Hothotレビュー
円安が進んでも価格が変わらないSteam Deckは高コスパなポータブルゲーミングPCだ
2022年12月26日 06:22
ValveのポータブルゲーミングPC「Steam Deck」が、12月17日にKomodoより正式に日本で販売開始された。元々海外では2021年7月に発表された製品であり、「Ryzen 7 6800U」などを搭載する最新のゲーミングUMPCと比べると周回遅れ感は否めないが、それでも5万9,800円からという低価格は非常に魅力的である。今回本製品の製品版を入手したので、実機レビューをお届けしよう。
64GB、256GB、512GBの3モデルを用意、OSはSteamOS 3.0
Steam Deckには下記の3モデルがラインナップされている。
- 64GB eMMC搭載モデル(5万9,800円)
- 256GB NVMe SSD搭載モデル(7万9,800円)
- 512GB NVMe SSD搭載モデル(9万9,800円)
ストレージの種類、容量が異なるだけでなく、256GB版には「限定Steamコミュニティプロフィールバンドル」が、512GB版には「限定Steamコミュニティプロフィールバンドル」と「限定仮想キーボードテーマ」に加えて、ディスプレイガラスが「プレミアム防眩エッチングガラス」、ケースが「限定キャリングケース」にアップグレードされている。本体自体のハードウェア的な違いは、ストレージの種類、容量、ディスプレイの表面処理ということになる。
これら以外のスペックは共通。OSは「SteamOS 3.0」(Archベース)、デスクトップOSは「KDE Plasma」、プロセッサーはZen 2、4コア8スレッド、2.4~3.5GHz動作のCPUとRDNA 2、8CU、1.0~1.6GHz動作のGPUが組み合わされた「AMD APU」を採用。メモリは16GB(LPDDR5)を搭載している。
ディスプレイは7型IPS液晶(1,280×800ドット、216ppi、16:10、光沢、400cd/平方m、リフレッシュレート60Hz、タッチ対応)を採用。ただし前述のとおり、512GB版は反射防止効果を備える「プレミアム防眩エッチングガラス」でカバーされている。
インターフェイスはUSB 3.2 Gen2 Type-C(データ転送、DisplayPort 1.4、給電対応)×1、microSDメモリーカードスロット×1、3.5mmコンボジャック×1を搭載。ワイヤレス通信はIEEE 802.11a/b/g/n/a/ac、Bluetooth 5.0をサポートしている。
ゲームパッドとしては、ABXYボタン、十字キー、L&Rアナログトリガー、L&Rバンパー、表示&メニューボタン、割り当て可能な4個のグリップボタン、静電容量方式フルサイズアナログスティック×2、32.5mm触覚フィードバック付き角型トラックパッド×2、HDハプティクス、ジャイロ(6軸IMU)を装備している。
本体サイズは298×117×49mm、重量は約669g。40Whのバッテリを内蔵しており、バッテリ駆動時間は2~8時間と謳われている。これら以外の細かなスペックについては下記表を参照してほしい。
製品名 | Steam Deck |
---|---|
OS | SteamOS 3.0(Archベース) |
デスクトップOS | KDE Plasma |
プロセッサ | AMD APU |
CPU | Zen 2、4コア8スレッド、2.4~3.5GHz動作 |
GPU | RDNA 2、8CU、1.0~1.6GHz動作 |
TDP | 4~15W |
メモリ | 16GB(LPDDR5) |
ストレージ | 64GB eMMC/256GB SSD(PCIe Gen3)/512GB SSD(同) |
ディスプレイ | 7型IPS液晶(1,280×800ドット、216ppi、16:10、光沢、400cd/平方m、リフレッシュレート60Hz、タッチ対応) |
オーディオ | ステレオスピーカー、デュアルアレイマイク |
通信 | IEEE 802.11a/b/g/n/a/ac、Bluetooth 5.0 |
WWAN | - |
インターフェイス | USB 3.2 Gen2 Type-C(データ転送、DisplayPort 1.4、給電対応)×1、microSDメモリーカードスロット×1、3.5mmコンボジャック×1 |
カメラ | - |
バッテリ容量 | 40Wh |
バッテリ駆動時間 | 2~8時間のゲームプレイ |
バッテリ充電時間 | 非公表(45W USB Type-C PD 3.0電源を同梱) |
本体サイズ | 298×117×49mm |
重量 | 約669g |
ゲームパッド | ABXYボタン、十字キー、L&Rアナログトリガー、L&Rバンパー、表示&メニューボタン、割り当て可能な4個のグリップボタン、静電容量方式フルサイズアナログスティック×2、32.5mm触覚フィードバック付き角型トラックパッド×2、HDハプティクス、ジャイロ(6軸IMU) |
セキュリティ | - |
同梱品 | ケース、ACアダプタ、説明書、ACアダプタ用ポーチ、クリーニングクロス |
カラー | ブラック |
PCゲーム環境をゲーム専用機に近いUIで実装
Steam Deckのセットアップは、言語選択、タイムゾーンの選択、ネットワークを選択、Steamアカウントのログインまたは作成、チュートリアル……という流れになっている。Steam Deckに興味を持つ方であれば迷いようもないほど簡単だ。
画面構成は比較的シンプル。Steamボタンを押すと画面左側にメインメニューが表示される。ここからはホーム、ライブラリ、ストア、フレンド&チャット、メディア、ダウンロード、設定、電源画面にアクセス可能だ。クイックアクセスボタンを押すと画面右側にクイックアクセスメニューが表示される。こちらからは通知、フレンド、クイック設定、パフォーマンス、ヘルプ画面を呼び出せる。
メインメニューとクイックアクセスメニューはゲームプレイ中にも開ける。ゲーム中に開いたときは、メインメニューにはコントローラー設定などゲーム関連メニューが追加される。クイックアクセスメニューには特に項目は追加されないが、フレームレート制限、サーマルパワー(TDP)制限、手動GPUクロック制御などをゲームプレイしながら設定変更したり、詳細なシステム情報をオーバーレイ表示できる。
Steam Deckはゲーム専用機ではあるが、PCゲーム環境と同レベルな詳細設定を、ゲーム専用機と同様の分かりやすいインターフェイスで実装していると言える。
ゲームパッドとしての使い勝手については申しぶんない。横方向に大きく広げた握り方についても、「Nintendo Switch」で慣れたいまとなっては特に違和感はない。個人的にはこんなにボタンが多くても操作しきれないというのが正直なところだが、レベルの高いゲーマーは難なく使いこなすのだろう。とは言え筆者レベルでも、32.5mm触覚フィードバック付き角型トラックパッドの操作感自体は楽しい。トラックパッドの特性を活かしたゲームが数多く登場することに期待したい。
なお、メインメニューの「電源→デスクトップに切り替え」からはデスクトップ環境「KDE Plasma」に切り替えられる。デスクトップ左上に配置されている「Return to Gaming Mode」をダブルクリックすれば、再びゲーミングモードに戻ることが可能だ。環境を整える必要はあるが、Steam Deckをビジネス的な用途にも活用できるわけだ。
フレームレート、解像度ともに実用的にゲームを楽しめるレベルを実現
さて前述のとおり、Steam DeckにはZen 2世代のCPUとRDNA 2世代のGPUが組み合わされた「AMD APU」が搭載されている。実際のゲームはどのくらいの速度で動作するのだろうか? 今回下記の5本のゲームをプレイしてみたところ、平均フレームレートは37.50~53.55fpsとなった。フレームレートの数値自体は決して高くはないが、実際に各ゲームをプレイしてみた感想としては実用的なレベルだと思う。
もちろんグラフィックのクオリティーはSteam Deckのパフォーマンスやディスプレイ解像度(1280×800ドット)に合わせて自動調節されているが、7型の画面で見ている限りは十分美しく感じられる。高解像度有機ELディスプレイ搭載スマホとは差があるが、ゲーム体験をまったく変えてしまうほどの違いではないと思う。
ゲーム名 | アンチャーテッド トレジャーハンターコレクション | God of War | DEATHLOOP | Cyberpunk 2077 | Stray |
---|---|---|---|---|---|
平均フレームレート | 46.73 | 43.05 | 37.50 | 40.05 | 53.55 |
最大フレームレート | 61 | 48 | 47 | 44 | 61 |
最小フレームレート | 39 | 39 | 24 | 36 | 47 |
なおディスプレイ輝度50%、ボリューム50%で「Cyberpunk 2077」を動作させ続けたところ、1時間38分25秒で自動的にシャットダウンしてしまった。カタログスペックの2~8時間のバッテリ駆動時間を達成するためには、ディスプレイ輝度やグラフィック品質をもっと落とす必要があるわけだ。
Windows環境でベンチマークしてみた
Steam DeckはOSに「SteamOS 3.0」がインストールされているが、Windows 11を導入可能だ。Steam Deck用のWindowsドライバはサポートサイトで提供されている。ただし、将来的にはSteamOSとWindowsのデュアルブートに対応予定だが、現時点ではまだ環境が用意されていない。そこで今回はmicroSDメモリーカードにWindows 11をインストールして、いくつかの定番ベンチマークを動作させてみた。
とは言え今回のWindowsドライバがどのぐらい最適化されているかは不明だし、そもそもストレージにmicroSDメモリーカードを使用している。今回のベンチマーク結果はあくまでも参考に留めてほしい。
今回はあくまでも参考までに、microSDメモリーカードにインストールしたWindows 11環境でベンチマークを実施したので、スコアに関する言及は最低限に留める。まずCPU性能については「CINEBENCH R23」のCPU(Multi Core)で4,234ptsを記録した。「Ryzen 7 6800U」を搭載する「ONEXPLAYER mini Pro Ryzen版」が11,450ptsだったので、Steam Deckはその約37%のスコアということになる。
「3DMark」のTime Spyは1,706、Fire Strikeは4,313、Wild Lifeは10,256を記録した。「ONEXPLAYER mini Pro Ryzen版」はTime Spyは2,760、Fire Strikeは6,596、Wild Lifeは15,940だったので、Steam Deckはその約62%、約65%、約64%のスコアということになる。
ストレージ速度についてはWindows 11をインストールしたmicroSDメモリーカードをターゲットにしたので、シーケンシャルリード(SEQ1M Q8T1)は94.36MB/s、シーケンシャルライト(SEQ1M Q8T1)は81.97MB/sとなった。これは致し方がない。
ちなみにデスクトップ環境の「KDE Plasma」上でストレージベンチマーク「KDiskMark」を実施したところ、シーケンシャルリード(SEQ1M Q8T1)は2,386.40MB/s、シーケンシャルライト(SEQ1M Q8T1)は1,841.55MB/sを記録した。microSDメモリーカードとは比べものにならない。SteamOSとWindowsのデュアルブート環境が早く提供されることに期待したい。
実は今回Windows 11をインストールしたのは、Steam Deckのディスプレイの色域を計測するため。カラーキャリブレーション機器「i1Display Pro」と色度図作成ソフト「ColorAC」で実測したsRGBカバー率は67.2%、sRGB比は67.2%、AdobeRGBカバー率は49.8%、AdobeRGB比は49.8%、DCI-P3カバー率は49.6%、DCI-P3比は49.6%であった。Steam Deckは色調整などを行なうためのマシンではないが、次期モデルではもう少し広色域なディスプレイが搭載されることを望みたい。
Steam上の多数のPCゲームをプレイできる高コスパな選択肢だ
Steam Deckは2021年7月に発表された製品ということで、最新のゲーミングUMPCに比べるとパフォーマンスは決して高くはない。また、現時点でWindowsとのデュアルブート環境を構築するためのツールが用意されていないので、Steam以外のプラットフォームで提供されているゲームを動かすためのハードルも高い。
しかしゲームプレイ環境としてのSteamOSの完成度は高い。またストレージ容量が少ない、無線LANがWi-Fi 5(11ac)という物足りなさはあっても、5万9,800円から購入できるという点は大きな魅力だ。
日本向けの予約が8月4日に開始されたあとに円安が大幅に進行したにもかかわらず価格が据え置かれているという点も良心的。Steam Deckが現時点でSteam上の多くのPCゲームをプレイできるポータブルゲーミングPCとして、コスパ優れる選択肢であることは間違いない。