レビュー
「Core i9-9900KS」はどれだけ“スペシャル”なのかを検証する
2019年11月6日 06:00
Intelから、メインストリーム向けプラットフォームで最上位を刷新する「Core i9-9900KS」が発売となった。実売価格は66,000円前後だ。今回、製品版を入手できたので、従来のCore i9-9900Kと比較してベンチマークを行ない、その実力を検証する。
9900KSは、昨年末より継続販売されている9900Kとは異なり、数量限定の「スペシャル・エディション」として投入される。具体的な出荷数量は不明だが、2018年第2四半期に発売された40周年記念の「Core i7-8086K」と同じ位置づけだと見て間違いないだろう。
具体的に9900Kと比較して「何がスペシャルなのか」と言えば、ベースクロックが3.6GHzから4GHzへ、なおかつ全コアのターボ・ブーストクロックが4.7GHzから5GHzに引き上げられている点が挙げられる。
もっとも、Intelのターボ・ブーストはもともと許容される電力や温度によって自動的に決定されるため、上限が5GHzに引き上げられたからと言って必ずしも5GHzで動作するわけではないというのは、あらかじめ抑えておきたいポイントだ。
しかも9900Kは倍率ロックフリーのため、Intel Z390マザーボードにおいては、手動で全コア5GHzに設定することも可能なわけで、その場合「9900KSの優位性がほとんど失われるのではないか」という心配もあるであろう。そのあたりも含めて検証していきたい。
若干異なるパッケージ
9900KSは、9900Kと同じ正五角形から構成される12面体のパッケージに格納されている。パッと見では違いはないのだが、パッケージを包む化粧紙が従来のマットタイプから光沢タイプに変更され、「9TH CORE i9 UNLOCKED」の文字列の下に「SPECIAL EDITION」が追加されている点が異なる。数量限定だけあって、9900KSの収蔵価値は9900Kより高いと言える。
また、添付されている保証書が、9900Kの3年から1年に短縮されている点にも注目したい。期間を短縮した真意のほどは不明だが、「8コアをすべてを5GHzで動作させるにはそれなりのリスクがいるよ」という警告とも受け取れる。ちなみに5GHzで動作するx86 CPUとしてAMDの「FX-9590」が有名だが、こちらは(国内代理店品は)3年間保証が付属していた。
9900KSでは、ベースクロック/ターボ・ブーストクロックともに引き上げられたが、それに伴いTDPも9900Kの95Wから127Wへと向上している。もっとも、TDPの上限は多くのIntel Z390マザーボードにおいて標準でオフにされているため、電力制限によって性能が制限されることはほとんどないだろう。今回のテストにおいても、TDP制限を無効にしている。
PCMark 10でごくわずかな性能向上を確認
今回のテスト環境は、マザーボードがNZXTの「N7 Z390」、メモリがG.Skillの「F4-3200C14Q-32GTZR(Trident Z RGB DDR4-3200/32GB)」、ビデオカードがColorfulの「GeForce RTX 2080 Advanced OC」、SSDがPlextorの「M5p 512GB」、CPUクーラーがASUSの「RYUJIN 360」、電源がASUSの「ROG-THOR-1200P」、OSがWindows 10 1903などである。9900Kの結果に加え、9900Kを全コア5GHz(N7 Z390に付属するCAMで全コア5GHzに引き上げただけ)に設定した場合の結果も並べてある。
グラフからわかるとおり、9900KSはわずかに9900Kから性能が向上している。9900Kを5GHzにオーバークロックすると逆に性能が下がったテストもあり、計測誤差の範囲内である可能性もあるのだが、こと全コアの演算能力が試される後半のPhoto Editingでは約2.8%、Video Editingでは約4.6%の差がある。
PCMark 10実行中のクロック遷移のグラフを見ると、ほぼ全過程で4.7GHz動作となる9900Kに対し、9900KSは安定して5GHzを長時間維持できており、これが性能向上につながった可能性が高いと思われる。また、9900Kを全コア5GHzに手動でオーバークロックしたものに対しても、安定性した5GHz維持を見せている。
近代的な3D処理だと誤差レベルだが、旧世代では性能向上
続いて3DMarkによる計測だ。ざっくり言えば、Port Royal、Time Spy、Fire Strike、Night Raidといった、DirectX 11/12のAPIを使った高度な3Dアプリでは、ほぼ誤差程度のスコアとなった。一方、Sky Diver(DirectX 11軽量)、Cloud Gate(DirectX 10世代)、およびIce Storm Extreme(DirectX 9世代)では、そこそこの差異が見られ、とくにIce Storm Extremeでは9900Kに約12.7%もの差をつけている。
新世代の3DアプリケーションはGPU重視の処理であり、なおかつCPUよりもGPUがボトルネックになるため差が現れにくいが、旧世代の3DアプリケーションはGPUではなくCPUがボトルネックになるため、こうした差が現れやすく、それを反映した結果だとも言える。ただ、Ice Storm Extremeでは、どのCPUでも900fpsを超えるフレームレートであり、そこまで高性能なディスプレイがない以上、ほぼ無意味な性能向上だとも言える。
全コア5GHz設定の9900Kと何が違う?
最後にPrime95の負荷テストで、9900KSと、9900Kを全コア5GHzに手動でオーバークロックしたときの違いを見てみる。Prime95のSmall FFTテストでは、AVX2命令を使い、CPUに高い負荷を継続的にかけられる。これを実施している最中に、HWiNFO64で約8分間のCore#0の電圧、クロック、温度、およびCPUパッケージ全体の電力をログで監視した。
AVX2ユニットはほかの演算ユニットと比較して高い電力を消費するため、AVX2利用時にクロックを制限するオフセット設定もあるのだが、今回はこれらを一切設定していないのにもかかわらず、9900KSは平均で4,320MHz前後で遷移した。平均コア電圧は1.12V、コア温度は93.5℃、平均パッケージ電力は163.4Wであった。
一方9900Kは、それぞれ4,524MHz、1.23V、94.7℃、231Wであった。そして9900Kを5GHzに引き上げたときは4,568MHz、1.25V、94.6℃、239Wとなった。
この結果をネガティブに捉えるなら「Prime95のような超高負荷時なら、9900Kのほうがクロックが高く、性能が高い」となるわけだが、ポジティブに捉えるなら、「9900KSは高負荷時、9900Kと比べて低電圧/低消費電力志向」だろう。平均パッケージ電力の差はじつに68Wにもおよび、この差がCore i9-9900(無印)のTDPに達すると思うと、たとえ超負荷時に200MHzの性能差が存在するとしても納得できるレベル。それでいてPCMarkや3DMarkのような一般的なアプリケーションを想定したベンチでは、その結果が示すように、わずかに高性能もしくは同等なら、9900KSの価値は評価できる。
もっとも、これは「たまたま試した個体がそうであった」に過ぎない。つまり、「9900Kは高クロックで動く個体、9900KSは低消費電力で動く個体」だった可能性がある。また、N7 Z390のBIOSが9900KSに最適化されていない可能性もあるため、あくまでも参考としていただきたい。しかし、少なくとも「9900Kを手動で5GHzに設定しただけで9900KS相当になる」わけではなく、電圧やTDPなど、多岐にわたる設定を積み上げなければ、9900KS相当になることは難しいことは、おわかりいただけたのではないだろうか。
9900KSと9900Kのは実売価格で7,000円ほどの差があり、割合にすれば約12%だ。そこから得られる9900KSならではの製品の価値は「期間限定のスペシャル版」、「消費電力の低下とわずかな性能向上」、「全コア5GHzに設定しても製品保証がつく」辺りだろうか。しかしその一方で、保証期間が3年から1年に短縮したのは、あまりにも大きすぎる犠牲ではないか、というのが筆者の偽りなき感想である。
もっとも、保証が切れるオーバークロックが前提の使用なら、1年間でも3年間でも同じため、全コア5GHzでの検証が済んでいて、当たりを引く可能性が少しでも高い9900KSのほうが良いのは、言うまでもない。
(品薄でさえなければ)12コアのRyzen 9 3900Xがライバルとなる価格付けのため、正直「あと1.5万円(Ryzen 7 3800Xよりちょっと上乗せ)安ければいいのに」とも思わなくもないが、デスクトップ向け第9世代Coreの最後を飾るにふさわしいスペシャルなスペックに魅力を感じているのなら、このスペシャルな価格にも納得できるのではないだろうか。