トピック

2PC配信のケーブル/機材地獄、Wave XLR Pro 1台でこんなにあっさり解決した

2PC配信しようとしたときに、汎用機材で必要な機材(左)と、Wave XLR Proで必要な機材(右)

 「2PC配信」と聞いて思い浮かぶのは、せいぜいPCを2台並べてケーブルで結ぶ絵だろう。ところが実際に汎用機材で音声まわりを組み始めると、オーディオインターフェイスが2台、マイクスプリッタ、変換アダプタ、そして机の上をはい回る多数のケーブルへと、機材は雪だるま式に膨れ上がっていく。本記事はその「配線地獄」を実機で再現したうえで、Elgatoの「Wave XLR Pro」1台でどこまで解けるのかを検証する。

2PC配信のメリットとは

 2PC配信をやる理由は人によって異なるが、2PC配信にはいくつかのメリットがある。1つは性能面。PCスペックやゲームにもよるが、OBS Studioなどの配信アプリを動かすと、数%~10%程度ゲームのフレームレートが下がる。基本的には体感できない程度だと思うが、プロゲーマーが配信しながらオンライン大会に出場といった場合は、少しでも性能低下を防ぎたいだろうから2PC配信は有効だ。

 ちなみに、まれな例だとは思うが、筆者はOBSでかなり凝ったエフェクトをかけたり、GPUによる処理を多く利用しており、OBSによるGPU負荷が下手なゲームより高いレベルに達するため、2PC構成にしている。

 また、ゲームと配信でPCを分けることでPCの安定性が増す。配信アプリがOSを巻き込んでクラッシュし、ゲームが中断される、あるいはゲームがOSごと固まり配信が止まるといったリスクも低減できる。

 このほか細かい点ではあるが、ゲームPCのブラウザなどに普段のアカウントでログインしない、あるいは日本語入力システムに学習や予測変換候補を表示させないことで、配信にブラウザ画面や日本語入力システムの変換予測が表示されても、意図せず配信画面に個人情報が漏れ出てしまうのも防げる。

筆者の配信環境。ここには写っていないがデスクトップ2台を使った2PC配信を行なっている

なぜ2PC配信は難しいのか

 しかし、2PC配信をやるには多くのことを考慮し、多くの機材を用意する必要がある。今回はまず一般的な機材を使って2PC配信構成を作ってみた。目的は以下の通り。

  1. 配信PCで鳴る音声を聞く
  2. 配信PCに自分の声を届ける
  3. ゲームPCで鳴る音声を聞く
  4. ゲームPCに自分の声を届ける

 この目的を定めた理由を説明する。まず1番目の配信PCで鳴る音を聞くについて。ゲーム配信で終始聞いているのはゲームの音だが、配信ではそれ以外の音も鳴る。たとえば、視聴者がサブスクなどしてくれたときのアラートの音。そして、コラボ配信をするとなると、Discordなどのボイスチャットの音も聞くことになる。これを聞くのは簡単で、配信PCにイヤフォンをつなげばいい。

 次に、配信PCに自分の声を届けるについて。これは、マイクで自分の声を配信に乗せるということだ。Discordでフレンドにも声を聞かせる必要がある。マイクを配信PCにつなぐのも当たり前すぎるほどのことだ。ただし、2PC配信ではUSBマイクではなくXLRマイクをお勧めする。基本的にUSBマイクだと、声をもう1つのPC用に分離できないからだ。

 イヤフォン端子を装備し、声のモニタリングができるUSBマイクであれば、その出力をゲーミングPCのライン/マイク入力にオーディオケーブルでつないで声を届けることができる。しかしながら、この場合、声だけでなく配信PCで鳴るすべての音も乗ってしまう。

 XLRマイクを使う場合、オーディオインターフェイスを利用することになる。ただし、普通にマイクをオーディオインターフェイスにつなぐと配信PCにしか声を送れないので、オーディオスプリッタを用意する。そして、ゲームPC用にもオーディオインターフェイスを用意する。こうすることで、マイクをオーディオスプリッタにつないで、1つのマイク入力を2つに分岐させて配信PCとゲームPCに同時に送れるようになり、2番と4番を同時に解決できる。

1つのマイクを2つのPCにつなぐには基本的にXLRマイクを使う。写真はElgatoのWave DX

 ちなみに、なぜゲームPCにも自分の声を届ける必要があるのか疑問に思う人もいるかもしれない。チームゲームなどで野良パーティとボイスチャットをするには、ゲームPCにもマイクをつなげる必要があるからだ。

 3番目のゲームPCで鳴る音声を聞くも、実は結構面倒だ。2PC配信ではキャプチャユニットを使ってゲームPCの映像と音声を取り込む。この映像と音声はOBS上で確認できる。しかし、OBSで取り込んだ映像/音声は若干遅延しているのだ。遅延は使っているキャプチャユニットやPCの性能によって変わってくるが、1フレーム(約16ms)の遅延が勝敗に大きく影響しうる格闘ゲームだと避けたいレベルの遅延が起きると思っていい。

 そこで普通はキャプチャユニットからパススルーHDMIで出力されたモニター上の映像を見る。これなら遅延はほぼゼロだ。ゲーム音もモニターのイヤフォン端子にイヤフォンをつなげばいい。

2PC配信ではビデオキャプチャユニットもほぼ必須。写真はElgatoの4K X

 ただ、今回は2PC配信なので、パススルー接続したモニターにイヤフォンをつなぐと、配信PCから鳴る音が聞こえなくなる。その対策としては、モニターの音声出力を配信PCの音声入力につなげばいい。

 しかし、ここで注意が必要で、オーディオインターフェイスの多くはマイク入力のモニタリングはできる(配信特化のオーディオインターフェイスだとこれができないものもある)。だが、外部(ライン)入力については、特にエントリーモデルではモニタリングができないものがある。マイク入力が2つあり、それがXLRと6.3mmのコンボジャックなら、マイクで使っていない方とモニターをつなげばゲーム音もモニタリングできる。

 ただ残念ながら、マイク入力端子はモノラル。敵の足音がどこから聞こえるか(左右の定位)が重要なシューター系ゲームなどをモノラルで聞いていたら、大きなハンデを背負うことになる。ということで、配信PCには、外部ステレオ入力ができ、かつそのモニタリングもできるオーディオインターフェイスが必要となるのだ。

 なお、ハードウェアで物理的に音を分けたり取り込んだりする以外に、ソフトウェアで対応する方法もある。Elgatoは2PC配信向けソフト「Wave Cast」を発売している。これを利用する手もあるのだが、難点として遅延が発生する。また、一部だがカーネルレベルのアンチチートソフトと干渉するため、利用できないゲームもある。

 カジュアル目のゲームであれば、1PC構成の配信環境にソフトを追加するだけで完成するWave Castもお勧めだが、遅延に敏感な格闘ゲームや、アンチチートが含まれるFPS系ゲームなどではハードウェアで対応するのがお勧めとなる。

2PC配信環境を汎用機材で組むとどうなるか

 今回、上記のような条件を満たすハードウェアを実際に用意した。接続する機材とケーブルは以下のようになった。

  • マイク→スプリッタとXLRケーブル
  • スプリッタ→配信用とゲーム用のオーディオインターフェイスそれぞれとXLRケーブル
  • ゲーム用オーディオインターフェイス→PCとUSB、スプリッタとXLRケーブル
  • 配信用オーディオインターフェイス→PCとUSB、電源アダプタとUSB、スプリッタとXLRケーブル
  • イヤフォン→配信用オーディオインターフェイスと3.5mm変換ジャック経由
  • モニター→配信用オーディオインターフェイスと3.5mm-6.3mmLRケーブル
汎用機材で2PC配信をする際に必要な機材やケーブルの模式図

 先にも書いた通り、XLRマイクの出力を2系統に分けるにはスプリッタが必要だ。スプリッタにもさまざまな製品があるが、必須要件としてトランス絶縁された出力がある。2台のオーディオインターフェイスは、それぞれ別のPCにUSB接続され、別系統の電源からグラウンドを取っている。この2台をマイク信号で直結すると、両インターフェイス間のグラウンド電位差がループとなり、ブーンというハムノイズの原因になるためだ。トランス絶縁出力は、この2台のインターフェイス間でグラウンドを電気的に切り離し、ノイズの経路を断つ。

 これ以外に対応していた方がいい点として、グラウンドリフトスイッチがあると、万一トランス絶縁だけでハムが取り切れないときにグラウンドリフトスイッチでグラウンドの経路を切り替えられる。また、電源不要(パッシブ動作)なものだと取り回しがしやすい。価格は8千円前後だ。

 ゲーミングPC側のオーディオインターフェイスは、マイク1系統の入力さえできればいい。価格は5千円くらいからで買えるが、個人的には1万円前後のものだと品質が確保されていて、お勧めしやすい。

 一方配信PC側のオーディオインターフェイスは必須要件がいくつか加わる。こちらもXLRマイク入力があるのは当然として、前述の通り、ゲーミングPCのモニターから音声をステレオで受けられ、かつそれをダイレクトモニタリングできる必要がある。これを満たす製品はおおむね4万円前後だ。

 このほか、各種ケーブルや変換アダプタの総額が5千円ほどで、必要機材一式の金額は6万5千円ほどとなった。

 接続先のPCはここには写っていないが、実際に配線を行なうと下記の写真のようになる。写真の見栄えに注意したので整然とはしているが、大仰なシステムが必要になることは分かっていただけただろう。

汎用機材で2PC配信用に環境を構築すると、少なくともこれくらいのデバイスとケーブルが必要

 なお、オーディオと直接関係がないのでここには入れていないが、2PC配信の機材としてはHDMIキャプチャも必要だ。

2PC対応のWave XLR Proなら構成はとんでもなくあっさり、機能性は向上

 2PC配信に対応したWave XLR Proでは、これがどうなるのか?結果は下の写真を見てもらえば一目瞭然だ。

2PC配信で、Wave XLR Proを使った場合に必要な機材とケーブル
模式図

 Wave XLR Proとつなぐ必要があるのは、2台のPC(USB Type-C接続)と、マイク(XLR)と、イヤフォンのみだ。先ほどの環境と見違えて非常に簡素で整然とした構成になっている。イヤフォンについては、3.5mmと6.3mmの2つがあるので変換アダプタを使わずどちらにも対応できる。価格面でも、Wave XLR Proの実売価格は5万9,800円前後なので、汎用機材を集めたときとほぼ同じかそれ以下に抑えられている。

 Wave XLR Proのキモの1つが2基のUSBだ。このUSBにはそれぞれ配信PCとゲーミングPCを接続する。これにより、まず1つのマイクを2つのPCで利用できる。そして、配信PCの音もゲーミングPCの音も、遅延なく、不必要にデジアナ変換もすることなく聞くことができる。

 つまり、構成を簡素化できるのに加え、マイクにスプリッタをかませることや、アナログでゲーミングPCの音を入出力させることによる音質の低下(ノイズ混入)からも解放される。

 加えて、使い勝手もはるかに向上する。たとえば、汎用機材構成では、配信PC用のオーディオインターフェイスに、マイクとゲーミングPC用モニターの2つから入力しているため、OBS上ではこれらを個別に音量調節できないが、Wave XLR Proならこの問題もない。

 USB Aux端子にはゲーミングPCだけでなく、ゲーミングコンソールをつなぐこともできる。高級なマイクを持っているなら、それをゲーム機でのボイスチャットにも使えるということだ。

本体前面
本体背面
右端にXLR入力×2
中央に2つめの音声出力(3.5mmと6.3mmの排他)、ラインアウト、ラインイン
左端にゲーミングPCやゲーミングコンソールをつなぐUSB AUXと、配信PCにつなぐUSB HOST
正面右端には1つめの音声出力(同)

 2PC配信に対応する同等の製品は競合他社からすでに出ているが、そちらではメインPCがオンになっていないとUSB Auxにつないだ機器の音声を聞けない。しかし、Wave XLR ProはUSB Auxにつないだ機器だけがオンになっている場合はスタンドアローンモードになり、メインPCをつけなくても音声を聞くことができる。

 音量調節については、Elgato独自のミキサーソフトWave Link 3.0を使うことで、非常に強力なミキシングとルーティングが楽にできる。Wave Link 3.0についてはすでに解説記事を載せているので、詳細はそちらを参照されたいが、2台のPCから鳴る音、そしてマイクの音をすべて個別に制御できる。しかも、自分が聞く音と、配信に乗せる音では、各種音声のバランスを個別に指定できるのだ。

ElgatoのミキシングソフトWave Link 3.2。従来の仮想オーディオチャンネルによるミキシングだけでなく、Wave XLR Proにつなぐすべての入出力の細かいミキシング/ルーティングができる

 ライン入力と出力があるのもうれしい。Elgatoの既存のWave XLRを含め、配信用をうたうオーディオインターフェイスにはライン入出力がないものが多い。Wave XLR Proなら、3.5mmオーディオケーブルでさまざまなオーディオ機器とも接続できる。

 細かいことだが、マイク入力(2基)、ライン入力、ライン出力、イヤフォン出力1、イヤフォン出力2、USB Auxはすべて独立した系統として制御できる。

オーディオインターフェイスとしてのWave XLR Proの特徴は

 オーディオインターフェイスとしてのWave XLR Proの基本的な仕様は先行して発売されたWave XLR MK.2に準拠するので、そちらの記事を参照してほしい。

 簡単に紹介すると、「Wave FX Processor」に搭載されるClipguard 2.0により、理論上音割れが発生しない。そして、内蔵DSPによりローカットフィルター、エキスパンダー、Voice Tune、コンプレッサー、イコライザー処理をハードウェアで遅延なく実行できる。また、VSTを低遅延でモニタリングできるVSTインサート機能も搭載する。

内蔵DSPによりローカットフィルター、エキスパンダー、Voice Tune、コンプレッサー、イコライザー処理をハードウェアで遅延なく実行できる

 XLRダイナミックマイクを使う上で気になるのはプリアンプの性能だ。Wave XLR Proのゲインは80dBとなっている。今回マイクとしてShureのSM7dBを利用した。ShureのSM7Bはプロの現場でも使われる人気のマイクだ。しかし難点としてプリアンプが十分でないと、安定したゲインが得られない。SM7dBは、最大28dBのゲインが可能な後継製品だが、このゲインを利用せず、つまりSM7B相当として使ったが、まったく問題がなかった。つまり、市場のほとんどのダイナミックマイクに対して十分なゲインが得られるということだ。

 ちなみに、Wave XLR Proのオーディオインターフェイス周りの仕様は「基本的にWave XLR MK.2に準拠」と書いたが、Wave XLR Proには2つのXLR入力用にWave FX Processorが2基搭載されているという違いがある。

 また、たとえばマイクに話しかけたときのみ、たとえばBGMなどほかの音量を自動的に指定した分だけ下げるダッキング機能もWave XLR Proのみの機能として搭載されている。

Wave XLR Proはダッキング機能も搭載

Wave XLR Proの総合評価は

 もう1つオーディオインターフェイスとしてWave XLR Proを見たときに留意すべきことが、この製品には一切のボタン類がないことだ。このことは、すべての設定をソフトウェアで実行できる本製品の設計思想を表わしているが、配信時にちょっとした音量調整のたびにWave Linkを操作するのは煩わしい。その点を考慮すると、ミュート操作や音量調節などを手元で手軽に行なうために、Stream Deckを併用するのは必須と言っていい。

 ボタンだけのStream Deckでもすべての操作を割り当てできるが、直感的かつ細やかに音量調節をするならダイヤルを装備したStream Deck +かStream Deck + XLがほしい。

 先に、Wave XLR Proの実売価格は5万9,980円前後で、2PC配信を汎用機材でやろうとすると同じかそれ以上の金額がかかると書いた。しかし、Stream Deck +の場合は実売価格が3万2,980円なので、トータルではElgato構成の方が高くつきそうだ。

 これも先に書いた通り汎用機材ではゲーミングPCの音量を手軽に調節できない。また、DSPによるハードウェア音声処理もWave XLR Proならではの強みだ。Wave Linkによる極めて柔軟なルーティングやミキシング、そしてそれらにあわせて各ボタンをカスタマイズ可能なStream Deckの組み合わせ、そしてその機材構成のシンプルさはその価格差を埋め合わせてなお余りあると言っていい。

Wave XLR Proの活用には、Stream Deck +かStream Deck + XLも組み合わせたい

 ちなみに、筆者がWave XLR Proを検証し始めた頃は、Wave Link 3.2に互換性や機能性の面でいくつかの問題があったが、6月中旬に出たWave Link 3.2.3で問題はあらかた解消されたように見える。

 そして、あまり知られていない事実として、Wave Linkの最初のメジャーバージョンアップであるバージョン3.1で、初の英語以外の言語として日本語がサポートされた。

Wave Link 3は、バージョン3.1で英語を除くほかの言語に先駆けて日本語に対応した

 Wave Linkはバージョン3.0で大きく変貌し、Elgato製品以外でも使えるようになった。しかし、日本語には非対応だったので誰にでも手放しで勧めにくかった。しかし、現時点ではソフトの機能性の点でも言語の観点からも、Wave XLR Proは2PC配信向けオーディオインターフェイスとして自信を持ってお勧めできる。