イベントレポート

Qualcomm、Snapdragon 801/610/615を発表

~ブースではLTE Advanced Cat.6/300Mbpsのデモも

会場:Fira Gran Via

会期:2014年2月24日~27日(現地時間)

 米QualcommはMWC(Mobile World Congress) 2014の期間中に記者説明会を開催し、MWCに合わせて発表したスマートフォン/タブレット向け新SoCとなる「Snapdragon 801」、「Snapdragon 615」、「Snapdragon 610」の技術概要を説明した。Snapdragon 801は1月のCESで発表されたSnapdragon 805の下位版、Snapdragon 615/610はARMのCortex-A53のIPデザインを採用した64bit ARM SoCとなる。

 このほかにもQualcommは、ブースにおいてLTE-AdvancedのCat.6/300Mbpsのライブデモを公開しており、実際に300Mbps(下り)で通信できている様子や、成長市場向け製品で注目を集めているデュアルSIMのソリューションを展示した。

64bitのSnapdragon 615/610を発表、800シリーズの追加製品として801も

 QualcommはARM SoCの新製品として、Snapdragon 801、Snapdragon 615、Snapdragon 610という3製品を発表している。

 Snapdragon 801はプレミアムセグメント向けで、今回のMWCでソニーが発表している「Xperia Z2」や「Xperia Tablet Z2」に採用されている。これに対してSnapdragon 615、Snapdragon 610はミドルレンジクラス製品向けとなる。

 Qualcommは2013年12月に「Snapdragon 410」を発表し、1月に行なわれたCESではプレミアム製品で現在の最上位となる「Snapdragon 805」を発表するなど製品ラインナップの強化を強めている。今回MWCで発表された3製品もそうした流れの延長線上にある。

【表】 Snapdragonシリーズのスペック
Snapdragon 805Snapdragon 801Snapdragon 800
CPUコアデザインKrait 450 (最大2.7GHz)Krait 400 (最大2.5GHz)Krait 400 (最大2.3GHz)
コア数444
big.LITTLE対応---
64bit対応---
メモリLPDDR3LPDDR3LPDDR3
その他GPUAdreno 420Adreno 330Adreno 330
セルラーモデムLTE-Advanced (Cat.6/300Mbps)LTE-Advanced (Cat.4/150Mbps)LTE-Advanced (Cat.4/150Mbps)
Wi-FiIEEE 802.11acIEEE 802.11acIEEE 802.11ac
プロセスルール28nm HPm28nm HPm28nm HPm
Snapdragon 615Snapdragon 610Snapdragon 410
CPUコアデザインCortex-A53
(big側最高1.8GHz+LITTLE側最高1GHz)
Cortex-A53 (最高1.8GHz)Cortex-A53 (最高1.4GHz)
コア数8
(big側4+LITTLE側4)
44
big.LITTLE対応--
64bit対応
メモリLPDDR3LPDDR3LPDDR3/LPDDR2
その他GPUAdreno 405Adreno 405Adreno 305
セルラーモデムLTE (Cat.4/150Mbps)LTE (Cat.4/150Mbps)LTE 150Mbps
Wi-FiIEEE 802.11acIEEE 802.11acIEEE 802.11ac/n
プロセスルール28nm LP28nm LP28nm LP

 Snapdragon 801は、Snapdragon 805の下位製品という位置付けになるが、クアッドコアのKrait 400プロセッサ(32bit、最大2.5GHz)、GPUがAdreno 330(805はAdreno 420)、内蔵モデムがCat.4/150Mbps(下り)対応までとなっている点が大きな違いとなる。それでも、ハイエンドスペックであることは変わりはない。ただ、上位版であるSnapdragon 805が出荷されていない状況で、Snapdragon 801が製品に採用されていることから分かるように、基本的には従来のSnapdragon 800の高クロック版というのが正しい認識だろう。

 Snapdragon 615/610は、ARMのCortex-A53を採用した64bitのARM SoCだ。これまで、Qualcommは自社設計のARMプロセッサ(KraitやScorpionなど)を用意して、そのIPデザインを利用してSnapdragonシリーズを設計してきた。しかし、12月に発表されたSnapdragon 410、そして今回発表されたSnapdragon 615/610ともに、ARMが提供しているCortex-A53を採用している。Cortex-A53はARMの64bit ARM(ARMv8)のIPデザインとしてはローエンド向けとされている。64bitのARMv8を採用したハイエンド向けのCortex-A57ではなく、A53を採用したのはこの615/610がミッドレンジ向けとなるからだろう。

 では、Qualcommは自社設計のCPUデザインは諦めてしまったのだろうか? それに関してQualcomm上級副社長兼QCT共同社長のマーティー・レンダチンタラ氏は「我々は自社設計のCPUデザインの開発を続けている。ただ、具体的にどのようなタイミングでそうした製品が出てくるかは言えない」と明かした。なお、64bit OSが使われ始める時期に関しては「今年(2014年)の後半から2015年にかけて」と言及しており、その時期にKraitの後継となる64bitプロセッサデザインが投入される可能性が高いだろう。

 Snapdragon 615/610/410で、自社設計ではなくCortex-A53が選ばれたのは、純粋に時期の問題だろう。通常CPUデザインの設計は、まずはハイエンドが設計され、徐々にバリューセグメントへ落とし込んでいく形で設計が行なわれていく。しかし、ハイエンドができるのを待ってローエンドの開発を行なうと、ミッドレンジやローエンド向けの製品が64bit対応するのが大幅に遅れてしまう可能性がある。そのため、Cortex-A53を選んだと考えることができる。

 なお、Snapdragon 615と610の違いはbig.LITTLEを採用しているか否かであり、615は採用、610は非採用となる。615/610は、すでに12月に発表されているSnapdragon 410とピン互換になっており、OEMメーカーは410を設計した基板を利用して、615/610を搭載した製品を製造したり、その逆も可能だ。Qualcommによれば、615/610は今年の第3四半期にOEMメーカーに出荷が開始され、第4四半期に搭載製品が市場に登場する見通しだ。

Qualcomm上級副社長兼QCT共同社長のマーティー・レンダチンタラ氏
現在のSnapdragonシリーズのラインナップ
Snapdragon 801の説明、スペックを確認すると分かるが、基本的には従来までのハイエンドとなるSnapdragon 800の高クロック版。それ以外の機能はほぼ同等
Snapdragon 615/610の説明。Snapdragon 615はbig.LITTLEに対応

会場ではエリクソンと共同でLTE-Advanced Cat.6/300Mbps通信のデモを行う

 Qualcommの強みは、セルラー向けモデムにあることはよく知られており、MWCでもそのことは大きくアピールされている。今回のMWCでは、Qualcommの第4世代LTEモデムとなる「Gobi 9x35」と、Ericssonの無線インフラを利用してLTE-Advancedで規定されているCat.6/300Mbps(下り)を実現するライブデモが行なわれている。

 展示では、実際に300Mbpsが出ている様子がアピールされており注目を集めている。こうした機能はすでにSnapdragon 805に内蔵されており、同SoCが市場に登場すればCat.6/300Mbpsの通信がスマートフォンなどで可能になる(もちろん通信キャリア側の対応は必要になるが……)。

 また、Qualcommは2013年から、1チップでLTEの複数帯域に対応できる、「RF360」というブランドのRFチップの提供を進めているが、同ブランドのチップとなる「QFE23xx」が、中国の端末メーカーZTEの「Grand S2 II」に採用されたことを明らかにした。従来までのRFチップでは、LTEの全ての帯域に対応するのは難しく、OEMメーカーは投入する市場に合わせてRFチップを交換している状況だった。よく知られている例を挙げると、iPhone 5sなどで、このモデルは日本キャリアのLTEが利用している帯域には対応しているが、米国キャリアのLTEが利用している帯域には対応していない、といったことが起きている。ほかのメーカーのスマートフォンもほぼ同じ状況だ。

 しかし、QFE23xxはこれまでよりも対応できる帯域を増やしており、ほぼ全てのLTEの帯域をカバーできるという。従って、OEMメーカーは複数のモデルを作る必要がない。今回QualcommはQFE23xxの製品としてQFE2320、QFE2340の出荷を開始したことをMWCで明らかにしており、それを搭載した第1弾の製品としてGrand S2 IIが発表された。

 また、同社のデュアルSIMソリューションについても説明している。デュアルSIMソリューションは、特に成長市場で必要とされている機能で、通話とデータ通信を別々のSIMで行なうために、SIMカードを2枚入れられるようにする仕組みだ(3枚入れられる製品もあるので正しくはマルチSIMと言うべきだが、デュアルSIMという呼び方が一般的になっているので、ここではそれに統一する)。最近では、日本でも、通話はMNOのSIMで、データ通信はMVNOのSIMでやりたいといったニーズや、海外旅行へ行ったときに、通話は自国で契約したSIMで、データ通信は現地で購入したプリペイドSIMでというニーズも出てきており、成熟市場でも俄然、注目されつつある。

 Qualcommの説明員によれば、現在2種類のデザインを提供しており、1つはRFが1つしか搭載されていないデザインで、この場合は音声用、データ用と2つのSIMが入っていたとしても使えるのはどちらかだけとなる。しかし、2つのRFが入っているデザインの提供も開始しており、その場合は音声とデータ通信が同時にできる。ただし、音声2つ、データ2つといった構成はできない。音声の機能とデータの機能がSoCに1つしか入っていないからだ。すでにSnapdragon 800、400など向けにデザインをOEMメーカーに提供しており、成長市場向けの製品などでデザインが進んでいると説明していた。

 ぜひとも日本市場向けにも投入して欲しいところだが、デュアルSIMソリューションが採用されると、MNOのSIMを音声に、MVNOをデータにという使い方をする人が続出すると予想されるだけに、日本の通信キャリアにとって採用したくないソリューションだとも思うので難しいかもしれない。

QualcommのLTE-Advanced Cat.6/300Mbps(下り)のデモ。CAで40MHz、LTE-FDD/TDDモードで通信が行なわれている
ZTEが発表したRF360を搭載したGrand S2 II
Qualcommが成長市場向け製品を作るメーカーに提供しているQRD(Qualcomm Reference Design)にもデュアルSIMの機能がすでに搭載されている。アンテナマークが2つあることに注目

(笠原 一輝)