レビュー

12nmで動作クロックが1,500MHzを超えた「Radeon RX 590」を試す

 AMDは11月15日、Polarisアーキテクチャを採用する新GPU「Radeon RX 590」を発表した。この発表に先立って、同GPUを搭載したビデオカードをテストする機会が得られたので、ベンチマークによってその実力をチェックしてみた。

12nmプロセスで製造されるPolarisベースのGPU「Radeon RX 590」

 Radeon RX 590は、第4世代GCN(Graphics Core Next)ことPolarisアーキテクチャに基づき、12nm FinFETプロセスで製造されたGPUだ。ミドルレンジのRadeon RX 580と、ハイエンドのRadeon RX Vega 56の間を埋める製品として、AMDのGPUラインナップに加わることになる。

 GPUコアが備えるコンピュートユニットは36基で、2,304基のストリーミングプロセッサと144基のテクスチャユニットを備えている。VRAMには8Gtps動作のGDDR5メモリを8GB搭載。256bitのメモリインターフェイスでGPUと接続しており、メモリ帯域幅は256GB/s。

 Radeon RX 590のGPUコアはRadeon RX 580と同じ規模であり、両GPUコアの違いは製造プロセスが14nmから12nmに変更された点にある。この製造プロセスの変更によるGPUのダイサイズに変化はないものの、性能と効率の改善によって従来のPolarisベースGPUよりも高クロックでの動作を実現している。

【表1】Radeon RX 590のおもな仕様
モデルナンバーRadeon RX 590Radeon RX 580
アーキテクチャPolaris
製造プロセス12nm14nm
ダイサイズ232平方mm232平方mm
コンピュートユニット36基36基
ストリーミングプロセッサー2,304基2,304基
テクスチャユニット144基144基
ROPユニット32基32基
ベースクロック1,469MHz1,257MHz
ブーストクロック1,545MHz1,340MHz
メモリ容量8GB GDDR58GB GDDR5
メモリスピード8.0Gtps8.0Gtps
メモリインターフェイス256bit256bit
メモリ帯域256GB/sec256GB/sec
消費電力225W185W

テスト機材

 今回借用したのは、PowerColorのRadeon RX 590搭載カード「Red Devil Radeon RX 590 8GB GDDR5(AXRX 590 8GBD5-3DH/OC)」。

 3スロットを占有するデュアルファンGPUクーラーを搭載したオーバークロック仕様のビデオカードで、ブラケット付近に配置されたVBIOS切り替えスイッチにより、高冷却高クロック動作の「Ultra-OC」と、バランス重視の「Silent-OC」、2モードを選択できる。

PowerColor Red Devil Radeon RX 590 8GB GDDR5
3スロットを占有するデュアルファンGPUクーラーを搭載
画面出力端子。DisplayPort×3、HDMI×1、DVI-D×1
補助電源コネクタは8ピン+6ピン
ブラケット付近のスライドスイッチはVBIOSの切り替えスイッチ。ブラケット側が「Ultra-OC」、補助電源コネクタ側が「Silent-OC」。スイッチの切り替えは電源をオフにした状態で行なう
Ultra-OCモードでのGPU-Z実行画面。GPUクロックは1,576MHz
Silent-OCモードでのGPU-Z実行画面。GPUクロックは1,545MHz

 Radeon RX 590の比較機材として、Radeon RX 580搭載ビデオカード「SAPPHIRE NITRO+ RADEON RX 580 8G GDDR5 OC」と、GeForce GTX 1060 6GB搭載ビデオカード「ZOTAC GeForce GTX 1060 6GB AMP Edition」を用意した。どちらもオーバークロック仕様のビデオカードだ。

 各ビデオカードは、8コア16スレッドCPUのCore i9-9900Kを搭載したIntel Z370環境でテストする。グラフィックスドライバについては、Radeon RX 590はレビュアー用ドライバ(25.20.14010.7)を使用し、そのほかのGPUはテスト時点で配布されている最新版ドライバを利用した。

【表2】テスト機材一覧
GPURadeon RX 590Radeon RX 580GeForce GTX 1060 6GB
CPUIntel Core i9-9900K
CPUクーラーASUS ROG RYUJIN 240
マザーボードASUS PRIME Z370-A (UEFI: 1601)
メモリDDR4-2666 8GB×2 (2ch、16-18-18-36、1.35V)
システム用ストレージIntel SSD 600p (256GB SSD/M.2-PCIe 3.0 x4)
アプリケーション用ストレージSanDisk Ultra 3D SSD (1TB SSD/SATA 6Gbps)
電源玄人志向 KRPW-TI700W/94+ (700W 80PLUS Titanium)
グラフィックスドライバ25.20.14010.7Radeon Software Adrenalin Edition 18.11.1 OptionalGeForce Game Ready Driver 416.81
OSWindows 10 Pro 64bit (Ver 1803 / build 17134.376)
電源設定高パフォーマンス
室温約28℃
【表3】各ビデオカードのテスト時動作仕様
GPURadeon RX 590 Ultra-OCRadeon RX 590 Silent-OCRadeon RX 580GeForce GTX 1060 6GB
ビデオカードベンダーPowerColorSAPPHIREZOTAC
製品名Red Devil Radeon RX 590 8GB GDDR5NITRO+ RADEON RX 580 8G GDDR5 OCGeForce GTX 1060 6GB AMP Edition
ベースクロック1,557MHz
ブーストクロック1,576MHz1,545MHz1,411MHz1,772MHz
メモリ容量8GB GDDR58GB GDDR56GB GDDR5
メモリスピード8.0Gtps8.0Gtps8.0Gtps
メモリインターフェイス256bit256bit192bit
メモリ帯域256GB/s256GB/s192GB/s
SAPPHIRE NITRO+ RADEON RX 580 8G GDDR5 OC
SAPPHIRE NITRO+ RADEON RX 580 8G GDDR5 OCのGPU-Z実行画面
ZOTAC GeForce GTX 1060 6GB AMP Edition
ZOTAC GeForce GTX 1060 6GB AMP EditionのGPU-Z実行画面

ベンチマーク結果

 今回実行したベンチマーテストは、「3DMark(グラフ1~7)」、「VRMark(グラフ8~9)」、「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク(グラフ10)」、「INAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク(グラフ11)」、「アサシン クリード オデッセイ(グラフ12)」、「シャドウ オブ ザ トゥームレイダー(グラフ13)」、「モンスターハンター:ワールド(グラフ14)」、「オーバーウォッチ(グラフ15)」、「ニーア オートマタ(グラフ16)」、「ゴーストリコン ワイルドランズ(グラフ17)」。

 3DMarkのDirectX 12高負荷テスト「Time Spy」でのRadeon RX 590 Silent-OCは、Radeon RX 580に約7%、GeForcer GTX 1060に約9~12%の差をつけて上回った。

 DirectX 11高負荷テストの「FireStrike」では、Radeon RX 580との差は約6%程度でTime Spyの結果と大差ないが、GeForcer GTX 1060との差は約14~20%に拡大。中負荷テストの「Sky Diver」と「Night Raid」では、Radeon RX 580との差は約3~4%、GeForce GTX 1060とは約9%差だった。

 PowerColor Red Devil Radeon RX 590 8GB GDDR5の強OCモードであるRadeon RX 590 Ultra-OCについては、Radeon RX 590 Silent-OCを約0.5~1.8%上回っている。クロック差を考えれば妥当な結果と言えるだろう。

【グラフ01】3DMark v2.6.6174「Time Spy」
【グラフ02】3DMark v2.6.6174「Time Spy Extreme」
【グラフ03】3DMark v2.6.6174「Fire Strike」
【グラフ04】3DMark v2.6.6174「Fire Strike Extreme」
【グラフ05】3DMark v2.6.6174「Fire Strike Ultra」
【グラフ06】3DMark v2.6.6174「Sky Diver」
【グラフ07】3DMark v2.6.6174「Night Raid」

 VR性能を測定するVRMarkでは、Radeon RX 590 Silent-OCとRadeon RX 580の差が約6~7%でほぼ一定だった一方、GeForce GTX 1060との差については、Orange Roomで約12%、Cyan Roomで約39%、Blue Roomで約7%となった。

  GeForce GTX 1060に対して約39%もの差をつけたCyan Roomは、VRMarkのテストで唯一のDirectX 12テストだ。過去の検証でもGeForce GTX 1060と同じPascalアーキテクチャを採用するGPUはCyan Roomのスコアが伸び悩んでいることから、PascalとPolaris、両アーキテクチャの得手不得手が極端に反映された結果のようだ。

【グラフ08】VRMark v1.3.2020「スコア」
【グラフ09】VRMark v1.3.2020「平均フレームレート」

 ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマークでのRadeon RX 590 Silent-OCは、Radeon RX 580を約6~7%の差で上回る一方、GeForce GTX 1060にはフルHD解像度で逆に4%の差をつけられている。

 もっとも、より高解像度であるWQHD解像度では同等のスコアに追いつき、4K解像度では逆に2%の差をつけて上回っているので、一概にGeForce GTX 1060が優位という訳ではない。なお、Radeon RX 590 Ultra-OCとRadeon RX 590 Silent-OCの差は1%未満なので、OCモードの違いはGeForce GTX 1060との差に大きく影響しない。

【グラフ10】ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマーク

 FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークでは、3つの描画品質設定をフルHD解像度でテスト。Radeon RX 590は、最も低負荷の「軽量品質」設定での結果ではあるものの、2番目に高い評価である「とても快適」の基準となる9,000を超えるスコアを比較製品の中で唯一記録した。

 Radeon RX 590 Silent-OCはRadeon RX 580を5~7%の差で上回り、GeForce GTX 1060には軽量品質と標準品質では約2%の差で上回ったが、NVIDIA GameWorksの機能を活用する高品質では逆に7%の差をつけられた。

【グラフ11】FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク

 アサシン クリード オデッセイでは、画面解像度をフルHDに固定して、4つの描画設定でベンチマークを実行した。

 Radeon RX 590 Silent-OCはRadeon RX 580を約4~6%の差で上回ったが、GeForce GTX 1060はそのRadeon RX 590 Silent-OCより約10~15%も高いフレームレートを記録した。伝統的にNVIDIA製GPUが高いパフォーマンスを発揮するアサシン クリード シリーズであることを考えれば、善戦していると言える結果であり、描画設定「最高」でも家庭用ゲーム機基準の30fpsは狙える。

 なお、アサシン クリード オデッセイはRadeon RX 590 Ultra-OCが効果を発揮しているモードであり、Radeon RX 590 Silent-OCより3~4%高いフレームレートを記録している。もっとも、この性能向上があってもGeForce GTX 1060との差を覆すことは出来ない。

【グラフ12】アサシン クリード オデッセイ (v1.0.6)

 シャドウ オブ ザ トゥームレイダーでは、DirectX 12かつフルHD解像度で、4種類の描画設定でのベンチマークを実行した。このタイトルにおいて、Radeon RX 590は描画設定「最高」でも60fpsを上回っており、フルHD解像度であれば高画質設定でも60fpsの維持が期待できる性能を発揮した。

 Radeon RX 590 Silent-OCは、Radeon RX 580を約4~6%上回り、GeForce GTX 1060には約16~18%もの差をつけて上回った。VRMarkのCyan Roomと同じように、PascalとPolarisのDirectX 12における得手不得手が反映された結果だ。

【グラフ13】シャドウ オブ ザ トゥームレイダー (v1.0/build 236.1)

 モンスターハンター:ワールドでは、画面解像度をフルHDに固定し、4種類の描画設定でのフレームレートを測定した。本タイトルは30fpsから遊べるゲームであり、Radeon RX 590はフルHD解像度なら画質を追求してもプレイアブルなフレームレートを維持できる実力を示している。

 Radeon RX 590 Silent-OCは、Radeon RX 580を約4~9%上回り、GeForce GTX 1060には描画設定「低」を除き、約10~17%の差をつけて上回った。描画設定「低」ではGeForce GTX 1060がRadeon RX 590 Silent-OCを僅かに上回っているが、あまり意味のある差ではない。

【グラフ14】モンスターハンター:ワールド (Revision 160018)

 オーバーウォッチでは、描画設定を最高の「エピック」に固定し、フルHD~4Kまでの画面解像度でフレームレートの測定を行なった。このタイトルは60fps以上の動作が必須とも言えるタイトルであり、Radeon RX 590が最高画質設定でこれをクリアできるのはWQHD解像度までだった。

 Radeon RX 590 Silent-OCは、Radeon RX 580を約7~9%上回ったが、GeForce GTX 1060には逆に4~8%の差をつけられた。Radeon RX 590 Ultra-OCのSilent-OCに対するアドバンテージは1%未満であり、GeForce GTX 1060との差を3~7%へ僅かに縮める程度の効果にとどまった。

【グラフ15】オーバーウォッチ (v1.29.0.1)

 ニーア オートマタでは、画面解像度をフルHDに固定して、3種類の描画設定でフレームレートを測定した。本タイトルはフレームレートの上限が60fpsに設定されているタイトルであり、今回のテスト環境では59fps前後でフレームレートが張り付く形となる。したがって、58~60fpsの結果は上限に張り付いているものと考えてもらいたい。

 今回のテストでは、どのGPUも描画設定「MEDIUM」まではフレームレート上限に到達しており、差がついたのは描画設定「HIGH」のみとなっている。このさい、Radeon RX 590 Silent-OCは、Radeon RX 580を約2%上回り、GeForce GTX 1060には逆に7%の差をつけられた。

 Radeon RX 590 Ultra-OCはSilent-OCを約2%上回っており、GeForce GTX 1060との差を5%弱にまで縮められる。いずれにせよ、描画設定「HIGH」でのプレイ中はどのGPUでもフレームレートの低下が目立つため、快適にプレイするには描画設定を調整する必要がある。

【グラフ16】ニーア オートマタ (build 1787043)

 ゴーストリコン ワイルドランズでは、画面解像度をフルHDに固定して、4種類の描画設定でベンチマークを実行した。本タイトルは家庭用ゲーム機では30fpsが基準となっているタイトルであり、Radeon RX 590は30fpsなら最高品質設定の「ウルトラ」でのプレイが狙えるパフォーマンスを発揮している。

 Radeon RX 590 Silent-OCは、Radeon RX 580を約4~6%上回り、GeForce GTX 1060も2~6%の差で上回った。Radeon RX 590 Ultra-OCはSilent-OCより3~4%高いフレームレートを記録しており、描画設定「非常に高い」でも、滑らかな描画でゲームを楽しめそうだ。

【グラフ17】ゴーストリコン ワイルドランズ (v3246313)

 ベンチマーク実行中のピーク消費電力とアイドル時の消費電力を測定した結果が以下のグラフだ。

 Radeon RX 590搭載時のアイドル時消費電力は38~39Wで、GeForce GTX 1060より2~3W高く、Radeon RX 580より2~3W低いという結果だった。

 Benchmark中のピーク消費電力については、Radeon RX 590 Silent-OCが254~310W、Radeon RX 590 Ultra-OCが256~315W。いずれもUltra-OCの方が高いが、両モードの差は1%前後とごく小さなものだ。

 Radeon RX 580の消費電力はRadeon RX 590と大差がないものであり、この結果は12nmプロセスで製造されたRadeon RX 590の電力効率が改善していることを示すものだ。ただし、電力効率という点ではSilent-OC比で61~71%の電力消費に留まるGeForce GTX 1060がRadeon勢を圧倒している。

【グラフ18】システムの消費電力

 ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター ベンチマークを4K解像度かつ最高品質設定で実行したさい、GPUの動作を「GPU-Z 2.14.0」でモニタリングしたデータが以下のグラフだ。

 Radeon RX 590 Silent-OCでは、ピーク温度77℃、ファン回転数は最大1,545rpmに達した。Silent-OCでは、無負荷時にはファンを停止するセミファンレス動作となっており、GPU温度が75℃前後になるように制御しているようだ。GPUクロックは1,500MHzをやや超える辺りで推移していることが見て取れる。

【グラフ19】「Radeon RX 590 Silent-OC」のGPUモニタリングデータ

 Radeon RX 590 Ultra-OCでは、ピーク温度は68℃、最大ファン回転数は2,628rpmだった。セミファンレス動作となるSilent-OCと違い、無負荷時でもファンは1,000rpm程度で動作しており、GPU温度が65℃程度になるようファンを制御している。結果としてベンチマーク中の騒音はSilent-OCよりかなり大きい。

【グラフ20】「Radeon RX 590 Ultra-OC」のGPUモニタリングデータ

FreeSync対応ディスプレイとセットで選びたい高性能ミドルレンジGPU

 Radeon RX 590は、新たな12nmプロセスで製造することによって、電力効率の改善と高クロック動作を実現した「強化版Radeon RX 580」とでも言うべきGPUであり、クロックが向上した分Radeon RX 580より高性能になっている。

 フルHD解像度までなら最新タイトルを高画質でプレイできる実力を備えており、安価なディスプレイにも普及している動的ディスプレイ同期技術「FreeSync」を用いれば、60fpsの維持が困難なゲームでも破綻の少ない滑らかな描画で楽しめる。コスト重視でゲーミングPCを構築したいユーザーにとって、Radeon RX 590は魅力的なミドルレンジGPUとなり得る。

 競合GPUに比べて高い消費電力と、それに伴って発生する熱への対処が容易なタワー型ケースでゲーミングPCを構築するのであれば、FreeSync対応ディスプレイとセットでの導入を検討する価値はあるだろう。