今週、Microsoftは、アメリカ カリフォルニア州 アナハイムにおいて、コードネーム「Windows 8」として開発が進められている次世代のWindowsを紹介するイベント「build Windows」を開催する。会期は9月13日~16日(現地時間)の4日間だが、開幕前日、同社はイベント取材のために集まった世界各国のプレス向けに、Windows 8の概略を紹介する場を設けた。
本記事が掲載されるころには、イベント本番が始まり、初日の基調講演がスタートしているはずだ。その内容に関しては、できるだけ早いタイミングでレポートするとして、まずは、事前に紹介されたWindows 8のプロフィールを紹介したい。なお、この前日イベントでは、写真撮影等が禁止されていたため、ビジュアルな要素をお伝えできない点をご容赦いただきたい。
●Windows 7を大幅に拡張した次世代「Windows 8」build Windowsイベントのロゴ |
「あなたたちはMicrosoftがWindows 8について具体的なことを語る最初の人たちだ」。いつものように元気いっぱいでステージに駆け上がったSteven Sinofsky氏(President, Windows and Windows Live Division)は、興奮気味に切り出した。
同氏は、Office 2007の誕生に大きな貢献をし、さらに、独自のエンジニアリング手法でWindows 7を大成功させた人物として有名だが、Windows 8についても、責任者としてその開発行程を見ている。
同氏は、現行のWindows OSであるWindows 7の実績として、4億5,000本が売れ、Windows Liveのクラウドサービスには、5億4,200万人がサインインしていることをアピール、このプラットフォームが膨大な数の人々に受け入れられているとした。
コードネーム「Windows 8」は、次世代のWindows OSとして、Windowsの概念を「Reimagining」、つまり、再構築するものであるという。Windows 7を基礎に据えたうえで、それをさらによいものにし、7でできたことは、8でもできるようにする。そのことを前提に、チップセットからユーザー体験までを完全に見直した再構築により、パーソナルコンピュータの機能、使われ方のシナリオ、フォームファクターなどを拡張していくという。
●タイルを駆使したMetroスタイルGUI
会場の様子 |
Sinofsky氏に続き、各分野の責任者がWindows 8の概略を分野ごとに紹介していった。
まず最初はJulie Larson-Green氏(Corporate Vice President, Windows Experience)が登場、スレートPCを手にしてマルチタッチによる新しいGUIについて説明した。
コンピューティングの世界を変革する要素として、フォームファクタやユーザーとの対話性を検討し、新たな使い方のシナリオが創成するのがWindows 8のミッションだという。世界で販売されるPCのうち、3台のうち2台がモバイルPCになっている今、モビリティとは持ち運んだ先で使うものではなく、持ち歩きながら使うことであると同氏はいう。点のモバイルから線のモバイルに時代が変わっているということだ。そんな中で、アプリケーションの開発者たちは、さらにリッチな接続性や、共有の機能を求めるようになっているという。だからこそ、それを前提に新たなWindowsを考えなければならない。
すでに、Windows 8に関しては、まるでWindows Phone 7のようなタイルを使ったGUIが先行されて紹介されている。このGUIはMetroと呼ばれ、Windows 8が持つ2つの顔のうちの1つとなる。もちろん、もう1つはこれまでのようなデスクトップだ。
MetroについてはJensen Harris(PartnerDirector of Program Management, Windows Experience)氏が説明した。
Metroスタイルでは、スクリーン上にカード状に並んだ領域がタイルと呼ばれ、1つ1つが独立したオブジェクトとして、その中で何が起こっているのかを随時アップデートして表示する。複数のタイルはグループ化でき、複数のスクリーンが横方向につながって構成されていく。これらのスクリーンは、フリックによって切り替えることができる。また、ピンチの操作で複数のスクリーン全体を俯瞰することも可能だ。
タイルをタップすると、そのタイルが「実行」され、フルスクリーンで表示される。たとえば、ブラウザのタイルをタップすれば、IE10が開く。タイルの中には「デスクトップ」もあり、ここが従来のデスクトップへの入り口となる。これがアプリの実行に相当する操作だ。前提がフルスクリーンである点に注目だ。
フルスクリーンアプリの右端を内側にフリックすると、Search、Share、Start、Devices、Settingというボタンが出てきて、それぞれの機能を実行できる。たとえば、ブラウザで料理のレシピを見ているときに、Shareボタンをタップすれば、シェアする相手を選択し、メッセージを添えて情報を共有できる。これはFriendSend UIと呼ぶ。また、この共有先として、各種のアプリケーションもリストアップされる。このあたりは、Android OSの共有機能に似ているかもしれない。
タッチのUIにおいては、文字の入力に仮想キーボードが使われる。手書き認識機能が用意されていたり、キーを半分ずつスクリーンの両端に分割して表示するようなモードも用意されているようだ。
タッチUIばかりが目立っているが、従来通り、キーボードとマウスでもまったく同じ操作が可能だ。実際に操作してみないと使い勝手については何ともいえないが、従来のデスクトップアプリと、Metroのアプリを行なったり来たりするようなタスクスイッチも可能になっているようだ。
興味深かったのはロックスクリーン、いわゆるログオン画面でのGUIだ。ロックスクリーンは写真が表示された何の変哲もないもので、写真は好きなものにパーソナライズできるのだが、あらかじめ、その写真をどのようにタッチするかを記録しておき、それと同じタッチをすることでパスワード入力の代わりにできるようにするというものだ。猫の写真があったとすると、左目タップ、右目タップ、耳の形をなぞって……と、パターンでロックスクリーンを解除できる。仮想キーボードで文字入力するよりもずっと簡単そうだ。
●Liveサービスと統合されクラウド連携も充実
続いてChris Jones(Corporate Vice President, Windows Live)氏が、クラウド連携について説明した。Live APIs for SkyDriveなどが用意されることで、PCと携帯電話がシンクロする新しいMetroスタイルアプリが提供されるようになるということだ。メールに関しても、Metroスタイルで、HotmailやExchangeメールにアクセスができるという。
一方、Ales Hotecek(Distinguished Engineer, Windows)氏は、Windows 8の構造について言及した。基本的には基盤としてカーネルサービスが据えられ、その上に2種類のAPIが置かれる。1つは従来のWin32で、そこでデスクトップアプリが動き、もう1つのWinRT APIではMetroスタイルアプリが動く。見かけの上ではMetroの元でデスクトップが動いているように見えるが、実際の構造は少し異なるようだ。MetroそのものがWin32上のシェル的なものとして動いている可能性もある。このあたりの詳細は、カンファレンスで解き明かされることになりそうだ。
いずれにしても、Metroスタイルアプリの開発言語のバリエーションは多岐にわたり、さまざまなコミュニティがコードをシェアできるようになっているのが強みだ。スケーラブルな開発環境と、リッチなツールと開発環境など、開発におけるモダンプラットフォームの充実度にかけては、さすがにMicrosoftといったところだろうか。また、開発されたアプリを配布するためのウィンドウズストアがスタートすることもふれられた。
デモンストレーションのために登場したGabe Aul氏(Partner Director of Program Management, Windows)は、ハイエンドゲームPCが、ほぼ一瞬で起動することをアピールした。なにしろ、接続されたディスプレイが、入力を検知する前にデスクトップが表示されているため、速さが実感できないくらいだ。
また、USBメモリを装着し、そこに含まれていたウィルスを検知して警告され、さまざまな対処を行なう様子も紹介された。ネットワーク接続のUIや、マルチタスクで動くコピーの機能などの紹介を見る限り、少なくとも見かけの点ではWindowsが新しく生まれ変わったことが実感できる。
その他の機能としては、フルリセットの機能が2種類用意されている点も頼もしい。完全に工場出荷状態に戻す以外に、ユーザーファイルを残したままで初期状態に戻すことができるようになっているようだ。
●詳細は続報にてこのように、丸1日かけて、それでもほとんど休みなしの駆け足でWindows 8の概要が紹介された。ステージで繰り広げられるデモを見る限り、カーネルはVistaを改善したWindows 7のそれと、大きく違わないような印象も受けた。いろいろなことが、これから始まる4日間のカンファレンスで明らかになるはずだ。続報をご期待いただきたい。
(2011年 9月 14日)
[Reported by 山田 祥平]