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既存の薬、忘れた記憶を取り戻す効果
2019年1月9日 16:39
北海道大学大学院薬学研究院の野村洋講師、京都大学大学院医学研究科の高橋英彦准教授、東京大学大学院薬学系研究科の池谷裕二教授らの研究グループは8日、既存のヒスタミン神経の活性薬に、忘れた記憶を取り戻す効果があることを発見した。
研究の実験は、マウスとヒト両方に対して行なわれた。
マウスを使った実験では、同じ物体を2つ与えると、トレーニング直後では新しい物体を好むのに対し、3日以上経過したあとだと記憶が失われ、2つの物体を同じように好むようになる。しかしヒスタミン神経の活性化薬(H3受容体逆動作薬のチオペラミドまたはベタヒスチン)を与えると、トレーニング物体を思い出し、新しい物体を好むようになったという。
一方ヒトを対象にした実験では、参加者らに128枚の写真を見せ、1週間後のテストで、トレーニングに使った写真32枚、出なかった写真32枚、類似の写真32枚を見せ、トレーニングで見たか、類似の写真を見たかを質問した。この結果、ベタヒスチンの投与グループはプラセボ(偽薬)投与グループと比較して正答率が高かったという。
また、プラセボ投与グループを6つにわけ、正答率が低かった参加者にベタヒスチンを投与したところ、正答率が大きく向上したが、正答率が高かった参加者にベタヒスチンを投与したところ、逆に正答率が低下したという。
研究グループによると、脳内に保存された記憶は、時間の経過とともに思い出しにくくなり、ある閾値を下回ると思い出せなくなる。これは画像に対する2値化と類似しているという。薄くなった画像にノイズを付加して2値化すると、元の画像が浮かび上がるのと同様に、ヒスタミン神経活性薬はこのノイズを付加する役割があり、記憶が回復すると考えられる。
一方で強固な記憶にノイズを付加すると、記憶とノイズの比率が悪化するため、先述の結果のように、もともと正答率が高かったグループにヒスタミン神経活性薬を投与すると正答率が低くなる結果につながると考えられる。
この研究成果は脳内ヒスタミンやコクのメカニズムの解明に有益であるだけでなく、アルツハイマー病などの認知機能障害の治療薬開発の一助になることが期待される。