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リアルクリエイターのモニター選びには理想と現実が!? インプレスの動画担当者にポイントを聞いた

~輝度ムラ補正、USB Type-C入力、外部コントローラ付きでハイコスパのBenQ「PD2705U」

 インプレスでは、PC Watchを始めとするWebメディア群と連動するYouTubeチャンネルなど、さまざまな動画コンテンツを展開している。PC Watchの読者ならImpress WatchPAD : PC Watch & AKIBA PC Hotline! plus DVPRはご存じかもしれない。その同社の動画製作の現場では、以前からBenQのデザイナー向け4Kモニター「PD2700U」が好評で複数台導入しているとのことだが、先日後継となる「PD2705U」が登場した。今回は、YouTubeやSNS向け動画を制作している部署の責任者に最新のPD2705Uを使ってもらった上で、現場ではどのようなモニターが必要とされているのかを聞いてみた。

 話を伺ったのは、コンシューマメディア事業部映像制作室室長を務める佐々木修司氏。PC Watchの読者諸兄にはPC系ライブ配信での司会者として印象が強いかもしれないが、動画関連での業務は多岐にわたるという。

佐々木 私は出演だけでなく、番組プロデュース、編集、機材選定から映像制作部門のマネジメントまで行なっています。PC以外の、カメラ、自動車、ゲーム、ホビーなどのジャンルの動画を手がけることもあります。

 製作するのはYouTubeのコンテンツが中心です。クライアント向けにSNS用の動画広告や店頭販促動画を製作する機会も増えてきています。PC系Webメディアの統括業務を兼任しているので、製品レビューの際などにさまざまな液晶モニターに触れる機会があるのですが、デザイナーやクリエイター向けのモニターは画質、機能、価格に大きな違いがあると感じているので、自分の業務で使うモニターも慎重に選んでいます。

BenQの「PD2705U」。実売価格は8万9,000円前後

 その佐々木氏は、どのような視点で動画制作用のモニターを選んでいるのか。突っ込んだ話に入る前に、まずは今回の主役となるBenQ「PD2705U」の特徴をチェックしよう。

 PD2705Uは、同社のクリエイター向け「AQCOLOR」ブランドに属する27型で4K解像度に対応する液晶モニターだ。IPSパネルを採用し、上下左右の視野角は178度と広い。リフレッシュレートは60Hzで応答速度は5ms。HDR10もサポートする。輝度は標準で250cd/平方m、最大(HDR時)で350cd/平方mだ。

 デザイナー向けらしく、色域はPCの一般的な「sRGB」とHDTV向けの「Rec.709」を99%カバー。業界基準に準拠する厳格な発色試験をクリアしていることを保証する工場キャリブレーションレポートも同梱されており、プロの現場で求められる“正確な色”を出せる。

sRGBとRec.709のカバー率99%で工場キャリブレーション済み。デザイナー向けモニターの基本である発色の精度は高い

 ここまでなら高品質なスタンダードモニターという印象かもしれないが、上位モデル譲りの輝度ムラ補正、MacBook向けカラーモード、外部OSDコントローラ、USB Type-C入力やKVMなど、画質と生産性向上にこだわった多数の要素が盛り込まれている点も特徴。それでいて実売価格は8万9,000円前後とコストパフォーマンスも優秀だ。詳細は以下の加藤勝明氏のレビュー記事を参照してほしい。

すでにBenQのデザイナー向け4K液晶を複数導入。その意図は?

――インプレスの映像制作室では、すでに従来モデルの「PD2700U」を6台導入しているそうですが、その理由から教えていただけないでしょうか。

佐々木 画質、使い勝手、そしてコストの3点から絞り込んで決めました。

株式会社インプレス コンシューマメディア事業部 映像制作室長の佐々木修司氏

 まず画質で重視する点に関しては、Rec.709(BT.709)、そしてsRGB色空間における画質です。前者はYouTube、後者はWebでのスタンダードになっているため、この精度がもっとも重要です。低価格モニターにsRGBモードを持っているものもありますが、色にクセがあったり、精度が怪しいときがあります。

 その点、PD2700UはsRGB、Rec.709ともカバー率100%で出荷時にキャリブレーション済みと信頼性が高い。生配信時の視聴者や、企業とのタイアップ動画でのクライアントチェック時に「色がおかしく見える」と指摘されることがあります。

 表示するモニターは見る人ごとに違うので、その見え方が制作側の意図とずれる可能性があることは折り込んでおく必要がありますが、そんなときに「こちらは精度が高い環境で製作しているのでおそらく問題ありません」と言い切れることが非常に重要です。

インプレスの映像制作室ではBenQの「PD2700U」を6台導入し、動画の編集や生配信の映像チェック用に使用している

佐々木 4K表示に対応していることも必須です。最近では4K動画コンテンツのニーズが増えていることもありますが、フルHDコンテンツを制作する際でも、素材の動画は4Kや6Kで収録しておけば柔軟な編集が可能になるので、そうした素材を扱うという面からも必要なのです。

 高価なデザイナー向けモニターなら4K表示とsRGB、Rec.709カバー率100%、さらにはそれ以上の広色域を実現するものがありますが、こちらはチームで動いているので複数台の導入が必要になるため、1台あたりのコストはなるべく抑えたい。

 動画制作においてはモニター以外にもPCやカメラ、音響などどれも重要で、予算配分がコンテンツのクオリティや制作効率に直結します。例えばここでスタッフ全員分のモニターをBT.2020やAdobe RGB対応の高級機にして、カメラやマイクをケチるというのは本末転倒ですよね。YouTubeコンテンツの制作ならRec.709が正しく出ればいいというのはそういう判断です。

 2019年頃にこの視点から選んだモニターが、BenQの「PD2700U」だったわけです。最初は1台だけ導入してみたのですが、いざ使ってみると、画質はもちろん当時としてはOSDメニューによる入力切り換えや表示モードの変更がしやすく、KVM機能で複数台のPCの切り換えもできて使い勝手がよかったので、最終的に6台まで増やすことになりました。その「PD2700U」の後継機「PD2705U」が登場したということで、今回はぜひ使ってみたいと思いました。

デザイナー向けの新スタンダードモデル「PD2705U」を従来機と比較。“輝度ムラ補正”に驚く

――PD2705Uを使ってみてどうでしたか? PD2700Uと比較して違う点は?

佐々木 まず注目したのが「輝度ムラ補正」機能です。輝度ムラ補正はこれまでにも写真家向けなど高級なモニターには備わっていたものの、デザイナー向けと言ってもスタンダードモデルのPD2700Uには搭載されていませんでした。

 「輝度ムラ補正があれば言うことないけど、さすがに10万円以下で求めるのは厳しいか」と割り切っていたところに、PD2705Uでは搭載してきたわけです。“BenQ、ユーザーニーズを分かっているな”と軽く驚きました。

PD2705Uでは、前モデルのPD2700Uにはなかった「輝度ムラ補正」が加わった。OSDメニューで有効化できる

 実際にPD2700Uと並べて比べてみたところ、PD2705Uのほうがよりフラットに映像が表示されているのが目視でハッキリと分かります。よりカチッとした印象になり、解像感や奥行き感など、情報量が増えて見えるのが好印象です。クリエイター向けの高級機を使ったことがある方なら分かっていただける感覚だと思いますが、それをもっと多くのユーザーが利用できるようになった意義は大きいです。ぜひ一度実機で体験していただきたいですね。

Web用の写真ではやや分かりにくいが、左がPD2705U、右がPD2700U。どちらも色の精度は十分高いものの、PD2705Uのほうがムラが少ないせいか、花びらや蝶の羽の立体感が優れる
両方グレーを表示すると写真でも分かりやすい。輝度ムラ補正のないPD2700Uは周辺が若干暗くなっている

USB Type-C入力対応でモバイルノートの活用効率が大幅に向上。Macとの相性も良い

佐々木 インプレスではさまざまなジャンルの媒体を運営しており、私の部署では各メディアと連動した動画を中心に制作します。それもあって、モニターに接続するのはPCだけではなく、Macやスマホ、ゲーム機ということもあります。

 となると、どんな機器も安定して表示できる必要があります。PD2705Uは、HDMI 2.0、DisplayPort 1.4、USB Type-Cと3系統の入力があって複数のデバイスを接続しやすいのに加えて、動画編集の現場で使われることが多いMacBookに近い色味で表示する「M-Book」モードを用意しているのが便利です。

 PD2700Uに続いて、HDR10に対応しているのもポイントです。YouTubeもHDRに対応するなど、動画制作においてHDRは避けて通れなくなってきました。

HDMI 2.0、DisplayPort 1.4、USB Type-C(DisplayPort Alt Mode)の3系統入力を用意
MacBookと接続し、カラーモードを「M-Book」に設定したところ。検証でもかなり近い色味になるのを確認できた

 加えて、PD2700UになかったUSB Type-Cの存在も大きいですね。動画編集用のデスクトップPCはDisplayPortやHDMIで接続しますが、インプレスでは私も含めてほとんどのスタッフが個別にノートPCを利用しており、新しいノートPCなら多くがUSB Type-Cによる充電と映像出力に対応しています。

 PD2705UのUSB Type-Cは映像入力だけではなく、USB PDによる65Wの給電も備わっており、ケーブル1本でノートPCの映像出力と充電の両方が可能なので、モバイルノートであればACアダプタを持ち歩く必要がないのがありがたいです。

USB Type-C入力を新たに搭載。持ち運びするノートPCの運用が飛躍的に楽になった

高度な各種設定機能を宝の持ち腐れにさせない外部コントローラを標準添付

佐々木 BenQ製品のOSDメニューは従来のものも分かりやすくて反応もよく、使いやすかったのですが、PD2705Uには、PD2725Uなどの上位モデルにしか付属していなかった手元でOSDを操作できるコントローラ「ホットキーパックG2」が標準装備されています。

OSDメニューを手元で操作できる「ホットキーパックG2」を標準付属。背面の専用コネクタに接続して使用する

 ダイヤルを回して素早くOSDメニューを操作でき、3つのボタンに好きな機能を割り当てられるので、入力切り換えやカラーモードの変更、画面の左右に異なるカラーモードを表示できる「デュアルビュー」の使用も簡単に行なえます。

 OSDメニューにさまざまな機能が用意されていても、ボタン操作が面倒で使わなくなってしまうことが多いだけに、ホットキーパックG2は非常にありがたい存在ですね。色味の確認といった作業の効率もすごく上がります。

ダイヤルで素早くをメニュー切り換えられるのと、3つのショートカットキーに好きな機能を割り当てられるのが便利だ

PD2700Uにあった下部のセンサー(写真左)がPD2705Uではなくなり、よりスマートなデザインになったのも変更点だ。台座の回転台部分もスッキリ

佐々木 2台のPCでUSBデバイスを共有できる「KVM」機能が備わっているのも便利です。デスクトップPCとノートPCで同じキーボード、マウスで作業することができます。また、USBのハブ機能もあり、背面と右側面にUSBポートを備えているので、USBメモリといったデバイスを接続に重宝します。PD2700Uにはなかった右側面のUSBポートとヘッドフォン端子はアクセスしやすい位置にあるので利便性が向上しましたね。

KVM機能が備わっているので、デスクトップPCとノートPCなど2台のPCでマウスやキーボードといったUSBデバイスを共有ができる
右側面にUSB Type-CとUSB Type-AのUSBポート、ヘッドフォン出力を用意。これもPD2700Uにはなかった装備だ

コストも意識するリアルクリエイターにとって、総合力で勝負するPD2705Uは強力な武器となる

佐々木 動画制作においては、モニターでコンテンツの出来栄えも作業効率も大きく変わります。しかし、企業であれ、個人であれ、導入予算には限りがあることが多いのではないでしょうか。そんなときに9万円を切る価格で輝度ムラ補正まで付いているPD2705Uは現実的かつ実効性の高いモニターと言えます。

 従来モデルのPD2700Uでも満足度は高かったのですが、それに対してもう一段いい仕事ができるようになると感じます。発売されて日が浅いPD2705Uのほうが1.5~2万円ほど高い相場感ですが、現時点で私が導入するならまちがいなく後者です。多機能ながら使い勝手が良いので、機材の使いこなしに不慣れなスタッフでもしっかり活用できそうです。その意味でも投資効果は十分にあるのでは。