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日本が納得する品質実現に真摯に取り組みつつも、独自VTuberなど緩さも大事にするMSIのノートPC事業

©Micro-Star INT'L CO., LTD.

 MSI製品というと、マザーボードやビデオカードなどのPCパーツを真っ先に思い浮かべるかもしれない。しかし同社は以前よりノートPCにも大きく力を入れており、ゲーミングノートPCからビジネス向けノートPCまで、幅広い製品を投入している。

 MSIのノートPCは、世界的に高い評価を得ているが、日本でも特にゲーミング向けではトップシェアを獲得していることはあまり知られていないかもしれない。また、同社は日本のユーザーからのフィードバックをもとに、日本市場で求められる品質を本社での製品開発に反映させるなど、日本市場において真摯に取り組んでいる。

 今回、エムエスアイコンピュータージャパン株式会社社長の江 富盛(Ricky Chiang)氏に、そういったMSIのノートPCへの取り組みについて話を聞いた。

エムエスアイコンピュータージャパン株式会社社長の江 富盛(Ricky Chiang)氏

MSIのノートPCへの取り組みについて

--まず始めに、MSIのノートPCへの取り組みの歴史について教えてください。

 MSIとして最初のゲーミングノートPCは、2007年に発表した世界初のプロゲーマー向けの「GX600」です。翌2008年には、世界で20チーム以上のeスポーツプロチームや、500以上のeスポーツイベントを支援することで、”MSI=eスポーツ向けゲーミングノートPC”の地位を確立し、業界内で非常に注目されるメーカーとなりました。

 2013年には世界初となるeスポーツ向け超薄型ゲーミングノートPC「GS70 Stealth」を発表しましたが、そちらは持ち運び可能な高性能ノートPCとして注目されました。

GX600
GS70 Stealth

 さらに、クリエイターユーザーから高性能ノートPCが求められているというフィードバックから、クリエイター向けに特化したノートPC「P65 Creator」を開発しました。それ以降も、お客様の声に合わせて、ゲーミング、クリエイター、ビジネス向けと各種製品開発に注力し続けています。

P65 Creator

--今お話しいただいたように、ノートPCもゲーミングノートPCから参入していますし、もともとMSIと言えばゲーミングというイメージも強いです。そういった中で、なぜクリエイター向けやビジネス向けのノートPCも手がけられているのですか。

 我々の調査で、普段はクリエイティブな仕事をしているユーザーの多くが、プライベートでゲームをプレイしていることが分かりました。クリエイティブユーザーは、ゲーミングユーザー同様に性能重視でPCを選びますから、ハイスペック、高性能なゲーミングノートPCを送り出しているMSIとして、クリエイター向けの製品も扱うべきだと考えました。そういった考えで開発したのが、先ほど紹介したP65 Creatorであり、Creatorシリーズの最新のモデルとしてはアスペクト比16:10の液晶パネルを搭載し、NVIDIA STUDIO認証を取得した「Creator Z16」です。

Creator Z16

 ビジネス向けノートPCは、「Modern」シリーズを2018年に投入したのが始まりです。その後、コロナ禍によってテレワークなど在宅ニーズが高まったことで、一般のビジネスユーザーも快適にテレワークやリモート会議をこなすために高性能なPCが必要となってきましたので、高性能な2in1 PCの「Summit」シリーズを投入するなど、積極的に展開するに至っています。

--現在、MSIのノートPCでは、ゲーミング向け、クリエイター向け、ビジネス向けの製品の割合はどうなっていますか。また、世界でのシェアはどの程度でしょうか。

 現在は、ゲーミング向けが5割、クリエイター向けが2割、ビジネス向けが3割となっています。

 ワールドワイドでのシェアは、2015年にゲーミングノートPC市場で19%のシェアを獲得していまして、それ以降も成長し続けているゲーミングノートPC市場に対して大きな存在感を示しています。

--MSIと言えば、マザーボードやビデオカードなどのPCパーツを真っ先に思い浮かべますが、現在ではそれらPCパーツとノートPCとの割合はどうなっているのでしょうか。

 現在MSIでは、ビデオカード、マザーボード、ゲーミングモニター、ノートPCという4つのカテゴリに力を入れて事業を展開しています。そして、ノートPCは全体の売上の4割ほどを占めています。

--日本市場でのノートPCへの取り組みはどのような状況でしょうか。

 MSIの日本法人は1999年に設立されましたが、ノートPCを日本で本格的に展開を始めたのは2015年でした。その後、日本の販売代理店の「キヤノンマーケティングジャパン」さんと協力して市場開拓してきましたが、その取り組みの1つとして、2018年にeスポーツに取り組む学校向けにeスポーツ向けノートPCの提供を始めました。

 その後も、多くのノートPCを日本市場で投入してきたことで、販売台数は毎年大きく成長しています。そして、2019~2021年では、インテルCoreプロセッサーおよびNVIDIA GeForce RTX搭載ノートPCとして国内販売実績No.1を獲得しています(BCNのデータを元としたMSI調べ)。

MSI製ノートPCの特徴について

--現在MSIが販売しているノートPCの特徴について教えてください。

 現在MSIのノートPCは、ゲーミング向け、クリエイター向け、ビジネス&ライトクリエイター向け、ビジネス向けという4つのカテゴリに合わせた製品シリーズを展開しています。MSIのノートPCでは、以前より冷却性能に力を入れており、安定して高いパフォーマンスを発揮できるのが特徴です。そのため、どのターゲットでも高性能かつ安定して動作する製品を提供することで、豊富なラインナップで高性能なPCを選べるという点が大きな特徴となっています。

高性能なクリエイター向けノートも展開

 また近年では、ノートPC向けのCPUやGPUの性能が向上したことで、ゲーミングノートPCをデスクトップPCの代わりに“持ち運び可能な据え置きPC”として使用するというニーズが増えています。それに合わせて、17.3型の大型かつ高リフレッシュレートの液晶パネル搭載で、デスクトップPC並みの性能を持つゲーミングノートPCを中心に展開を開始しています。実際に日本市場では、17.3型でディスクリートGPUを搭載するノートPCの売上が、2018年~2021年まで毎年50%の成長を遂げていますので、大きなニーズがあることが分かっています。

 MSIには、業界に先駈けて最新のCPUおよびGPUを製品に搭載する、というポリシーがあります。最新のCPUやGPUをいち早く搭載し、市場ニーズに合った最新鋭のノートPCをいち早く提供できています。

--MSIのノートPCでは、先ほどお話しされたように、冷却性能に力を入れているという点も大きな特徴だと感じています。その冷却性能についての特徴も教えてください。

 MSIのノートPCでは、”Cooler Boost”という冷却システムを搭載しています。製品に応じて、Cooler Boost 3、Cooler Boost 5、Cooler Boost TRINITY+などといったものがあります。同じモデルであっても、ヒートパイプの本数や太さ、配列が違うというように、ノートPCに合わせてカスタマイズしています。

 また、CPUやGPUが更新されるたびに、CPU/GPUベンダーと協力して冷却システムをアップデートしています。こういった点が大きな特徴となっています。

Cooler Boost TRINITY+

--ノートPCの場合、性能面やディスプレイだけでなく、キーボードやタッチパッドなどそれ以外の仕様も重視されますが、そういった部分での特徴はありますか。

 MSIのゲーミングノートPCでは、業界に先駈けてメカニカルキースイッチを採用したキーボードを搭載したり、Nキーロールオーバーに対応するなどしてきました。近年でも、ゲーミングキーボードメーカーの「SteelSeries」と協業して、ゲーミングノートPC上位モデルではSteelSeriesと共同開発したキーボードを搭載しています。ゲームに最適化されたキー配列や長時間プレイに耐えられる高い耐久性、RGBバックライト搭載などの特徴があります。「SteelSeries GG」を利用したバックライトのカスタマイズも行なえます。

 ビジネス向けPCでは、最新モデルで日本向けに配列を一新したキーボードを搭載します。こちらは、完全に日本マーケット向けに最適化したキーボードとなります。こういった部分も含めて、日本市場には力を入れて取り組んでいます。

日本向けにキーボードを改良したビジネス向け2in1「Summit E14 Flip Evo A12」※画像はグローバル版(英語配列)の製品イメージ

 独自ソフトウェアも特徴の1つです。例えば、ゲーミングノートPCでは「MSI Center」というアプリケーションを利用して、ユーザーの利用環境に合わせた細かなカスタマイズができるようになっています。また、クリエイター向けPCでも「MSI Center Pro」というアプリケーションでカスタマイズが可能となっています。そういった独自ソフトウェアを利用して、快適な使用環境を実現できる点も特徴です。

--クリエイター向けやビジネス向けノートPCを扱う上で、ゲーミングノートPCとは違う難しい面はありますか。

 クリエイター向けノートPCは、GPU搭載の機種が多く、ゲーム開発や建築業界などのお客様が多いですが、細かなカスタマイズや修理の納期管理などへの要求が厳しい部分があります。しっかり動作要件を満たしているか、安定した動作をするか、持ち運んだ際の耐久性といった質実剛健な部分を求められる傾向にあります。

 そのため、特に法人向けの製品では、通常のノートPCよりも負荷テストを行なう期間を1日増やして品質を確認するようにしています。また、法人向けにオンサイトサービスも開始していますし、さらにサービスを充実させるための取り組みも行なっています。

グローバルでの自社製造と、国内でのコールセンター自社運営

--MSIではノートPCを自社工場で製造しているそうですが、それによる強みはありますか。

 MSIは、日本市場に参入している海外PCメーカーの中で唯一、自社工場を持っているメーカーです。それによって、製品の開発から製造、検査までを自社で一貫して行なえますし、品質を高いレベルでコントロールできるのが、自社工場で製造する大きな強みです。

 また、先ほども紹介したように、最新のCPUやGPUを搭載した製品をいち早く市場に展開するというのがMSIのポリシーですが、こちらも自社工場があるため、製品企画から製品化、市場投入までのスピードにおいても有利で、日本市場も含めて、最新のCPUやGPUを搭載した製品をいち早く投入できています。

 2021年初頭ではNVIDIA GeForce RTX30シリーズを搭載したゲーミングノートPCをいち早く市場で販売しましたし、2022年には第12世代Core「Alder Lake H」搭載製品をいち早くご購入できるよう各販売店様の店頭やECサイトにて予約、販売できる体制を整えることができました。

 コロナ禍によって直近2年間では部材調達や納期コントロールに苦労するメーカーが多かったのですが、MSIは自社工場を持っていたために、納期遅延や部材調達の不透明さによるロスが比較的少なくすみました。

--日本市場ではサポートが重視される傾向にありますが、日本でのサポート体制について教えてください。

 確かに、日本市場は品質とサポートが重視されるマーケットです。そのため、万が一トラブルが発生しても万全のサポートを提供できるように、ここ数年でサポートサービスの向上に務めてきました。そういった中で特に強調したいのがコールセンターです。

 MSIではコールセンターを自社運営しています。またコールセンターでは日本人スタッフが対応しています。しかも、MSIが販売するPCは高性能PCということもありますので、エンジニア出身のスタッフもコールセンターに多く在籍しています。この、日本国内コールセンターの自社運営と日本人スタッフによる対応という2点は必須だと考えています。

 また、日本国内に修理拠点も設置しています。その1つが、2019年に秋葉原に設置したサービスセンターです。サービスセンターでは、海外の自社工場と連携して、必要な部材を毎週調達してストックしていますので、迅速に修理が行なえるような体制を整えています。

 さらに近年は、法人マーケットも重視しています。法人のお客様へきめ細かなサポートサービスを提供できるか、という部分は重要なポイントで、法人のお客様向けのサポートサービス向上は今後の課題と考えています。

--販売店と共同で展開している「MSI公認サポート店」の取り組みについても教えてください。

 MSIのノートPCは、製品保証上の理由からユーザーが自分でメモリやストレージをカスタマイズできない仕様になっています。しかし実際には、ユーザーから「メモリ容量を増やしたい」、「SSDを追加したい」といった要望が多くありますし、販売店からも購入を検討しているお客様がメモリやストレージを増設して購入したいという要望を多数もらっていているというフィードバックがありました。

 そこで、販売店と協力して店頭でメモリやSSDのカスタマイズサービスを提供できるよう「MSI公認サポート店」というプログラムを2015年より開始しました。現在では北海道から九州までほぼ全国を網羅しています。

 店頭で実際に増設作業を実施する店舗スタッフを対象として増設作業の講習会を行ない、増設作業時の注意事項の把握に加えて、実機を使って増設作業流れを習得していただいています。その講習会を受講した後、新品のノートPCをカスタマイズして販売することに加え、購入後のMSIノートPCに対してもカスタマイズを行なえる体制が整った店舗を「MSI公認サポート店」として認定しています。これによって、MSI公認サポート店では、高品質な増設作業が行なえるようになっています。

 実際に「MSI公認サポート店」に認定した店舗からは、予想以上に多くの増設依頼が来ているといううれしいフィードバックが届いています。

日本ユーザーからの評判や、プロモーションなどの取り組みについて

--お話しを聞いて、日本市場への取り組みへの強い意志が感じられましたが、実際の日本ユーザーからの評判はいかがでしょうか。

 ゲーミングノートPCは以前より高い評価を得ていましたが、そのほかのカテゴリの評価も高くなっています。

 MSIのクリエイター向け製品では、ディスプレイに広色域パネルを選定し搭載してますし、性能もクリエイター向けにカスタマイズしています。実際に日本市場でクリエイター向けノートPC「P65 Creator」を投入して以降のフィードバックで、映像が綺麗で性能も優れているので仕事がスムーズに行なえるといった高い評価を得ていると感じています。

 ユーザーからのフィードバックは本社にも伝えています。本社も日本市場の声を重視していますし、日本のユーザーの声を反映した商品開発も行なっています。

 また、ビジネス向けノートPCについても、ゲーミングPC向けの冷却システムを採用しているため、高負荷な作業も安定して利用できるというフィードバックが得られています。

--近年は、PCをオンラインで購入するユーザーが増えていますが、MSIのノートPCの販売もオンライン販売が増えていますか。

 現在は販売店だけでなくオンラインでの販売にも力を入れています。公式オンラインショップ「MSI ストア」では、個人向けのPCと法人向けのPC双方を扱っています。特に直近2年ではMSI ストアを含めたオンライン販売が3割ほどとなっています。

 このようにオンライン販売が伸びてはいますし、今後も拡大していきたいと思います。とは言え、MSI製品の良さ、ゲーミング向けやクリエイター向けの製品の良さは、実際に触ることでより実感できると思います。そのため、販売店での販売についても、引き続き力を入れていきたいと思います。

--ところで、最近のプロモーションの中で気になったのが、VTuberの取り組みです。そちらについても教えてください。

美星メイ ©Micro-Star INT'L CO., LTD.

 販売プロモーション以外の取り組みとして、2021年にノートPCイメージキャラクター兼VTuberを立ち上げました。それがMSI公式VTuberの「美星メイ」です。美星メイは、ノートPCのイメージキャラクターとして定期的な配信活動を行なう「企業VTuber」として活躍しています。

 過去にMSIでは、公式オリジナルキャラクターの「美星藍」や、Aegis Ti5のオリジナルキャラクター「ダイアナ」もいましたが、ノートPCにフォーカスしたキャラクターはいませんでした。そういった中、2021年にVTuberプロジェクト「にじさんじ」さんとのコラボレーションを行なった際、一時的にMSIのゲーミングノートPCがTwitterで話題となりました。その後、社内でもVTuberをやろうという声が出てきて、本社に提案したところ、OKということで、2021年11月24日に美星メイが誕生しました。

 美星メイの活動は、イメージキャラクターでありながらもVTuberということで、視聴者やエンドユーザーと配信活動内においてコメント等を介してコミュニケーションが取れる、というところを重視しています。一方で、美星メイの活動は、我々MSIが企業としてコントロールしてクリーンにやっていますので、ニュートラルな形で受け入れられていると思っています。企業VTuberではありますが、お堅めの印象が見受けられる企業VTuberとは違う見せ方を模索しており、ユーザーフレンドリーかつクリーンに見られるVTuberということで、企業らしさとエンターテインメントの両軸で見せられていると思います。

 今後は、まずは認知拡大がメインの仕事です。MSIノートPC、ひいてはMSIブランドイメージの認知拡大につながりますので、そちらに最も注力していきます。VTuberを視聴しているユーザーは圧倒的にスマートフォンユーザーが多いのですが、そういったユーザーにとって、ノートPCでゲームができる、ノートPCで配信活動ができる、という部分が衝撃的に捉えられているということが、過去のコラボレーションで分かっていますので、そういった部分を今後広げていきたいです。合わせて、エンターテインメント軸での展開も広げていきたいです。

--今後の活動に期待しています。ありがとうございました。