840 PROの本体は、従来モデルのSSD 830同様、厚さ7mmの2.5インチドライブサイズとなっている。接続インターフェイスはSATA 6Gbps。ネジ穴などの位置は2.5インチHDDと同じなので、換装も容易。またSSD 840のオールインワンキットには厚さを9.5mmにするスペーサーが付属する。
本体のデザインは従来モデルから変更されている。従来モデルでは、表面をヘアライン仕上げにするなどの特徴があったが、SSD 840シリーズではヘアライン処理はなくなっているが、角を斜めに切り取ったダイヤモンドエッジ加工を施している。
内部の基板を見ると、従来モデル同様に基板片面にコントローラ、キャッシュメモリ、NANDフラッシュメモリチップが全て搭載されており、裏面にはチップが搭載されていない。
コントローラは、紹介したようにMDXコントローラで、型番は「S4LN021X01-8030」。今回試用したSSD 840 250GBとSSD 840 PRO 512GBでは512MBのキャッシュメモリを搭載しており、チップは双方ともSamsung製の「K4P4G324EB-FGC2」。NANDフラッシュメモリチップは、SSD 840 250GBがSamsung製「K9CFGY8U5A-CCK0」を8チップ、SSD 840 PRO 512GBがSamsung製「K9PHGY8U7A-CCK0」を8チップ搭載する。
●優れたランダムアクセス速度を確認
では、速度をチェックしていこう。今回は、ベンチマークソフトとしてCrystalDiskMark v3.0.1b、HD Tune Pro 5.00、AS SSD Benchmark 1.6.4237.30508、Iometer 2008.06.28の4種類を利用した。また、比較用として従来モデルのSSD 830 256GBとIntel SSD 520の240GBの結果も掲載する。テスト環境は下に示すとおりだ。
CPU | Core i7-2700K |
マザーボード | ASUS P8Z68V PRO/GEN3 |
メモリ | PC3-10600 DDR3 SDRAM 4GB×2 |
グラフィックカード | Radeon HD 5770(MSI R5770 Hawk) |
HDD | Western Digital WD3200AAKS(OS導入用) |
OS | Windows 7 Professional SP1 64bit |
まず、CrystalDiskMarkの結果だ。シーケンシャルアクセス性能は、リードはSSD 840、SSD 840 PROともに530MB/sec前後の速度を記録。ライトは、SSD 840 PROが510MB/sec前後SSD 840が255MB/sec前後となっている。このあたりは、ほぼ公称値に近い結果と言える。
ランダムアクセス性能は、SSD 840 PROが512Kランダムでリード約476MB/sec、ライト約496MB/sec、4Kランダム(QD32)でリード約369MB/sec、ライト約343MB/secを記録。SSD 830から大きく向上しているのはもちろん、性能面で定評のあるIntel SSD 520にも勝っている。対するSSD 840では、512Kランダムでリード約457MB/sec、ライト約255MB/sec、4Kランダム(QD32)でリード約345MB/sec、ライト約245MB/secを記録。512Kランダムライト以外はSSD 830を上回っているとともに、Intel SSD 520にも勝っている部分があり、SSD 840でもランダムアクセス性能は優れることが確認できる。また、テストデータを0fillに設定した場合でもほぼ速度差がなく、圧縮効果の有無に関係なく一定の性能を発揮できた。
HD Tune ProやAS SSD Benchmarkの結果も、若干速度の上下は見られるものの、CrystalDiskMarkの結果とほぼ同等の傾向で、ランダムアクセス性能の高さや、圧縮効果の有無に関わらず一定の速度が発揮されることが確認できる。
最後にIometerの結果だ。こちらでは、「File Server Access Pattern」を利用したランダムアクセス速度のみをチェックしているが、SSD 840 PROはSSD 830を大きく凌駕している。また、SSD 840はQueue Depth 32の場合ではSSD 830の2倍以上の結果だった。ただし、Intel SSD 520との比較では、Queue Depth 32の場合の結果はSSD 840、SSD 840 PROともに劣っている。それでも、Queue Depth 1の場合の結果はSSD 840がほぼ同等レベルで、SSD 840 PROでは大きく上回っており、やはりランダムアクセス性能は十分に優れると考えていいだろう。
Samsung SSD 840 PRO 512GB | Samsung SSD 840 250GB | Samsung SSD 830 256GB | Intel SSD 520 240GB | |||||
Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | |
Read IOPS | 5411.48 | 12550.33 | 2503.16 | 6879.19 | 2581.05 | 3002.75 | 2732.63 | 22557.27 |
Write IOPS | 1354.60 | 3132.64 | 624.95 | 1719.75 | 643.59 | 748.79 | 684.66 | 5639.86 |
Read MB/s | 58.68 | 135.77 | 27.08 | 74.24 | 27.92 | 32.55 | 29.66 | 243.96 |
Write MB/s | 14.64 | 33.85 | 6.77 | 18.54 | 6.94 | 8.15 | 7.42 | 60.95 |
Average Read Response Time | 0.17 | 2.03 | 0.38 | 3.74 | 0.35 | 8.71 | 0.29 | 1.14 |
Average Write Response Time | 0.07 | 2.07 | 0.09 | 3.63 | 0.14 | 7.79 | 0.28 | 1.10 |
Maximum Read Response Time | 10.84 | 941.08 | 10.05 | 17.17 | 22.25 | 618.33 | 43.23 | 48.06 |
Maximum Write Response Time | 1.49 | 941.05 | 0.43 | 17.07 | 25.47 | 614.16 | 6.29 | 51.21 |
SSD 840およびSSD 840 PROは、ランダムアクセス性能に特化したチューニングを行なっているとされているが、テスト結果からその傾向はしっかりと確認できた。TLC NANDを採用するSSD 840では、ライト速度こそ劣るものの、それでも十分なランダムアクセス速度やSSD 840 PRO同等のリード速度が実現されている。
SSD 840ではTLC NANDを採用しているために、信頼性や寿命に関する懸念を感じる人がいるかもしれない。ただ、SSD黎明期にMLC NANDを採用した製品が登場した時にも同様の懸念が語られていたが、実際にはMLC NANDの寿命でSSDが動作しなくなったというトラブルはあまり聞かない。メーカーとしても、信頼性に問題がないことを確認したうえでTLC NAND採用製品を投入しているはずで、従来同様3年保証がつけられていることからも、心配する必要はないだろう。
価格的には、従来モデルのSSD 830が大幅に価格下落している現在としては、少々高く感じるのは事実。とはいえ、登場から時間が経過しているSSD 830と、登場直後のSSD 840やSSD 840 PROの価格を比較するのは少々酷だろう。性能向上分のプレミアムを考えると、まずまず納得できる価格と言っていいだろう。
SSD 840とSSD 840 PROのどちらを選択するべきか迷うかもしれないが、ゲーミングPCなどで最高の性能を求めるなら、もちろん迷わずSSD 840 PROを選択すべきだろう。ただ、SSD 840でも、実利用時の快適度はかなり良いので、コストパフォーマンスを重視したいならSSD 840が良いだろう。日本でのサポート体制も整っており、SSD 840、SSD 840 PROともに定番SSDとしておすすめしたい製品だ。
(2012年 10月 24日)