レビュー

シンプルを極めたデザインのマザーボード「NZXT N7 Z390」を試す

NZXT N7 Z390

 NZXTの「N7 Z390」は、海外で登場してから約1年の時を経て、日本でようやく販売開始されたIntel Z390搭載マザーボードだ。代理店はタイムリーで、価格はオープンプライス。税別実売価格は34,800円前後となっている。

 今回、サンプル品を入手できたので、外観や使い勝手を中心にレビューしていきたい。

アメリカ発のケースメーカーが手掛ける独創的なデザイン

 PC自作ユーザーにとってNZXTはもはや馴染み深いメーカーとなりつつあるが、改めて紹介しておくと、同社は2004年にアメリカ・カリフォルニア州で設立されたPCペリフェラル関連のメーカーである。

 シンプルな直線で構成された独創的なデザインのケースやCPUクーラーを投入するメーカーとして知られてきたが、2018年1月に初のマザーボード製品「N7 Z370」を投入。NZXTのケースととくに相性が良いシンプルなデザインで、国内でも注目を集めたが、日本での発売が叶うことがなかった。

前モデルとなるN7 Z370

 そして2018年10月に、この後継としてIntel Z390チップセットを搭載したN7 Z390を海外で発表。しかしこのときも「日本国内での発売はN7 370と同様に未定」として、NZXT Japanの公式Twitterで告知された。

 ただ、製品としてはBIOSを含めて日本語対応が済んでいるほか、NZXT JapanのTwitterアカウントにはN7 Z390発売を望む声が多く寄せられ、そのファンの声に応えるため日本で発売する計画自体はあったようだ。

 しかし、N7 Z390は当初アメリカで2018年11月に発売する予定だったのだが、延期が続いてしまい、結局2019年夏にようやく発売された。よって、N7 Z390の日本での投入も9月末へとずれこんでしまった。リリースから約1年のときを経てようやく実現というのは、新陳代謝が速いPCパーツとしては異例の期間だと言えるが、マザーボードの開発実績がない同社がチャレンジし、製品化を実現したというだけでも、歓迎すべきトピックだと言えるだろう。

シンプルで洗練された外観、ただ一部チープに感じられる部分も

 製品パッケージはとてもシンプルで好感が持てる。近年の高級マザーボードのパッケージは2層式(アクセサリとマザーボード)になっていることが多いが、本製品は付属品が底部に格納されているためスリムに仕上がっている。ただ内箱は茶箱であり、このあたりは4万円するマザーボードらしからぬ造りである。

 付属品はSATAケーブルが4本、Wi-Fiアンテナが2本、LEDテープ用延長ケーブルが3本、そしてマザーボードを止めるネジのセットである。ネジがセットになっているのは、マザーボード全体を覆うカバーにより、一部のホールは標準のネジだと止めにくいため。付属するネジは、頭が長いタイプとなっている。

 バックパネルカバーは本体と一体となっており、このあたりは流行の作り。マザーボードをネジ止めしたあとバックパネルカバーを取り付け忘れるというありがちなミスを回避できるのはうれしいところだ。

 表面はスチール製と思われるカバーで大部分が覆われており、シンプルで洗練された外観を実現している。また、このカバーのみならず、VRM部、チップセット部、M.2スロット部のカバーはツールレスで容易に取り外せるようになっているので、メンテナンスや別売りのデコレーション用カバーへの換装も簡単だ。

 ただ1点気になったのは、M.2カバーおよびチップセットカバーが若干緩めになっているためぐらつくこと。せっかく高級感のある外観を実現しているのだから、ここはビシッと止まるようにしてほしかった。

 また、電源フェーズがN7 Z370の15フェーズから9フェーズになっていたり、NVIDIA SLIのサポートが省かれていたりと、コストダウンをしている部分も見受けられる。

製品パッケージはシンプルでスリムだ
マザーボードや付属品は茶箱に収められている
3万円超のマザーボードとしては付属品は少ないだろう
カバーがあってもネジ止めしやすいよう、一部のネジは頭が嵩上げされている
マザーボード本体
チップセットやM.2スロットのカバーはラッチで留められている
M.2スロットカバーやVRMカバー、チップセットカバーを取り外したところ
背面のインターフェイス

 ちなみにNZXTが配布しているレビュワーズガイドでは、“ファンコントローラ「GRID+ V3」およびLEDコントローラ「HUE 2」をあわせると100ドル超(日本では実売約17,000円)なので、N7 Z390のコストパフォーマンスは高い”と謳われている。たしかにNZXTのペリフェラルをベースとしたシステムを構築するぶんには高いコストパフォーマンスを実現しているのだが、(若干ピンヘッダが多いとは言え)機能面では他社のミドルレンジモデルと同等レベルであり、3万円超のマザーボードとして見ると若干スペックに物足りなさを感じてしまう。

【表】N7 Z390とN7 Z370の仕様変更点の比較
モデルN7 Z390N7 Z370
電源フェーズ9フェーズ15フェーズ
NVIDIA SLI非対応対応
ディスプレイ出力HDMIHDMI/DisplayPort
USB(ピンヘッダ含む)3.1×5、3.0×4、2.0×63.0×8、2.0×11
ボタン電源/リセット/CMOSクリア(すべて背面パネル)電源/リセットはオンボード、CMOSクリアは背面パネル
POSTコード表示背面パネルオンボード
無線LANIEEE 802.11ac(CNVi)なし

実装部品は基本コストパフォーマンス追求

 全体を覆うカバーは容易に取り外し可能なので、実装部品を確認してみることにした。CPUの電源は、InterSil(ルネサス)の「ISL69138」を中心とした9フェーズ構成。ただ、このコントローラは最多7フェーズまでなので、N7 Z390は同コントローラがサポートしているフェーズダブラー「ISL6617A」を4基搭載し、4フェーズを8フェーズにまで拡張している。よって、ISL69138をフルに活かした部品実装とは言いにくい。

 MOSFETのドライバにはInterSilの「ISL6596CRZ」が使われており、MOSFET自身には2チャネルを内蔵したSinopower製の「SM7340EHKP」を採用している。後者の最大電流量はチャネル1が20A、チャネル2が40Aだ。全体的に見ると、ライトなオーバークロックならこなせるだろうが、液体窒素などのヘビーユースには不向きだと言える。

 そのほか、ファンやLEDを制御すると見られるSTMicroelectronics製のコントローラ「STM32F072RB」、ITE Tech製のスーパーI/O「IT8625E」、Realtek Semiconductor製のオーディオコーデック「ALC1220」、IntelのGigabit Ethernetコントローラ「I219V」の実装などが見える。なお、無線LANモジュールにはIntelのCNVi対応9580NGWが採用されている。

カバーはツールレスで取り外しできる
前面カバーをすべて取り払ったところ
マザーボード背面
チップセット付近の配線は見ていて楽しい
CPUソケット付近のクリアランスは結構確保されている
VRMヒートシンクは2ピース構造となっている
電源フェーズコントローラはInterSilのISL69138だ
全部で9フェーズ構成となっている
フェーズダブラーのISL6617Aを4基、バルクMOSFETコントローラのISL6596を8基利用し、SinopowerのMOSFETであるSM7340EHKPを稼働させている。実質、4×2+1の9フェーズ構成だ
メモリ付近もSinopower製のMOSFETを採用している
IntelのGigabit EthernetコントローラI219V
IntelのCNVi対応無線モジュール9580NGWが採用されている
Realtekのオーディオコーデック「ALC1220」
ITEのスーパーI/O IT8625E
ITEのPCI Express 3.0対応パッシブマルチプレクサ「IT8898」

 特徴的なのはファンコントローラ周りで、コイルやコンデンサなどを組み合わせており、これによりPWMファンでも電圧制御のファンでも、回転オフを含む高度な処理を可能にしているようだ。

 また、本製品にはケース内の騒音を拾うマイクを搭載しており、それを使って独自ユーティリティ「CAM」上でチューニングデータとして使い、機械学習で解析することで、熱、性能、騒音のバランスを自動的に取る機能「Adaptive Noise Reduction」(以下ANR)を実現しているが、このマイクは前面USB Type-Cヘッダの隣に実装されている。

 詳しくは後述するが、このマイクで拾った音は、CAM上で騒音値として表示されるものの、Windows上で音声として扱うことはできない。おそらくSTM32F072RBを介して騒音値のみをフィードバックしていると思われるが、詳細はわからない。

 ちなみに拡張スロットは、PCI Express 3.0 x16形状×2(両方利用時はx8+x8)、PCI Express 3.0 x4×2、PCI Express 3.0 x1×1、M.2×2(2基ともPCI Express x4接続でNVMe対応、うち1基はSATA対応)、ストレージインターフェイスはSATA 6Gbps×4。スロット数は少ないが、排他関係になるものはなく、すべて同時利用できる点も美学の1つだ。

STMicroelectronics製マイコンSTM32F072RBが採用されている。Cortex M0を内蔵しており、12bitのADC/DAC、PWM制御などが可能。マイクで拾ったノイズ、ファンとLEDテープ制御用だろう
ファン制御部は複雑な作りだ
穴が空いている部品が、騒音を拾うマイクのようだ

Adaptive Noise Reductionは今のところCAMの旧バージョンのみで対応

 目玉とされているANRを試すために、以下のようなテスト機材を用意した。

【表】テスト環境
マザーボードNZXT N7 Z390
CPUCore i7-9700K
メモリG.Skill Trident Z RGB 3,200MHz 8GB×2(32GB)
SSDKingston SNV125-S2/64GB
OSWindows 10 Home

 なお、10月3日の執筆時点で、NZXTのサイトからダウンロードできるユーティリティ「CAM」はバージョン4.0.1となっている。4.x系ではUIを大幅に刷新しており、よりシンプルなUIとなっているが、ANRについては現在実装中であり実現できていない。よって、現時点ではヘルプのページよりダウンロードできる、旧バージョンの3.7.6を使うしかない。

最新のCAM 4.0.1。最新版ではANRが使えない

 一般的なマザーボードのファン制御は、温度をベースにファンの回転数を抑えて騒音を減らすというシンプルなアプローチであるのだが、ANRは騒音値をベースに、ファン回転数、温度、CPU/GPU負荷を多元的に考慮したファン回転制御のカーブを作成するという。

 利用にはまず騒音が比較的少ない環境を用意する必要があり、つねに音楽が鳴っている場合やおしゃべりが続いている場合などはテスト結果に影響を与えるとしている。また、テスト中にほかのソフトが負荷をかからないようにしなければならない。

 準備ができたらCAMユーティリティの左の機能一覧の一番下のチェックボードのアイコンをクリックし、「PRESET」のタブで「START」を押せば自動的に計測と調整が行なわれる。調整は3段階で、PRESETではまずデフォルト状態でアイドル時と負荷時の違いを計測し、CALIBRATIONでは負荷継続時のファン速度調整による温度変化のデータを取得を行なう。そしてADAPTIVEでデータを元に作成したプロファイル適用後のアイドル時と負荷時のデータを取得し、最終的にユーザーにその結果を見せて、ANRを使うかどうかをゆだねるかたちだ。

 ただ、今回のテスト環境はバラック状態であり、かつCPUクーラーに比較的強力なCRYORIG「R1 Ultimate」、GPUにGeForce GTX 1070 Tiを使ったこともあり、CPU温度がANRが効くとされる70℃前後の温度に達することがなく、残念ながらCPUファンは終始1,000rpm前後で回転していた。よって、エアフローがより厳しいケース内や、高発熱のCPU/GPU、冷却性能に限界があるCPUクーラーでようやく効果が見える機能であろう。

CAM 3.7.6ならANRが利用可能。今回の試用では効果がなかったが、上の図のようにNZXTの計測よれば-7dBの効果があったという(CPUはCore i7-8700K、クーラーはKraken X72、マザーはN7 Z370、ビデオカードはGeForce RTX 2080、GPUクーラーはKraken X62+G12、ケースはH700i)

 ユーザーとして気になるのは、CAM 4.x系へのANRの実装だ。一応、現在実装作業中としているし、4.0.1の時点でも騒音値が取得できているので、実装には前向きであろうが、マザーボード新製品の告知もないので、どのぐらい本気なのか、本当に4.x系でも実装されるのか、やや心配ではある。

統一感のあるPCを組み立てたいユーザー向け

 以上のように概観してきたが、N7 Z390は他社のゲーミング向けマザーボードとは対象的な、シンプルなデザインが印象的だ。「自作PCを光らせたいけど、ゴテっとしたものではなく、シンプルで洗練されたものにしたい」という自作ユーザーなら、かなり満足できる製品ではないだろうか。細かい点を突き詰めればアラは出てくるが、NZXTのケースや簡易水冷クーラーと組み合わせたさいの洗練されたデザインは唯一無二である。

 さて、NZXTがマザーボードを投入する以前に「そもそもNZXTにマザーボードを設計/製造できるのか?」という疑問は挙がってくるだろう。本製品のネットワークコントローラのMACアドレスを確認してみたところ、「94:C6:91」からはじまっており、これを調べてみると「EliteGroup Computer Systems」に割り当てられていることがわかる。よって、設計や製造はECSが担当しているということで間違いないだろう。ECSが日本でコンシューマ向けマザーボード製品を投入しなくなってから久しいが、こんなかたちで再会できるのはうれしい。

 部品レベルで言えばやや価格と不釣り合いなのが難点ではあるのだが、ほかのマザーボードには類を見ないシンプルさがあり好感が持てる。NZXTのケースを使用しているユーザーであれば、真っ先に購入候補に入れておきたい製品だ。また、自作に人気の高いRyzen用に、AMD版の投入も期待したいところである。