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「Suica対応スマートウォッチ」が大幅増加!Appleがいいのか、それともGoogle系か、複雑怪奇なタッチ決済事情を整理する
2023年12月1日 06:05
QRコードベースのサービスによる競争が過熱したことや、コロナ禍で急速に需要が高まったことなどにより、普及が進んだスマホによるキャッシュレス決済。だがそうしたキャッシュレス決済の利用は、スマホだけでなくスマートウォッチでも可能だ。
スマートウォッチであれば、スマホをポケットから出す必要なく決済ができるので便利だし、とりわけ海外では財布やスマホを出さなくてよいのでスリなどに遭いにくく、セキュリティ面でも安全だ。加えて最近ではFeliCaに対応し、交通系ICカードの「Suica」が使える機種が増えているので、スマートウォッチだけで電車やバスなどに乗ることもできてしまう
では現在のところ、スマートウォッチ/スマートバンドの決済事情はどのように変化しているのだろうか。スマートウォッチでもっともメジャーなFeliCaやNFCを用いたタッチ決済サービスに関して、その対応状況やデバイス、サービスによる違いなどを改めてまとめてみたい。
決済できるスマートウォッチの提供元は実質4陣営
まずはそもそも決済機能を備えるスマートウォッチにはどのようなものがあるのか? ということで、陣営ごとに整理していきたい。
Apple Watch
代表的なのはやはりAppleの「Apple Watch」シリーズであろう。Apple WatchはiPhoneと同様、2016年から「Apple Pay」による決済の利用が可能となっており、すでに多くの人が利用している。
Wear OS by Google
Apple Watch以外で決済機能を備えたスマートウォッチを提供するメーカーの代表として挙げられるのが、「Pixel Watch」シリーズを提供するGoogleである。
とりわけAndroidスマホはApple Watchが使えないことから、スマートウォッチでの決済が弱点の1つとなっていたが、GoogleがPixel Watchを投入して以降、そのOSである「Wear OS by Google」で利用できるタッチ決済サービスの対応の幅を広げてきており、充実度も急速に高まっている。
加えて最近ではGoogleだけでなく、Samsung電子も最新機種の「Galaxy Watch 6」シリーズでタッチ決済に対応させるなど、Wear OS by Googleを採用した機種の中にタッチ決済機能を備えたものが徐々に増えてきている。それゆえ今後Wear OS by Googleを搭載したスマートウォッチが、タッチ決済の1つの陣営として存在感を高めてくる可能性は高いだろう。
Fitbit
だがほかにもいくつかのメーカーが決済機能への対応を進めており、その1つがFitbitである。Fitbitは独自の決済サービス「Fitbit Pay」を提供しており、「Fitbit Versa 4」などのスマートウォッチや、スマートバンドの「Fitbit Charge」シリーズで利用可能だ。
ただFitbitはすでにGoogleに買収され同社の傘下となっており、一部報道ではいくつかの国と地域でFitbit製品の販売を停止するなど、Googleの方針に合わせて自社製品の販売を縮小する傾向にあるようだ。
2023年10月にFitbit Pay対応の新製品「Fitbit Charge 6」を発売していることから、すぐサービス変更の動きが出るとは考えにくいが、将来的にFitbit Payや対応製品に何らかの変化が生じることはあり得るかもしれない。
Garmin
そしてもう1つ、決済機能を搭載したスマートウォッチを提供しているのがGarminだ。Garminも独自の決済サービス「Garmin Pay」を提供しており、「vívoactive」「Venu」といった同社の中では比較的低価格のスタンダードなモデルから、50万円近い高級モデル「MARQ」シリーズに至るまで、同社製の多くのスマートウォッチがGarmin Payに対応しており、密かに充実度が高い点は注目すべきところだ。
その他
その一方で、これまでタッチ決済が使えるスマートウォッチの定番だったソニーの「wena」シリーズは、もっとも新しい「wena3」の生産が2023年2月に終了し、全モデルがすでに生産終了している。加えてSuica以外の電子マネー機能を利用するのに必要な「おサイフリンクサービス」アプリも2023年12月31日以降利用できなくなる予定であることから、今後の入手や利用が難しくなることを考慮し今回は対象に含めていない。
また国内ではAppleに次ぐシェアを獲得している、HuaweiやXiaomiといった中国メーカーも、現在のところスマートウォッチによるタッチ決済への対応は進められていない。こうしたメーカーの対応が進むと利用可能なデバイスの幅がかなり広がるだけに、今後に期待したいところだ。
各陣営で利用できる決済サービスの違いは?
ひと口にタッチ決済と言ってもさまざまな種類がある。Apple、Googleを始めとしたWear OS陣営、Fitbit、Garminという4陣営の中でも、対応するサービスにはかなりの違いがあることも知っておく必要があるだろう。
Apple Watch
もっとも対応するサービスの幅が広いのはやはりApple Watchだ。Apple WatchはAppleの決済サービス「Apple Pay」に対応しており、基本的にはiPhoneと同じ決済サービスを利用可能だ。
FeliCaベースの電子マネーであればSuicaだけでなく、同じ交通系ICカードの「PASMO」「ICOCA」も使えるし、電子マネーの「nanaco」「WAON」、そしてクレジットカードを登録することで「iD」「QUICPay」による決済の利用も可能だ(カードによって対応するサービスは異なる)。加えてVISA、Mastercard、JCBといったクレジットカード会社によるNFCベースのタッチ決済(以下、NFC決済)にも対応しており、こちらもApple Payに対応したクレジットカードを登録すれば利用可能だ。
Wear OS by Google
続いて対応サービスが多いのはWear OS対応機種であり、NFCに対応している機種であればNFC決済が利用できる。またPixel WatchシリーズやGalaxy Watch 6シリーズなどのようにFeliCaに対応した機種であれば、それに加えてSuicaとiD、QUICPayの利用も可能だ。
ただ非常に多くの種類のクレジットカードなどを登録できるApple Payと比べると、対応するクレジットカードがそもそも少ないのが弱点の1つ。また登録するクレジットカードによって、対応する決済手段はiD、QUICPay、そしてNFC決済のいずれか1つになってしまうようで、1つのクレジットカードでFeliCaベースのiD/QUICPayと、NFC決済を併用できない点もApple Payと比べた場合の弱点と言えるだろう。
対応機種が多いSuicaだが内容にはかなりの差が……
決済に対応するすべての陣営がSuicaに対応していることからも分かる通り、スマートウォッチでもっとも利用ニーズが高いのはやはり、決済だけでなく公共交通も利用できるSuicaであろう。
だが「Suicaに対応している」と言っても、各サービスの内容を比べるとかなりの違いがあり、すべてのスマートウォッチで同じ機能が利用できるわけではないことは知っておくべきだ。
Apple Watch
こちらも充実度が高いのはやはりApple Watchである。Suicaの発行と決済ができるのはもちろんのこと、「Suica」アプリを使うことで定期券やグリーン券の購入、オートチャージの登録などもできる。基本的にはiPhoneのApple Payと同じ機能の利用が可能と考えていいだろう。
Wear OS by Google
一方でWear OS対応機種の場合、利用できる機能はAndroidスマホと大きく異なり、Suicaの発行と決済、手動でのチャージのみ。その操作もAndroidスマホの「Watch」アプリからする仕組みで、「モバイルSuica」アプリとの連携ができないことから定期券やグリーン券の発行などはできず、Apple Watchと比べれば機能的充実度は低い。
Fitbit / Garmin
だがFitbit PayやGarmin PayのSuicaはより制約が多く、最大の制約は機種変更時に残高を移せないこと。Apple WatchやWear OS対応機種では古い機種のSuicaを削除し、新しい機種で登録し直せば残高を移行できるが、Fitbit PayやGarmin Payではそれができないのだ。
それゆえ両サービスの場合、新機種に買い替えてSuicaを利用するには再びSuicaを新規発行して残高をチャージしなければならない。古い機種の残高は払い戻す、使い切る、あるいはあきらめるのいずれかを選ぶ必要があり、機種変更時にかなり不便な思いをするというのが正直なところである。
またチャージには「Google Pay」の登録が必要であるほか、Suicaを発行する際に必ず1,000円以上のチャージが求められる点にも注意が必要だろう。
Apple WatchやWear OS対応機種でSuicaを使う方法
最後に、読者の関心が高いであろうApple WatchとWear OS対応機種でSuicaを利用する基本的な流れについて、簡単に説明しておこう。
Apple Watch
まずApple WatchでSuicaを使い始める方法だが、iPhoneの「Watch」「Suica」アプリのいずれかを使い、Apple Watch用に新たにSuicaを新たに発行することで使い始めることができる。加えてiPhoneと同様にプラスチックのSuicaカードを移して使い始めることも可能で、既存のSuicaの環境をそのまま移行できることから利便性が高い。
そしてもう1つ、iPhoneで使っているSuicaをApple Watchに移すことで使い始めるという手もある。ただ1つのSuicaをiPhoneとApple Watchとで共有はできないので、もしiPhoneとApple Watchとで同時にSuicaを利用したいのであれば、別々のSuicaを発行する必要がある。
iPhoneでは複数のSuicaを発行して利用可能で、iPhone上でもう1つSuicaを発行し、一方をiPhone用、もう一方をApple Watch用に割り当てて使えばよい。ただ先に触れた通り、Apple WatchではSuicaだけでなくPASMOやICOCAも発行できるので、たとえばiPhoneにSuica、Apple WatchにPASMOを入れておき、乗る路線によって使い分けるなどした方が利便性は高いかもしれない。
続いてチャージ方法だが、iPhone上でWatch・Suicaアプリを使ってチャージできるほか、クレジットカードを登録しておけばApple Watch上から都度チャージすることも可能。また先にも触れた通り、Suicaアプリを使えばオートチャージの設定も可能だ。
では、実際に公共交通や決済などを利用するにはどうすればいいかというと、基本的にはApple Watchをリーダ部分にかざすだけでよく、ほかの決済手段とは違ってアプリの起動やカードの選択・切り替えなどをする必要はない。ただApple Watchの場合、複数の交通ICカードを登録できてしまうので、その場合はWatchアプリから「エクスプレスカード」で優先利用するカードを選んでおけばいいだろう。
Wear OS by Google
一方Wear OS対応デバイスの場合だが、Apple Watchのようにプラスチックカードからの移行はできない。利用し始めるにはAndroidスマホで「Watch」アプリを用い、新たにSuicaを発行するか、ほかのAndroid端末などで使っていたSuicaを移行するかのいずれかの方法を取ることとなる。
ほかの端末からSuicaを移す場合は、「モバイルSuica」アプリから一度Googleアカウントに残高を移し、WatchアプリからモバイルSuicaのアカウントを使ってWear OS対応デバイスに残高を移す……といった手順を踏むのだが、Andoridスマホの機種変更でSuicaを移した経験のある人ならハードルは高くないだろう。なおスマホ側でオートチャージを登録した状態でSuicaを移行すると、Wear OS対応機種でも継続してオートチャージが利用可能になるようだ。
続いてチャージ方法だが、こちらはスマートウォッチ側からすることはできず、AndroidスマホからWatchアプリを使うこととなる。チャージにはGoogleアカウントに登録してあるクレジットカードを使って決済するので、事前に登録しているのであれば改めて登録は必要ない。
そして公共交通や決済の利用時は、Apple Watchと同様リーダ部分にかざすだけでよい。Wear OSの場合複数の交通系ICカードを登録できないことから、エクスプレスカードの設定などを考える必要は特になく、ある意味シンプルと言えるかもしれない。
現時点ではやはりApple Watchの充実度が群を抜いているスマートウォッチでのタッチ決済だが、Wear OS陣営なども今後何らかの強化を図ってくることが予想される。さらなる進化にも期待したいところだ。