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知っておきたいUSB PDの基礎。モバイルバッテリと充電器、ノートPCを充電するなら出力何Wものを用意すべきか?

 USBを冠する電力供給規格にはさまざまなものがあるが、ようやくUSB PD規格が事実上の標準として定着しそうではある。USB PDは、電力を必要とするデバイスに、電力を供給するための規格で、USB規格や仕様を策定している団体USB Implementers Forumにより策定され、Power Deliveryの頭文字をとって名付けられたネーミングだ。

 日常的に使うスマホやPC、各種ガジェット類など、電力の利用が前提のデバイスは、ACアダプタなどから受け取った電力を内蔵バッテリの充電や、自身の駆動のために使う。

 これまではデバイスごとに専用のアダプタなどを用意していた電力源だが、あらゆるデバイスがUSB PDに対応、あるいは少なくともポートにUSB Type-C(USB-Cとも表記される)を使うことが新しい当たり前となり、電力の調達手段は専用から汎用への移行が進んだ。どんなデバイスでもUSB PD対応充電器さえあれば駆動できるようになったことで得られる利便性は高い。

 ここでは電力を送る「充電器(ソース)」、電力を受け取る「デバイス(シンク)」、そして、電力を運ぶ「ケーブル」という3つの要素に注目し、その基礎知識とそれぞれの選び方のポイントを紹介したい。

「ワット」という電力の単位を把握しよう

 USB PDは電力を作り、運び、使うための規格だ。そこで扱われるのは電力だ。単位時間にできる仕事の量を示し、その単位として「ワット(W)」を使う。W値が大きければ電力が大きいとし、W値が小さければ電力が小さいという。

 今はほとんど見かけないが、忘れ去られてもいないであろう白熱電球のことを思い出してほしい。60Wの電球よりも100Wの電球のほうが明るかったはずだ。この原則はUSB PDでも変わらない。USB PDでは、この「W」が重要なキーワードとなる。

電力を送る ~ ソース

USB PD対応の充電器とモバイルバッテリ

 USB PD規格で電力を作って送るデバイスを「ソース」という。主要なソースデバイスは2種類ある。USB PD対応のACアダプタ(充電器)とモバイルバッテリだ。

 両者の大きな違いは、充電器が家庭用の100V電源などを使ってUSB PD規格の電力を作り出すため、実質的に無限の電力供給源となるが、モバイルバッテリは蓄えた電力をすべて送ってしまったらいったん空になる。

 蓄えることができる電力の量はデバイスによって異なる。その単位はWh(ワットアワー : 1時間あたりに供給できる電力量)で示す。製品によってはリチウムイオンバッテリの標準電圧3.7VでWhを除し、mA(ミリアンペア)で示しているものも多い。

 空になったモバイルバッテリはシンクとして充電することで、再びソースとして使えるようになる。つまり、モバイルバッテリはUSB PDにおけるソースとシンクの二役をこなす。

 これはモバイルバッテリに限らず、PCなどでも同様で、普段は充電されるシンクとして振る舞っているPCも、自分自身が蓄えている電力をソースとして提供することもできる。スマホなどを充電できるのはそのためだ。ソースにもシンクにもなれるこの仕組みを二役を意味する「Dual Role Power(DRP)」という。

 USB PD規格のソースデバイスが扱える電力のことを「Power Delivery Power(PDP)」という。20W対応、30W対応、45W……などと、出力できる最大電力で、その能力を示す。これはACアダプタでもモバイルバッテリでも同様だ。

 ソースデバイスは自分自身のPDPを「Power Delivery Object(PDO)」として、リスト化してシンクデバイスに提示する。PDOは電圧と電流の組み合わせだ。

電力を運ぶ ~ ケーブル

USB PD対応のUSB Type-C/Thunderbolt 4ケーブル

 ソースが用意した電力は「ケーブル」を通ってシンクに運ばれる。このケーブルは両端がUSB Type-Cプラグを持つものでなければならない。USB PDはUSB Type-Cを前提とし要求する規格だ。

 例外としてiPhoneやiPadなどのApple製品がある。同社のデバイスは長くLightningポートを装備してきたし、今なお大量の既存製品が世の中で稼働している。

 USB PD規格に準拠して電力の供給を受けてはいるのだが、片側がUSB Type-Cプラグ、もう片側がLightningプラグの専用ケーブルが必要だった。USB Type-Cを前提とするUSB PDの規格からは逸脱している状態だったのだ。とはいえ、最新のiPhone 15シリーズ移行はUSB Type-Cポートを装備するようになり、規格の遵守がすでに実現している。

 シンクデバイスはソースデバイスから提示されたリストの中からほしいものを選ぶ。リストは電圧と電流の組み合わせだ。電力は電圧に電流を乗じて決まる。ソース側が提示した電圧と電流の組み合わせリストの中から、シンク側がほしいものをリクエストすることでソースデバイスは送電をスタートする。

 なお、USB PDはUSB Type-Cの利用が必須だが、USB Type-CだからといってUSB PDに準拠しているとは限らないのがややこしいところだ。特にイヤフォンやスマートウォッチなど、比較的小さな容量のバッテリを充電するシンクはUSB PDとは異なるUSB給電規格で電力を受け取ることが多い。

電力を受け取る ~ シンク

USB PD対応のType-Cポートを備えたノートPC

 ケーブルを使って伝送されてきた電力をシンクが受け取って自身の駆動のために使う。多くの場合は内蔵バッテリの充電だが、バッテリを介さず自身の駆動のためにダイレクトに使うこともある。

 シンクはより高い電圧、より大きな電流でのPDOをリストの中から選ぶのだが、どのくらい大電力に対応できるかはシンクが対応できる最大PDPにも依存する。大きなPDPを供給できるソースが大電力のPDOを提示したとしても、それに対応できるかどうかはシンクの能力次第だ。USB PDの送電では、シンクとソースがやり取りする電力についての相談が最初に行なわれる。

 また、USB PD規格のオプションとして「Programmable Power Supply(PPS)」という規格もある。ソースとシンクの双方がこの規格に対応していれば、さらに効率的な電力供給が行なわれ、熱などで失われる電力ロスを最小限に抑制し、熱によるバッテリの劣化も抑制できる。

USB PDにおけるソース、ケーブル、シンク

 電力を送るソース、電力を運ぶケーブル、電力を受け取るシンク。この3つがUSB PDで電力をやり取りする上での重要な要素だ。

ソース

 ソースについては最大PDPだけを把握していればいい。ただし、複数のポートを持つソースについては単ポートのみを使う場合と、複数のポートを使う場合で、ポートごとのPDPが変動するものもある。その仕様については仕様として本体に記載されていることが多い。またはスペックシートなどを参照して把握できる。

 さらに、ポートからケーブルを抜き差しすると、ケーブルの反対側に接続されているシンクの有無に関わらず、送電状態がリセットされるなどで、いったん送電がストップするような仕様のものもあるので、その挙動を正確に把握しておくことが必要だ。

 残念ながら、この仕様については製品の入手後に自分で確かめるくらいしか方法はない。スペックシートなどに、その挙動が明記されていることはまずない。シンク側が内蔵バッテリを持たず、外部からの電力供給だけで駆動されている場合は瞬間的な停電が起こり稼働が停止する可能性もある。

 また、USB PD準拠のUSB Type-Cポート以外に、ケーブルを直出ししたものや、板状のUSB Type-Aポートを装備しているものも多い。さらにアダプタのサイズ、容積、重量、コンセントの刃が折りたためるかどうか、カラバリはどうなのか、隣のコンセントの利用ができないほど幅をとってしまわないかなど、いろいろな点を気にしながら、好みのものを選んでほしい。

ケーブル

 両端USB Type-Cのケーブルは、対応電力だけに注目すると以下の3種類が存在する。

  • 60Wまでの対応
  • 100Wまでの対応
  • 240Wまでの対応(USB PD EPR)

 100均でも入手が容易になった両端USB Type-Cプラグのケーブルだが、以前はほぼすべての製品が60Wまでの対応だったものの、最近は100W対応のものも見かける。

 片側のプラグがUSB Type-Cでも、ケーブルの反対側が板状のUSB Type-AのケーブルではUSB PD対応はできないし、伝送できる電力も7.5WとPCなど、大電力を要する機器の充電には心細い。

 USBケーブルなので、データ伝送にも使われるが、そのデータ伝送速度はケーブルの対応規格によって異なる。規格上、充電専用という仕様は存在しない。必ずデータ伝送ができる。

 だが、困ったことに、仕様が異なってもケーブルの見かけは同じだ。USBロゴには対応スピードを表記するものはあるが、購入時のパッケージ等には印刷されていても、ケーブルやプラグを観察しても分からない場合も多い。

 特に60W超で100Wまでに対応することを目視で知る方法も用意されていない。また、USB規格のオプションを包含したスーパーセットであるThunderbolt 4規格のケーブルは、100W対応を満たしていることが必須になっている。

 高速ケーブルはケーブル長に制限もある。長いケーブルが必要な場合は、USB 2.0規格(480Mbps)のものが最大長4mまでなので、電力供給だけで高速なデータ伝送が必要ないならそれを使うといい。高速ケーブルは5Gbps対応で2mまで10Gbpsを超えるものは0.8~1mが上限になる。

シンク

 シンクについて、対応する最大PDPはスペックシートやその注釈などに記載されていることが多いが、もちろん記載されていない場合もある。

 対応している最大PDPで電力を供給することで、内蔵バッテリの容量を消費せずにデバイスを駆動できるが、デバイスが大きな電力を消費する状態が続くと、駆動に必要な電力が足りなくなって内蔵バッテリに頼ることになり、バッテリの残り容量に影響することもある。

 多くの場合、製品同梱のACアダプタの電力をチェックすれば、必要な最適PDPが分かるはずだ。

 一定のPDPを下回るソースからは充電を拒む機器もある。これについてもスペック表などで確認できる場合もあるが、自分で試してみて初めて分かることも多い。

 たとえばFCCLのPC「LIFEBOOK UH」シリーズでは、仕様の注釈として「7.5W(5V/1.5A)以上を供給可能な機器であれば、本体に充電が可能です。PCを使用しながら本体に充電する場合は、45W(20V/2.25A)以上を供給可能なものが必要です」と記載されている。7.5WならUSB PD対応のソース以外からでも電力を得て充電ができることが分かる。

 また、シンクが内蔵バッテリを充電する場合には、各種の仕組みを使った急速充電に対応していることが多い。機器のベンダーごとに振る舞いは異なるが、急速充電のためには大きな電力が求められる。どこまでの大電力に対応できるかはシンク機器の設計次第で、ソースが提示する電力が大きくても、それを選択できない場合もある。

デバイスの安全規格

 日本には電気用品安全法という法律があり、電気用品の安全確保について定めている。電気を使う用品には、その法律に基づいて安全が確保されていることを示すPSEマークを表示することが義務付けられている。

 PSEは「Product Safety Electrical appliance & materials」の略で、マークにはひし型と丸型の2種類がある。ACアダプタなどは厳重に審査される特定電気用品でひし形、モバイルバッテリなどは丸型のマークがついて、その製品の安全が確保されていることを示している。日本国内で販売される電気用品でこのマークがない場合は、購入を見送るべきだと言える。