特集
ニュースリリースで振り返る、時代を築いたPCたち【NEC編 PC-9801N~PC98-NX】
2025年4月7日 09:54
「パソコン業界 東奔西走」番外編としてお送りしている特集企画「ニュースリリースで振り返る、時代を築いたPCたち」の第6回は、再びNECに戻って、NEC編その2をお送りする。
2025年3月3日 に掲載したNEC編その1では、マイコントレーニングキット「TK-80」シリーズの時代から、1982年の「PC-9801」まで、4製品のニュースリリースを掲載した。
今回は、PC-9800シリーズの全盛期から、コンパックショックを皮切りとした外資系PCメーカー参入による影響や、Windows 95の広がりによって、国内PC市場におけるNEC PCの存在感が変化し始め時期に発表された製品のニュースリリースを掲載する。
PC-9801Nの登場
1989年10月19日にNECが発表したのが、ノート型パソコン「PC-9801N」である。愛称は「98NOTE」だ。
当時、国内PC市場では7割以上の圧倒的シェアを持っていたNECは、ラップトップPCをさらに小型化したPCの開発を計画していたが、当初の予定は1990年初頭に投入するプランだった。
だが、東芝が1989年7月に、世界初となるノートPC「Dynabook J-3100 SS」を発売。19万8,000円という戦略的価格も加わり、大きな話題を集めたことで、NECは開発計画を急遽前倒しして、Dynabookから3カ月遅れで発表してみせたのが98NOTEだった。
この時、東芝のDynabookが「ブック」としたのに対して、NECは「ノート」と表現。ニュースリリースには書かれてはいないが、NECでは、「ユーザー自身が必要とする情報を入力して使うのがパソコンの用途であり、我々が開発した製品は、持ち運びながら、情報を書き込めるノートの名称のほうがピッタリくる」と、愛称を98NOTEにした理由を語っていた。この製品が、日本において、「ノートPC」というカテゴリを生む発端となっている。
98FELLOWと98MATE
1993年1月18日に、NECは、「98FELLOW」および「98MATE」を発表した。1992年10月1日に、コンパックが12万8,000円のPCを発表し、「コンパックショック」と呼ばれるほど社会的な注目が集まる一方、1990年1月21日にはデルが日本市場への本格参入を発表し、9万8,000円のデスクトップPCを発表。それまでの標準的なPCの販売価格の半額程度の製品が相次いで発売されたことで、国内トップシェアを誇るNECの一手が注目を集める中での発表となったのが、「98FELLOW」および「98MATE」だった。
ニュースリリースを見ると分かるように、NECのPC事業の基本理念である「速さは力なり」を強調するとともに、単純な低価格機ではなく、この理念に基づいた新製品を発表し、停滞するPC市場を活性化する役割を担うことを標榜。日本のPC市場を牽引していくのは、外資系PCメーカーではなく、あくまでもNECであるという強い意志が感じられる内容となっている。
なお、98MATEには、1992年10月に先行して発売したマルチメディアPCに使用したPC-9821の型番を使っている。
パッカードベルへの出資
製品発表のニュースリリースではないが、1995年7月5日に発表した米パッカードベルへの出資に関するニュースリリースを掲載する。タイトルは「PC分野における日米トップメーカー同士の提携」である。
当時、国内PC市場では圧倒的なシェアを獲得していたNECではあったが、Windows 95の登場などにより、コモディティ化が進展。NECでは、PC事業が生き残るためには、全世界で10%のシェアを獲得することが最低条件になると判断し、パッカードベルの買収が、それを実現する手段になると考えた。
ニュースリリースにもあるように、1995年のNECのPC-9800シリーズの年間出荷台数は280万台、NECの海外向けPCの出荷台数が50万台、パッカードベルの年間出荷台数は400万台であり、合計で730万台を出荷。「日米トップメーカー同士の提携により、世界最大出荷規模のパソコン陣営が成立することになる」としていた。
だが、主力となる米国PC市場において、コンパックやデルが新たな生産方式や流通革命によって台頭したのに対して、パッカードベルは旧来の方式から脱却できずに苦戦。NECによる投資総額および投融資の総額は約2,000億円に達したものの、一度も黒字化しないまま、巨額の損失を余儀なくされ、最終的には海外PC事業から撤退することになった。
一時的には世界最大のPCメーカーとなったNEC陣営だったが、同社PC事業にとって、この投資の代償はあまりにも大きかった。
PC98-NXの登場
1997年9月に発表したのが、「PC98-NX」である。マイクロソフトが示した「PC97/PC98システムデザイン」に、世界に先駆けていち早く準拠し、これを、PC-9800シリーズと、DOS/Vパソコンに代わる新たなグローバルスタンダードと位置づけた。
ニュースリリースでは、「デファクトスタンダード確立のリーディングカンパニーとなるための新たな挑戦として商品化するものである」とし、NECが、PC-9800シリーズという独自路線を主軸とした事業展開からシフトし、PC事業での生き残りをかけて、グローバルスタンダードに舵を切った象徴的な製品といえる。
PC98-NXという新たなシリーズ名からもNECの意気込みが伝わる。だが、「新世界標準」にいち早く対応したNECであったが、国内シェアを高めることはできなかった。