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この良さは、タブレットPCだけ。今こそ薦めたい理由

 今から10年余り前、タブレットにも“最適化”したとするWindows 8が登場したものの、当時の「Modern UI」というタイル状インターフェイスに戸惑いを覚えたユーザーは少なくなかったはず。しかし、Windows 11になってUIは「Fluent Design System」へと進化し、いよいよWindows搭載タブレットPCの実用度が高まってきている。

 かつては実質的に「iPad」一強だったタブレット市場だが、「Google Pixel Tablet」や「Amazon Fire タブレット」をはじめAndroidベースの端末も巻き返しを見せており、ライバルは多い。そんな中で、OSにWindowsを搭載するタブレットPC(以下はタブレットPCとして表現)の優位性はどこにあるのだろうか。今回はほかのタブレット端末やノートPCと比較した時のタブレットPCの利点と、バリエーション豊かな最新の製品ラインアップを紹介したい。

タブレットPCとそれ以外のPCの操作性を両立したWindows 11

 まずタブレットPCにおけるWindows 11の改善点や利点をざっくりまとめると以下の2点になる。

  • UIの共通化で操作性を向上
  • タブレットPCに向けた細かなUIのアップデート

 Windows 8時代は通常のPCと比べて画面の見え方や操作性に大きな差があったことなどから、タブレットPCは広く受け入れられるには至らなかった。当時Flashが必須だったブラウザゲーム「艦隊これくしょん(艦これ)」を手軽にいつでもどこでもプレイしたいがためにタブレットPCを選ぶ、みたいな動きはあったものの、盛り上がりは限定的だったように思う。

「艦これ」は現在ではHTML5に対応し高解像度化、Androidタブレットでも遊べるようになっている

 Windows 11となった現在、その頃と比べてタブレットPCの操作性は大幅に変化している。基本的なUIはタブレットPCも通常のPCもほとんど変わりがなく、ウィンドウサイズなどに応じて適したレイアウトに自動で切り替わるレスポンシブデザインも採用したことで、使い勝手は大きく向上しているのだ。

 一番分かりやすいのは設定画面だろう。ウィンドウサイズを変化させると、その大きさによって表示内容が変わる。選択項目は「アイコン+名前」が基本となり、エリアが大きくなったことでタッチ操作しやすくなった。デザイン的に間延びしているわけではないため、通常のマウス操作においても違和感はない。デスクトップやエクスプローラーのサブメニューも、(賛否あるものの)同じように「アイコン+名前」の表示となり、タッチもクリックもしやすくなっている。

Windows 11ではウィンドウサイズに応じて表示内容が変化するように
各項目が「アイコン+名前」となり、指先でのタッチもマウスカーソルによるクリックもしやすくなった
サブメニューも同様。アイコン表示のみの項目があったり、詳細なメニュー項目が表示されなくなったことで賛否はあるが……

 このあたりはフォントスケールを切り替える「ディスプレイ」の「拡大/縮小」設定によって画面解像度に合った見栄えにできることも影響していると思われる。が、指先やペンで操作するタブレットPCでも、マウスで操作するPCでも、画面モードを大きく変化させることなく、ほとんど同じUIのまま扱えるようにしたことが、Windows 8時代にはなかったタブレットPCの実用性を高めるポイントの1つとなっていることは間違いない。

「ディスプレイ」の「拡大/縮小」設定を変更することでより見やすい画面にできる

 一方でタブレットPC向けに用意された機能もある。

 1つはアプリケーション使用時にタスクバーを自動で非表示にすることで、画面をできるだけ広く使える、かつ作業に集中できるようにするもの。

 もう1つはタッチジェスチャー機能で、左右端の画面外からスワイプすることでニュースや天気などのウィジェットを表示したり、通知センターやカレンダーを呼び出したりできるもの。3~4本指のスワイプでアプリケーションとデスクトップの表示を切り替えることも可能だ。

タブレットPCの場合、アプリケーション使用時はタスクバーが自動で隠れる
画面下端からスワイプするとタスクバーとスタートメニューが表示。タスクバーは通常時より少し高さがある
画面左右端をスワイプすることで通知センターやウィジェットを表示
3~4本指のスワイプでデスクトップ表示やタスク切り替えなどが可能

タブレットPCならではのハードウェア面のメリット

 続いてハードウェア的な側面から見た時のタブレットPCのメリットを挙げてみよう。主には以下のような内容となる。

  • キーボードを外して軽量、省スペースなスタイルで使える
  • PC周辺機器をそのまま利用可能
  • 縦置きを自動検知してWebサイト、電子書籍などを効率的に閲覧
  • 高いディスプレイ性能と処理性能でクリエイティブワークやゲームにも使える

 1つ目はフットワークの軽さだ。タブレットPCはいわゆる2in1として使える構造になっており、物理キーボードが着脱式となっている。純粋にタブレットとして使いたい時は本体のみ持ち運べば良く、その分重量面で有利だ。だいたいは1kg以下で、軽量なモバイルノートと同レベルか、機種によってははるかに軽いこともある。

キーボードやカバーは着脱式。本体のみ持ち込んで使ってもよい
本体だけなら1kgを切ることが多い

 キーボードを外して使えることにより、フットプリントが小さくなることから置き場所の自由度も上がる。キーボードが必要ない用途、たとえば動画視聴やお絵描きの時は、手前にキーボードを挟まない分近くに置けるので楽な姿勢をとりやすい。タッチパネル搭載ノートPCの場合、画面をタッチ操作するときにキーやタッチパッドに触れるなどして誤操作してしまうこともあるが、タブレットPCならそんな心配は無用だ。

動画視聴のときはキーボードがない分画面を自分に近づけられる
スタイラスペンでお絵描きするときもキーボードが邪魔にならないのが利点

 フルのWindowsのため、ハードウェア的な制限が少ないのも大きい。USBポートや独自のインターフェイスを備えており、USBハブ、有線LANアダプタ、外付けストレージなど、一般のノートPCやデスクトップPCで使える周辺機器と同じものがそのまま接続可能だ。特に外付けストレージはほかのタブレット端末より扱いやすいため、本体内蔵ストレージの容量を(予算の都合などで)削ったとしても、大容量の外部ストレージの追加でカバーできたりもする。

USBポートなどのインターフェイスは最小限だが、PC用の周辺機器がそのまま使える

 また、本体を縦向きにして使えるのも便利な点と言える。クラムシェルタイプのノートPCだと縦置きは実用的ではないが、タブレットPCなら内蔵センサーで画面の縦横表示が自動で切り替わり、Webサイトや電子書籍といったコンテンツの視認性が高まる。機種によっては重量面から本体を常に手持ちするのが難しい場合もあるので、現実的には別途スタンドなどを併用することになるかもしれないが。

縦向きにすることで電子書籍やWebサイトの閲覧が効率的に。重量を考えるとスタンドは欲しくなるかもしれない

 PCとしての性能も進化している。現在は第12世代Coreシリーズを搭載する機種が多く、通常のノートPCと比べても遜色のないパフォーマンスをもつ。後ほど紹介するが、中にはGPUにGeForce RTX 40シリーズを採用し、ゲーミングPCのようなハイパフォーマンスを発揮するタブレットPCも存在する。

 そして、ペンとタッチディスプレイの高精度化も著しい。少し前まではクリエイター向けの液晶タブレットに採用されていたような多段階の筆圧感知機能をもつペンも当たり前のように使える。ペンの性能を活かせるようにディスプレイも高感度/高精細化しているのに加え、高リフレッシュレート、DCI-P3カバー率100%といったような広色域対応のものもあって、クリエイティブワークにもタブレットPCが使える時代になってきているのだ。

付属もしくは別売で提供されるスタイラスペン。多段階の筆圧感知に対応し、お絵描きも自在

 そんなわけで、次は高性能と使い勝手の良さを兼ね備えた最新のタブレットPCをいくつか紹介しよう。

リッチなディスプレイをもつマイクロソフト「Surface Pro 9」

マイクロソフト「Surface Pro 9

 マイクロソフト自身が提供する、いわば純正タブレットPCが「Surface Pro 9」だ。アスペクト比3:2、2,880×1,920ドット、リフレッシュレート120Hzのハイスペックな13型「PixelSense Flow ディスプレイ」をもつ。CPUは第12世代Core i7-1255Uなどを搭載し、メモリは最大32GB、ストレージは最大1TBと充実。Thunderbolt 4(USB Type-C)ポート×2のほかに、独自の充電用端子「Surface Connectポート」を装備する。外装の金属素材の質感とカラーリングは所有欲を満たす高品質なものだ。

Surface Pro 9の背面側
Thunderbolt 4ポートを2個備える
独自の充電用端子「Surface Connectポート」

 物理キーボードの「Surface Pro Signature キーボード」と、「Surface スリム ペン 2」はオプション。指紋センサー付きキーボードがラインナップするほか、タブレットPC本体にはWindows Helloの顔認証対応Webカメラを内蔵していることもあり、セキュリティは万全だ。

 5G/LTE対応モデルはCPUにQualcomm製ベースのMicrosoft SQ 3を採用しており、バッテリ駆動時間が19時間に延びる。同モデルでは外部ポートがThunderbolt 4ではなくUSB 3.2になる点に注意しておきたい。

「Surface Pro Signature キーボード」を装着したところ
「Surface スリム ペン 2」はキーボードに収納するところがある

約599gの超軽量筐体で無理なく手持ちできる富士通「FMV LOOX WL1/G」

富士通「FMV LOOX WL1/G

 国内メーカーも本格タブレットPCをリリースしている。富士通の「FMV LOOX WL1/G」は、CPUに第12世代Core i7-1250Uなどを搭載し、メモリ最大16GB、ストレージ最大1TBを選択可能。ディスプレイは13.3型有機ELで、解像度はスタンダードな1,920×1,080ドットながらHDR対応で鮮やかなグラフィックスを表示する。インターフェイスはThunderbolt 4とUSB 3.2のType-Cポートを1つずつ備え、内蔵WebカメラはWindows Helloの顔認証に対応している。

FMV LOOX WL1/Gの背面側
Thunderbolt 4とUSB 3.2のType-Cポート

 最大の特徴は、アルミ削り出し筐体を採用し、約599g(試用機実測は595g)という軽さを実現していること。カバーとキーボードを付けてようやく1kgを超える。一般のノートPCより軽々と持ち運べるし、これなら手持ちで電子書籍を読むこともできる。しかも防滴(IPX2)/防塵(IP4X)性能をもち、加圧/落下/振動に関する独自の耐久試験をクリアしていることから、水がかかるキッチンでの使用、混雑した電車での移動も安心だ。

本体のみで実測595g
カバーとキーボードを装着して1018g

 物理キーボード「FMV LOOXキーボード」とペンはオプション。ペンタブレットで知られるワコムが開発した「Wacom Linear Pen」で信頼性は高い。テキスト変換機能をもつ手書きメモソフトが標準インストールされているのも特徴だ。こちらも5G/LTE対応モデルをラインアップしている。

「FMV LOOXキーボード」を装着したところ
「Wacom Linear Pen」

実売6万円前後からのエントリー機、ASUS「Vivobook 13 Slate OLED」

 スペックを抑えたエントリー向けタブレットPCがASUSの「Vivobook 13 Slate OLED」。CPUはPentium Silver N6000で、メモリは最大8GB、ストレージ最大256GB。最小構成はメモリ4GB、ストレージ128GBで、実売6万円前後のお手頃価格となっている。USB 3.2 Type-Cポート×2に加え、microSDカードスロットを装備しているのも特徴的だ。

Vivobook 13 Slate OLEDの背面側
USB 3.2 Type-Cポートを2つと、microSDカードスロットを装備

 低価格ながらディスプレイは高性能なのが魅力。13.3型の有機ELディスプレイはDCI-P3の色空間を100%カバーし、PANTONE認証を取得しているとともに、DisplayHDR 500 True Blackにも対応する。Dolby Atmos対応の4スピーカーも内蔵していることから、動画視聴には最適なタブレットPCと言えるだろう。本体重量は約785g。物理キーボードは付属しており、4,096段階の筆圧感知に対応する「ASUS Pen」はオプションとなる。

物理キーボードを装着したところ
「ASUS Pen」

ディスクリートGPU搭載でタブレットPCの枠を超えたASUS「ROG Flow Z13」

ASUS「ROG Flow Z13

 薄型のタブレットPCでありながら、最新ハードウェアを惜しみなく搭載しているのがASUS「ROG Flow Z13」だ。第13世代Core i9-13900H(14コア20スレッド、最大5.4GHz)を標準搭載しつつ、ハイスペックモデルにはGeForce RTX 4060 Laptop GPUが組み合わされる。

 13.4型液晶ディスプレイは解像度2,560×1,600ドット、リフレッシュレート165Hzで、まさにゲームをプレイするために作られたタブレットPCだ。背面側には基板が透けて見える窓があり、RGBライティング機能で光るのもユニークなところ。

ROG Flow Z13の背面側
基板が透けて見える窓はRGBライティング機能で光らせることができる

 メモリは最大16GB、ストレージは最大1TB。外部インターフェイスにはThunderbolt 4(Type-C)およびUSB 3.2(Type-C)各1ポートと、USB 3.2 Type-Aポートが用意されている。加えて独自インターフェイスのROG XG Mobileポート(USB 3.2ポート兼用)が設けられており、専用の外付けGPUによってグラフィックス性能をさらに向上させ、同時に拡張性を高めることもできる。

 キーボードは標準で付属。ペンは付属しないが試用機で確認したところでは「ASUS Pen」が利用可能。装備・性能が充実していることもあって約1.2kgとやや重いのがネックかもしれない。

Thunderbolt 4と、その下にはUSB 3.2ポートを兼ねる独自のROG XG Mobileポートを用意
USB 3.2 Type-Aポートもあり、汎用性高く使える
キーボードは標準で付属
Microsoft
Surface Pro 9(Intel CPUモデル)
富士通
FMV LOOX WL1/G
ASUS
Vivobook 13 Slate OLED
ASUS
ROG FLOW 13
CPU(最上位構成)第12世代Core i7-1255U
10コア12スレッド、最大4.7GHz、15W
第12世代Core i7-1250U
10コア12スレッド、最大4.7GHz、9W
Pentium Silver N6000
4コア4スレッド、最大3.3GHz、6W
第13世代Core i9-13900H
14コア20スレッド、最大5.4GHz、45W
GPU(最上位構成)Iris Xe Graphics (CPU内蔵)Iris Xe Graphics (CPU内蔵)Core UHD Graphics (CPU内蔵)GeForce RTX 4060 Laptop GPU
Intel Iris Xe Graphics (CPU内蔵)
メモリ8~32GB8~16GB4~8GB16GB
ストレージ128GB~1TB128GB~1TB128GB~256GB512GB~1TB
インターフェイスThunderbolt 4×2
Surface Connectポート
Thunderbolt 4×1
USB 3.2 Type-C×1
USB 3.2 Type-C×2
microSDカードスロット
ヘッドセット端子
Thunderbolt 4
ROG XG Mobileインターフェイス (USB 3.2)
USB 3.2 Type-A
microSDカードスロット
ヘッドセット端子
ディスプレイ13型PixelSense Flow ディスプレイ
2,880×1,920ドット、120Hz、HDR
13.3型有機ELディスプレイ
1,920×1,080ドット、HDR
13.3型有機ELディスプレイ1,920×1,080ドット、sRGB 133%、DCI-P3 100%
DisplayHDR 500 True Black
13.4型液晶ディスプレイ
2,560×1,600ドット、165Hz、DCI-P3 100%、HDR
ネットワークWi-Fi 6EWi-Fi 6EWi-Fi 6Wi-Fi 6E
オーディオDolby Atmos対応ステレオスピーカーステレオスピーカー(4個)Dolby Atmos対応ステレオスピーカー(4個)ステレオスピーカー(1W×2)
セキュリティWindows Hello顔認証Windows Hello顔認証-Windows Hello顔認証
キーボードオプション(Surface Pro Signature キーボード他)オプション(FMV LOOXキーボード)付属付属
スタイラスペンオプション(Surface スリム ペン 2)オプション(Wacom Linear Pen)オプション(ASUS Pen)オプション
5G/LTEモデルありあり--
最大稼働時間約15.5時間約12時間約12.9時間約8.8時間
サイズ287×209×9.3mm307×190×7.2mm309.9×190×8.25mm302×206×14.3mm
重量約879g約599g約785g約1.2kg
価格16万2,580円~13万4,300円~実売6万円前後~28万9,800円~

ほかにない強みをもつWindows搭載タブレット

 AndroidやiPadといったタブレット端末は、どちらかというとエンタメ的な役割をもつことが多く、OSがスマートフォンに近いこともあって、アプリでできることや周辺機器との連携に制限があったりするもの。ビジネスで利用するにはそうした制限を可能な限り排除し、PCとしてフルの機能が使えることが求められるが、それをカバーできるのはOSにWindowsを採用するタブレットPCにしかない強みだ。

 Windows 11になって、通常のノートPCやデスクトップPCを使用しているユーザーの中にはUIに若干の戸惑いを感じている人もいるかもしれない。しかしタブレットPCに触れてみて初めて、タッチとマウスのどちらでも違和感なく操作できるバランスの取れたデザインになっていることに気付かされる。なぜWindows 11でこのようにUIが変化したのか、という理由も見えてくるようだ。

 もちろん、いまだ旧来のUIを継承するアプリケーションの方が多いわけだけれど、タッチ操作への最適化は今後も徐々に進んでいくはず。少し値が張る、というハードルはあるとはいえ、高いパフォーマンスと拡張性を持ち、それでいて持ち運びがしやすく、操作性も向上してきたWindows搭載のタブレットPCは、今、なかなかの狙い目ハードと言えるのではないだろうか。