レビュー
ColorfulのGeForce RTX 2080 Advanced OCで2GHz駆動を目指してみた
2018年9月19日 22:00
リアルタイムレイトレーシングを可能にする新世代ビデオカード「GeForce RTX 2080」がいよいよ明日発売となる。性能のベンチマークについては、同時に掲載したレビューをご覧いただくとして、この記事では、PC Watchが独自入手した「Colorful GeForce RTX 2080 Advanced OC」(以下RTX 2080 AOC)をベースに、GeForce RTX 2080を考察し、ビデオカードとしての使い勝手をレビューしていきたい。
なお、国内ではリンクスインターナショナルが取扱い、税込み価格は124,180円を予定している。
既報のとおり、GeForce GTX 10シリーズのときとは異なり、RTX 20シリーズに関して、サードパーティはFounders Edition(以下FE)を取り扱わないこととなっている。ただ、20日の販売時点では、基板に関してはいわゆるFE準拠のものとなっており、GPUクーラー部のみがサードパーティが独自に設計したものとなっている。基板も含めてサードパーティオリジナルデザインとなるのは、10月以降になる見込みだ。
RTX 2080 AOCにも共通のことが言え、基板はFEそのものだ。GPUクーラーについてはオリジナルの新設計のものが採用されており、放熱効果を高めている。ファンはトリプルで、中央に小口径のものが1つ、両側に大口径のものが2つ。8mm径のヒートパイプ5本を用いたヒートシンクによって冷却されている。
特徴はベイパーチェーンバーを採用したベース部で、ヒートパイプ/大型ヒートシンクと組み合わせることで、冷却性を上げている。また、アイドル時はファンの回転が停止する仕様で、騒音を一切発さないものとなっている。
このほかの外観の特徴は、14日のレビュー(写真で見る「Colorful GeForce RTX 2080 Advanced OC」でお伝えしているので、こちらも合わせて参照されたい。
GeForce GTX 1080からどのぐらい性能が向上するのか?
GeForce RTX 2080は、深層学習を高速化するTensorコアと、リアルタイムレイトレーシングを実現するRTコアの実装が最大のトピックだ。とりわけRTコアに関しては、ついにゲームでリアルタイムレイトレーシングをもたらせるとし、注目が集まっている。
しかし、完全なリアルタイムレイトレーシングをゲームで実現するのは、計算量などからして現在の技術では難しく、今後しばらくは、トゥルーグローバルイルミネーションのような、従来のラスタライゼーションでは実用的ではないテクニックなどで限定的に実装される見込みだ。つまり、ラスタライゼーションの品質を押し上げる補助的な技術、という扱いである。
一方のTensorコアも、現時点では深層学習の推論/学習性能云々にフォーカスするよりも、深層学習の推論を駆使したアンチエイリアス技術「DLSS」に使われることを目論んでおり、こちらも既存のゲームグラフィックス品質の向上を狙ったもの。極論、今すぐにコンシューマに大きなメリットをもたらす実装だというふうにはアピールされていない。
このため、NVIDIAが配布したレビュワーズガイドでも、冒頭でRTコアとTensorコアの実装について簡単に触れている程度である。じつは、その直後にある「Turingアーキテクチャは4K解像度のために設計したもの」こそが、NVIDIAがGeForce RTX 20シリーズで一番に謳いたい特徴のはずだ。
レビュワーズガイドによると、「Turingは186億トランジスタにより、(ハードウェアへの要求が)厳しい現代のゲームにおいて、画質へ最高設定にしても性能が達成できる」としている。これを達成するために、Turingではアーキテクチャな改善を施している。
改善の1つは、Turing Streaming Multiprocessor(SM)に、整数と浮動小数点演算を同時に実行できる、新しい独立した整数データパスの追加。これにより、Pascalと比較してSMの性能が1.5倍になったという。
2つ目は、SMメモリパスが共有メモリ、テクスチャキャッシング、メモリロードキャッシングを1つのユニットに統合した点が挙げられる。また、L1キャッシュの容量と帯域幅を2倍以上に引き上げ、14GbpsのGDDR6の採用により、4Kゲームに十分な速度と帯域幅を提供できたのだという。
振り返ってみれば、2010年以降、フルHD解像度がディスプレイ市場のほとんどを占めていたと言っても良い。4Kディスプレイ自体は、1,000ドルを切るものが2013年あたりに登場したが、この解像度において、最新ゲーム内の画質設定をフル設定し、満足できる3D性能を提供できるGPUは、なかなか出てこない状況であった。これを打破したのがTuringアーキテクチャであると、NVIDIAは謳っているわけである。
NVIDIAが挙げているゲームは「F1 2018」、「Far Cry 5」、「Shadow of the Tomb Raider」、「Star Wars Battlefront II」の4つで、いずれもUltraセッティングで、RTX 2080は60fps、RTX 2080 Tiは70fps後半をキープできるのだという。これがGTX 1080だと40fps前半、GTX 1080 Tiで50fps前半なので、それぞれからざっくり計算して40%強の性能向上となる。ただ、今後出てくるゲームが要求するスペックがさらに向上する場合、RTX 2080では力不足になってくることも示唆されている。
それでは、本当にGeForce GTX 1080から40%性能が向上するのか、筆者の環境でRTX 2080 AOCをベンチマークしてみた。CPUはXeon W-2175(2.5~4.3GHz)、マザーボードはX11SRA-F、メモリはDDR4-2400 16GB ECC、ストレージはPlextor M5P、OSはWindows 10 Pro(April 2018 Update)といった一風変わった環境だが、ご了承いただきたい。また、筆者は4Kディスプレイを所持していないため、WQHD環境でテストしている。
まずは3DMarkのスコアを見ると、DirectX 12世代のTime Spyでは5割向上の結果を残しており、Turingの抜本的なアーキテクチ改善の効果が見て取れる。DirectX 11世代のSky DiverとFire Extremeでも2割強の性能向上を果たしている。また、GeForce GTX 1080発売後にリリースされたWatch Dogs 2でも、ざっくり24%程度の改善が見える。
もう1つ筆者的に注目したいのはオンラインMMORPG「黒い砂漠」の結果だった。このゲームは9月初旬のアップデートで「リマスター」が実装され、グラフィックスの負荷がかなり向上した。
なかでもUltra Modeは、GTX 1080+WQHD解像度だと町中で20fps程度まで低下し、操作にはっきりとした遅延が感じられるため、実用的ではなかったのだが、RTX 2080では平均40fpsをキープでき、かなり実用的となっている(それでも戦闘で重いエフェクトが重なると20fps台後半に落ちるが)。ゲームやシーンによっては2倍近く性能差があり、GTX 1080で不満がある場合、買い替えでかなり改善される見込みはあるはずだ。
もともとGeForce GTX 900世代に登場したタイトルで、当時のハイエンドGPU(GeForce GTX 980 Ti)のフルHDで60fpsをキープできるかどうかであったが、長期にわたるサービス提供タイトルの場合、ハードウェアの進化に合わせたグラフィックスのリニューアルも考えられる。仮にWQHDや4Kディスプレイへの買い替えとリマスター版画質でのプレイを考えているのであれば、最新のGeForce RTXは有力な選択肢となる。
黒い砂漠 | RTX 2080 AOC | GTX 1080 |
---|---|---|
リマスター | 58~60fps | 50~60fps |
ウルトラ | 41~60fps | 20~44fps |
オーバークロックと温度の関係
RTX 2080 AOCはベースクロックこそ1,515MHzだが、Boostクロックは1,800MHzと、NVIDIA公式オーバークロック版であるFounders Editionに並ぶ数字となっている。共通の基板を採用しているから当たり前だと言えばそれまでだが、RTX 2080 AOCではゲームプレイ中、1,905MHzまで上昇した。
筆者はFEをテストしていないので、ゲームプレイ中の動作クロックは不明だが、本製品はFEより大掛かりな冷却機構を採用しているため、より高いクロックを維持できる可能性は高い。
実際に、PCケース内(Thermaltake View 31 TG RGB、室温26℃)に組み入れて使ってみたが、アイドル時はファンが停止しているのにもかかわらず温度が45℃であった。ベンチマーク負荷時は72℃まで上昇したが、ファンの回転数は小口径のものが2,000rpm前後、第口径のものが1,700rpm前後で、気になる騒音はさほど発していなかった(CPUファンのほうがうるさかった)。
PCI Express延長ケーブルで側面に半バラック状態で設置したところ、負荷時は65℃前後で推移した。RTX 2080 AOCに装備されたGPUクーラーは、大掛かりな機構を採用しているだけあって、かなり優秀だと言っていいだろう。
RTX 2080 AOCではこのもともと高いクロックに加え、専用アプリ「iGame Zone II」を利用することでさらなるオーバークロックが可能なほか、「GAME」、「SILENT」、「TURBO」という3つのプロファイルが用意されており、切り替えることも可能になっている。
実際に黒い砂漠のプレイ中に試してみたところ、GAMEでは1,920MHz、TURBOでは1,950MHzまで上がった一方で、SILENTは1,845MHzにまで低下した。GAMEとTURBOモードは標準からさほど消費電力と温度が上がらなかったが、SILENTモードは消費電力が80W下がり、GPU温度も6℃低下した。SILENTモードでは、温度のターゲットが83℃から73℃に引き下げられるので、それに伴ってクロックと消費電力が低下した格好となる。
NORMAL | TURBO | GAME | SILENT | 手動OC(+136MHz) | |
---|---|---|---|---|---|
最大温度 | 71℃ | 71℃ | 70℃ | 64℃ | 74℃ |
ファン回転数1 | 2,048rpm | 2,008rpm | 1,950rpm | 1,670rpm | 2,076rpm |
ファン回転数2 | 1,754rpm | 1,743rpm | 1,705rpm | 1,505rpm | 1,780rpm |
GPUクロック | 1,905MHz | 1,950MHz | 1,920MHz | 1,845MHz | 2,010MHz |
FFXVベンチマークスコア | 8027 | 8309 | 8176 | 7811 | 8375 |
黒い砂漠 リマスター画質プレイ時の消費電力 | 320W前後 | 320W前後 | 320W前後 | 290W前後 | 320W前後 |
黒い砂漠 ウルトラ画質プレイ時の消費電力 | 390W前後 | 390W前後 | 390W前後 | 310W前後 | 390W前後 |
FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマークを実施してみたところ、TURBOでは標準から3.5%性能が向上したが、消費電力はあまり増えないことから、1fpsをも争うシビアなFPSに有用な機能だと言える。一方でSILENTではスコアが2.7%ほど低下するが、消費電力は80Wほど低下するので、従来のPower Targetと同様、ゲームや使い方によってはかなり有効なモードだろう。
ちなみに、iGame Zone IIでは手動でオーバークロックもできるが、筆者が入手したバージョンだと電圧が調節できなかった。試しにクロックを+136MHzに振ったところ、最大で2,025MHzにまでクロックが引き上がった。+150MHzに設定したところ、最大2,055MHzに達したところでゲームがフリーズしたので、電圧を調節しない環境下では、2,025MHz前後が限界と言ったところ。
温度やファン回転数こそ上昇したが、フレームレートに与える影響はごくわずかで、顕著な消費電力増は見られなかった。RTX 2080の性能は1,900MHz前後がスイートスポットと言えそうだが、ついにGPUも簡単に2GHzも軽々超えられるようになったかと思うと、なかなか感慨深い。
GTX 1080と同系列のRTX 2080だが、TDPは180Wから250Wになっていることもあり、ゲームプレイ中70W程度の差が確認できた。筆者の環境で言えば、GTX 1080の300W台前半が、RTX 2080では400W前後に跳ね上がる。よって500W程度の電源で動くとされるGTX 1080だが、RTX 2080なら600Wクラスの電源を用意したほうが良い。
一方でRTX 2080 AOCをSILENTモードで利用すれば、GTX 1080を確実に超える性能をほぼ同等の電力で実現できるので、絶対性能よりも電力効率を気にするのであれば、ぜひとも利用されたい。
4Kディスプレイと同時に検討すべし
先述のとおり、RTコアとTensorコアこそTuringアーキテクチャの最大の特徴だが、この機能が実際にゲーム使われはじめるのはまだまだこれからだと言ったところ。とは言え、これはハードウェアT&Lが導入されたDirectX 7世代でも、シェーダモデルが導入されたDirectX 8世代でも、ユニファイドシェーダーが採用されたDirectX 10世代でも、テッセレーションが導入されたDirectX 11世代でも同じ状況だ。テクノロジーの変革は、つねに静かに訪れるものである。いますぐGeForce RTXシリーズのテクノロジーを必要としなくても、気づいたらいつか自然と使っていたりするものだ。
ただ、GeForce RTXシリーズはこの新しい機能を抜きにしても、主流のゲームを4K解像度で走らせられるだけの性能を持っているのはトピックだと言える。5万円以下の安価な4Kディスプレイが市場に出てから久しいので、3D性能がネックで4Kディスプレイを敬遠していたゲーマーにとって、GeForce RTXは有力な打開策となる。
また、WQHDクラスのディスプレイや、144Hzもしくは240Hzのディスプレイを所持しているユーザーでも性能向上の恩恵を受けられるはずだ。「GeForce GTX 1080発売時に飛びついたけど、最近のゲームは重く感じるなぁ」というユーザーも、RTX 2080 AOCは買い替えの対象になる。
唯一気がかりなのは、GeForce RTX 2080が12万円台、GeForce RTX 2080 Tiが18万円台という、米国で発表されている価格からの乖離が大きく、1ドル150円換算になろう強気の日本国内価格。たしかに、GeForce GTX 1080や1080 Tiからダイが肥大化しているし、GeForce GTX 1080 Tiに拮抗できるGeForce RTX 2080の性能+RTコアやTensorコアの機能を加味すれば、このぐらいの価値はあるだろうが、製品の「世代交代」というのは、同一の価格で提供できてこそ実現されるものなので、価格が早くこなれてくることに期待したいものである。
じつは、今回はテスト期間が非常に限られているため、テスト項目がバラバラで内容も少なかったが、後日、いくつか気になる機能のテストを追加で実施する予定だ。