レビュー

1万円切りでAMD FX搭載のMini-ITXマザー「A10N-8800E」を試す

A10N-8800

 近年、自作PC市場におけるCPUの話題は多コア化/高TDP化を辿る一方だ。長らく4コアがメインストリームの座に君臨していたが、2017年のAMD Ryzenの登場によってその状況は打破された。

 その一方で、TDP 35W未満の低消費電力セグメントは手薄になってしまったのは否めない。4~5年前は、AMDのAM1やIntelのAtom搭載マザーボードが色とりどり用意され、豊富な選択肢があったのだが、今となってはほとんど選択肢がなくなってしまったと言っていい。

 バリエーションが減ったの要因はさまざまだが、その1つにスマートフォンやタブレット向けのArmアーキテクチャの高性能化により、需要が減少してしまい、AMDやIntelがさほど注力しなくなってしまったことが挙げられるだろう。

 今回ご紹介する「A10N-8800E」は、プロセッサにAMD Carrizo世代のモバイル向け「FX-8800P」を搭載したMini-ITXマザーボード。FX-8800PのTDPは15Wであり、このシュリンクしてしまった市場に息を吹き返すものだといえる。ちなみに価格はオープンプライスで、税別店頭実売価格は9,980円前後だ。

 FX-8800Pは低消費電力が期待できる一方で、CPUコアはBulldozerアーキテクチャの流れを汲む末裔、Excavatorを採用しているのが最大の特徴。AM1プラットフォームでは低電力に注力したJaguarアーキテクチャのCPUコアを採用していたが、Excavatorは高性能に注力したBulldozerの電力を最適化したもの。このアーキテクチャの設計思想の違いが決定的な性能差を生む。

付属品など
マザーボード背面は実装部品が少ない

ユニークな仕様と簡素な実装

 FX-8800P自体は2015年に発表したプロセッサなのでちょっと古いだのだが、改めておさらいしておこう。ExcavatorアーキテクチャのCPUコア4基は、ベースクロック2.1GHz、Boostクロック3.4GHzで動作。GPUは第3世代GCNアーキテクチャで、コンピュートユニット数は8基、クロックは800MHzと、半導体としてはフルスペックで動作しているものとなる。

 やや面白いのがTDPとメモリである。FX-8800P自体、TDPの上限は35Wとされているが、Configurable TDP(cTDP)により12W~35Wのあいだで可変とされている。その一方で、本製品のTDPは製品情報やBIOS上、CPU-Z上で一貫して15Wと表記されている。この辺りについては後ほど検証することとしたい。

 もう1つユニークなのは、FX-8800P自体がDDR3メモリ対応であるのに対し、本製品はDDR4メモリ対応となっている点。公式にDDR4メモリに対応したのは、Carrizo後継となるBristol Ridgeからだだが、Bristol RidgeとCarrizoは半導体的に共通である。よって本製品はCarrizoながら、BIOSやハードウェアの仕組みなどによってDDR4を有効にしたものと思われる。

CPUこそDDR3対応のCarrizoだが、メモリはDDR4とBristol Ridgeと同じ

 Carrizoに内蔵されているCPUコアのExcavatorは、その前世代のSteamrollerから半導体設計のライブラリを高性能から高密度に変更したものとなっており、同じ28nmプロセスでありながら、ダイ専有面積を23%削減している。これによってサウスブリッジに相当する機能も内蔵することとなった。よって、純粋な演算プロセッサより、SoC色が濃くなっている。

 そのことはマザーボード自身を見ても明らかで、A10N-8800Eでは中央に鎮座するFX-8800P以外、大きな半導体は見当たらない。主要なものとして挙げられるのは、Realtek製のネットワークコントローラ「RTL8111H」、オーディオコーデック「ALC887」、PCI Expressマルチプレクサ/デマルチプレクサ「ASM1480」、DisplayPort→アナログRGBコンバータ「IT6516BFN」、Winbond製のBIOSを保存するSPIフラッシュメモリ「W25Q64FWSIG」などが見えるが、残りのほとんどは電源関連だ。

Realtek製のネットワークコントローラ「RTL8111H」
Realtek製のオーディオコーデック「ALC887」
PCI Expressマルチプレクサ/デマルチプレクサ「ASM1480」
DisplayPort→アナログRGBコンバータ「IT6516BFN」

 電源周りの作りは近年のBIOSTARらしいものとなっており、台湾メーカーを中心に固められている。アルミ固体コンデンサはすべてAPAQ TECHNOLOGY製で、MOSFETはSinopower Semiconductor製の「SM4364」や「SM4377」、電源用のリニアレギュレータはAnpec Electronicsの「APL5933C」だ。唯一、マルチフェーズPWMレギュレータはIntersil(ルネサス)製の「ISL62773A」となっている。

電源は2+1フェーズ
Intersil(ルネサス)製のマルチフェーズPWMレギュレータ「ISL62773A」を2つ搭載している
MOSFETはSinopower Semiconductor製だ

 全体的な実装としてはゆったりしており、このあたりはモバイル向けのFX-8800Pらしい。背面のインターフェイスもUSB 3.0×2、USB 2.0×2、HDMI、ミニD-Sub15ピン、PS/2×2、Gigabit Ethernet、音声入出力と、過不足なく取り揃えている。

 拡張スロットはPCI Express 3.0 x16形状が1基、M.2が1基あるが、前者は内部的にx4接続、後者はx2接続となっており、フルスペックではない。高性能なGPUやSSDを接続してもフルスペックを発揮できないことを意味するが、本製品の性格上、とくに問題にならないだろう。

 このほかピンヘッダにより、USB 3.0×2、USB 2.0×2、シリアルポート、音声入出力を増設できる。3ピンのファンコネクタも1つ残されており、熱処理に不安がある場合は利用すると良い。

本体背面のインターフェイス
オンボードのピンヘッダによりUSB 3.0×2、USB 2.0×2、シリアルポートを増設可能

おおむねAthlon 200GEの8割の性能。ただしピーク消費電力は高め

 それでは実際にA10M-8800Eの性能を見ていきたい。今回お借りしたのはマザーボードのみなので、メモリとしてApacerのDDR4メモリ(2,133MHz駆動)、ストレージにIntel SSD 330 120GB、OSにWindows 10 Home(1803)、電源にCorsair CX430M(430W)を用意した。SSD以外は以前にテストしたAthlon 200GEに近い。

 今回は試用する時間が取れたため、PCMark 10や3DMark、CPU-ZのCPUテストに加え、CINEBENCH R15、SiSoftware Sandraによるベンチマークや、OCCTによる消費電力の計測も行なった。比較用に、ローエンドデスクトップ向けのAthlon 200GEと、性能の実用性が高いレベルのUMPCのGPD Pocket 2の結果も残した。なお、本機においてFire Strikeはエラーが出て実行できなかったため、結果を掲載していない。

 さてそのほかのベンチマーク結果だが、ざっくり言って「Athlon 200GEの85%程度の性能」とまとめることができる。A10M-8800Eでは3DMarkのFire Strikeが動作しなかったが、PCMark 10は2715対3136(約85%)と結果は悪くない。内訳的には、GPUを多用するDigital Content Creationで良好な結果を残していることがわかる。

【表】ベンチマーク結果
A10N-8800EAthlon 200GEGPD Pocket 2
CPUFX-8800PAthlon 200GECore m3-7Y30
メモリDDR4-2133 4GB×2DDR3L-1333 4GB×2
ストレージIntel 330 120GBKingston SSDNow V100 128GB128GB eMMC
OSWindows 10 Home(1803)
電源Corsair CX430M-
3DMark
Sky Diver537744822532
Graphics score583743762480
Physics score376150823028
Combined score568545092334
3DMark
Cloud Gate625378414007
Graphics score10881113525297
Physics score251337662164
3DMark
Ice Storm Extreme380685299314570
Graphics score523485751613629
Physics score194754155719216
PCMark 10
PCMark 10 score271531362317
Essentials547265164886
App Start-up Score541963145033
Video Conferencing Score595267595183
Web Browsing Score508964844473
Productivity419054714495
Spreadsheets Score535869315413
Writing Score327843203733
Digital Content Creation237123501538
Photo Editing Score312030881873
Rendering and Visualization Score17381795899
Video Editing Score246023432164
Cinebench R15
CPU253未実施195
GPU37.81未実施27.9

 実際に操作してみても、Athlon 5350やGemini LakeのCeleron/Pentiumよりも動作がキビキビしており、低消費電力重視のアーキテクチャと一線を画す操作感であることが実感できる。

 気になるのはOCCTのPower Supplyテスト実施時(10分間)の消費電力推移だ。このテストは、CPUでAVX2命令を使用したLinpack、GPUでFurmarkを同時実行することで、ストレージを除くシステム全体の最大消費電力を引き出すものとなっているが、A10M-8800Eは最大で62Wものピーク消費電力を記録した。

 ハードウェアモニタリングを見ると、Power Supplyテストを開始すると、CPUは一瞬だけ3.4GHzを記録するが、それ以降は下限である1.4GHzをキープし続ける。一方のGPUは、開始後2分間は700MHz近くに達しているが、このテストでは2分を経過したところでCPU使用率が50%前後から100%前後にまで高まるため、GPU側に影響が出て少しずつクロックが下がりはじめ、3分半経過したところでは500MHz前後にまで低下していることがわかる。

 3分半後のGPUクロックは開始時から29%程度低下しているが、Furmarkのフレームレートは34fpsから29fpsと18%の低下にとどまっている。その一方で、システムの消費電力は48W前後にまで低下した。その差はじつに14Wに達する。ちなみにアイドル時の消費電力は17W前後だ。

 このことから鑑みるに、本製品に搭載されているFX-8800PのTDPは、事実上35Wであると見たほうがいい。少なくとも60W超という消費電力の実測値からして、15WというTDPはあまりにも乖離が大きいと言わざる得ない。CPUとGPUの負荷が継続し、40W前後まで落ち着いたあたりで、ようやく15Wという数字に現実味が帯びてくる。もちろんOCCTほど負荷が高いソフトは現実的には少ないのだが、本製品を駆動するために、最低でも80W前後の電源を用意すべきだろう。

OCCT Power Supply Testのような「パワーウイルス」では、CPUクロックよりもGPUクロックのほうが重視され、CPUは最低限の1.4GHz動作となる。CPUクロックとGPUクロックの関係については、A8-7670Kのレビューも参照してもらいたい
CPU負荷が高まると、GPUクロックは500MHzに低下する
K15KTで見たCPUのクロックテーブル。ちなみにCarrizoの後継のBristol Ridgeではこの8つに加えて2つのシャドウPステイトがあり、さらに細かく電圧と周波数を制御している
PCMark 10実施中はピークの3.4GHzを記録することも多々ある

そこそこの性能のマシンに好適

 約6,500円のAthlon 200GEを用いてMini-ITXシステムを構築する場合、約1万円のマザーボードが別途必要になり、合計約16,500円の出費となるが、本製品はその6割強の価格で済む。それでも85%程度の性能が出るので、実用性は高く、コストパフォーマンスは高いと言える。

 ピーク時の消費電力の高さという、Bulldozerアーキテクチャの宿命とも言える弱点がなくもないが、それほど高負荷をかけ続けないような一般的な使い方ではあまり気にならないだろう。なおかつ、本機にはAtomやAM1固有のもっさり感もないため、メインマシンの使い勝手とは大差がない。OSにWindows 7をサポートしている点も貴重だ。安価で快適に日常的なWebブラウジングや文字入力、簡単なフォトレタッチを行ないたいなら、選択肢に入れておきたい製品だ。