レビュー
「プレイステーション クラシック」分解記
2018年12月3日 16:48
1994年に発売した初代の「プレイステーション」のデザインを復刻し、ゲームタイトル20種類を内蔵した「プレイステーション クラシック」が12月3日、数量限定で発売された。税別価格は9,980円だ。
プレイステーションはソニー・コンピュータエンタテインメント(SEC、現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)が発売した据え置き型ゲーム機。当時、「ファミリーコンピュータ」や「スーパーファミコン」などのヒットで、据え置き型ゲーム機をほぼ独占していた任天堂のシェアを奪った名機である。
スーパーファミコンなどのゲーム機のソフトウェアの媒体は、ROMを内蔵したカセットであったために比較的高価であったが、プレイステーションは、媒体に製造が容易なCD-ROMを採用することで低価格を実現。また、3Dグラフィックス処理に特化したLSIを搭載することで、3Dゲームの普及に一役買った。
プレイステーション クラシックは、そんな偉大な功績を残したプレイステーションを復刻したモデルとなっている。コントローラや本体の見た目と使い勝手はほぼそのままに、ビデオ出力を現代的なHDMIに刷新。当時好評だった20本のゲームを収録し、過去にそれらのタイトルをプレイしたことのある人もない人も楽しめる製品に仕上がっている。
簡易試用レポート
パッケージはプレイステーションのそれをモチーフとしたものとなっている。残念ながら筆者はプレイステーションを購入したことがないため記憶が曖昧なのだが、友人の家で見たのに近い見た目だ(さすがに製品名はきちんとクラシックが入っているが)。ただ、ダンボールではなく、厚紙でできている。
緩衝材は必要最低限といった印象。上部には本体、下部にはコントローラ、HDMIケーブル、給電用Micro USBケーブルを収納している。HDMIケーブルが付属するのは意外とありがたいが、USBのACアダプタは別途ユーザーが用意する必要がある。5V/1A給電できれば良いとされており、モバイルバッテリやPCのUSBポートでも動作するので、問題はないだろう。
POWERボタンとRESETボタンは見た目どおりに動作する。一方、OPENボタンで本来光学ドライブになるべきところのカバーが開く機械的なギミックはないのだが、「ファイナルファンタジーVII」といった複数のディスクの入れ替えを要求するタイトルで、そのタイミングで本ボタンを押すことで、仮想的にディスクを入れ替えられるという(短時間でそこまで試せていないが)。
Micro USBから給電がはじまるとPOWERボタン手前のLEDがオレンジに光り、POWERボタンを押すと緑に光る。初回起動時には言語を選択し、その後メニューにおける各ボタンの説明がなされたあとに、ゲームタイトル選択画面に遷移した。
なお、メニューや出力自体は720p(1,280×720ドット)で16:9だが、当時のゲームは256×224ドット(プログレッシブ)~640×480ドット(インターレース)の4:3のアスペクト比で作られており、本機もその従来仕様のままなので、今どきのワイドディスプレイに映すとジャギジャギに見えるし、左右に黒帯もできてしまう(仕様では480pの出力も可能とされているが、今回は試していない)。
加えて、プレイステーションは整数演算による3D描画で荒っぽく、テクスチャのパース補正もないので、カメラ移動はかなりぎこちない。当時プレイした3Dゲームは、記憶のなかでかなり“美化”されているため、グラフィックスの美しさを目当てに本機を購入すると、かなりガッカリしてしまうだろう。
本体分解
本体は初代と同様に底面から分解する。分解すると保証外になるといったシールがないのも初代同様で、プラスドライバ1本で内部にアクセスできる。
底面を外すと基板裏面が露出し、さらにネジ4本外すことでカバーから取り外しできる。CPUの上には大きな金属板が熱伝導シートで貼り付けられており、これを取り除けば簡単にチップ実装面を見ることができる。
主要チップは6つのみと超シンプルだ。SoCはMediaTekの「MT8167A」であった。ARMのCortex-A35(1.5GHz)を4コア、GPUにPowerVR GE8300を内蔵したタブレット向けSoCである。
メモリはSamsung Semiconductorの「K4B4G1646E-BYMA」だ。これは1.35V駆動のDDR3で、最大1,866Mbpsで動作、容量は4Gbit(512MB)とされている。本製品ではこれを2つ搭載しているため、容量は1GBになっていると思われる。
Samsung製の「KLMAG1JETD-B041」は容量16GBのeMMCで、eMMC 5.1に準拠し、1.8または3.3Vで駆動。このなかにシステムやソフト一式が入っていると思われる。このほかに見えるMediaTekの「MT6392A」は電源制御IC、Realtekの「RTS5482」はUSB関連のコントローラと思われる(詳細は不明だが)。
あまりにもあっさりと分解できてしまってつまらないので、別途購入した初代プレイステーション(ただし数回マイナーチェンジを経たSCPH-5500)も分解して比較してみた。
SCPH-5500もかなり分解のしやすい筐体となっており、底面のネジ6本を外せばすぐに内部にアクセスできる。電源とCD-ROMドライブはケーブルでメイン基板と繋がっており、容易に取り外し可能。プラスドライバ1本でメイン基板までたどり着くことができ、メンテナンス性はトップクラスである。
CPU/GPU部ははんだ付けされた金属製シールドに覆われているが、ペンチで除去した。その下にはMIPS R3000AをベースとしたCPUと、独自設計の「Geometric Transfer Engine」と呼ばれるグラフィックスプロセッサが見える。基板上にはSONYのロゴが入ったカスタムチップが大半を占めているが、プレイステーション クラシックではその面影はまったく残っておらず、汎用品でカバーされていることがわかる。
詳細に分析したわけではないのだが、プレイステーション クラシックはエミュレーションによって初代タイトルを動作させていると推測される。
コントローラを分解
ついでに付属のコントローラも分解してみた。ちなみにこのコントローラはUSB接続となっており、PCに接続すれば一般的なゲームコントローラとしてWindows上から認識され、使用可能だ。ソニーにとって、今どき専用品をわざわざ作るメリットがないのだろう。
こちらも分解は背面のネジ8本を取り外すだけでOKだ。分解してすぐ見えるのが基板と中のフレームで、ボタンなどの回路はフィルム基板上に成形されていることがわかる。フレームは剛性が高いため、仮にボタンが故障したとしても、交換に必要な部品はこのフィルム基板のみで済むわけで、メンテナンス費用を大幅に削減できそうだ。
加えて、基板とケーブルの接続もはんだ付けではなく、Micro USBコネクタを用いている。柱に沿ってコードを3回折り曲げることで、引っ張りによる抜けを防止している。こちらも仮に断線したとしても交換部品はケーブルの抜き差しのみで済むため、メンテナンス性が高い。保証を度外視すれば、ユーザーが自身で断線を容易に修理できる。
収録タイトルに魅力を感じるなら買い
目が肥えた現代的なゲーマーにとって、本製品に内蔵されたゲームタイトルの3Dグラフィックス品質は見るに堪えないレベルだろう。せめてHD品質でも良いので、リマスター/リメイクされれば製品価値はもっと上がるだろうが、9,980円にそれを求めるのは酷だ。むしろオリジナルを尊重した点を評価すべきかもしれない。
もっとも、ゲームが本来評価されるべきなのはグラフィックスではなくゲームの内容なわけで、グラフィックスばかりもてはやされる現代のゲームに一石を投じるものだとも言える。ちなみに、筆者はプレイステーションを友人の家で遊んだ程度であり、内蔵タイトルはいずれも所持したことがないため、とりあえず一通りプレイして最終的な評価を下そうと思っている。
ハードウェア面でできるかぎり汎用部品を用いて構築した本製品は、カスタム品をできるだけ用いて、技術の進歩と半導体のシュリンクを見込んで製造コストを引き下げるプレイステーションの本来の開発手法とは対照的である。本製品が数量限定で販売されることを考えれば当然の結果だ。
それにしても、たった6チップに24年前のゲーム機と数十枚のCD-ROMを集約できてしまうとは、筆者も遠い未来に来てしまったなあと改めて思う。