特集
Steam Deckだけじゃない。手元でPCゲームを楽しむ携帯型ゲーミングPC「松竹梅」を比較してみた
2023年11月16日 06:14
ポータブルゲーミングUMPCの選択肢が増えてきた。ゲーマーにとっても、モバイラーにとっても嬉しい状況だ。
しかし、どの製品がどの程度の性能なのかピンと来ない方も多いかと思う。そこで今回の記事では、ポータブルゲーミングUMPCの代表的な製品として「Steam Deck」、「ROG Ally」、「ONEXPLAYER 2 Pro」を選出し、スペック、外観、パフォーマンス、ディスプレイ品質などを比較してみた。年末年始のお供を探している方の参考になれば幸いだ。
「Steam Deck OLED」を含めた4機種のスペックを比較
まずはスペックを比較していこう。下記にSteam Deck、ROG Ally、ONEXPLAYER 2 Proのスペック表を掲載している。この記事の作成中にSteam DeckのOLEDディスプレイ搭載モデルが発表されたので、スペック表に追加している。ただし今回はOLEDディスプレイ搭載モデルを借用していない。以降のレビューパートではLCDディスプレイ搭載モデルを使用していることをご了承いただきたい。
さて、各機種の主な違いについて触れていこう。まず一番大きな違いはプロセッサだ。Steam Deckは「AMD APU(AMD Custom APU 0405)」、ROG Allyは「Ryzen Z1 Extreme」または「Ryzen Z1」、ONEXPLAYER 2 Proは「Ryzen 7 7840U」を搭載している。AMD APUはCPUがZen 2、GPUがRDNA 2アーキテクチャ、Ryzen Z1 ExtremeとRyzen 7 7840UはCPUがZen 4、GPUがRDNA 3アーキテクチャだ。当然性能が大きく異なるが、どのぐらいの差があるかはベンチマークでご覧いただこう。
なおSteam DeckのプロセッサはCPUとGPUの世代は同じだが、製造プロセスが7nmから6nmへと微細化されている。消費電力と発熱の低減などの恩恵を受けられるわけだ。
ストレージで目を引くのがONEXPLAYER 2 Proが1TBまたは2TBのPCIe Gen4 x4接続SSDが採用されていること。ストレージが高速なのもメリットだが、2TBのSSDではより多くのゲームを保存しておけるわけだ。
プロセッサと同じぐらい重要なのがディスプレイの違い。Steam Deck LCDは7型IPS液晶(1,280×800ドット、60Hz)、Steam Deck OLEDは7型OLED(1,280×800ドット、90Hz)、ROG Allyは7型IPS液晶(1,920×1,080ドット、120Hz)、ONEXPLAYER 2 Pro は8.4型IPS液晶(2,560×1,600ドット、60Hz、ペン対応)を搭載している。
簡単にまとめると、Steam Deck OLEDは画質と90Hzのリフレッシュレート、ROG Allyは120Hzのリフレッシュレート、ONEXPLAYER 2 Proは8.4型の大画面と2,560×1,600ドットの高解像度、そしてペン対応が売りということになる。
インターフェイスについてはONEXPLAYER 2 Proがぶっちぎりに充実している。Steam DeckとROG Allyはスペース的にUSB Type-Aを搭載できなかったのだろうが、せめてUSB Type-Cをふたつ搭載してほしかった。なおROG AllyはROG XG Mobileインターフェイス、ONEXPLAYER 2 ProはUSB 4経由で外部GPUボックスと接続できる点もアドバンテージだ。
バッテリはSteam Deck LCDが40Wh、Steam Deck OLEDが50Wh、ROG Allyが40Wh、ONEXPLAYER 2 Proが65.5Whを搭載している。バッテリ駆動時間についてはメーカーごとに表現が異なるので単純に比較できない。同じ条件のバッテリ駆動時間についてはベンチマークの章を参照してほしい。
さて最後に価格だ。Steam Deckは5万9,800~9万9,800円、ROG Allyは8万9,800~10万9,800円、ONEXPLAYER 2 Proは15万7,000~18万8,000円となっている。価格的にはSteam Deckが梅、ROG Allyが竹、ONEXPLAYER 2 Proが松と位置づけられる。なお、記事執筆時点でONEXPLAYER 2 Proの16GB/1TBモデル(15万7,000円)が完売となっているので、実質最低価格が17万8,000円となっている点には注意してほしい。
製品名 | Steam Deck LCD | Steam Deck OLED | ROG Ally | ONEXPLAYER 2 Pro |
---|---|---|---|---|
OS | SteamOS 3.0(Archベース)、KDE Plasma | Windows 11 Home | ||
プロセッサ | AMD APU(15W、7nm) | AMD APU(15W、6nm) | RC71L-Z1E512:AMD Ryzen Z1 Extreme、RC71L-Z1512:AMD Ryzen Z1(30W、4nm) | AMD Ryzen 7 7840U(30W、4nm) |
CPU | Zen 2アーキテクチャ 4コア、8スレッド、2.4~3.5GHz(最大448GFLOPS FP32) | Zen 4アーキテクチャ RC71L-Z1E512:8コア、16スレッド、3.3~5.1GHz、RC71L-Z1512:8コア、16スレッド、3.2~4.9GHz | Zen 4アーキテクチャ 8コア、16スレッド、3.3~5.1GHz | |
GPU | RDNA 2アーキテクチャ 8CU、1.6GHz(1.6TFLOPS FP32) | RDNA 3アーキテクチャ AMD Radeon Graphics RC71L-Z1E512:12CU(最大8.6TFLOPS FP32)、RC71L-Z1512:4CU(最大2.8TFLOPS FP32) | RDNA 3アーキテクチャ AMD Redeon 780M 12CU、2.7GHz | |
メモリ | 16GB(LPDDR5-5500、オンボード) | 16GB(LPDDR5-6400、オンボード) | 16GB(LPDDR5-6400、オンボード) | 16GB/32GB(LPDDR5X-7500、オンボード) |
ストレージ | 256GB(PCIe Gen3 x4接続SSD、M.2 2230) | 512GB/1TB(PCIe Gen3 x4接続SSD、M.2 2230) | 512GB(PCIe Gen4 x4接続SSD、M.2 2230) | 1TB/2TB(PCIe Gen4 x4接続SSD、M.2 2280) |
ディスプレイ | 7型IPS液晶(1,280×800ドット、216ppi、400cd/平方m、60Hz、タッチ対応、ペン非対応) | 7型OLED(1,280×800ドット、216ppi、600cd/平方m[SDR]、1000cd/平方m[HDR]、90Hz、0.1ms、110% P3、タッチ対応、ペン非対応) | 7型IPS液晶(1,920×1,080ドット、315ppi、500cd/平方m、120Hz、7ms、光沢、タッチ対応、ペン非対応、Corning Gorilla Glass Victus) | 8.4型IPS液晶(2,560×1,600ドット、358ppi、輝度非公表、60Hz、光沢、タッチ対応、ペン対応) |
ワイヤレス通信 | Wi-Fi 5(11ac)、Bluetooth 5.0 | Wi-Fi 6E(11ax)、Bluetooth 5.3 | Wi-Fi 6E(11ax)、Bluetooth 5.1 | Wi-Fi 6E(11ax)、Bluetooth 5.2 |
インターフェイス | USB 3.2 Gen2 Type-C(データ転送、映像出力、給電対応)×1、microSDカードスロット×1、3.5mmコンボジャック×1 | ROG XG Mobileインターフェイス×1、USB 3.2 Gen2 Type-C(データ転送、映像出力、給電対応)×1、microSDカードスロット(UHS-II)×1、3.5mmコンボジャック×1 | USB 4(データ転送、映像出力、給電対応)×1、USB 3.2 Gen2 Type-C(データ転送、映像出力、給電対応)×1、USB 3.0 Type-A×1、microSDカードスロット×1、3.5mmコンボジャック×1 | |
カメラ | - | |||
サウンド | ステレオスピーカー、デュアルアレイマイク | ステレオスピーカー(1W×2、Dolby Atmos対応)、ハイレゾ対応(イヤフォン利用時)、デュアルアレイマイク | ステレオスピーカー(HARMAN AudioEFX認証)、マイク | |
バッテリ容量 | 40Wh | 50Wh | 40Wh | 65.5Wh |
バッテリ駆動時間(最大) | 2~8時間のゲームプレイ | 3~12時間のゲームプレイ | JEITA2.0:約10.2時間、ヘビーゲーム:約2時間、クラウドゲーム:約6.8時間、動画再生:約6.8時間 | ゲームプレイ:約3時間以上、動画再生:約8~9時間 |
バッテリ充電時間 | 非公表 | 約1.6時間 | 40分で50%まで充電 | |
本体サイズ | 約298×117×49mm | 約280.0×111.38×21.22~32.43mm | 約310×127×23~40mm | |
重量 | 約669g | 約640g | 約608g | 約709g |
ゲームパッド | 十字キー、表示ボタン、サムスティックL3、トラックパッド左、Steamボタン、サムスティックR3、メニューボタン、ABXYボタン、トラックパッド右、クイックアクセスボタン、R1/R2ボタン、電源ボタン、音量ボタン、L1/L2ボタン、R4/R5ボタン、L4/L5ボタン | 左スティック、十字キー、表示ボタン、コマンドセンターボタン、メニューボタン、Armory Crateボタン、ABXYボタン、右スティック、R1/R2ボタン、電源ボタン、音量ボタン、L1/L2ボタン、M1/M2ボタン | 左スティック、十字キー、バックボタン、Xboxボタン、スタートボタン、ABXYボタン、右スティック、モードボタン、LEDボタン、RB/RTボタン、turboボタン、X1/X2ボタン、電源ボタン、LB/LTボタン、右ロックボタン、左ロックボタン | |
セキュリティ | - | 指紋認証センサー一体型電源ボタン | - | |
同梱品 | ケース、ACアダプタ(45W、1.5m)、説明書 | ケース、ACアダプタ(45W、2.5m)、説明書 | ACアダプタ(65W、2m)、スタンド、説明書 | ACアダプタ(100W)、USB Type-Cケーブル、説明書 |
カラー | ブラック | ホワイト | ミッドナイトブラック、スノーホワイト | |
価格 | 5万9,800円 | 512GB:8万4,800円、1TB:9万9,800円 | RC71L-Z1E512:10万9,800円、RC71L-Z1512:8万9,800円 | 16GB/1TB:15万7,000円、32GB/1TB:17万8,000円、32GB/2TB:18万8,000円 |
各製品でコントローラの配置、数は大きく異なっている
デザインについては好みが大きく分かれる。個人的には造形的にはROG Allyが一番好きだ。Steam Deckはベゼルがちょっと太すぎるように思う。ただSteam Deckは将来的に、ボディはそのままで大画面ディスプレイを搭載するための布石だったのかもしれない。ONEXPLAYER 2 Proはミッドナイトブラックとスノーホワイトの2色から選べるのが嬉しいところだ。
コントローラの配置、数は異なっているが、基本的には慣れで対応できると思う。操作感についても今回試用した限りは大きな差はないと感じた。なお、Steam Deckは唯一トラックパッドを搭載しているが、筆者は使ったことがいまのところない。
コントローラの構成で1つ注意しておきたいのが、ONEXPLAYER 2 Proに背面ボタンが存在しないこと。ONEXPLAYER 2 Proは背面に右/左ロックボタンが配置されているが、これはコントローラをはずすためのものだ。つまり背面ボタンを使用する方にONEXPLAYER 2 Proは向かないということになる。
しかしその一方で、ONEXPLAYER 2 Proのみがコントローラを取り外すことでタブレット端末として利用でき、カバーキーボードを装着すればノートブックスタイルで活用可能だ。さまざまなスタイルに変形できることは、ONEXPLAYER 2 Proの大きなアドバンテージである。
気になるベンチマークスコアは?
今回はSteam Deck LCD、AMD Ryzen Z1 Extremeを搭載するROG Ally、ONEXPLAYER 2 Proの3製品でベンチマークを実施している。それぞれの詳しいシステム情報については、下記の「HWiNFO64 Pro」で取得したシステムの概要をご覧いただきたい。
なおバッテリ駆動時間以外のすべてのベンチマークは、ACアダプタに接続し、最高パフォーマンス設定で行なっている。またSteam DeckはmicroSDメモリカードにインストールしたWindows環境でベンチマークを実施している点もご了解いただきたい。
まずCinebench R23だが、CPUのコア数、スレッド数、アーキテクチャから予想できた通り、ROG Ally、ONEXPLAYER 2 ProがSteam Deckを大きく上回っている。特にCPU(Multi Core)ではROG AllyはSteam Deckの約344%のスコアだ。
しかしGPU性能についてはCPUほどの差はない。3DMarkのスコアはROG AllyとONEXPLAYER 2 Proはほぼ同じで、ROG AllyはSteam Deckと比較してもTime Spyで約185%相当、Fire Strikeで約178%相当、Wild Lifeで約160%相当となっている。
ストレージ速度については、Steam DeckはKDE Plasma上で「KDiskMark」、ROG AllyとONEXPLAYER 2 Proは「CrystalDiskMark 8.0.4」で計測している。ここでもダントツの速度を記録したのがONEXPLAYER 2 Proで、シーケンシャルリードは7,111.28MB/s、シーケンシャルライトは6,201.76MB/sと、一般的なモバイルノートPCのフラグシップ並みとなっている。
さて実際のゲームでのパフォーマンスについては「Cyberpunk 2077」のフレームレートで比較した。解像度は1,280×720ドット、品質は「Steam Deck」に設定している。結果としては、ROG AllyはONEXPLAYER 2 Proに対して約108%相当のフレームレート、Steam Deckに対して約138%相当のフレームレートを記録した。
CPU性能ではROG AllyはSteam Deckの約344%のスコアを記録しているが、GPU性能が大きな影響を及ぼすゲームではその差は大きく縮まるわけだ。
バッテリ駆動時間については、ディスプレイ輝度50%で「PCMark 10 Gaming Battery Life」を実行したところ、Steam Deckは1時間27分、ROG Allyは59分、ONEXPLAYER 2 Proは1時間39分という結果になった。処理性能という点ではROG Allyが最も優れたスコアを記録していたが、その処理性能に対して40Whのバッテリは少ないということなのだろう。
最後にディスプレイの色域を計測してみたが、Steam DeckのsRGBカバー率は67.2%、ROG AllyのsRGBカバー率は94.1%、ONEXPLAYER 2 ProのsRGBカバー率は94.7%となった。Steam Deckの色域が突出して狭いが、400cd/平方mと輝度が明るいので実際の画質としてはそれほど劣っているようには見えないので安心してほしい。
なお現時点で気になるのはOLEDディスプレイ搭載版のSteam Deckの画質。今後PC Watchで掲載されるであろうレビュー記事をお待ちいただきたい。
コスパ、ゲーム機としての性能、2 in 1 UMPCとしての汎用性のどれを重視する?
さて今回3機種について比較レビューをお届けしたが、どれを購入するかは悩ましい。
まず前提として、Steam DeckにはSteamOS 3.0がインストールされており、Steam以外のプラットフォームのゲームをインストールすることは困難だ。Windows環境を構築すればほかのプラットフォームも利用できるが、そのハードルがやや高いことは間違いない。
また性能差については、現時点では画質を調整すればその差を埋められる。ただし長く利用することを考えると、Steam Deckが早く限界を迎えることは確かだ。5万9,800円から購入できるSteam Deck LCDは最も安価に手に入るが、どのぐらいのスパンでポータブルゲーミングUMPCを買い替えていくのかを考えて購入するべきだ。
ROG AllyとONEXPLAYER 2 ProについてはポータブルゲーミングUMPCというくくりでは同じジャンルだが、価格差が大きく、製品コンセプトも異なる。
結論としてはコスパ重視ならSteam Deck、ゲーム機としての性能重視ならROG Ally、2 in 1 UMPCとしても活躍させたいのならONEXPLAYER 2 Pro……というのを基本方針にして、あとはデザインやコントローラの好みを加味して購入する製品を選んでほしい。