山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
大画面10.3型、スタイラスペンでの書き込みもできるE Ink端末「楽天Kobo Elipsa」
2021年7月8日 06:45
楽天の「Kobo Elipsa」は、E Ink電子ペーパーを採用した電子書籍端末だ。10.3型という、現在国内で市販されている電子書籍向けのE Ink端末としては最大級の画面サイズを備えつつ、付属のスタイラスペンによる書き込みにも対応していることが特徴だ。
これまでの楽天Koboの端末と言えば、画面サイズは最大でも8型だったが、今回の製品はiPadなどとほぼ同等の10.3型という画面を備えた、電子書籍端末としては最大級の製品となっている。汎用的なAndroidベースのE Ink端末としては「BOOX」などがあるが、電子書籍向けを前提とした端末でこのサイズは唯一無二と言っていい。
さらに本製品は従来のモデルになかった、スタイラスペンによる書き込みにも対応している。電子書籍にフリーハンドでメモなどを書き込めるのはもちろんのこと、ノート機能を使って自由にノートをとることもできる。言うなれば、電子書籍端末と電子ノートの2WAYデバイスということになる。
今回は、筆者が購入した実機をもとに、電子書籍ユースを中心に使い勝手 をチェックする。
10.3型の大画面。タブレットに比べて軽量
まずはざっとスペックを見ていこう。画面サイズは10.3型で、ストレージ容量は32GB。最近のE Ink電子書籍端末は、テキスト利用を想定した8GBとコミックを想定した32GBと分化しているが、本製品は32GBの大容量で、コミックなどサイズの大きいコンテンツも大量に持ち歩けるほか、電子ノートとしての利用にも十分な容量がある。
解像度は227ppiと決して高くはないが、200ppiを切っているわけではないので、実用上は問題ない。本製品に画面サイズが近いデバイスとしては、AmazonのFire HD 10やiPadがあるが、前者が224ppi、後者が264ppiなので、これらと比較しても実質イーブンだ。従来の最上位モデルであるKobo Formaは300ppiあるため、相対的に低く見えてしまうというだけだ。
電子ペーパーはE Ink Cartaの新しいバージョンである「E Ink Carta 1200」を採用している。E Inkのサイトによると、本製品が世界初の採用事例とのことだ(従来のCartaは1000に相当する)。最近のE Ink端末では標準装備となりつつあるフロントライト機能も搭載している。
筐体は正面から見ると、右側のベゼルのみ幅が広い仕様だ。もっともKobo Formaなどのように、このベゼル部にページめくりボタンがあるわけではなく、単純に幅が広いだけなのが惜しい。ページめくりについては、タップおよびスワイプで行なうという、一般的な方式を採用している。
重量は388gと、Kobo Forma(197g)の約2倍だが、前出のFire HD 10やiPadなど同じ10型クラスのカラータブレットは450~500g程度あるので、それよりは約100g軽いことになる。
こうした仕様の一方で、Kobo Formaなど上位モデルは標準装備だった防水機能は非搭載であるほか、フロントライトも色を変えられる「ComfortLight PRO」ではなく通常の「ComfortLight」のみの対応だ。前述のページめくりボタンも含めて、これまでの最上位モデルにあった機能をすべて盛り込むのではなく、取捨選択している印象だ。
パッケージにはスタイラスペンのほか、一般的には別売であることが多い専用のスリープカバーも付属しており、ノートとして使う場合に本体に角度をつけてテーブルの上に置くことができる。これについては本稿の最後で紹介する。
レスポンスは高速もE Ink Carta 1200の利点をフルに活かせていない
セットアップについては、従来のKoboシリーズと違いはない。スタイラスペンに対応することからキャリブレーションなどのプロセスが追加されているかと思ったが、実際には従来と同じフローだった。直近で利用していたコンテンツが5つ自動的にダウンロードされる、Kobo独特のお節介な仕様も相変わらずだ。
さて電子書籍ユースでの使い勝手を見ていこう。サンプルは、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは太宰治著「グッド・バイ」を用いている。
一言で感想を言うならば、やはり10.3型の大画面は圧倒的だ。これだけのサイズの画面を備えたE Ink電子ペーパー端末は、BOOXのような汎用タイプを除けば現時点では皆無で、これだけでお釣りがくる。画面を見開きにしても、1ページのサイズはKobo Formaよりわずかに小さい程度で、コミックを読むのも快適だ。
動作速度についても、Amazonの「Kindle Oasis」ほどの爆速ではないものの、従来モデルに比べてページめくりのレスポンスは速い。これは一新されたプロセッサのほか、応答速度が速いE Ink Carta 1200の恩恵もあるだろう。読書用のE Ink端末としては、最高峰のレベルにある製品と言ってよさそうだ。
また同等サイズのカラータブレットに比べて、重量が100g程度軽いのもメリットだ。10型クラスのタブレットでの読書では、目が疲れるよりも先に腕が疲れることもしばしばだが、本製品は仰向けに長時間浮かせて持っても、タブレットほどの負担はない。なるべく長時間、宙に浮かせた状態で使いたいユーザーーには最適だ。
ただしやや困りものなのが、E Inkにつきものの画面リフレッシュだ。もともとKoboのリフレッシュ頻度は、最大値の「10」に設定しようが、「章」単位に設定しようが、コミックについては「1」、つまり1ページ1回に固定される仕様になっている。
最近のE Ink電子ペーパーは、リフレッシュなしでもそこそこ読めるほど品質が改善されており、特に本製品が採用している「E Ink Carta 1200」は、リフレッシュなしで何十ページも続けて読めるRegalテクノロジーをサポートしているのが売りだ。しかし本製品は旧来の仕様そのままであるせいで、この利点が死んでしまっている。
特に本製品は画面サイズが大きいぶん、このリフレッシュが目立ちやすく、続けて読んでいるとかなり目障りだ。本製品とほぼ同じ画面サイズのE Ink搭載Androidタブレット「BOOX Note Air」では、Koboアプリのリフレッシュのタイミングは任意に指定できるので、余計始末に悪い。早期にファームアップで改善してほしいところだ。
もう1つ、使っていて気になるのが画面回転の設定だ。本製品は画面右上のアイコンをタップすることで、画面の回転を「自動」、「縦」、「横」から指定できるのだが、この「縦」、「横」は画面の向きを完全に固定するのではなく、縦なら縦、横なら横のままでの上下の入れ替わりはサポートする仕様になっている。
そのため、90度倒しても何ら変化はないが、平らなところに置いたまま手元を持ち上げるなどして180度向きを変えると、天地がクルンとひっくり返ってしまうのだ、これについては現状回避する方法がなく、使っていてストレスだ。ぜひ一方向のみに固定する設定を追加してほしいところだ。
電子書籍にスタイラスペンで書き込める利点は?
さて本製品は、スタイラスペンを使ったノート機能を搭載している。つまり電子書籍端末と電子ノートの2WAYということになるが、このスタイラスペンは電子書籍への書き込みにも利用できる。具体的にどのようなことに使えるのかを見ていこう。
スタイラスペンを使っての電子書籍への書き込みは、大きく2つの機能に分けられる。1つはハイライトの追加で、従来までは指先を使って記入していたハイライトを、スタイラスペンを使って行なうというものだ。
スタイラスペンを使えば正確に範囲を指定できるのはもちろん、指先による操作では範囲指定後にハイライト以外の選択肢も表示されるのに対し、スタイラスペンでの操作は即マーキングされるので、大量にハイライトをつけるのも快適だ。
ちなみにハイライトをつける時は、スタイラスペンに搭載されている2つのボタンの前方を押しながら操作を行なう。もう1つのボタンを使えば、すばやく消すこともできるので、テキストコンテンツにハイライトをつける機会が多い人にはオススメだ。
もう1つの機能は、ページに直接メモを書き込んだり、キーワードや段落を囲んだりできる機能だ。ページの上に描画可能なレイヤー層があり、そこにフリーハンドで線を書き込めると考えればわかりやすいだろう。
もっともこの機能、実用レベルはやや「?」だ。というのも、テキスト本はリフローコンテンツであるため、フォントのサイズを変えると位置がずれるわけだが、本製品で書き込んだ図形はフォントサイズの変更後も、元の位置に置き去りにされてしまう。これではまったく意味がない。
何度か試したところ、段落単位で大きく囲むのではなく、余白に書き込んだメモ程度であれば、フォントサイズを変更するとアイコン化され、それをタップするともとの配置を再現できることが分かったのだが、両者がどう判別されているのか、法則がよくわからない。技術書など固定レイアウトの本にのみ使える機能と考えたほうがよさそうだ。
もう1つ、このフリーハンドでの書き込みは、ほかの端末で表示できないのもネックだ。前述のハイライト表示が、クラウド経由で他の端末と同期できるのに対して、フリーハンドでの書き込みは完全に無視されてしまうのだ。
では例えば、フリーハンドで書き込みを行なった本を本製品からいったん削除し、改めてクラウドからダウンロードするとどうなるだろうか。この場合、フリーハンドの書き込みも含めて、削除前の状態がきちんと再現された。本製品から削除した瞬間にフリーハンドの書き込みデータは消失するのではないかと予想していたのだが、そこは大丈夫なようだ。
これをさらに突き詰めて、本製品を工場出荷状態に戻して再セットアップし、あらためてクラウドからダウンロードした場合はどうだろうか。こちらはフリーハンドで書き込んだデータは再現されなかった。どうやら何らかの形で本体内にデータがあり、工場出荷状態に戻したことで消失したようだ。
以上のことから、フリーハンドで書き込んだデータの利用範囲は同一個体のみで他端末との共有および移行はいっさい不可、さらにフォントサイズ変更などのレイアウト変更にも不安が残る、という結論になる。使いみちがあるとすれば、あとで消えても構わない、一時的なメモくらいだろうか。非常に使いどころが難しいというのが、今回試した上での結論だ。
2WAYデバイスとして優秀、オプション豊富なわりにリーズナブル
以上のように、本製品の特徴は「大画面」、および「スタイラスペンによる書き込みが可能」という2点に大きく分けられる。電子書籍端末としては、なんといっても画面サイズの大きさが魅力だ。今回はコミックをメインに紹介したが、技術書などの表示にも向くだろう。
前述のリフレッシュ間隔など、「E Ink Carta 1200」向けのチューニングが完璧ではない部分が見受けられるほか、ページめくりボタンがないなどのマイナスはあるが、この大画面だけでお釣りが来るという人も多いだろう。従来モデルに比べてサクサク動作するのもよい。
一方のスタイラスペンによる書き込みは、電子書籍へのマーキングという意味ではあまりメリットを感じないが、今回の記事では割愛した電子ノート機能は、富士通のQUADERNO(クアデルノ)や、本製品とサイズ・重量が酷似したラッタの「Supernote A5 X」と比べても機能的に遜色ない。やや粗削りな部分はあるにはあるが、実用レベルとしては十分だ。
そうした意味では、電子書籍端末としての利用がメインの人はもちろん、電子ノートとして使いたいユーザーにとっても、魅力的な製品と言える。ただし電子ノートがメインで、電子書籍端末として使わない場合は、本製品よりも軽量かつ薄型である電子ノート専用機のほうが、満足度は高いはずだ。このあたりの位置づけは間違えないようにしたい。
なお実売価格は4万6,990円と、画面サイズが近いエントリーモデルのiPadよりも高価だが、スタイラスペンやスリープカバーが標準添付されるので、むしろ割安感がある。従来の上位モデルKobo Formaの約2倍ほどの画面サイズがあり、ノート機能も搭載、さらにカバーやスタイラスなどのオプションが付属しながら実売が約1万2千円しか違わない点にこそ、目を向けるべきだろう。