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もはや7型以下のUMPCって難しい?その理由をOne-Netbookに聞いた

Jack Wang氏

 深センのUMPCメーカーを回って社長やCEOをインタビューするシリーズの最終回は、GPDに続いて2018年に7型液晶を搭載したUMPC「OneMix」の投入で話題となったOne-Netbook。2024年の製品の振り返りをしつつ、2025年の新製品、そしてOne-Netbookならではの強みについて、社長のJack Wang氏に話をお伺いした。

3in1のコンセプトを確立させた「ONEXPLAYER X1」シリーズ

 まずは最近投入した製品の振り返りについてだが、Wang氏は「2024年はONEXPLAYER X1シリーズで3in1スタイルを確立させたのが大きい」と振り返る。

 同社のコントローラ着脱式のコンセプトは、2020年の「OneGx」シリーズまで遡る。この時の形態はクラムシェルで、いわばポータブルゲーム機とビジネス向けUMPCの“2in1”だった。それが「ONEXPLAYER 2」でキーボードも着脱式となり、純粋なコンテンツ消費をするタブレットとしても使えるようになった。

 この構想をさらに一歩進めたのがONEXPLAYER X1シリーズで、先立って投入した上位モデルは10.95型に大型化し、本格的なビジネスモバイル機としても、タブレットとしても使いやすいサイズとなった。その後、夏頃に8.8型にダウンサイジングした「ONEXPLAYER X1 Mini」を投入。取り回しのしやすさを向上させたほか、さまざまなサイズに対するニーズに応え、多様な使い方を想定した。

3in1構想を打ち出したONEXPLAYER 2
3in1構想をより着実なものにしたONEXPLAYER X1シリーズ

 純粋なポータブルゲーミングPCとしては、「OneXFly F1 Pro」を年末に投入した。Ryzen AI 9 HX 370を搭載し、(ポータブルゲーミングPCとして)実際に市場で最初に販売にこぎつけたのもこの製品ということもあり、注目度が高く発売当初から好調に推移し、中国国内では品切れも発生した。

 実は、OneXFly F1 Proに使われるOLEDディスプレイは、ZOTACが年末に発売した「ZOTAC GAMING ZONE」と同じものだそうだが、「ZOTAC製品は120Hz止まりだが、我々は144Hzのブレイクスルーを初めて実現できた。この点においても競合より優れた技術力を持っている証拠だ」とする。

 トピックの3番目は外付けGPUである「ONEXGPU」シリーズだ。比較的早期に初代を市場に投入できたほか、AMDが認定した初のRadeon RX 7800M搭載モデル「ONEXGPU2」も年内に投入。こうした甲斐もあって「市場シェアNo.1」という実績を強調した。

実際に一番先にユーザーの手に届いたRyzen AI 9 HX 370搭載ポータブルゲーミングPCがOneXFly F1 Proだった
こちらはRadeon RX 7800M搭載のONEXGPU2

2025年はまず久々のクラムシェルから!

 そんなOne-Netbookが2025年の最初に投入するデバイスは、「ONEXPLAYER G1」だ。これは、着脱式のキーボード/タッチパッドを備え、そのキーボードの下にゲームコントローラおよび大型タッチパッド/タッチ式キーボードを備えた8.8型のクラムシェル型PCである。ざっくり言ってしまえば「GPD WIN Max(初代)をより完璧にしたUMPC」だ。

 CPUには、Ryzen AI 9 HX 370またはCore Ultra 7 255Hを搭載。ディスプレイは2,560×1,600ドット表示対応のLTPSパネルで、144Hzのリフレッシュレートを持つ。これをGPD WIN Maxのようなクラムシェル形態で実現したのだ。

 特徴的なのはやはり着脱式キーボード/タッチパッド。本体に装着した際はポゴピンで有線接続となるが、外した際はBluetooth接続になる。たとえば外部大型モニターに接続して利用する場合、本体の大型タッチパッドをマウスとして右手側に置いて使い、キーボードを中央に置いて使うといったスタイルが可能になる(もちろんキーボードのタッチパッドも使えるが)。

キーボード着脱式ONEXPLAYER G1。写真は試作機で、実際のタッチキーボードは5列になるという
着脱式キーボードを取り付けた状態。これも試作段階のキーボードであり、実際は配列などが変更される可能性がある

 Bluetooth接続のため、小容量のバッテリも内蔵しているが、ポゴピンで本体に接続した際は自動的に充電されるほか、また左側面にUSB Type-Cポートを備え単独で充電もできる。また、キーボードにはRGB LEDによるバックライトも内蔵されており、暗所での視認性を高めている。

タブを引っ張って着脱するギミックのようだ
本体上部のコントローラ部
中央奥にポゴピンがあり、本体装着時、キーボードは有線での接続となる
本体左側面
そのほかインターフェイス
天板

 そのほかいろいろな特徴もあるのだが、PC Watchの読者としてはむしろ「なぜCore Ultra 7 255H搭載モデルもあるのか?」というところが気になるのかもしれない。Core Ultra 7 255HはArrow Lake-Hのコードネームで知られており、デスクトップ向けのArrow Lake-Sとは異なりIntel ArcベースのGPUが採用されていて比較的高性能だ。しかし、ゲーム向けとしてはやはりRadeonベースのGPUを搭載したRyzen AI 300シリーズのほうが長けているのは否定できないだろう。

 Wang氏は「Intelは確かにゲーム性能でAMDに遅れを取るかもしれない。しかし我々はIntelの重要な戦略パートナーであり、初代OneMixも初代ONEXPLAYERもIntelのCPUで実現されていたことを忘れてはならない。今回のONEXPLAYER G1についても、Lenovoの製品と並んでArrow Lake-Hと同時に製品発表できた。これはIntelと緊密に協力してこそ実現できたものだ。年末にはPanther Lakeがリリースされる予定だが、高い性能になると期待している。Intelとの協力関係は続けていく」と語った。

ベールに包まれた初の2画面Androidゲーム機「ONEXSUGAR」や、待望のeGPUも?

 2025年前半にはもう1つ期待のデバイスが登場する。これが同社初となる2画面Androidゲーム機「ONEXSUGAR」だ。製品名の「SUGER」は角砂糖に由来し、「疲労困憊の現代人の生活に“甘さをもたらす”イメージで名付けた」とWang氏は紹介する。

 CPUはSnapdragonの未発表モデルでハイスペックを実現。この製品は4月初旬に日本国内でも正式発表できるよう現在動いているとのことだ。かなり初期の試作機しかなく、取材中も開発チームがテストしていたため、実機はあっても写真は完全にNG……だったが、同社が公開しているプロモーションビデオを観れば、程度イメージが湧くだろう。そう、そこまで変形できて大丈夫?という感じの2画面Androidゲーム機だ。

 そしてもう1つ、これは訪れた際にも拝むことができなかったが、ThunderboltやOCuLinkで接続するGPUドッキングステーションにも、「皆さん期待の新製品を計画している」とWang氏は言う。

 現在市場にあるGPUドッキングステーションのほとんどはRadeon RX 7600M XTがベースであるが、ゲーミングPC向けのビデオカード市場のシェアの大半はGeForceで、多くのゲームがGeForce向けに最適化されていることを考えると、Wang氏が言う待望の製品がGeForce搭載モデルであるのは明白だろう。残念ながら具体的な搭載GPUについては教えてもらえなかったのだが、できればAI処理も見据えて16GBを搭載したモデルの登場に期待したい。

大手参入や話題が続くポータブルゲーミング市場でOne-Netbookの独自色は?

 最後にポータブルゲーミングという市場について伺った。この話題は本誌で何度も登場しているので繰り返しとなるが、AYANEOやGPDといった直接的な競合はもちろん、ASUSやLenovo、MSIなどの大手も参入しつつあるほか、「Nintendo Switch 2」も直前に発表されるなど、ポータブルなゲーム機という括りでみると、今は多数のライバルがひしめいている。

 Wang氏は、「PCという括りでは、One-Netbookは今後独自の製品力や、既存の販売チャンネルを活かして差別化を図る。一方Nintendo Switch 2などのゲーム専用機との差別化ポイントとしては、PCとしての汎用性を強調したい」とのこと。こうした“差別化”こそがOne-Netbookの生存戦略だ。

 だが、直接競合となるGPDやAYANEOと比較すると、自社で生産ラインを持っているのがOne-Netbookの強みだと筆者は考えている。実際にオフィスのすぐ下のフロアで生産ラインを見せてもらったが、社員ならいつでも訪れることができる風通しの良さや、市場の状況やニーズに合わせた生産ラインのフレキシブル性、生産から納品の速さなどは唯一無二だ。

製品に採用されるSSD
メイン基板へのカーボンシートの貼り付け作業
バッテリパックの準備
エージングテストも生産ライン内で完結
バックカバーなど
製品の組付け
パーツの検品
液晶の組付け作業
着脱式キーボード
梱包も生産ラインで完結

 たとえば製造を他社に委託するタイプだと、状況によっては他社製品の製造を優先させなければならないといった事情もあるかもしれない。One-Netbookは自社でコントロールできるのでこうした問題は発生しない。だからRyzen AI 9 HX 370の量産にこぎつけるタイミングも早かったし、唯一のCore Ultra 7 255H搭載モデルの実現も可能だったと言える。

初代OneMixのようなサイズは再び訪れる?

 最後は読者がもっとも関心があるであろうUMPCの本体サイズについて。近年UMPCの本体サイズが肥大化しているような気がしてならないのだが、One-Netbookはどう考えているのだろうか。

 「1つは率直に言ってしまうと、我々がターゲットにしているUMPCが好きな層(30代後半~50代)は老眼が進んでしまい、小さい画面は視認性が課題になっていると感じている。だからOneMixはシリーズを追うごとにサイズが大型化した」と笑う。「もう1つ課題は技術的なもので、高リフレッシュレートで小型の液晶パネルが少ないということ。実際にOneMix 5をリリースしたが、120Hzや144Hzが当たり前の現代においては、どうしても見劣りしてしまう」という。

 またCPUについても問題の1つ。「2018年当時のAtomやCore Mプロセッサは、親指先程度のパッケージサイズだった。また、TDPも7W前後で電源回路や放熱機構も小型化できた。ところが今ローエンドのIntel N100はパッケージがずっと大きく、性能を引き出すためには電源回路も放熱機構も大型化する必要がある。同じ7型のフォームファクタに押し込むと、バッテリを小さくせざる得ず、製品としては非現実的になってしまう」とした。

 しかし、これ以上の大型化は考えていないとも言う。過去製品の中で唯一反省したものとしてWang氏が挙げたのが13型2in1の「One-Netbook T1」だ。要は大きすぎて、競合が大手メーカーになってしまったのだろう。そのため、One-NetbookとしてはUMPCに回帰し、7型~11型程度までをUMPCとして定義して開発リソースを集中させるとした。

 このように、着脱機構や変形機構でビジネス/ゲーム/エンターテインメントという多様な使い方に応えるのがOne-Netbookの製品スタイルであり、自社の生産ラインで小回りが利くのが、競合に対する最大のアドバンテージだと言える。最新の技術をいち早く手にしたいユーザーにとって注目のメーカーであり続けるだろう。